かき氷と海
季節は移り変わり、あれだけ長く感じていた春も終え、太陽が意地悪なくらいにギラギラと光輝く熱い熱い夏が始まった。
今日の気温は35度を超えており、部屋の中では冷却用魔道具が使われているものの、相変わらず暑さは無くならないままだった。
ちなみに少年とシロはというと、朝から暑さに悩まされてか、今は団扇をパタパタとさせながら、冷たいテーブルに顔を引っ付けてぐったりとしている。
暑い〜…
ステラ、もう動けない…
ワ…フ…
二人がそのように嘆いていると、リビングの隣りの部屋から、朝から忙しそうに何かをしていた彼女が大きめの荷物を持って、二人の目前に現れた。
ん?何しているんだ?二人とも。
机に顔を引っ付けたりなんかして。
彼女がそう言って二人に話しかけると、二人は最後の力を振り絞るようにして、声にならないこえで、師匠〜、暑いよ〜。ステラ、何もしたくないし、何もできない…
ワ…フ…と答えた。
そうだな…
確かに、今日は特段と暑いから、そうなってしまうのも無理はない。
そうだ。
さっき、ちょうど亜空間の中の荷物を整理をしていてでだな。今の二人にぴったりなものがあるんだ。
そう言って、彼女は自分が持ってきた箱を机に置くと、中から一つずつものを取り出し、何かを探し始める。
しばらくして目当てのものが見つかると、彼女はその取り出したものを二人の前に置き、少年はさっきの様子とは打って変わるような様子で、師匠、これなぁに?と、体を立ち上がらせて彼女に質問をした。
これはだな、かき氷機、というものだ。
かきごうり? ワフ?
二人は初めて聞く言葉に、首を斜めに傾ける。
そうだな…かき氷というのは…
彼女はそうして、もう一度二人に詳しい説明をし始めようとすると、二人はまたいつもの癖が出たのか、目を輝かせ、興味津々な様子で彼女の顔を見つめていた。
ははっ。
そんなに気になるんだったら、一緒に作ってみるか?
うん!
ステラ、一緒に作ってみたい!
ワフ、ワフワフ!
彼女の言葉に、少年とシロは大きな声で返事を返す。
分かった。
それじゃあ、今から準備を始めるから、二人とも手伝ってくれるか?
うん!任せて!
ね!シロ!
ワフ!
こうして、三人は早速かき氷を作るための準備に取り掛かった。
ある程度下準備が完了し、ついに、かき氷機を使って三人はかき氷を作り始める。
まず、かき氷機の窪みのある空間に氷を敷き詰めた後、蓋を閉め、その横の方にあるレバーを回す。すると、下の方にあるお皿にふわふわとした氷の花弁が少しずつ降り積もっていき、やがて、山の形のように積み重なっていった。
あとはこれを人数分作った後、最後に砂糖とミルクを煮詰めて作った練乳と、採れたて新鮮の果物を綺麗に飾って、かき氷が完成した。
師匠!これで完成!?
ああ、完成だ。
早速あっちに運んで、みんなで食べてみようか。
うん! ワフワフ!
そうして、三人は完成したかき氷を机に運び、みんなでそろっていただきますをした。
少年は期待を込めた顔でかき氷をスプーンですくいとると、こぼれないようにそっと口に運び入れ、シロも少年が食べた後に続いて、かき氷にかぶりつく。
美味しい!
冷たくて、甘くて。
あと、口の中で氷が溶けて不思議な感じ!
ワフ〜!
少年とシロは、初めて食べるかき氷に心を躍らせると、彼女に嬉しそうに感想を語った。
そうか。
二人とも、かき氷を気にってくれたみたいでなりよりだ。
どうだ?これで少しは暑さも吹っ切れたか?
うん!
ステラ、暑さふっきれた!
ワフワフ!
