最初の晩餐
縦長の細い窓に掛けられているレースのカーテンの向こうは暗い曇天が広がっているので、部屋の中もランプを付けないと薄暗い。
広い部屋に手の込んだ細工のあるベッドと同じ細工が施された丸テーブルと椅子2脚。
2つある窓の一つの前には、書き物机が置いてある。
廊下からこの部屋へ入った時とは別の扉がベッドの横の壁にある。
執事がさっとその扉を開け、中を見せてくれた。
そこは小さなプライベートなスペースで、更に両側に扉がついている。
向かって右がバストイレで、左がワードロープになっている。
「すぐにお風呂のお湯を持って来させます。その間どうぞお部屋でお寛ぎ下さい」と言って軽く頭を下げた執事が部屋を出て行った。
部屋に1人になったので、さっそくベッドに横になった。
ギシっ。
古いスプリングが立てるベッドの音。
寝返りを打つ。
ギシっ。
TVも漫画もネットも無い。
ゲームもなく、小説などの本もない。
時間を潰す物が一切無い。
ギシっ。
目まぐるしく俺の周囲が変わった事によって疲れたのと、他にする事のない虚無感。
ギシっ。
いつの間にか眠っていたらしい。
メイドが夕食だと呼びに来て、初めて昼寝をしていた事を知った。
風呂はお湯を持って来たメイドが俺が寝入っているのを見て、一旦用意を中断したらしく、風呂に入らないままの夕食となった。
「お肉とお魚、どちらがお好きか分からなかったので両方ご用意致しました」
給仕長なのだろう、灰色のお仕着せを着た中年女がそう説明すると、もっと若いメイドが3人、両手に皿を持って中に入って来た。
「山田様、料理も揃った様ですので、お食事に致しましょう」
パリスがそう言うと、テーブルについていたパリス、リーブン、そしてパリスの妻らしい中年女性と、リーブンより少しだけ年上に見える女性2名と、明らかに年下と思われる女の子1名が一緒に祈りの言葉を唱えた。
「天よりお見守り下さる創造の神よ。今日もこうして家族全員で食卓を囲める幸福に感謝致します。ホーリーシュ」
こちらではアーメンではなくホーリーシュと唱えるのが普通なのかな?
「ささ、どうぞお召し上がりください」とパリスに促されてカトラリーに手を伸ばすと、「山田様、この家の者をご紹介致しますので、食べながらお聞きください」と、同席者の紹介を始めた。
しかし同席者の紹介なら食事が始まる前にするのが妥当ではないのか?
どうもこの世界、或いはこの国での女性の地位はとても低い様で、女性を男性に紹介するのは食事のついでと言った扱いになるらしい。
なんか馴染めないなぁ・・・・。
リーブンと同じ色合いの銀髪の中年女性は彼の母親で、トリ―ヌと言うらしい。
冷たい感じの美人さんだが、リーブンに話しかける時だけは花の様な明るい笑顔を見せる。
旦那であるパリスには同じ表情を向けない。
冷めた夫婦なのか?
ちょっとだけ俺より年上に見えた2人の女性は、一人はリーブンの奥さんで赤毛のアンシュリーヌ様。
もう一人は彼の従姉のマリアンヌ。銀髪の美少女だ。
最後のちみっこは、マリアンヌの妹のデートリアンヌで、色合いは姉とそっくりだけれどスタイルはまだ幼い女の子のそれだ。
つまり胸部装甲は控えめだ。
食事の席では男性が中心になって会話するみたいで、女性陣とは「よろしくお願い致します」くらいしか言葉を交わさずに夕食が終ってしまった。
食事自体は肉も野菜も魚も出て来て、とても美味しかったのに、女性陣の会話無しの同席でちょっと居たたまれなかった。