新しい家族
9月13日
夏が完全に姿を消し、涼しくももの寂しい風が、姿を隠していた生き物たちと共に、今が秋だと騒ぎ立てている。
紅葉の木々が辺りを染め上げ、非日常的な新たな世界を作り出していた。
今日は、秋にしか取ることのできない食材を取りに、少し離れた山に来ている。
よし。着いたぞ。
私は、移動する時におんぶしていたステラを、背中から下ろした。
今日、ここに何をしに来たのか覚えているか?
私が、そうステラに質問をすると、ステラは、右人差し指をほっぺたに当てて、えっと…と、少し悩んだ後、美味しいもの取りに来た!と、元気に答えた。
そうだな!美味しいものを取りにきたんだ。
それじゃあ、何を取ればいいんだっけ?
ほら、昨日教えたの、覚えているか?
うん!覚えてる!山菜取りに来た!
えっと…たけのこと、きのこと、それから••••
あと、お魚さんも!
よし、ちゃんと覚えているな。
じゃあ、最後に。
きのこを見つけた時は?
毒があるかもしれないから、勝手に触らない!
完璧だ!
それじゃあ、早速、山菜を取りに行くか?
うん!ステラたくさん見つける!
ステラはそう言うと、待ちきれない様子で、早く!早く!と、その場で足踏みを始めた。
私は、亜空間から、山菜を取るために使う道具をいくつか取り出し、ステラに渡す。
それと同時に、ステラが怪我をしないよう、ステラの体全体に保護魔法をかけた。
これで、転んだり崖から落ちたとしても、魔物に襲われでもしないかぎり、怪我はしないはずだ。
ステラは、左手に黄色いバケツ、右手に水色のスコップを持つと、水色のスコップを高く掲げて、しゅっぱつ!と大きな声で言い、元気よく歩き始める。
ステラは、あちこちに目を光輝かせて山菜を探し、その姿は、剣を振っている時と同じで、やる気に満ち溢れていた。
本当は、サーチ魔法で簡単に見つけてしまえるのだが、それじゃあ面白くないからな。
それに、こうやって、実際に経験して学ぶことが一番の学習になるとみんなも言っていた。
ししょー!見て見て!
たくさん虫さんいる!
本当だな。その虫は…と言って••••
ししょー!見て見て!
たけのこ見つけた!
すごいじゃないか!
一緒に掘ってみようか。••••
ししょー!これなぁに?
それはな••••
ししょー!きのこ見つけた!
残念。それは毒きのこだ。
え〜。••••
山菜を探して、取って、間に休憩を挟んだりして、かれこれ2時間ぐらい山の中を歩き回った。
山菜の生える条件がうまく噛み合ったのか、それとも、ステラがたくさん見つけたからなのか、目標だった1籠分より、二倍以上の山菜が取れた。
もうたくさん取ったことだし、次は魚を捕まえに行くか?
うーん。
ステラ、まだ探検したい!
ステラはしゃがりこんだまま、ありの列をじっと眺めて、そう答えた。
そうか。
なら、あまり遠くに行っちゃダメだぞ。
私はあそこの川の近くにいるから、何かあったら呼んでくれ。
分かった!
私はそのまま川に向かい、魚を釣ったり、山菜の下処理をしたりして、亜空間に収納する。
ステラはというと、しばらくの間、ありの列を見つめていたが、その後は、心の赴くままに森の探検を始めていた。
歩き回っては立ち止まりを繰り返し、たまに何かを追いかけたりして、のらりくらりと森な中を進んでいる。
大きな木を何本か通り抜けると、何かを見つけたのか、突然、ステラはまっすぐ走り始めた。
どうしたんだろう?
この先に何か見つけたんだろうか?
私は、魔法でステラの進む先をみることにした。
サーチ。
真下に魔法陣が現れ、薄い魔力の波が、魔法陣を中心に、同心円状に広がっていく。
ステラが向かう先には、小さな魔力が微かにあった。
小さい小動物だろうか?
ほんの一瞬、サーチに映った魔力が揺れた。
違う魔力を隠してる。
魔力を隠すのは魔生物だけじゃないが、いずれにしても上位個体だ。
もし魔生物だった場合取り返しのつかないことになってしまう。
ステラが危ない!