彼女はまた、二人が元気に笑っている姿を見ると、軽く微笑み、自分も一口と、かき氷を口に運んだ。
ん!なかなかいけるな。
こうして、しばらくの間、三人はかき氷を食べすすめていった。
そうだ。
少し話が変わるんだが、さっきあっちで亜空間の荷物を整理してたって言っただろ?
で、その時にかき氷機以外にも色々と懐かしいものが出てきたんだ。
そこでなんだが…
二人とも、最近は暑くて何もできていないみたいだし、気分転換も兼ねて海に行ってみたくはないか?
彼女がそのように二人に言うと、少年は、海!!? 海って、あのヴィアントの英雄譚に出てきた海のこと!?と、食い気味に彼女に質問をした。
ああ、そうだぞ。
行く!行きたい!!
シロはどうだ?
彼女はそう言ってシロにも尋ねると、ワフ!ワフワフ!と、二つ返事でシロも答える。
それじゃあ、決まりだな。
なら、これを食べ終わったら、後で一緒に海に行く準備をしようか。
うん!
少年はそう言って大きく頷くと、少年の隣にいるシロに、やったね!シロ!海だって!海!と、嬉しそうに話し始めた。
シロ、海って何持っていけばいいかな?
やっぱり、スコップとか?
ワフワフ!
そうだね!
水着も持っていかないとだね!
二人とも、話に夢中になるのはいいが、早く食べて終わないと全部溶けてしまうぞ。
あ!そうだった!
今はかき氷を食べないとだね!
じゃあ、また後で一緒に考えようか!
ね!シロ!
ワフ!
そうして、二人は残りのかき氷をかき集めると、最後の一口を口へ掻き込んだ。
あれから二日目の早朝に変わり、三人は家の前に集まって、忘れ物がないかの最終確認を行なっていた。
よし、これで最後の荷物だな。
二人とも、ほかに忘れ物はないか?
彼女は亜空間に最後の荷物を入れると、手をパンパンと叩き、二人の方に顔を向ける。
うん!大丈夫!
さっき、メーメーたちにもバイバイしてきたし、魔道具もちゃんと動いてるか見てきた!
ワフワフ!
そうか、二人ともありがとうな。
それじゃあ、これで最終確認も終わったことだし、早速海に向かって出発しようか!
うん! ワフ!
彼女はそうして亜空間を閉じると、二人を背中に背負い、自身と二人に魔法をかけて、風を切るような速さでまっすぐ走り出して行った。
二人とも、ちゃんと捕まっているんだぞ!
分かった! ワフ〜!
風に髪を揺らせ、めいいっぱいに笑う少年とシロの姿は、見るからにとても楽しそうだった。
いくつもの山や川を超え、聳え立つ木々の間を走り抜ける。途中で、たくさんの動物に出会ったり、美しい景色を見たりして、今までとは違う、全く新しい世界を知る旅が始まった。
ん?これは…
そして時は流れ、旅を始めてから三日目の朝を迎える。
少し高い岡の上、先程目覚めたばかりの太陽が空に一筋の光を差し、普段混ざり合うはずの無い二つの色が互いに身を引き寄せ合いながら、一つの世界を描いていた。
ステラ、起きて…
彼女は少年を背よったまま優しく声をかけると、小さく体を揺らし、少年を起こす。
ん?何?…
師匠…
少年は、目をこすりながら重たいまぶたをあげると、まだ少し寝ぼけながらも、彼女に返事を返した。
ステラ、あそこを見てごらん。
あれが、ステラが見たがってた海だ。
彼女に言われた通り、少年は視線をその先に向けると、そこにはどこまでも広く、果てしなく続く、広い広い海が広がっていた。
地平線まで続くオレンジ色の一本道、光に照らされ、何度も繰り返し波打つ姿は、まるで光輝く宝石の様だった。
わぁ〜!綺麗!!
少年は大きく目を見開くと、その美しく広がる絶景に心を躍らせ、めいいっぱいにその景色を脳裏へと刻み込む。
この景色を見ないのは、あまりにももったいないと思ってな。
ワフワフ!
