表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永遠の命  作者: 夜月陽向
13/15

魔法後半

師匠、次は何するの?


そうだな…

次は魔法を使うための二つ目の基礎。

魔力運用について覚えてみようか。


うん!

よろしくお願いします!


少年はそう言って明るく笑うと、彼女の話を聞くために姿勢を正し、改めて椅子の上で座り直した。


今から私がステラに教える魔力運用というのは、文字通り、魔力を上手く操り制御する力のことで、体内の魔力を効率よく循環させる内運用。

そして、魔法陣を描き、そこに適切な量の魔力を流す間運用。

最後に、発現させた魔法をさらに上書きする外運用の、3つに分けられているんだ。


ちなみに魔法の世界では、この世に存在している全ての生命や物資には、必ず魔力が存在していると前提されていて、人の場合は、魔力運用をすることで、初めて体内にある魔力を自覚することができ、それを鍛えることによって、最小限の魔力で強力な魔法を使えるようになる。と、言われている。


まぁ、魔力運用は紋章を覚える時とは違って、詳しい説明なんかより、体に慣れさせることの方が大切だから、やり方は、これからその都度教えていくとして、早速実践といってみようか。


いってみようか!


少年は彼女の言葉を真似すると、右手をぐーにして、高く上に掲げた。


ステラ、頑張ってやってみるね!


ああ。

それだけやる気があれば、きっとできるはずさ。


彼女はそう言って、少年に微笑んだ。


それじゃあ、今から私がやり方を説明していくから、その通りにやってみてくれ。


うん!分かった!


じゃあまずは最初に、椅子に座ったまま目を閉じて、全身の力を抜いていき、そのまま大きく深呼吸を繰り返して、だんだん頭の中を空っぽにしていくんだ。


彼女は、少年をびっくりさせないように優しく語りかけると、少年は彼女に言われた通りに目を閉じて、椅子に座ったまま体の力を抜き始める。


おいで、シロ。

すまないな、いつも待たせてしまって。


シロは彼女に呼ばれると、立ち上がって駆け寄り、彼女の伸ばしてきた手に向かって、自分の顔をすり寄せた。


ありがとう。

今日できなかった固有魔法の練習は、また今度時間をみつけて一緒にしような。


ワフワフ!


シロは、少年の邪魔にならないようにと、彼女が喋るのと同様、小さく返事を返した。


そうだ。

代わりといってはなんだが、今は、ステラがやっている魔力運用を、シロも一緒にやってみるか?

これはこれで、シロにとってもいい練習になると思うぞ。


彼女はシロを撫でながらそのように言うと、シロは彼女の手から顔を離し、ワフ!と言って振り返って、少年の隣に座り、目を閉じた。


しばらくの間、風に揺れる草原のざーざーという音だけが、辺りに響き渡る。


よし。

二人とも、よく集中できているみたいだな。

なら、今度は自分の体の中に意識を向けて、暖かい、もしくは光が集まっている様な、そんな場所がないか探してみるんだ。


少年とシロは、彼女の言葉には反応せずに、そのまま息を吸って吐いてを繰り返して、だんだんと、意識を体の深い所へと落としていった。


しばらくして、少年の眉毛が一瞬、ピクリと動く。


どうやら、ちゃんと魔力を認識できたみたいだな。

そうだ。

今ステラが感じている、それが魔力だ。

それじゃあ、魔力もちゃんと見つけれたことだし、続けて内運用もしてみよう。


そうだな…

今から私が、ステラの体内に魔力を流して、魔力をどう動かせばいいか教えるから、その魔力の道に沿って、ゆっくりとついて行ってみてくれ。

やり方は分かるな?


