マフラー
12月1日
まだ雪は降っていないが、外に行けば、息が白くなるくらいに、気温が下がってきた。
冬越しの準備も終わったので、最近は、ステラもシロも私も、家の中で過ごしている。
今日も、私達は同じように、暖炉の温まった部屋で、ゆっくりと過ごしていた。
先程、じゅうたんの上で、シロに読み聞かせをしていたステラだったが、ちょうど、その本を読み終えたのか、ステラは本を片付けて、シロと一緒に、私の元へ駆け寄ってきた。
ん?どうしたんだ?二人とも。
本はもう読み終わったのか?
うん。読み終わった!
ステラは私に駆け寄ってくると、そのまま、私の脚に抱き付き、顎を膝の上に乗せて、私の方を見つめた。
ししょー。何作ってるの?
これか?
今は、マフラーを作っているんだ。
私は、マフラーを編む手を止めて、編みかけのマフラーをステラに見せた。
ししょー。マフラーって、何に使うの?
マフラーはな…
こうやって、首に巻いて…
首を暖かくするものなんだ。
私はステラに説明をしながら、マフラーの端を、一周だけステラに巻きつけた。
最近、寒くなってきただろ?
だからこれで、冬の寒さから体を守るんだ。
あったかい!
ステラはそう言って、自分の首に巻いたマフラーを、小さな両手で触り、ニッコリと笑った。
ステラ、お外、寒い!寒い!から、マフラーほしい!
ああ。
今作っているマフラーが完成したら、ステラにあげるから、楽しみに待っていてくれ。
うん!ステラ楽しみに待ってる!
あ…でも…
ステラは突然、何かを思ったのか、急に、暗い顔になった。
どうしたんだ急に?
ステラ、マフラー貰ったら、ししょーのマフラーあるの?
ししょー、よく外行くから、ステラより寒い、寒い…
だから…ステラより、ししょーがマフラーいる。
なんだ。
そんな顔してどうしたのかと思ったら、私の心配をしていてくれたんだな。
大丈夫だ。
私はマフラーが無くても、寒くならない!
それに、このマフラーはもともと、ステラのために作っていたんだ。
だからそんな顔をしないでくれ。
マフラーができたら、受け取ってくれるか?
私がそう言うと、ステラは、うん。ありがとう!と言って、笑った。
…ねぇ、ししょー。
マフラー、ステラも作れる?
ステラ、ししょーのマフラー作りたい!
私にマフラーを作ってくれるのか?
それはすごく嬉しいな。
そうだ。
それなら、お互い、マフラーを作って、マフラーができたら、交換っこしようか。
うん!
ステラ、マフラー頑張って作るね!
ああ。
楽しみにしているよ。
私はステラを抱き上げ、自分の膝に乗せると、ステラ用の毛糸や、編み針をだして、二人でマフラー作りを始めた。
あれから、1日、2日と時間が過ぎていき、ステラに、マフラーの作り方を教えた日から、ステラは時間の空きごとに、マフラーを一生懸命作っていた。
ステラがマフラーを作り始めて、一週間ほどたったある日。
突然、シロが私が私の元にやって来て、ワフ!と吠え、手首を二、三回曲げて、私に来て欲しいと、私を呼んだ。
私は、何かあったのかと、シロについていくと、そこには、ステラが窓際で、マフラーを作りながら泣いている姿があった。
ありがとう。シロ。
私がシロにそう言うと、シロは、部屋の端にあるクッションに移動して、そこで、ステラの様子を見守っていた。
私はそっと、ステラに近づき、ステラの隣に座って、頭を撫でた。
どうしてマフラーを作りながら泣いているんだ?
私がそのようにステラに聞くと、ステラは、マフラーを作っていた手を止めて、頬を流れる涙を拭った。
ステラ…
マフラー、上手にできなかった…
ししょーに、かっこいいマフラー作りたかったけど、全然上手にできない…
ステラは、今にも流れそうな涙を、ぐっと堪えて、マフラーを、ぎゅっと握り締める。
どんな感じか、見てみてもいいか?
うん…
私はステラからマフラーを受け取ると、マフラーの端を持って、宙に広げた。
ステラが作ったマフラーは、ところどころ形が歪でいて、少し不恰好ではあったが、すごく丁寧に作られているのが感じられた。
上手にできて無いって、すごく上手じゃないか?
私がステラにそう言っても、ステラはまだ、自分が作ったマフラーに納得できていないみたいで、下を向いたまま、私に目を合わせてくれない。
ステラ、マフラー作り直す…
ステラは下を向いたまま、小さな声で呟いた。
そうか…
なら、これは捨ててしまうのか?
私はこのマフラーがすごく好きなのに…
本当に…?
でも、かっこいいマフラーじゃない…
私は、ステラの前に移動して、座り直し、改めてステラに話し始めた。
ステラ、私はな。
どんなに綺麗で、カッコいいマフラーより、ステラが作ってくれた、この世界に一つしかない、特別なマフラーが欲しいんだ。
このマフラーには、ステラがどれだけ私のことを思ってくれて、どれだけ一生懸命作ってくれたのかが、ものすごく伝わってくる。
それくらい、このマフラーは、ステラの優しさと暖かさがたくさん詰まっているんだ。
だから私は、このマフラーを心から素敵だと思うし、心の底から欲しいと思っている。
どうだろうか、私にこのマフラーをくれないか?
ステラは、少しの間考えた後、うん!と、笑顔で答えた。
やっと、こっちを見てくれた。
そうだ。
私からのも渡さないとな。
はい、約束していたマフラーだ!
私は、亜空間からマフラーを出し、宙に広げて、ステラに見せる。
どうだ?
すごく綺麗!
良かった。
一生懸命作った甲斐があったよ。
巻いてみるか?
うん!
私は、ステラの首に、二、三周マフラーを回した。
ししょー、どう?
ステラは、そう言って、マフラーを見せるように、くるくると回る。
ああ。
とても良く似合っている。
ししょー。
ありがとう!大好き!
マフラー大切にするね!
ステラは、座っている私に、飛びついて、ぎゅっと抱きしめた。
私もステラが大好きだ。
ステラがくれたこのマフラーも、一生大切にするよ。
私はそう言って、ステラをぎゅっと、抱きしめ返した。