シロもそう思うか?
ワフ!
そうだな、もう少しこの景色を眺めてから、出発しようか。
そうして、三人はしばらくの間、ただ静かにこの絶景を眺めていた。
それじゃあ、そろそろ行くか?
うん! ワフ!
そうだ、師匠!
あとどれくらいで海に着くの?
ん?もうすぐだぞ。
本当に!?
じゃあ、早く行こ!!
ステラ、早く海に行きたい!
ワフワフ!
分かった。
それじゃあ少しスピードを上げるから、二人ともちゃんと捕まっているんだぞ!
うん! ワフ!
行くぞ!
そう言って彼女は助走をつけて走り出すと、勢いよく岡の上から飛び降りる。
わぁ〜!!
高い〜!速〜い!!
ワオ〜〜!!!
そして彼女はまた、海へと続く木々の中を走り抜けて行った。
しばらくの間そうして走り続けていくと、ついに、潮風がただよう、あたり一面に海が広ったまっさらな砂浜にたどり着いた。
少年とシロは、切り開かれた視界に心を踊らせると、彼女の背中から降りてまっすぐ海に向かって走り出す。
待っ…
いや、まぁいいか。
おーい!二人とも!
あんまり深いところまで行っちゃダメだぞー!
分かった! ワフワフ!
本当、元気だな。
まぁ、ずっと楽しみにしていたし仕方ないか。
彼女はそう言って、二人の走っていく姿を見ると、軽く笑った顔を見せた。
少年とシロが走り去った後、彼女は早速亜空間から荷物を取り出し、簡易テントの組み立てや、その他いろんなものの準備に取り掛かる。
彼女は時々、砂浜ではしゃぐ二人を見ながら、魔法を使って慣れた手つきで作業を進めていくと、砂浜にはあっという間に小さな簡易拠点が出来上がった。
簡易拠点が出来上がると、彼女は砂浜を見渡し、砂浜にいる少年とシロの姿を探し始める。
そして、浜辺にしゃがんで何かをしている二人を見つけると、彼女はそこに向かって歩き始めた。
二人とも、何してるんだ?
彼女は二人の元に辿り着くと、二人と同様体を低くかがませ、二人に声をかける。
あ!師匠!
見て見て!
今ね!カニさんのお家作ってるの!
あとね!
綺麗な貝殻も沢山見つけたんだよ!
少年は彼女が来たことに気がつくと、自分たちが作っているカニさんのお家を彼女に見せ、続けて、隣りに集めておいたたくさんの貝殻を、自慢げに一つ一つ紹介し始めた。
まずね!
これが、赤い貝殻でしょ…
で、次は青い貝殻!
それから、これは変な形で…
これはまんまるな形••••
そうして、少年はいくつかの貝殻を浜辺に並べながら、彼女に一つ一つ見せていく。
そして…最後にこれ!
これはね!
シロと一緒に見つけた貝殻で、一番大きくて綺麗な貝殻なんだよ!
少年はそう言って、明るく笑った顔で貝殻を見せると、師匠!持ってみて!と、その貝殻を彼女に手渡した。
彼女は少年から貝殻を受け取った後、空に向かって貝殻掲げて、光を透かすように左右に傾けながら、じっくりとその貝殻を眺める。
本当だな。
他の貝殻と比べて、大きくて見た目も綺麗だ。
でしょ!
だからね!これ、師匠にあげる!!
少年は彼女の顔を見つめながら、嬉しそうにそう言った。
いいのか?
せっかくシロと一生懸命探して見つけたんだろ?
ううん、大丈夫だよ!
これはね!
師匠がステラ達を海に連れてきてくれたお礼!
ね!シロ!
ワフワフ!
そうか、二人ともありがとう。
大切にするよ。
うん!
どういたしまして!
ワフ!