彼女の言葉に対し、少年は、ほんの少しだけ頭を縦に動かす。


分かった。

じゃあ、そのまま続けよう。


そう言って、彼女は少年に、手のひらを傾けると、魔力を流し始めた。


今、魔力を見つけた場所をスタート地点として、頭からつま先まで、こういう風に魔力を順番に移動させていく。

次に、魔力がつま先までたどり着いたら、今度はもう一度頭まで戻して、体の中で魔力を一周させるんだ。


こうやって、一周ができたらもう一周、さらにもう一周と繰り返していき、慣れてきたら、徐々にスピードを速くしていく。


そうだ。よくできているぞ。

このまま、内運用が一人でもできるように、魔力をひたすら回していってみてくれ。


彼女は、少年の体内で、何度か魔力回路の道を導くと、少年から手を離し、魔力を流すのをやめた。

少年は、彼女の補佐が無くなった後も続けて魔力運用に集中し、何度も魔力を体に巡らせる。


よし。

いい感じに、内運用ができるようになってきたな。

そろそろいいだろう。


ステラ。

今から私がステラの手に触れるが、驚かないで、そのまま魔力運用を続けてくれ。


一瞬、少年の顔が、微かに動いてた感じがした。


じゃあ、触れるぞ。


彼女はそう言って少年に触れ、少年の両手をそっと持ち上ると、手でお椀の形を作った。


ステラ。

今、私が支えているこの手があるだろ。

次はここに、魔力運用を続けながら両手で水を掬い上げる様なイメージで、魔力を手のひらに集めてみるんだ。


ここからは、間運用の一つになっていて、内運用より少し難しくなっているから、焦らず、ゆっくりやってみてくれ。


彼女が少年に優しくそう語りかけると、少年はそのまま手のひらに魔力集中させていき、少しずつ手のひらに魔力が溜まり始めていく。

しばらくして、手のひらに集まった魔力の密度が上がっていくと、遂には、肉眼ではっきりと見えるほど、魔力が濃く、綺麗に光り輝いていた。


ステラ、目を開けてみてごらん。


少年は彼女の声が聞こえると、閉じていた目をゆっくりと開け始めた。


う…眩しい


少年は目を開けようとしたけれど、長く目を閉じていたこともあってか、またすぐに目を閉じてしまう。


はは。すまない。

いきなりは眩しかったな。

そうだな…今、前を見てしまうと眩しいから、一度横を向いて、ゆっくりと目を開けてごらん。


彼女が、その様に少年に言うと、少年は彼女に言われた通りに横を向いて、徐々に目を光に慣らせながら、ゆっくりと目を開けていった。


しばらくして、少年はしっかりと目を開けれる様になり、改めて自分の手のひらに視線を移した。


わぁ!光ってる!

師匠!これがステラの魔力!?


ああ。そうだぞ。

すごく純粋で、綺麗な魔力だ。


へへ!


彼女の言葉を聞いた少年は、嬉しいそうに笑った。


ステラ。

このまま次の段階までいこうと思っているんだが、どうだ?

まだ続けられそうか?


うん!大丈夫!

ステラ、まだまだできるよ!


そうか。

それなら、魔力が途中で分散しないように、最後まで集中を切らしちゃダメだぞ。


分かった!


それじゃあ次は、魔力を…

と、彼女が次の説明を始めようとすると、突然、少年のお腹から、ぐぅ〜〜!!という大きな音が鳴り響いた。

それと同時に、少年の集中力も切れてしまったのか、手のひらに溜まっていた魔力も空気中に散ってなくなっていく。


へへ。

やっぱり、ステラお腹すいたみたい。


少年はそう言って、自分のお腹を抑えて恥ずかしそうに照れ笑いをする。


はは。

そうみたいだな。

まぁ、初めての魔力運用では特に、精神力だけじゃなくて体力もたくさん使うみたいだから、お腹が空いて当然だ。

それじゃあ、この続きをする前に、まずは腹ごしらえをしようか。


うん!


こうして彼女と少年は、魔力運用でいつのまにか眠ってしまったシロを起こし、皆んなで少し早めの昼ごはんを食べることにした。


三人は、少し離れた草原まで歩いて行くと、そこに生えてある一本の木のしたにシートをひいて、サンドイッチを食べ始める。

しばらくの間、三人はお昼を食べながら話しをしたりして、昼食を楽んだ。


はぁ〜〜!


昼食を食べ終えた後、三人が木の日陰で少し休憩をしていると、少年が大きな口を開けて、大きなあくびをした。

少年は、お腹がいっぱいになったこともあいまってか、今にも眠ってしまいそうな顔で、目を擦りながらうとうとし始めている。


ん?

眠くなってしまったのか?


彼女はそう言って、少年に優しく微笑むと、少年は、うん。と、小さく頷く。


そうか。

おいで、ステラ。


彼女は少年に手を伸ばし、抱き寄せると、自分の膝元を枕にして、少年を横たわらせた。


お疲れ様。

今日は、朝からずっと頑張っていたからな。


彼女は優しい手つきで少年の頭を撫でると、少年はあっという間に寝つき、幸せそうな寝顔を浮かべながらすやすやと眠り始めた。

シロもそんな様子を見てか、少年の腕元に移動して、体を丸めて一緒にそり寝をし始める。


二人ともゆっくりおやすみ。


彼女は最後に、二人の眠っている姿をみると、ゆっくりと目を閉じた。


どれくらいの時間が経ったのか、少年は体を、う…う…と二、三回うねらせると、体を仰向けにして目を覚ました。


ん?もう起きたのか?


