旅立ち
―エマside―
日々、エマはケイドのことを案じていた。地下室に幽閉されて以来、ケイドに与えられる食事はあまりにも乏しく、エマの心を痛めた。
(ケイド様は、あんなに一生懸命頑張っているのに...。これでは、体が持たない...。...私の分だけでも...)
「ケイド様、今日もおいしそうなパンがありましたよ」
「エマ、今日は少し量が多いんだね!」
「しっかり食べて体力をつけてくださいね」
エマはいつも明るく振る舞ったが、実際には自分の体力が日に日に衰えていくのを感じていた。
(ケイド様のためなら...)
エマは苦しさに耐え、献身的にケイドの世話を続けた。
―ケイドside―
一方、ケイドは地下室で必死にギフトの訓練に励んでいた。
「よし、この調子だ...!」
【ギフト『圧縮』がレベルアップしました】
【大きな無生物と小さな生物を圧縮することが可能です】
大きな岩を目の前に、ケイドは集中する。すると、岩がみるみる小さくなっていく。
「やった...!大きな無生物も、圧縮できるようになった...!」
ギフトのレベルが上がったことを実感し、ケイドは歓喜した。
(このギフトを使えば...!)
そして、ついにその時が来た。
「今だ...!」
ケイドは地下室の扉に向かって、ギフトを使った。扉がみるみる小さくなり、ケイドはついに地下室から脱出したのだ。
しかし、外に出たケイドを待っていたのは、予想外の光景だった。
「エマ...?エマ!」
倒れ伏すエマの姿に、ケイドは駆け寄る。しかし、エマはもう息をしていなかった。
「そんな...どうして...」
「お兄ちゃん...エマは、お兄ちゃんに食事を分けてあげてたんだ...」
「タナ...?」
「エマは、お兄ちゃんが心配で...でも、他の人には内緒にしてたの...」
タナの言葉に、ケイドは愕然とする。
涙が止めどなく溢れる中、ケイドはエマが自分に食事を分け与えていた事実を知った。
「僕のせいだ...僕のせいでエマが...!」
嗚咽が込み上げ、ケイドは走り出した。前も見ずに、ただひたすらに。
走り続けるうちに、ケイドの中で何かが生まれていた。
(エマ...エマ...)
感情が溢れ出し、ケイドは心が押しつぶされそうになる。まるで、ケイドの心が圧縮されるかのように。
(なんで...なんで...)
「エマ...ごめんね...」
心の中で何かが砕けた。
【ギフト『圧縮』がレベルアップしました】
【感情を圧縮することが可能になりました】
涙を拭い、ケイドは空を見上げた。
特に、エマの死に対する悲しみと罪悪感は深かった。エマは僕の小さい頃からの世話係だった。両親に構ってもらえなかった僕にとって、エマは母親のような存在だった。そんなエマが亡くなったのだ。
「エマ...僕がエマを殺したんだ...」
エマの死と、自分が生きていることへの罪悪感、家族への悲しみ、それは僕の中に深く刻まれた。
「今までの僕、、、さようなら」
僕は目を閉じ、グルグルと心の中に渦巻く感情に意識を向ける。
「圧縮」
怒り、悲しみ、寂しさ、孤独、後悔。それらすべてを小さな点に凝縮していく。最初から、そんな感情を持ち合わせていなかったかのように小さく。
「これまでの私はもう死んだんだ。エマへの感謝も、両親への怒りも、全部過去のものだ。これからは、エマの分まで生きるとしよう」
かくして、私は感情を圧縮した。それは生きるために必要な術だった。エマの死をきっかけに、私は変わったのだ。
こうして、ケイドの旅が始まった。大切な人を失った悲しみを心の奥底に沈めて。