そうして、少年は無邪気な笑顔を見せると、また地面に顔を向け、並べた貝殻を一箇所に集め始めた。
そうだ!
師匠も一緒に遊ぼ!
そうだな。
せっかく海に来たんだし、みんなでいっぱい楽しいことをしようか。
うん! ワフ!
だがその前に、まずは水着に着替えないとだな。
そう言って彼女は優しく少年を抱き抱えると、二人を連れて、先程完成したばかりの海の家へと向かった。
師匠!あとで一緒に何して遊ぶ?
さっきね、カニさん以外にもいっぱいお魚さん見つけたんだよ!
あとね、本に書いてあったみたいにお水もしょっぱかった!
そうだ!あとね!あとね!
少年は海の家に着くまでの間、海で経験したことを楽しそうに、彼女にたくさん語った。
あれから少し歩いて、三人は海の家にたどり着く。
少年は、砂浜に立っている大きなテントを見つけると、わー!お家できてる!と言って、目を輝かせながら走って駆け寄り、シロと一緒に、興味津々な様子であっちこっちを見て回った。
ステラ、シロ。
二人ともこっちおいで。
少年とシロは彼女に呼ばれると、走り回っていた体を止め、早速カーテンの付いた部屋に入り、彼女から受け取った水着に着替え始める。
しばらくして、シャーと、カーテンの開く音が聞こえると、そこには、お揃いの水着を着た、可愛らしい二人の水着姿があった。
どう?師匠?
ちゃんと着れてる?
ワフ!
ああ、二人ともちゃんと着れているぞ。
あと、とても似合ってる。
本当に?
ああ、本当だ。
少年は、彼女の言葉を聞いて嬉しそうに笑うと、シロと一緒にくるりと回って水着を見せ合い、二人で彼女の元へ駆け寄った。
師匠!これって新しい水着だよね?
そうだぞ。
着心地はどうだ?二人とも。
うん!大丈夫!
サイズもぴったり!
ワフワフ!
よかった。
彼女はそう言って笑うと、それじゃあ、次は私の番だな。と言って、少年たちと同じようにカーテンの付いた部屋で水着に着替え始めた。
しばらくした後、また、カーテンの開く音が聞こえると、そこから、水着に着替え終わった彼女の姿が出てくる。
どうだ?私も似合っているか?
うん!師匠もすごく似合ってる!
ワフワフ!
そうか、二人ともありがとう。
それじゃあ、みんな水着に着替えたことだし、今からみんなで海に遊びに行こうか。
そうして、三人は海に向かい、たくさんいろんなことをして、めいいっぱいにその一日を楽しんだ。
えい!
やったな!
これはお返しだ!
きゃっ!
ワフ、ワフワフ!
海の水に浸かって、水をかけたりかけられたり、
いくぞ!ハッ!
バッ•••
シロ、お願い!
ワフ!
パン!•••
おっと…やるじゃないか二人とも。
なら、これはどうだ!
バシュ!•••
砂浜でビーチボールをしたり、
ステラ、ここはどうするんだ?
そこはね、砂を削って扉にするの!
シロはここをお願い!
ワフワフ!
と、みんなで砂のお城を作ったりした。
他にも釣りをしたり、木に登ってヤシの実を取って飲んだり、ハンモックにぶら下がりながお昼寝をしたりして、あっという間に時間が流れていった。
波が押しては引いてを繰り返し、潮の香りが微かに鼻を通り抜ける。
夜の海が奏でる静けさは、また昼間とは違った顔を見せ、まるで時の流れが止まったかのように世界を形付けていた。
彼女はというと、ただ冷たい夜風にあたり、今は砂浜にある流木に座って、静かに海を眺めている。
ん?どうしたんだ、ステラ。
海を眺めている途中、彼女はそう言って後ろの方を振り向くと、そこには、パジャマ姿で、肩に毛布を羽織らせた一人の少年の姿があった。
師匠がお部屋の中に居なかったから、どこにいるのか探しに来たの。
そうか。
彼女は少年を見て優しく微笑むと、少年の手を取り、自分が座っている流木の上に少年を座らせる。
少年は彼女の隣りに座った後、彼女の膝に置いてあったものが気になったのか、師匠、これなあに?と言って、その厚めの本のようなものを指差した。
これか?