彼女は少年が起きたのを感じ取ると、閉じていた瞳を開け、少年の方に視線を向ける。


少年は、自分の顔を見つめる彼女の顔を見ると、師匠!おはよう!と言って笑顔で笑った。


ああ。

おはよう。ステラ。


彼女も少年に笑い返す。


しばらくして少年は体を起こし、両手を空中に広げてぐっと背筋を伸ばした後、体の中にめいいっぱい吸い込んだ空気を、おもいっきり吐き出した。

そして、自分の前でお腹を見せながら無防備に寝ているシロを見つけると、よしよしと、そのお腹を優しく撫で始める。


シロは、ゴロン、ゴロンと寝返りをして、また、深い眠りについた。


シロ、まだ寝てるね。


少年は、シロを起こさない様に小さな声で彼女に言うと、そうだな。もう少し寝ていたいみたいだ。と、彼女は答え、シロの方を見つめた。


そうだ、ステラ。

シロが起きるまでの間、ここで少しシロのことを待っていようと思っているんだが…

待っているついでに、何かしたいことはあるか?


彼女が少年にそう聞くと、少年は、うーん…と、少し頭を悩ませた後、首を横に振って無いと答えた。


そうだな…

特にすることが無いのなら、さっきした魔法の続きでもしてみるか?


いいの!する!

あ、でも…


彼女の言葉を聞いた少年は嬉しそうに返事をしたが、すぐに何かを思ったのか、少し悩んだ顔をして、彼女から視線を逸らした。


どうしたんだ?


彼女が少年に理由を尋ねると、少年はシロの方を見て、シロまだ寝てる…と、小さな声で答える。


おいで、ステラ。


彼女は優しい声で少年を呼ぶと、少年は、シロを撫でている手を離し、立ち上がって、彼女の方へと向った。

彼女は自分に向かってくる少年を、両手を広げて抱っこし、自分の膝に座らせる。


そんな暗い顔をするな。


彼女はそう言いうと、少年のほっぺを軽くつねって、プルプルプルと動かす。


師匠、痛い〜!


少年は少し口をむっとさせ、冗談げに怒ったフリをして、彼女に言った。


ああ、すまない、すまない。


彼女は少年のほっぺから手を離し、今度は、少年の頭をゆっくりと撫でる。


ステラは心が優しい子だからな。

シロが寝ているのに、自分だけ魔法の勉強するのことが、シロに申し訳ないと思ったのだろ?


うん…


少年は小さく頷いた。


まったく…そんなこと考えなくていいのに…


彼女は、少年を撫でていた手で少年の前髪をかき上げると、少年の目を見つめて話し始める。


いいか?ステラ。

たとえ、今私がステラに魔法を教えても教えなかったとしても、今後一切、シロに魔法を教えなくなるわけじゃない。

それは分かるだろ?


うん…


それに、ステラが知りたいことや分からないことがあれば、私はいつでも教えてあげるし、答えてあげる。

それはシロに対しても同じだ。


二人とも私の大切な家族なんだ。

私は、どっちかを置いてけぼりなんてしないし、絶対に見捨てたりなんかしない。

だから、ステラは一生懸命自分のやりたいことをすれば良いんだ。

分かったか?


うん…

ありがとう!師匠!


まぁ、シロのことをちゃんと考えてあげるその気持ちも大切だがな。


そう言って、彼女は少年の鼻をツン、と触る。


へへへ。


少年は、自分の鼻を触ると、少し照れくさそうに笑った。


それじゃあ、改めて魔法の授業を始めようか。


うん!


少年は明るい元気な声で、彼女に返事を返した。


彼女はしばらく、そんな少年の笑った様子を見た後、改めて亜空間から大きな魔法書を取り出し、少年を自分の膝に座らせたまま、本のページを捲って、魔法の説明を始めた。


今から私が教えるのは魔法基礎の最後、言葉とイメージについてだ。

今日、ステラが魔法の勉強をしてみて分かったと思うが、魔法を作るためには、紋章を組み合わせて魔法陣を作ったり、そこに魔力を流したりなど、幾つかの過程を踏まないといけない。

そして、その過程の一つで、最後に必要になってくるのが、ここに書いてある、術者による定義、というものなんだ。


術者による定義?


そうだな…

言わば、言葉の塊みたいなもの、かな?


