宝包み
12月31日
今年を締めくくる最後の日。
今日は、一年を無事に過ごせたことを祝い、ご馳走をたくさん用意して食べて、来年も、今年と同じように、幸せに過ごせるよう祈る日だ。
私とステラは、朝から新年を迎える準備をしていて、台所はいつもよりも騒がしかった。
煮物などの時間がかかるものや、仕込みが必要なもを先にを作り上げ、それがちょうど終わり、次の料理を作る準備をしている。
ステラは、私が亜空間から、次の料理に使う食材を取り出すの見ると、ししょー、次は何作るの?と聞いてきた。
次は、宝包みっていうものを作るんだ。
宝包みってなぁに?
宝包みはな。
この日しか食べない特別な料理で、生地の中に、餡を入れて包み、それを両面焼いて、タレをかけたりして食べる料理なんだ。
美味しそう!
ああ。すごく美味しいぞ。
で、今から私が作る、その宝包みは、他の料理に比べて少し大変なんだが、これも、作るのを手伝ってくれるか?
うん!手伝う!
私はステラと喋りながら、一通りの材料と道具を準備し終えた。
それじゃあ、早速作り始めようか。
うん!
まず、生地は作ってから、少し置いておく必要があるから、先に、生地から作ろう。
分かった!何が必要?
そうだな…
じゃあ、小麦粉を取ってきてくれてるか?
うん!ステラ持ってくる!
ステラは、踏み台から降りると、隣に置いてある小麦粉の入った袋を取りに行く。
そして、小麦粉を持って戻ってくると、再び、踏み台に登り、これで合ってる?と、私にその小麦粉を見せた。
ああ、それで合っている。
ありがとな。
それじゃあ…
次は、その小麦粉を、この針が、ここに来るまで入れてくれるか?
分かった!
ステラは、小麦粉の袋を机に置くと、袋を開け、大きめのスプーンで、少しずつ、小麦粉を測りの上に乗せ始める。
ステラは、小麦粉をこぼさないように集中して、そっと、そっと、ボウルの中に入れた。
私はその間、先ほど温めておいたぬるま湯と、塩を取りに行く。
そしてもう一度、机の方に戻ると、ステラは小麦粉を、しっかりと針の所まで入れ終えていた。
ししょー。
できた!次は!次は!
次は、さっきステラが入れてくれた小麦粉に、水を入れて混ぜていくんだ。
そうだな…私が生地を混ぜるから、ステラは少しずつ水を入れてくれるか?
うん!任せて!
ああ、よろしく頼むぞ。
私は、小麦粉の中に塩を入れ、ぬるま湯を少し入れた後、そのぬるま湯を、ステラに渡した。
私はそのまま、生地を混ぜ始める。
すごい!粉が塊になってる!
ああ。
今はまだ、水を全部入れていないから、小さな塊しかできてないが、これからこれが全部繋がって、大きな塊になるんだ。
へぇ〜。料理って不思議〜。
ステラはそう言って、生地を混ぜる私の手をじっと見つめていた。
私はステラに、何回かに分けて水を入れてもらい、生地を混ぜ続ける。
そして、全ての水が入れ終わると、丸い、大きな生地の塊ができた。
私は、布を水に濡らして、絞り、生地に被せる。
こうやって、生地を少しの間寝かせるんだ。
なんで、生地をおねんねさせるの?
生地を寝かせることを発酵と言ってね、生地を膨らませるんだ。
そうすることで、生地がふわふわのもちもちになって、もっと美味しくなる。
じゃあ、ちゃんとおねんねしないとだね!
ああ。そうだな。
私はそう言って、餡を作るために、生地を隣へ移すと、ステラはそれを覗き込んで、おやすみ〜美味しくなってね〜!と、生地に向かってバイバイと手を振った。
ステラ、こっちへおいで。
私が呼ぶとステラはすぐに振り返って、踏み台に登り、私の隣へ立つ。
次は、生地の中に包む、餡を作るんだが、私が他の物を準備する間、肉を混ぜておいてくれるか?
うん!今度はステラが混ぜ混ぜする!
ああ。それじゃあ、任せたぞ。
私は、細かく刻んだ肉を、新しいボウルの中に入れ、ステラに渡し、ステラが肉を混ぜている横で、ボウルの中に、水や酒、調味料いくつかを加えた。
ししょー。どれくらい混ぜたらいいの?
少し粘り気が出て、肉がまとまるぐらいだ。
分かった!
少し粘り気が出るまで…
少し粘り気が出るまで…
ステラはそう言って、小さな手を精一杯広く使い、一生懸命に両手で肉を混ぜる。
私はというと、ステラが肉を混ぜている間、餡の中に入れる野菜を、細かく切り、水分を飛ばすため、軽くそれらを炒めていた。
しばらくして、肉もいい感じにまとまってきていたので、先ほど炒めて粗熱を取っておいた野菜も一緒に、ボウルの中に入れて、ステラに混ぜてもらう。
ししょー。これぐらいでいい?
