出会い
雨は吹き荒れ、森の木一つ一つが怪物の様に、枝から葉まで、全てを使い激しく揺れ動く。
時々雷が爆音と共に目の前の視界を照らす。
まるで天地が怒り狂い全てを破壊し尽くしているかの様だ。
そんな灰色の景色の中、炎のように赤く長い髪だけが色を灯していた。
この距離からでも分かる。
ものすごい魔力だ。
魔族?いや、それにしては少し違う…
でもなぜだ。この地には魔族も人間も、もういないはずなのに…
だか、もし魔族の生き残りがいるのなら、必ずもう一度この手で。
雨に打たれ、追い風に逆らい、森の木々を避け、泥の上を走り続ける。
森の中を進むにつれ、魔力が濃くなっていった。
そろそろか。
森の中を走り続けた先、草木が比較的に生えていない、少し視界が開けた場所が見えた。
その数メートル先には動物でも魔族でもない「他の何か」が見える。
私は咄嗟に木の上に飛び乗り、その何かに気づかれないなよう、いくつかの木の枝を渡り、近づいていく。
どうやら一つの魔力に気を取られてしまって気づかなかったようだ。
木の上からその場所を覗き込んで見れば、そこにはゴブリン、オーク、コボルトなど、何種類もの魔物が一箇所に集まっていた。
私もずいぶん鈍ったものだな。
この距離になるまで、魔物に気づかなかったとは…
数はざっと見て、五百。
行くか。
木から飛び降りる。
落下のタイミングに合わせて、空中に二つ亜空間が現れ、その両方から剣が出てくる。
右手には赤く鋭い刃、左手には白く光り輝く刃をもつ剣を握りそのまま魔物めがけて剣を振りかざした。
木の真下にいた魔物は頭と胴体にわかれ、そのまま血をながして、倒れる。
すると、一匹のコボルトがこちらに気づき、大きな声で吠えた。
いくつもの魔物が一斉に振り返り、たちまち襲いかってくる。
私は、目に映る魔物を片っ端から切っていった。
遅いな。
剣を握るのは久々で、どうなることかと思っていたが、案外いけるものだな。
まぁ、数はいれど、所詮は魔物か。
いくら魔物を切っても、切っても、魔物が魔物を呼び、奥にいた魔物も集まって、周囲一帯を魔物が囲んだ。
流石に一匹一匹、剣で倒すのはめんどくさいな。
なら…
そう言って、風。雷。氷。複製。
と、小さな声で呟くと、緑、紫、水色の
三種類の魔法陣が空中にいくつも現れ、
それぞれの魔法陣から魔法が飛び出だした。
ある魔物は体を切り裂かれ、
ある魔物は焼き焦げ、
またある魔物は氷の氷柱に貫かれる。
よし。ある程度片付いたな。
やっぱり、こういう時は魔法が一番だな。
だか、やっぱり変だ…
普通は、違う魔物同士が集まることなんてないはず…
やはり、魔物を勤め上げている親玉がいるのか?
もう一度、感覚を研ぎ澄ませる。
そうすると、この先に、四つ大きな魔力と、それ以上の巨大な魔力を感じた。
残り五匹。
あの魔力が多いのが親玉か。
加速。
自分自身に強化魔法をかけ、光のごとく、
素早い速さで魔物の首を切った。
魔物が気づいた時にはすでに、首が胴体から離れていた。
今切ったのは四体。
なら、最後の一体はどこだ…
強い魔力が放たれている方に目を向ければ、雨の音の中に、かすかに泣いている声が聞こえてきた。
違う魔物じゃない。
草をかき分け、その場所を見てみれば、木の下には小さな籠があった。
籠の中を覗いてみると、エメラルド色をした瞳に、短い金髪の髪をした赤ん坊が、毛布に包まれて入っていた。
!!…。一瞬、昔の記憶が頭をよぎった。
はは…
頑張って忘れているつもりだったのに、また昔の事を思い出してしまうなんて…
あの時、私がもっと強ければ…
後悔と悔しさの感情があふれ、その勢いのまま、しゃがみ込んだ。
嫌な事を思い出してしまったな。
少し考え込んだあと、
改めて、赤ん坊の顔をみつめた。
大丈夫。もう泣かないでおくれ。
私は、手に着けていた手袋を外し、
そっと赤ん坊の頭を撫でた。
ところで君はどこから来だんだ?
魔物に囲まれて怖かっただろ。
もう私が全部倒したから、安心しな。
そう言うと、赤ん坊は分かったのか、泣き止んでキャッキャと笑った。
そうそう。いい子いい子。
で、この子を元の場所に帰してあげたいのだが。
この子の家はこの近くに…ある訳ないな。
仕方ない。
ひとまず、私が面倒を見るしかないか。
私はそう言って、雨に濡れないよう、
赤ん坊が入っている籠を抱え、立ち上がった。
帝国暦2XX01年5月14日
『私は赤ん坊を拾った。』