リーブン
「はじめまして、勇者様。私はモーリス伯爵家長男のリーブンと申します。どうぞよろしくお見知りおきを」
リーブンは所謂銀髪で、紫色にも見える灰色の瞳の美男子だ。
年は俺と同じ。
背丈は普通だが、スラっとして見える。
灰色のモーリス家の一員としてふさわしい、灰色の貴公子だ。
「勇者様は・・・・」リーブンがまだ話し続ける気配だったので、「山田と呼んで下さい。こちらこそよろしくお願いします」と途中でぶった切ってしまった。
ずっと勇者様と呼ばれるのもちょっと抵抗があったのだ。
よくあるじゃん。〇〇さんところの奥さんとか、××ちゃんのお母さんとか呼ばれるのを嫌がる女の人。
今の俺がそんな感じだ。
勇者様と呼ばれると誰か他の人を呼んでいる様に感じるし、俺という個人が否定されている様にも感じる。
だから、早々にそれを訂正しにかかったのだ。
「失礼しました。山田様。父から聞いた所、山田様のスキルは土魔法、剣術、魔力操作だそうですね」
「はい。リーブンさんのスキルは何ですか?」
こちらの話しばかりでも何なので、パーティを組む相手としてリーブンのスキルも知っておくのも有効だろう。
「山田様、こちらの世界では極少数を覗いてスキルと呼ばれる物を所持している者はおりません。普通、スキルは異世界から世界渡りされて来られた勇者様のみでございます。例外は信心深い者が偶に授かる回復魔法のみです。残念ながら私はスキルを持っていません」
「え?それじゃあ、君らの言う勇者とこちらの世界の人の力の差ってどのくらいなの?」
「これは正式に調査されたわけではないので確実な事は言えませんが、随分昔、一人の勇者様がご乱心あそばして現地の者を何人も殺害された事がありました。その際、こちらの兵士が勇者さまを捕らえるのに有した人数が9人でしたので、9人相当と言われております」
「え?乱心?」
「はい。振り子のせいで無理矢理こちらの世界へ呼び寄せられて、元の世界へは帰れないというのは勇者様にとっては大変な事だと思います。普段は私の父くらいの年齢の勇者の方々が来られるのですが、その方は随分若い時にこちらへ一人で呼び寄せられたそうで、心細かったんだと思います」
自分も日本へ戻る事が出来ない事を再度目の前に突き付けられた形になり、つい会話を成立させるより、自分の思考の波に潜り込んでしまったため深い沈黙が訪れた。
「さぁさぁ、山田様はこちらへ来られたばかりなので、お疲れでしょう。夕食までまだ時間がございますので、お部屋へお連れします。お風呂に入られるなり、お昼寝されるなりお休みください」
パリスがパパっとリーブンと俺を引き離し、二階にある俺のために用意された部屋へ連れて行く様執事に命令した。




