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永遠の命  作者: 夜月陽向
11/15

宝包み

12月31日

今年を締めくくる最後の日。

今日は、一年を無事に過ごせたことを祝い、ご馳走をたくさん用意して食べて、来年も、今年と同じように、幸せに過ごせるよう祈る日だ。


私とステラは、朝から新年を迎える準備をしていて、台所はいつもよりも騒がしかった。


煮物などの時間がかかるものや、仕込みが必要なもを先にを作り上げ、それがちょうど終わり、次の料理を作る準備をしている。


ステラは、私が亜空間から、次の料理に使う食材を取り出すの見ると、ししょー、次は何作るの?と聞いてきた。


次は、宝包みっていうものを作るんだ。


宝包みってなぁに?


宝包みはな。

この日しか食べない特別な料理で、生地の中に、餡を入れて包み、それを両面焼いて、タレをかけたりして食べる料理なんだ。


美味しそう!


ああ。すごく美味しいぞ。


で、今から私が作る、その宝包みは、他の料理に比べて少し大変なんだが、これも、作るのを手伝ってくれるか?


うん!手伝う!


私はステラと喋りながら、一通りの材料と道具を準備し終えた。


それじゃあ、早速作り始めようか。


うん!


まず、生地は作ってから、少し置いておく必要があるから、先に、生地から作ろう。


分かった!何が必要?


そうだな…

じゃあ、小麦粉を取ってきてくれてるか?


うん!ステラ持ってくる!


ステラは、踏み台から降りると、隣に置いてある小麦粉の入った袋を取りに行く。

そして、小麦粉を持って戻ってくると、再び、踏み台に登り、これで合ってる?と、私にその小麦粉を見せた。


ああ、それで合っている。

ありがとな。

それじゃあ…

次は、その小麦粉を、この針が、ここに来るまで入れてくれるか?


分かった!


ステラは、小麦粉の袋を机に置くと、袋を開け、大きめのスプーンで、少しずつ、小麦粉を測りの上に乗せ始める。

ステラは、小麦粉をこぼさないように集中して、そっと、そっと、ボウルの中に入れた。


私はその間、先ほど温めておいたぬるま湯と、塩を取りに行く。

そしてもう一度、机の方に戻ると、ステラは小麦粉を、しっかりと針の所まで入れ終えていた。


ししょー。

できた!次は!次は!


次は、さっきステラが入れてくれた小麦粉に、水を入れて混ぜていくんだ。

そうだな…私が生地を混ぜるから、ステラは少しずつ水を入れてくれるか?


うん!任せて!


ああ、よろしく頼むぞ。


私は、小麦粉の中に塩を入れ、ぬるま湯を少し入れた後、そのぬるま湯を、ステラに渡した。

私はそのまま、生地を混ぜ始める。


すごい!粉が塊になってる!


ああ。

今はまだ、水を全部入れていないから、小さな塊しかできてないが、これからこれが全部繋がって、大きな塊になるんだ。


へぇ〜。料理って不思議〜。


ステラはそう言って、生地を混ぜる私の手をじっと見つめていた。


私はステラに、何回かに分けて水を入れてもらい、生地を混ぜ続ける。

そして、全ての水が入れ終わると、丸い、大きな生地の塊ができた。


私は、布を水に濡らして、絞り、生地に被せる。


こうやって、生地を少しの間寝かせるんだ。


なんで、生地をおねんねさせるの?


生地を寝かせることを発酵と言ってね、生地を膨らませるんだ。

そうすることで、生地がふわふわのもちもちになって、もっと美味しくなる。


じゃあ、ちゃんとおねんねしないとだね!


ああ。そうだな。


私はそう言って、餡を作るために、生地を隣へ移すと、ステラはそれを覗き込んで、おやすみ〜美味しくなってね〜!と、生地に向かってバイバイと手を振った。


ステラ、こっちへおいで。


私が呼ぶとステラはすぐに振り返って、踏み台に登り、私の隣へ立つ。


次は、生地の中に包む、餡を作るんだが、私が他の物を準備する間、肉を混ぜておいてくれるか?


うん!今度はステラが混ぜ混ぜする!


ああ。それじゃあ、任せたぞ。


私は、細かく刻んだ肉を、新しいボウルの中に入れ、ステラに渡し、ステラが肉を混ぜている横で、ボウルの中に、水や酒、調味料いくつかを加えた。


ししょー。どれくらい混ぜたらいいの?


少し粘り気が出て、肉がまとまるぐらいだ。


分かった!

少し粘り気が出るまで…

少し粘り気が出るまで…


ステラはそう言って、小さな手を精一杯広く使い、一生懸命に両手で肉を混ぜる。


私はというと、ステラが肉を混ぜている間、餡の中に入れる野菜を、細かく切り、水分を飛ばすため、軽くそれらを炒めていた。


しばらくして、肉もいい感じにまとまってきていたので、先ほど炒めて粗熱を取っておいた野菜も一緒に、ボウルの中に入れて、ステラに混ぜてもらう。


ししょー。これぐらいでいい?