ああ。これぐらいで大丈夫だ。
ありがとうな。
私はそう言って、ステラの頭を撫で撫でする。
今から、生地の中に餡を包むから、一度、手を洗ってきてくれるか?
分かった!ステラ洗ってくる!
ステラはそう言うと、踏み台から降り、手を洗いに行った。
ステラが手を洗っている間、私は、木でできた大きめのまな板と、木鉢を2つ。
亜空間から取り出して、机の上に置いた。
ししょー。それなぁに?
手を洗って戻ってきたステラが、木鉢を指差して質問する。
これか?
今から生地を伸ばすために使う道具だ。
ステラの分もあるから、早くおいで。
一緒にしよう。
うん!
私は、生地がくっつかない様、まな板に打ち粉を塗し、寝かしておいた生地を取り出して、その上に置いた。
わぁ〜!さっきより大きくなってる!
これで美味しくなったの?
ああ。
大きくなったのは、ちゃんと発酵した証拠だからな。
きっと美味しくなっているはずだ。
触ってみてもいい?
ステラがそう言って、質問すると、私は頷いて、いいよと答える。
ステラは、膨らんだ生地に興味津々な様子で、しばらくの間、生地をツンツンと触った。
それじゃあ、早速、餡を生地で包んでみるか?
うん!
ステラは生地を触っている手を止めて、大きく頷く。
私は、生地の中にある空気を抜くために、一度、発酵させた生地をこねて、その後、生地を2つに分け、片方をステラの前に置いた。
今から私が作るから、それを真似してやってみてくれ。
うん!
まずは生地から。
ここから、これくらいの大きさの生地を取って、そして丸める。
えっと…
生地を取って、くるくるくる…くるくるくる…
で、綺麗に丸められたら、上から押して平べったくする。
生地を押して…
平べったくする…
次は、この木鉢の出番だ。
お〜!木鉢!
ステラはそう言って、キラキラした目で、私の方を見た後、先ほど、私が渡した少し小さめの木鉢を持った。
木鉢を持ったら、まずは、生地がくっつかない様に、木鉢にも打ち粉を付ける。
私が木鉢に打ち粉を付けると、ステラも同じ様に木鉢に打ち粉を付ける。
できた!
よし。ちゃんと打ち粉も付けれたみたいだな。
それじゃあ、次にいくぞ。
うん!
これからするのは、宝包みの一番難しいところだ。
だから私も、できるだけ分かりやすいように、ゆっくり進めていくから、一度、ステラも一緒に、頑張ってやってみてくれ。
分かった。
頑張る!
まずは、さっき平べったくした、生地の上の方を持って…
上の方を持って…
手で、持っていない場所に木鉢を当て、上下に動かして生地を伸ばす。
その時に、生地を持っている方の手はこうやって、時計の針の逆方向に生地を回していくんだ。
できるか?
うん…頑張る!
ステラは少し戸惑いながらも、一生懸命生地を伸ばす。
そうだ。そんな感じだ。
それを満遍なく繰り返して、できるだけ綺麗な円になる様に伸ばすんだ。
分かった!…
ステラはまだ、生地を伸ばすのに少し苦戦していて、返事を返すのに余裕がないみたいだった。
私は先に、生地に餡を包んでしまい、次の生地を伸ばし始める。
ふぅ…できた!
しばらくした後、ステラは生地を伸ばし終え、一息付いていた。
ステラが作った生地を見てみれば、時間はかかったものの、私が言った通りに、生地を上手く広げられていた。
上手くできてるじゃないか。
へへ。ステラ上手?
ああ。すごく上手だ。
ステラは嬉しそうに笑った。
ねぇ、ししょー。次は次は?
次は、今広げたその生地に、こんな風に、餡を包むんだ。
私は先ほど作った完成系を手に取り、ステラに見せる。
まずは、手のひらにその生地をのせて…
ステラは生地が破れない様、生地をそっと持ち上げ、手のひらに乗せる。
のせた!
そしたら次は、ここにあるスプーンで餡をすくって、
生地の上に乗せる。
分かった!
ステラはボウルの中にあるもう一つのスプーンで、餡をすくい、手のひらの生地に乗せた。
よし。今のところいい感じだな。
じゃあ、最後。
こうやって、生地の端を折って、真ん中に持ってくる。
真ん中に持ってきた後、親指と人差し指をそのままにして、中指で、生地を持ってきて折り畳むんだ。
これを周りから順番に折っていって…一周させる。
そして、最後に真ん中を押して、こんな形になったら完成だ。
どうだ、できたか?
ししょー。上手くできない〜!!
ステラはそう言って、何度か生地を折り畳もうとするけれど、生地がペラペラして戻ってしまうので、ステラは上手く、それを包むことができないでいた。
じゃあ、私がステラの手を支えるから、一緒に作ってみようか。
うん!
私はステラの後ろに回り、ステラの手を支え、一緒に動かす。
こうやって、一つずつ折って、折って•••
一周して、最後真ん中を押したら…
完成だ! 完成!!
ししょー。できた!ありがとう!
これでもう、一人でもできそうか?
