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胎動
物部氏滅亡。対抗勢力が一掃されたことで、蘇我氏の権力は今や時の帝をもしのぐほどである。
婚姻政策によって皇族内部にまで入り込んだ蘇我氏、彼らの力をそぐことは半ば不可能に思える。
(このままいくと、大王の位さえ奪われてしまうのではないか)
不意によぎったその考えに律動するリズムが乱される。飛んでいった鞠は柳の木の方へ。風がゆれる。
ゆらめく木々の間から一人の男。手には鞠をたずさえている。見たことのない男だ。
「そこの者、名をなのれ」
男は片膝を地につけて、
「お初にお目にかかりかかります、殿下。私の名は中臣、中臣鎌足
にございます」
「殿下はよせ、わたしは御曹司《嫡流の長男の意》ではない」
なぜだろう、目の前にいるこの男、初対面のようだが、どこか懐かしいような、そんな気がする。
のちに時代を変革する二人の出会い、今、運命がうごきだす。