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ランビエの絞輪  作者: 久遠 三輪
第三章 ネクローシス他殺
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25 荒垣の病室

 午後の業務を済ませると、舞は昼休みを利用して、救急病棟を訪れた。病棟内に入ると、舞は受付に寄った。口角を上げると、部署名と名前を女性職員に告げた。


「荒垣先生の病室は何号室でしたか? 藤原先生から託を頼まれていまして」


 職員は、すんなりと病室を教えてくれた。藤原の名前を出したのが、功を奏したと思えた。階段で三階まで上がる。奥から二番目の個室だ。ノックをしたが、返事はない。眠っているのだろうか?


 舞は、そっと廊下を見ると、引き戸に手を掛けた。施錠されていない。ベッドの上には、脱ぎ散らかした寝間着があった。荒垣は、外出していた。サイド・テーブルを見ると、「ちょっと出ます」と、走り書きのメモがあった。見回りの看護師宛てのものだろう。


 不法侵入者のような気分に陥り、舞は、引き返そうとした。その時、法律事務所の封筒が目に入った。封筒はA4サイズだ。《小出こいで法律事務所》、所在地は、神戸市中央区三宮町だった。中の書類が気になったが、盗み見る訳にはいかない。


 舞は、そっと廊下に出ると、忍び足で去った。救急病棟の一階は、騒然としているが、三階は静かだった。一階まで階段で下りると、職員用の出入口から出た。総合病棟の車寄せが見える。この位置からは、一般のタクシー乗り場が、手前にあった。


 二台のタクシーが出発すると、視野が開けた。遠目に、総合病棟の通用口に、白衣を左腕に掛けた男性が視野に入った。人目を忍ぶように、そっと中へ入った。


 今日の午後から、錦城の脳の解剖が行われる。脳外科医が執り行うと、聞いている。脳外科の手術室は、総合病棟だ。荒垣は、今日の解剖メンバーには、入っていない。だが、別室でモニター見学はできる。先ほどの男性は、荒垣だ、と舞は思った。


 総合病棟に移動すると、舞は、正面玄関から入り、フロア・マップを確認した。パネルを凝視していると、背後から声を掛けられた。


「また、お会いしましたね」


 舞が振り向くと、喜多川が立っていた。眩しい笑顔だった。


「錦城先生の脳の解剖結果を、確認したいと思いましてね。宇田川さんは、別室でモニター見学ですか?」


「いえ、管理栄養士の職務では、見学は叶いません。昼休みなので、様子を探りに来ただけです。喜多川さんは、見学できるのでしょう?」


 喜多川が首を横に振る。


「事件性の確証がないのに、見学は希望できません。関係者のお話や、噂話を訊く程度ですよ」


 喜多川の眼が、輝いて見えた。好奇心からか? 恋人に会える嬉しさか? 優子の今朝の言葉が、舞の脳裏に浮かんだ。


「荒垣先生が、多分、別室で見学されていると思いますよ」


「あの方、もう動いて大丈夫なのですか? それなら、聞き込みも楽でいいです!」


 小声であるが、喜多川の口調は、軽快だった。


「ここで、時間を潰されるのですか?」


「待ち時間は、慣れていますよ。それとなく、情報収集もできますし」


 喜多川が、悪戯っぽい笑みを浮かべて、舞を見た。


「では、明日の夕方、お願いいたします」


 笑顔で喜多川に会釈すると、舞は、その場を辞した。


――現役の刑事さんは、他人行儀な演技も上手い。


 舞は、心の中で呟いた。

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