少年は分かった様で、分からない様な顔をして、首を静かに横に傾けた。


うーん…どうすればいいか…

そうだ。

ステラ、今から少しなぞなぞをしよう。


なぞなぞ?


ああ。なぞなぞだ。

今から、そうだな…

二つか三つ質問をするから、それについて、ステラが考えたことを答えてみてくれ。


うん!分かった!


それじゃあ、まずは一つ目だな。

今、ステラの目の前には、一枚の丸い板に四つの足が付いている、木でできた椅子があるとしよう。

ただ、ステラの前にある物は今日作られたばかりの新品で、ステラが初めて見るものだ。


そこで、ステラに質問だ。

ステラは、その目の前にあるものを初めて見た時、目の前にある物はなんだと思う?


うーん…

椅子?


そうだな。椅子だ。

なら、二つ目の質問。

次は、さっきよりもサイズが何倍も大きくて、色は黄色。

そして、鉄でできた同じ形をした物が、目の前にあるとしよう。

なら今度は、ステラがそれを見た時、ステラはそれをなんだと思う?


うーん…

少年はしばらく悩んだ後、もう一度椅子?と答えた。


それじゃあ、最後の質問だ。

ステラはなぜ、二つ目の椅子を、他の物ではなく椅子だと思ったんだ?


……


少年はしばらくの間頭を悩ませたが、結局答えは出ず、分からないと答えた。


少し遠回りになってしまったが、私が言いたかった術者による定義というのは、こういうことなんだ。

たとえ色や大きさ、素材が違ったとしても、ステラはそれを机、はたまた、一枚の平らな板と四つの棒とは思わなかった。

それは、椅子という言葉が、椅子とは何かを区別し、分類して、定義するからだ。


言葉があることで、私達は初めて目の前にある対象が何かを理解し、それを認識することができる。

つまり、言葉こそが、この世界のあり方を定める力であり、この世界そのものである、ということなんだ。


へぇー。

言葉って凄いんだね!


ああ。

そうだな。


彼女は、ワクワクしながら話を聞いている少年の様子を見て、笑って返事を返した。


今話した様に、言葉には、世界を定める力が宿っている。

魔法使いは、魔法の最後に、この言葉の持つ力を借りることで、自分が思い描く様に魔法を定義し、魔法をより細かく、正確に作り上げるんだ。


自分が思い描く魔法?


そうだな…

例えば、同じ火と言っても、暗闇を照らすロウソクの様な小さな火から、何もかも燃やし尽くして灰にしてしまう様な力強い火、それ以外にも、暖炉の様に誰かを温めてくれる優しい火があるだろ?


うん。


あらかじめ、魔法陣には、どんな魔法を使うかが刻み込まれているが、それが小さな火なのか、大きな火なのか、はたまた力強い火なのかまでは決められていない。

だから、術者自身が、どんな魔法かをイメージし、それを言葉にのせ、どんな火を魔法で出すかを決めないといけないんだ。

つまり…自分が頭の中で考える、こうなって欲しいとイメージする魔法の姿。

それが、自分が思い描く魔法というものであり、魔法の根幹となる部分だ。

どうだ?

一通り説明はしてみたのだが、分かっただろうか?


彼女は自分が喋り終えると、少年の方を見つめ、少年の反応を伺う。


うーん…

ステラ、ちょっと自信ないけど…

でも、分かった気がする!


少年は少し考えながらも、ゆっくりと、自分の考えを喋り始めた。


魔法陣だけじゃ…

小さい火か、強い火か分からないから…

ステラがちゃんと小さい火か、強い火か決めて、それを言葉を使って、魔法を作るらないといけないってことだよね?


少年はそう言うと、どぉ?と、合っているかどうか聞きたい様子で、彼女の顔を見つめた。


ああ。ちゃんと合ってるぞ。

偉いじゃないか。


彼女はそう言って、少年の頭を撫で、少年はへへ。と嬉しそうに笑った。


あ、そうだ!師匠。


突然、少年は何かを思い出したのか、改めて彼女の顔に視線を向けて話始める。


ん?どうしたんだ?


今、思い出したんだけどね。

師匠が魔法を使う時って、長い言葉と短い言葉があるけど、それってなんでなの?


長い言葉…ああ、もしかして呪文のことか?

そうだな…呪文についてか…

正直、ステラにはあまり必要じゃないと思って、あえて話していなかったのだが…

まぁ、せっかくの機会だし、呪文についても知っておくか?