私は急いでステラのもとに向かい始めた。
私は一体なにをやっているんだ。
今度こそ必ず守ると誓ったはずじゃなかったのか?
お願いだ。
なにもないでいてくれ。
私はすぐに、ステラがいる場所に到着した。
ステラ!大丈夫か!?
ほのかに血の匂いが鼻をさす。
私が、大きな声で叫ぶと、ステラは涙を流しながら前から歩いてきた。
大丈夫か?怪我はしてないか?
私はすぐにステラに駆け寄り、ステラの体を確認した。
はぁ。良かった。
怪我は、ないみたいだな。
私はそっと胸を撫で下ろす。
ステラはまだ、顔を埋めて泣いていた。
私はステラを抱き上げ、頭を撫でる。
よしよし。いい子だ。
いい子だから泣き止んでおくれ。
泣いてばかりじゃ、私はどうすれば良いかわからないんだ。
私がそう言うと、ステラは、さっきの小さな魔力のする方向を指差して、わんわん痛い痛い。と言った。
その場所を見てみると、白く光り輝く毛を生やした、子供のフェンリルが、血を流してうずくまっている。
わんわん痛い痛い。
そうか。
この子を助けてあげたいんだな。
私がそう聞くと、ステラは小さく頷く。
大丈夫だ。もう泣かなくていい。
私がちゃんと助けてあげるから。
うん。ありがとう…
ステラはそう言って、手で涙を拭った。
私はステラを抱えたまま、フェンリルにゆっくり近づくと、フェンリルは、近づく私達を警戒して、牙を剥き出し、自身が持つできる限りの力で、近づくなと威嚇する。
私は、ステラを抱えている逆の手を、そっとフェンリルに伸ばした。
私の手が、フェンリルのすぐそばまで近くと、フェンリルは、私の手に強く噛みつく。
ステラは、私が噛まれて驚いているが、今は喋ってはいけないと分かって、唾を飲み込んだ。
君に危害を加えたいわけじゃ無いんだ。
一度だけ信じてくれないか?
しばらくフェンリルは、私を睨んだ後、私の手に噛み付くのをやめた。
信じてくれてありがとう。
私は、フェンリルの前に手を伸ばし、ヒール。と唱える。
すると、金色に光る光球がいくつも現れ、それが辺りを照らと、フェンリルのお腹あたりにある傷が、みるみると塞がっていった。
緊張が緩んだのか、フェンリルはその場で倒れ、深い眠りに着いた。
わんわん、大丈夫?
ああ、今は疲れて眠っているだけで、きっと、すぐに目を覚ますはずだ。
本当に?
ああ。
じゃあ、ししょーは?
ステラは不安そうな顔で、私を見つめている。
ん?さっき噛まれた時のことか?
はは。
大丈夫だ。
私は、あれぐらいで怪我なんかしない…
ほら。
どこも怪我なんてしてないだろ?
私はそう言って、ステラに、噛まれた方の手を見せ、怪我をしてないことを改めて伝えた。
心配してくれてありがとう。
この通り、私は大丈夫だ。
私はステラを安心させるために、笑って、頭を撫でた。
少しして、ステラは落ち着いたので、私は、ステラを地面に下ろす。
ステラは、私から手から降りると、フェンリルに駆け寄り、ヨシヨシと、フェンリルの体を撫で始めた。
これも何かの縁だ。
怪我は良くなったが、体が痩せ細っているため、私とステラは、最後までフェンリルの面倒を見ることにした。
数日後、フェンリルは、元気に走り回れるほど、体が回復した。
ステラは、あれから毎日、フェンリルのお世話をしていて、フェンリルも、それをしっかりと理解したのか、ステラにすっかりなついている。
今では、草原で、二人で追いかけっこして遊ぶくらい、仲が良くなった。
思えば、これがステラにとって、初めて、友達という存在ができたのだろう。
ちなみにフェンリルの名前はシロになった。
最初は、わんわんにするつもりみたいだったが、なんとかシロという名前に決まった。
フェンリルに、シロはどうかとも思ったが、二人とも喜んでいるから良しとしよう。