ああ。これぐらいで大丈夫だ。

ありがとうな。


私はそう言って、ステラの頭を撫で撫でする。


今から、生地の中に餡を包むから、一度、手を洗ってきてくれるか?


分かった!ステラ洗ってくる!


ステラはそう言うと、踏み台から降り、手を洗いに行った。

ステラが手を洗っている間、私は、木でできた大きめのまな板と、木鉢を2つ。

亜空間から取り出して、机の上に置いた。


ししょー。それなぁに?


手を洗って戻ってきたステラが、木鉢を指差して質問する。


これか?

今から生地を伸ばすために使う道具だ。

ステラの分もあるから、早くおいで。

一緒にしよう。


うん!


私は、生地がくっつかない様、まな板に打ち粉を塗し、寝かしておいた生地を取り出して、その上に置いた。


わぁ〜!さっきより大きくなってる!

これで美味しくなったの?


ああ。

大きくなったのは、ちゃんと発酵した証拠だからな。

きっと美味しくなっているはずだ。


触ってみてもいい?


ステラがそう言って、質問すると、私は頷いて、いいよと答える。

ステラは、膨らんだ生地に興味津々な様子で、しばらくの間、生地をツンツンと触った。


それじゃあ、早速、餡を生地で包んでみるか?


うん!


ステラは生地を触っている手を止めて、大きく頷く。


私は、生地の中にある空気を抜くために、一度、発酵させた生地をこねて、その後、生地を2つに分け、片方をステラの前に置いた。


今から私が作るから、それを真似してやってみてくれ。


うん!


まずは生地から。

ここから、これくらいの大きさの生地を取って、そして丸める。


えっと…

生地を取って、くるくるくる…くるくるくる…


で、綺麗に丸められたら、上から押して平べったくする。


生地を押して…

平べったくする…


次は、この木鉢の出番だ。


お〜!木鉢!


ステラはそう言って、キラキラした目で、私の方を見た後、先ほど、私が渡した少し小さめの木鉢を持った。


木鉢を持ったら、まずは、生地がくっつかない様に、木鉢にも打ち粉を付ける。


私が木鉢に打ち粉を付けると、ステラも同じ様に木鉢に打ち粉を付ける。


できた!


よし。ちゃんと打ち粉も付けれたみたいだな。

それじゃあ、次にいくぞ。


うん!


これからするのは、宝包みの一番難しいところだ。

だから私も、できるだけ分かりやすいように、ゆっくり進めていくから、一度、ステラも一緒に、頑張ってやってみてくれ。


分かった。

頑張る!


まずは、さっき平べったくした、生地の上の方を持って…


上の方を持って…


手で、持っていない場所に木鉢を当て、上下に動かして生地を伸ばす。

その時に、生地を持っている方の手はこうやって、時計の針の逆方向に生地を回していくんだ。

できるか?


うん…頑張る!

ステラは少し戸惑いながらも、一生懸命生地を伸ばす。


そうだ。そんな感じだ。

それを満遍なく繰り返して、できるだけ綺麗な円になる様に伸ばすんだ。


分かった!…


ステラはまだ、生地を伸ばすのに少し苦戦していて、返事を返すのに余裕がないみたいだった。


私は先に、生地に餡を包んでしまい、次の生地を伸ばし始める。


ふぅ…できた!


しばらくした後、ステラは生地を伸ばし終え、一息付いていた。

ステラが作った生地を見てみれば、時間はかかったものの、私が言った通りに、生地を上手く広げられていた。


上手くできてるじゃないか。


へへ。ステラ上手?


ああ。すごく上手だ。


ステラは嬉しそうに笑った。


ねぇ、ししょー。次は次は?


次は、今広げたその生地に、こんな風に、餡を包むんだ。

私は先ほど作った完成系を手に取り、ステラに見せる。


まずは、手のひらにその生地をのせて…


ステラは生地が破れない様、生地をそっと持ち上げ、手のひらに乗せる。


のせた!


そしたら次は、ここにあるスプーンで餡をすくって、

生地の上に乗せる。


分かった!


ステラはボウルの中にあるもう一つのスプーンで、餡をすくい、手のひらの生地に乗せた。


よし。今のところいい感じだな。

じゃあ、最後。

こうやって、生地の端を折って、真ん中に持ってくる。

真ん中に持ってきた後、親指と人差し指をそのままにして、中指で、生地を持ってきて折り畳むんだ。

これを周りから順番に折っていって…一周させる。

そして、最後に真ん中を押して、こんな形になったら完成だ。

どうだ、できたか?


ししょー。上手くできない〜!!


ステラはそう言って、何度か生地を折り畳もうとするけれど、生地がペラペラして戻ってしまうので、ステラは上手く、それを包むことができないでいた。


じゃあ、私がステラの手を支えるから、一緒に作ってみようか。


うん!


私はステラの後ろに回り、ステラの手を支え、一緒に動かす。


こうやって、一つずつ折って、折って•••

一周して、最後真ん中を押したら…


完成だ! 完成!!


ししょー。できた!ありがとう!