彼女がそう少年に聞くと、少年はうん!ステラ知りたい!と言って、目を輝かせて彼女を見つめた。


はいはい。分かったよ。

それじゃあ、ついでに呪文についても教えようか。

少し長くなるかもしれないがそれでもいいか?


はい!お願いします!師匠!


少年は、先程と同じように目を輝かせながら、元気に笑って、返事をした。


そうだな…

まず、呪文とは何かから簡単に説明すると、呪文は魔法陣やイメージを、言葉の中に組み込むことによって、詠唱だけで魔法を発動することができる様にした、言葉の組み合わせのことなんだ。

昔、とある大魔法使いが、魔法を使えない人達でも魔法が使えるようにと、自分の生涯を掛け、言葉を研究し、呪文を作り上げた。


それにより、たとえ、魔法陣の仕組みを知らない人でも、イメージできない魔法だとしても、魔力さえあれば誰もが同じ魔法を発動できる様になったんだ。


へぇ〜。呪文ってすごいんだね!

でも、呪文で魔法ができるのに、ステラはなんで呪文がいらないの?


少年は不思議そうな顔で彼女に質問をする。


そうだな…確かに呪文はすごいものだ。

実際に、呪文ができたおかげで、どんな人でも魔法が使えるようになり、魔法が広く知られ、発展するきっかけにもなったからな。

だが、そんな呪文でも、欠点がなかったわけじゃないんだ。

確かに、いくつかの魔法を覚えるだけならば、魔法陣の仕組みやイメージの仕方を覚えるより、呪文を覚えしまう方がはるかに簡単だ。

しかし、呪文は、複雑なイメージを全て言葉として表さないといけないため、どうしても、魔法の発動に時間がかかってしまう。

それ以外に、呪文によって魔法が定義されているため、魔法が使える場面が限られてしまうなど、いくつか制約がかかってしまうんだ。


そうなんだ、呪文も完璧じゃないんだね。


少年は魔法書から目を離し、彼女の方に顔を向け、話し始める。


ねぇ、師匠。

ステラ、呪文が何か分かったけど、途中、本に出てきた全詠唱と、簡易詠唱ってなぁに?


少年はページを何枚かめくると、魔法書の左端に書いてある文字を指差して、彼女に聞いた。


実は、呪文の歴史はもう少し続いていてな。

ステラの言う通り、呪文には全詠唱と簡易詠唱の二つがあるんだ。


そう言って、彼女は魔法書に指を置き、文字をなぞって説明を続ける。


まず、全詠唱についてなんだが、これは呪文の始まり。

大魔法使いが、人々のために作った呪文のことで、今は、誰でも魔法が使える様に、言葉だけで魔法が作れる、呪文全般を表す言葉なんだ。


だが、さっき私が話した様に全詠唱には、いくつかの制約がかかってしまう。


そこで、人々は考えたんだ。

大魔法使いが作った呪文をさらに短く、そして、細かい応用が効く様に、呪文を改良することができないかと。

人々は、呪文をより素晴らしいものへと作り変えるため、長い長い年月をかけた、呪文の研究が始まったんだ。


彼女は、魔法書の一番下の行まで読むと、続きを読むため、ページをめくった。


少し時代が飛んで…

大魔法使いが呪文を作ってから500年経つと、今度は、魔法陣の作り方やイメージを呪文と混ぜて使う、簡易詠唱が作られたんだ。

ここに書いてある通り、簡易詠唱と全詠唱の違いは、

呪文が魔法そのものを定義し、作り上げるものでは無く。

魔法を作る補佐として、呪文が使われる様になったという点なんだ。


へぇ〜。

全詠唱と簡易詠唱は、呪文の働きが違うんだね!


少年は嬉しそうに笑った顔を見せると、興味津々の様子で、再び魔法書を覗き込んだ。


これによって、呪文に必要な言葉の数が、5分の1へと減り、詠唱時間ははるかに短くなった。

それ以外にも、限られた場所でしか使えないという制約がなくなったりと、同時に、いろんなことが改良されたんだ。


それじゃあ、簡易詠唱の方が時間も短くて、いろんなところでも使えるから、全詠唱は使われ無くなったの?