これは、日記と言ってだな…
日々の出来事を書き記して、いつまでもその大切な思い出を忘れないよう…
形として、こうやって残しておくためものなんだ。
へぇ〜、そうなんだ。
少年はそう小さく呟くと、彼女の日記をじっと見つめる。
中を見てみるか?
うん!
ステラ、見てみたい。
少年は彼女に目線を移し、そう言って小さく笑うと、彼女は優しく日記を開いて、少年と一緒に、その日記を一ページずつ丁寧に読み進めていった。
この日はステラと初めて会った日で•••
この日はステラが初めて歩いた日だな•••
そしてこの日は•••
あ、ステラ、この日覚えてる。
みんなで雪遊びをした日だ!
そうだな。
たしか、ステラとシロが•••
あ、この日はみんなで•••
こうして、二人は時間を忘れるほどに日記を読んで、懐かしい話しを語り合いながら、過去を思い出して笑い合ったりした。
ねぇ、師匠。
なんだ?
ステラも、師匠みたいに日記書いてみたいな。
ん?ステラもか?
うん。
ステラも、師匠とシロとの思い出をいつまでも忘れたく無いから、ちゃんと日記に書いて残したい。
そうか。
なら、家に帰ってから新しい日記を作ってあげよう。
本当に?
約束だよ。
ああ。約束だ。
しばらくして少年は大きなあくびをすると、眠たそうに目をこすり、瞳を閉じて、彼女の肩に寄りかかる。
師匠、明日は何するの?
そうだな…
明日はもっと楽しいことをしようか。
うん。
そうして、少年は嬉しそうに笑った。
あれから夜が明け、新しい一日が始まる。
昨日一日中遊んだせいか、少年とシロはいつよりも遅めに目を覚まし、先程、朝ごはん兼昼ごはんを済ませて、今は三人で砂浜の上を歩いていた。
師匠!今日は何するの?
彼女の少し前を走っていた少年がくるりと体を振り向かせ、彼女にそう尋ねる。
そうだな…
昨日の夜いろいろて考えてみたんだが、今日はみんなで、海の中を探索してみるっていうのはどうだ?
海の中!?うん!する!
ステラ、海の中探検してみたい!
ワフ、ワフ!
少年は大きく瞳を見開いて体を前にのめりにさせると、シロも少年に続いて、隣りでぴょんぴょんと高く、その場でジャンプを繰り返した。
あ、でも師匠。
ステラ、今日はまだ水着に着替えてないよ?
いや、今日はこのままで大丈夫だ。
実はだな…
今日は少し、面白い方法を試そうと思っているんだ。
面白い方法?… ワフ?
ああ。
彼女はそうして二人に笑った顔を見せると、
おいで、二人とも。と言って、再び前へと歩き始めた。
浜辺に着いた後、彼女は二人よりも前を歩き、そのまま一歩二歩と海に足を運び入れる。
やがて、より返す波は彼女の歩幅に合わせ沈んでいくと、徐々に間隔が開いていき、それは、海を真っ二つに切り裂くような、大きくて長い一つの一本道となった。
さぁ、行こか。二人とも。
そう言って彼女は振り返ると、二人に向かって手を伸ばした。
海という水の壁が三人を囲み、その中を魚やクラゲ、ウミガメなど、大小様々な生き物達が自由に泳ぎ回る。
水面から差す光の柱は、海底の海藻や、そこに住んでいる海の住民達を照らし、まるで、おとぎ話に出てくる様な、心惹かれる世界がそこには広がっていた。
わぁ〜!すごい!!