これでもう、一人でもできそうか?


うん。できる!ステラ、もっと沢山作る!


ああ。生地はまだ沢山あるから

頑張って作ってみてくれ。


私がそう言うと、ステラは早速、生地を手に取って、新しく、作り始めようとしていた。


しばらくして、生地が無くなるまで私とステラは、宝包みを作り続けた。

初めの頃は、ステラは、作る時間も長く、形も少し良くなかったが、数を重ねるごとに、時間も短く、綺麗に作れる様になっていた。


私は、私とステラが包んだ宝包みを焼き、その間に、ステラに宝包みに合う、甘辛のソースを作ってもらう。

しばらくして、ある程度宝包みが焼き終わると、机には、私が作った宝包みと、ステラが作った、少し小さめな宝包みが、山の形で、お皿の上に沢山積み上がっていた。


宝包みを焼くいい匂いに誘われてか、朝から外に出かけていたシロが、家に戻ってきて、ステラの隣で待機している。


私は、最後の宝包みを焼き終え、それを机に運ぶと、ちょうど、ステラもソースを作り終わっていて、椅子の上に座り、焼き終わった宝包みを眺めていた。


いい匂い〜。美味しそう…


宝包みは出来立てが一番美味しいんだ。先にいくつか食べてみるか?


食べていいの?食べる。


シロもいるか?


ワフ!


分かった。少し待ってくれ。


私は台所に、お皿とフォークを取りに行って、お皿に宝包みをのせて、ステラに渡した。

持ってきた、もう一つのお皿にも宝包みをのせ、シロに渡す。


二人とも、熱いから気おつけるんだぞ。

さっき、ステラが作ってくれたソースも、ここに置いておくから、かけたくなったら、自分で好きにかけて食べてくれ。


分かった!


ステラは、私から宝包みを受け取るて、すぐに、フォークに宝包みを刺して、ふぅふぅと息を吹きかけた。


いただきます!


ステラは大きな声で、いただきますをした後、宝包みにかぶりつく。


ん〜美味しい〜!


ステラはそう言って、足をぶらぶらさせて、美味しそうに宝包みを食べた。


一生懸命作ったからな。

美味しくできて良かったよ。


ワフワフ!


どうやら、シロも気にってくれたようだな。


よほど美味しかったのか、ステラはあっという間に

宝包みをたいらげてしまった。


もう一ついるか?


いる!


ワフ!


シロももう一つだって!


はいはい。


私はもう一度、宝包みを取って、ステラとシロのお皿の上に、一つずつのせてあげた。


ありがとう!


どういたしまして。


ステラは宝包みを渡された後、今度は、ソースをかけて食べ始め、同じように、美味しそうに宝包みを食べていた。


ステラがあまりにも美味しそうに食べるから、つられて私も食べたくなり、私も一つ、宝包みを食べることにした。


私は、宝包みを手に取り、一口かじる。

すると、肉と野菜の味が口の中で広がり、噛めば噛むほど、肉汁が溢れ出してきた。


あぁ…

昔、団長が作ってくれた味とおんなじだ…


ししょー。どうしたの?


ん?何がだ?


ししょー。泣いてる?


私が?

私は、泣いてなんかいない…


そう言いながら、私は、目の下に手を伸ばし、頬を触った。


あ、あ…こ、これか!

え、えっと…な、なんでもない。


私は慌てて、ステラに答える。


本当に?


ほ、本当だ。

突然、目にゴミが入ってしまってな…

今はもう大丈夫だ。


私はそう言って、涙を拭い、宝包みをもう一口食べた。


午後、まだ夕陽が沈む少し前ぐらい。

私は、最後の料理を作り終えた。


ずっと、料理を出しておくと冷めてしまうので、私は、亜空間にしまっおいた料理を取り出し、机に並べ始める。

すると、瞬く間に、机の上には、肉から魚、少し辛いものから甘いものまで、たくさんの料理が並んだ。

さすがに、今日で全てを食べ切ることはできないから、食べる分だけを小皿にとり、残りは、これから日を分けて、食べることにしようと思う。


偶然か、それとも知っていてなのか、私が亜空間から料理を出すと、タイミングよく、シロも部屋の中に入ってきたので、私は早速、ステラとシロと集め、一緒に、少し早めの夕食をとることに決めた。


食べる前に、私は、今年一年の感謝と、来年もまた、今年と同じように過ごせるよう祈り、ステラもシロも、私の真似して目を閉じ、両手を合わせて、祈りの言葉を静かに聞いた。


お祈りが終わった後、いよいよ、私達はご馳走を食べ始める。

ステラとシロは、どの料理も美味しい!美味しいと言って、喜んで食べてくれた。


いい一年だったな…

二人とも、私と出会ってくれてありがとう。


私は心の中で、そう呟いた。


時間は、いつまで経っても、私達を待ってはくれない。

幸せな時間を過ごせば過ごすほど、時の流れは早く、

私一人を、この空間の中に閉じ込める。

ふと、窓の外を見て見ると、長く暗い夜は終わり、新たな一年が始まろうとしていた。

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