うん。できる!ステラ、もっと沢山作る!
ああ。生地はまだ沢山あるから
頑張って作ってみてくれ。
私がそう言うと、ステラは早速、生地を手に取って、新しく、作り始めようとしていた。
しばらくして、生地が無くなるまで私とステラは、宝包みを作り続けた。
初めの頃は、ステラは、作る時間も長く、形も少し良くなかったが、数を重ねるごとに、時間も短く、綺麗に作れる様になっていた。
私は、私とステラが包んだ宝包みを焼き、その間に、ステラに宝包みに合う、甘辛のソースを作ってもらう。
しばらくして、ある程度宝包みが焼き終わると、机には、私が作った宝包みと、ステラが作った、少し小さめな宝包みが、山の形で、お皿の上に沢山積み上がっていた。
宝包みを焼くいい匂いに誘われてか、朝から外に出かけていたシロが、家に戻ってきて、ステラの隣で待機している。
私は、最後の宝包みを焼き終え、それを机に運ぶと、ちょうど、ステラもソースを作り終わっていて、椅子の上に座り、焼き終わった宝包みを眺めていた。
いい匂い〜。美味しそう…
宝包みは出来立てが一番美味しいんだ。先にいくつか食べてみるか?
食べていいの?食べる。
シロもいるか?
ワフ!
分かった。少し待ってくれ。
私は台所に、お皿とフォークを取りに行って、お皿に宝包みをのせて、ステラに渡した。
持ってきた、もう一つのお皿にも宝包みをのせ、シロに渡す。
二人とも、熱いから気おつけるんだぞ。
さっき、ステラが作ってくれたソースも、ここに置いておくから、かけたくなったら、自分で好きにかけて食べてくれ。
分かった!
ステラは、私から宝包みを受け取るて、すぐに、フォークに宝包みを刺して、ふぅふぅと息を吹きかけた。
いただきます!
ステラは大きな声で、いただきますをした後、宝包みにかぶりつく。
ん〜美味しい〜!
ステラはそう言って、足をぶらぶらさせて、美味しそうに宝包みを食べた。
一生懸命作ったからな。
美味しくできて良かったよ。
ワフワフ!
どうやら、シロも気にってくれたようだな。
よほど美味しかったのか、ステラはあっという間に
宝包みをたいらげてしまった。
もう一ついるか?
いる!
ワフ!
シロももう一つだって!
はいはい。
私はもう一度、宝包みを取って、ステラとシロのお皿の上に、一つずつのせてあげた。
ありがとう!
どういたしまして。
ステラは宝包みを渡された後、今度は、ソースをかけて食べ始め、同じように、美味しそうに宝包みを食べていた。
ステラがあまりにも美味しそうに食べるから、つられて私も食べたくなり、私も一つ、宝包みを食べることにした。
私は、宝包みを手に取り、一口かじる。
すると、肉と野菜の味が口の中で広がり、噛めば噛むほど、肉汁が溢れ出してきた。
あぁ…
昔、団長が作ってくれた味とおんなじだ…
ししょー。どうしたの?
ん?何がだ?
ししょー。泣いてる?
私が?
私は、泣いてなんかいない…
そう言いながら、私は、目の下に手を伸ばし、頬を触った。
あ、あ…こ、これか!
え、えっと…な、なんでもない。
私は慌てて、ステラに答える。
本当に?
ほ、本当だ。
突然、目にゴミが入ってしまってな…
今はもう大丈夫だ。
私はそう言って、涙を拭い、宝包みをもう一口食べた。
午後、まだ夕陽が沈む少し前ぐらい。
私は、最後の料理を作り終えた。
ずっと、料理を出しておくと冷めてしまうので、私は、亜空間にしまっおいた料理を取り出し、机に並べ始める。
すると、瞬く間に、机の上には、肉から魚、少し辛いものから甘いものまで、たくさんの料理が並んだ。
さすがに、今日で全てを食べ切ることはできないから、食べる分だけを小皿にとり、残りは、これから日を分けて、食べることにしようと思う。
偶然か、それとも知っていてなのか、私が亜空間から料理を出すと、タイミングよく、シロも部屋の中に入ってきたので、私は早速、ステラとシロと集め、一緒に、少し早めの夕食をとることに決めた。
食べる前に、私は、今年一年の感謝と、来年もまた、今年と同じように過ごせるよう祈り、ステラもシロも、私の真似して目を閉じ、両手を合わせて、祈りの言葉を静かに聞いた。
お祈りが終わった後、いよいよ、私達はご馳走を食べ始める。
ステラとシロは、どの料理も美味しい!美味しいと言って、喜んで食べてくれた。
いい一年だったな…
二人とも、私と出会ってくれてありがとう。
私は心の中で、そう呟いた。
時間は、いつまで経っても、私達を待ってはくれない。
幸せな時間を過ごせば過ごすほど、時の流れは早く、
私一人を、この空間の中に閉じ込める。
ふと、窓の外を見て見ると、長く暗い夜は終わり、新たな一年が始まろうとしていた。