ワフ、ワフワフ。
少年とシロは、初めてみる魚や見たことの無い生き物達に瞳を大きくさせると、左右に目線を動かしながら、体全体を使って、めいいっぱいにそこに広がる景色を受け止める。
どうだ?
二人とも、始めて海の中を見た感想は。
えっとね!
面白くて!不思議で!あと、すごく楽しい!
ワフワフ!
そうか。
それじゃあ、もっと奥に行って探検してみようか。きっと、まだまだたくさん違った生き物達がい見られるはずだ。
あと、ここから足場が少しずつ不安定になっていくから、二人とも転んだりしないよう気をつけるんだぞ。
うん!分かった!
ワフワフ!
そうして、二人は大きく返事を返すと、そのまま彼女と一緒に海の探検を続けた。
師匠!あれ何?
あれは、ルミナフィッシュと言ってだな•••
師匠!これはこれは?
これは食べられる貝類で、美味しいみたいぞ。
あとで料理して食べてみるか?•••
見て師匠!大きいな魚捕まえた!
お、二人ともすごいじゃないか•••
と、三人は海の中を隈なく探検した。
あれから長い時間が過ぎ、三人は海の幸がいっぱいに入ったバケツを手に持って、砂浜に建てたテントに戻る。
そして、三人はそのとれたて新鮮な食材達を使い、外で、生魚の切り身や、網で焼いた貝類など、たくさんの海鮮料理を作って食べると、デザートに、旅の途中で見つけたスイカを割って、それを食べながら話をしたりし、残り少ない一日の時間をみんなで楽しんだ。
楽しい日々の終わりは早く、三日目は、一日目、二日目と同様、あっという間に時間が過ぎていった。
この日、三人は海でしたいことや、やり残したことをしたりして過ごし、明日帰るための片付けを軽くして、次の日の朝を迎えた。
四日目の朝、三人は協力して、テントの片付けや、荷物の整理をしたりする。
そして、ある程度片付けが終わり、テントの収納も終盤になってくると、元の砂浜の景色が徐々に見え始め、少年とシロは荷物を運びながら、少し名残惜しそうにしていた。
どうしたんだ?二人とも。
もしかして、もう家には帰りたくなくなってしまったのか?
彼女はそう言って二人の目の前にしゃがむと、両手を使い、二人の頭を優しく撫でる。
いや、そういう訳じゃないけど…
もう少し、ここで遊びたかったなって…
ワフワフ〜…
少年とシロは、彼女の手のひらの下で少ししょんぼりした顔をしながら、彼女にそう答えた。
そうか、それもそうだな。
私だって、もう少しここにいたいぐらいなんだし。
でも、もう帰らないと…
次の野菜を植えるために畑けの手入れをしないといけないし、メーメー達も家で待っているだろ?それに、ステラの日記帳も作らないと。
うん…
少年は小さく頷き、彼女に返事はしたものの、相変わらず顔はしょんぼりとしたままだった。
まったく、二人ともそんな顔をしないでおくれよ。
今帰ったとしても、もうここに来ない訳じゃないんだぞ。
ほら、元気出して。
また今度、時間を見つけて海に連れて来てあげるから。
本当に?
いつぐらい?
そうだな…
冬が終わって、少しあったかくなってきたぐらいかな。もしくは、また来年の夏ぐらいか。
彼女がそのように少年に言うと、少年は顔を上げて彼女を見つめ、分かった。じゃあ、また今度一緒にこようね!と、少し明るさを取り戻して、彼女に言った。
ああ。
そうして、三人は最後の荷物を運び、残りの荷物全部を亜空間にしまった。
波風が立ち、潮風と共に、波が揺れる音が体を通り抜けていく、三人はそれぞれ何かを思いながら、三日間を過ごした海にさよならをした。
帰ろうか、私たちのお家に。
うん! ワフ!
そうして、少年とシロは、彼女の手を取った。