焦りと不安
あれから1年が経った。僕は毎日ギフトの訓練に励んでいたが、なかなかレベルが上がる気配がなかった。
「どうして...こんなに頑張ってるのに...」
鏡に向かって呟くが、返ってくるのは疲れ切った表情の自分だけだ。焦りと不安が胸を締め付ける。
「このままじゃ、いつまでたってもレベル1のまま...。父さんも母さんも、僕を見放してしまうかも...」
そんな恐怖が、僕の心を蝕んでいた。
そんなある日、タイルとマキナが僕を呼び出した。
「ケイド、もうすぐ弟か妹ができるんだ。」
マキナが優しく告げる。
「お前は兄になるんだぞ。しっかりしないとな。」
タイルも続けた。 僕は複雑な心境だったが、精一杯の笑顔を作った。
「はい、僕、お兄ちゃんになります!」
でも心の中では不安が渦巻いていた。
「弟や妹が生まれたら、僕はもう要らない子になってしまうんじゃ...」
月日は流れ、弟のタナが生まれた。予想通り、両親の愛情は、すっかりタナに注がれるようになっていた。
「タナ、今日もたくさんミルク飲んだね。偉いぞ。」
マキナはタナを優しく抱きしめる。
「タナは将来有望だ。私と同じ剣闘士のギフトを持っているようだ。」
タイルも嬉しそうだ。 そんな両親を見ながら、僕は心の片隅でつぶやいた。
「僕だって必死に頑張ってるのに...どうして僕のことは見てくれないんだろう...」
嫉妬と寂しさが入り混じり、胸が苦しくなった。
また、1年が経ち、僕は7歳になった。弟のタナは2歳だ。
「ケイド、そろそろお前のギフトのレベルを確認したい。」
ある日、タイルに呼び出された僕は緊張しながら、目の前の石に集中した。しかし、石は以前と変わらない大きさにしかならない。
「ケイド、ギフトのレベルが上がっていないじゃないか。もっと練習が必要だぞ。7歳にもなるとレベルは5くらいにはなっててもおかしくないんだ。」
タイルの言葉は厳しかった。
「分かりました...もっと頑張ります。」
僕は涙をこらえながら答えた。情けなくて、悔しくて、言葉にならない思いが胸を焼いた。
ある日、僕はタナと庭で遊んでいた。
「お兄ちゃん、これなーに?」
タナが地面に落ちている小石を拾う。
「それは石だよ。タナ、お兄ちゃんが石を小さくする魔法を見せてあげる。」
僕は小石に集中し、小さくする。
「わぁ!すごーい!お兄ちゃんすごいね!」
タナは無邪気に笑う。その笑顔を見ていると、僕も少し元気になれた気がした。
「ねえタナ、お兄ちゃんのこと、どう思う?」
ふと、聞いてみたくなった。
「え?お兄ちゃんは、世界で一番優しくて、一番強いお兄ちゃんだよ!」
タナは即答した。
「そう...かな?でも、お兄ちゃんのギフト、全然レベルが上がらないんだ...」
「そんなの関係ない!お兄ちゃんはお兄ちゃんのままでいいの!タナはお兄ちゃんが大好きだよ!」
タナは真剣な表情で言った。その言葉に、何だか胸が熱くなった。
「タナ...ありがとう。お兄ちゃんもタナのこと大好きだよ。」
僕はタナを優しく抱きしめた。弟の無条件の愛に、少しだけ勇気をもらえた気がした。
しかし、そんな平穏な日々も長くは続かなかった。
「ケイド様のギフトは伸びしろがないのでは...」
「タナ様の方が、ライデン家の後継者に相応しいかもしれません。」
僕の耳に、使用人たちのひそひそ話が届く。
「僕は...本当にこの家に必要とされてるのかな...」
窓の外を見つめながら、僕はぽつりとつぶやいた。太陽はまぶしく輝いているのに、僕の心はどんよりと曇ったままだった。一人じゃ、この状況を打破できる気がしない。
そんな僕の背中に、小さな手が触れた。
「お兄ちゃん、どったの?」
タナが不思議そうに僕を見上げる。
「ううん、何でもないよ。タナ、お兄ちゃんね、もっと強くならないといけないんだ。」
「うん、タナ分かる!でもね、お兄ちゃんは今でも十分強いよ!お兄ちゃんは絶対諦めないもん!」
「...どうして、そう思うの?」
「だって、お兄ちゃんはいつもタナのこと守ってくれるもん。それに、お兄ちゃんは毎日頑張ってるの、タナ知ってるよ!」
タナの言葉に、僕は思わず涙があふれそうになった。
「そっか...タナ、ありがとう。お兄ちゃん、もっと頑張るよ。絶対に諦めない。」
「うん!タナ、お兄ちゃんのこと信じてる!」
僕はタナを抱きしめ、空を見上げた。曇り空の向こうに、僕の進む道が見えた気がした。一人じゃない、タナがいる。
「よし、もう一度練習しよう!」