薪割りとキャンプファイヤー
10月31日 11月1日 空白
11月27日
少しずつ肌寒くなり、木の上で踊っていた葉っぱたちは、枯葉として、地面に散り積もっている。
あれだけ騒がしかった森も、長い眠りにつく準備を始めているようだった。
毎年、12月の半ばになると、雪が降り始め、1月の半ばまで振り続ける。
そんな、一か月にも及ぶ、真っ白な雪の世界を無事に越すため、私達は、一週間前から冬支度を始めていた。
今日は、冬の間、おそらく毎日使うであろう薪を、丸太を一つ一つ割って、作っている。
冬眠の準備を始めた森は静かで、カッコン、コン。カッコン、コン。と、薪を割る音が響きわたっていた。
ずっと前からだが、ステラは好奇心旺盛で、よく私がしていることを真似したがる。
今日は、冬の間に使う薪を蓄えとくために、朝から薪割りをしていると、途中からステラがやって来て、ステラもしたい!と言ってきた。
こんなこともあるだろうと、今回はあらかじめ、ステラの分の斧も、用意しておいた。
ステラに斧を渡し、簡単に薪割りの説明をした後、ステラも、私の隣で薪割りをやり始める。
生まれながらの才能もあるが、毎日剣を振って鍛えているおかげで、体幹がしっかりしていて、ステラは、斧をまっすぐに振り下ろせていた。
ちなみに、いつもステラについて回っているシロだが、ずっと同じ作業を繰り返す薪割りに見飽きて、少し前から、離れた場所にある切株に移動し、その上で寝ている。
しばらくの間、私達は薪割りを続け、私は最後の薪を割った。
よし。これで最後だ。
お疲れ、ステラ。
今日は手伝ってくれてありがとう。
おかげで早く終わったよ。
どういたしまして!
ステラは、タオルで額の汗を拭いた後、水の入った水筒を持ち上げ、水をグビグビと飲む。
ステラ、薪割り楽しかった!
また、師匠のお手伝いする!
ああ。
また必要があったら、その時頼むよ。
私は、割った薪を拾い集め、斧と一緒に亜空間にしまい、木屑がついた手をぱんぱんとはたいた。
そうだ。
薪割りを頑張ってくれたお礼に、今日はキャンプファイヤーをしよう。
キャンプファイヤー?
初めて聞く言葉に、ステラは首を傾げた。
うーん。そうだな…
キャンプファイヤーは…
いや、やっぱりまだ内緒だ。
お楽しみは大事に取っておかないとな。
私がそのように言うと、ステラが頭に「?」を思い浮かべているのが見えた。
日の光もオレンジ色に変わり、夜が始まろうとしている。
私は、今日割った薪を組み立て、そこに火をつけた。
ステラ、シロ、こっちにおいで。
私は二人を呼び、隣りに座らせる。
私達が今からする、キャンプファイヤーというのは、親しい人達と共に、同じ火を囲んで、一緒に食べたり歌ったり、星を見たりして、いろんなことを話し、楽しんで、絆を深めるものなんだ。
まぁ、説明なんかより、実際にしてみた方がはやいから、早速始めてみようか。
ステラもシロも、きっと気にいるはずだ。
そう言って、私達は、キャンプファイヤーを始めた。
焚き火を囲み、料理を食べ、ギターを取り出して一緒に歌を歌ったり、星を見て星座を探して。
まったりと、三人だけの時間を過ごした。
そうだ。危ない危ない。
危うく、これを忘れるところだった。
やっぱり、キャンプファイヤーの醍醐味とえば、じゃーん。マシュマロだ!
私は、亜空間に手を伸ばすと、中から、今日、ステラ達がお昼寝をしている時に、こっそり作っておいたマシュマロを取り出した。
何これ!?ふわふわしてる!
ステラは、マシュマロを手に取ると、不思議そうに、それを見たり触ったりして、食べてみる。
シロも食べてみるか?
ステラにマシュマロを渡した後、シロにもそう聞くと、シロは、ワフ!と返事して、いると答えた。
私は、シロに向かってマシュマロを投げ、シロは上手くそれをキャッチして食べる。
どうだ、二人とも?
美味しい!!
すごく甘くて、口の中でね、ファッファッってなってる!!
ステラがそう言うと、シロも続けて、ワフワフ!と言った。
はは。そうか。
どうやら、二人ともマシュマロを気にってくれたみたいだな。
それじゃあ…マシュマロを気にってくれた二人に、マシュマロのもっと美味しい食べ方を教えよう。
ステラは、私の言った言葉を聞くと、え!マシュマロがもっと美味しくなるの!と言って、何?何?と、興味津々で私を見つめた。
マシュマロは、そのまま食べても美味しいが、こうやって、棒に刺して、焚き火の火で少し焼き目が出るまで焼くと、もっと美味しくなるんだ。
本当に!?
ああ。
ステラも、自分でやってみるか?
うん!やる!
ステラは、やる気満々な様子で答えた。
私は、ステラに棒を渡すと、ステラは早速、マシュマロに棒を刺して、マシュマロを焼き始める。
火傷しないよう、あまり火に近すぎないようにな。
はーい!
シロは、そんな、マシュマロを焼くステラを、隣で眺めていた。
マシュマロを焼いて、しばらくすると、マシュマロの甘い香りが周りに広がっていき、いい感じに焼き目もついてきた。
ししょー。
できた?もう食べていい!?
お!いい感じに焼けているな。
もう食べてもいいぞ。
熱いから気おつけて食べるんだぞ。
うん!
ステラは、マシュマロを焚き火から遠ざけ、口の近くまで運び、ふうーふうーと、息を二、三回かけて、マシュマロを食べる。
う〜ん!美味しい!!
口の中でトロってしてて、さっきより美味しくなってる!
そうだろ。
じゃあ、もう一個食べるか?
うん!もう一個食べる!
ステラはまた、マシュマロに棒を刺して、焚き火に近づけた。
マシュマロをいくつか食べた後、ステラは、私の隣りでうとうとし始める。
そういえば、いつもはこの時間に寝ているんだったな。
本当は、寝る前に歯を磨かないとだけど…
まぁ、また後ででいいか。
私は、ステラの体を引き寄せ、私にもたれかけさせた。
私は、亜空間から毛布を一枚取り出し、ステラにかける。
ししょー…
またキャンプファイヤーしたい…
ステラは、目を瞑りながらも、眠たそうな声で、私に言った。
ああ。また一緒にしような。
今度はマシュマロも一緒に作ろう。
へへ…
ステラはまもなくして、眠りについた。
空を見上げると、あたり一面に星空の海が広がっている。
今日は一段と、星が綺麗に見えるな…
小さくも力強く燃える焚き火が、パチパチと音を立てる。
薄暗く、肌寒い夜のはずなのに、暖かく、光でいっぱいだった。