実はそうでも無くてな…

確かに、簡易詠唱を使えば、詠唱も短く、限られた場所でしか使え無いという制約もなくなる。

だが、簡易詠唱は呪文そのものの働きを変えたことによって、誰でも魔法が使えるという呪文本来の目的が消えてしまったんだ…

実際、簡易詠唱は自分専用の呪文として、新たに作り替えなければならないことが多くてな。

そこに時間と手間がかかることから、全詠唱の時と比べ、簡易詠唱が広がることはあまりなかったんだ。


少年は、魔法書を見つめながら、なるほど。と、頭を頷かせ、彼女の話す説明に耳を傾けていた。


結果的に、魔法を使う方法は大まかに三つに分かれ、どれが正解で、どれが間違いとかではなく、術者自身が何を必要とし、何を選ぶかになったんだ。


そう言って、彼女は魔法書から手を離し、少年に視線を向けた。


これで、呪文についての説明は終わるんだが、他に聞いておきたいことはあるか?


うーん…


少年は口元に人差し指を当て、少し頭を悩ませた後、改めて彼女の方を向いて、無い!と答えた。


そうか。

なら…まだ、日が沈むまで時間があるみたいだし、最後に、魔法を一から作ってみるか?


彼女の言葉を聞いた少年は、体を前のめりにさせ、魔法作ってもいいの!?と、嬉しいそうに言った。


ああ。

今日は一日中、頑張って魔法の勉強をしたからな。

きっと、ステラだけでも魔法を作れる様になっていると思うぞ。


本当に!?

ステラ、頑張ってやってみる!


少年は胸の前に両手を当てて、ふん!とやる気満々の様子で、張り切っていた。


それじゃあ早速、試しに魔法を作ってみようか。


うん!


彼女はそう言って、少年の頭をポンポンと叩いた。


まず、魔法を作る、一番始めの手順。

内運用からだな。

ここは、昼食を食べる前に、一度練習したことがある場所だから、すぐにできるはずだ。


分かった!少年はそう答えると、早速目を瞑り、大きく呼吸を繰り返して、意識を体内へと集中させ始めた。


小さな水の流れが、やがて大きな川の流れへと変わる様に、少年の体内を流れる魔力も徐々に濃く、速くなっていく。


よし。

いい感じに魔力が循環してきたな。

それじゃあ、今度は、体内に巡らせている魔力を手に集めて、魔法陣を作ってみようか。


うん!


少年は彼女にそう返事をすると、少年は手のひらを前に出し、昼前と同じ様に、魔力を集め始めた。


ここも一度したことがあるから問題無いみたいだな。

よし。

なら次は、手に集めた魔力を魔法陣の形に作り替える、だな。

魔法陣を作る間運用は内運用と同じで、少しコツがいるんだが…

そうだな…

イメージとしては、紙にペンで魔法陣を描くのと同じで、魔力を筆跡としてその場に留めておく感じだな。

どうだ?できそうか?


むぅ…ステラ、頑張ってやってみる…


少年は、そのまま目を瞑って集中し、眉を顰めながら、彼女が言った言葉を頼りにして、手探りで魔力を操り始める。


少年が、魔力操作を始めてからしばらくすると、少年の手に集まった魔力が次第に線となり、徐々に魔法陣を形作っていった。


そうだ。その調子だ。


彼女は少年の様子を見守りながら、少年の邪魔にならない様にと、小さく頑張れと応援している様子だった。


あれからまた、少し時間が流れ、最後の魔力と魔力の線が繋がり、一つの魔法陣が完成した。


ステラ、そのまま集中を切らさない様に、ゆっくり目を開けてごらん。

彼女は、そっと少年に言うと、少年は、彼女に言われた通りにゆっくり目を開けた。


わあ!見て見て!師匠!

ステラも師匠みたいに魔法陣できた!


ああ。

そうだな。


少年の笑顔に彼女も笑顔で返す。


それじゃあ。最後の仕上げだ。


魔法の定義!!?


そうだ。魔法の定義だ。

最後に、ステラが望む魔法のイメージを魔力に乗せて、言葉で定義させるんだ。


うん。


少年は小さく頷き、言葉を放った。


光れ!

 

その瞬間、魔法陣の色が黄色に変わり、魔法陣を伝って、魔力が空中へと広がっていくのが分かる。

やがて、その魔力は光の結晶となり、いくつもの光球が暖かく辺りを照らし始めた。


師匠!できた!


少年は大きな声で喜び、自分の周りを見回す。


ああ。すごく綺麗な魔法だ!

彼女も少年と同じ様に周りを見渡す。


グル…グルル…


少し眩しいのか、それとも、二人の声が大きかったからなのか、シロは前足をピクピクとさせ、寝返りを打った。


二人は、そんなシロの姿を見て、くすくすと笑い合い、口に人差し指を近づけ、お互いに見つめ合って、シー!と言った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