灰色の伯爵家
街並みは異世界物でよくある中世ヨーロッパの街並みだけど、下水道もなく、日本の様にしょっちゅう掃除をするわけでもないであろう道や建物の外壁はとても煤けて見える。
ロンドン並みに曇りや雨天が多いらしく寒さが厳しいこの王都では、みんな暖房として薪を暖炉に焼べるため、煙で空気そのものが煤けているし、黒っぽい石で出来た建物の外壁は汚い斑な灰色になっている。
何より、馬車を引く馬が道に落とす物で異臭が酷く、思わず口と鼻を手で覆ってしまう。
いつの間にか振り出した雨が少し異臭を押さえてくれているが、それでも臭う物は臭う。
そんな俺を見てパリスは、「歴代の勇者様の殆どがこの臭いに不平を言われますが、山田様は何もおっしゃらないのですね。非常に貴族的です」と言った。
ん?貴族的?
俺の頭の中にはクエスチョンマークが多数飛び交っている。
「貴族という人種は、不用意に不満などを口に致しません。まぁ、所謂やせ我慢とでもいいますか、不平を言う場合には、敵を刈り取る場合のみです。私も息子にその様に言って育ててまいりました」
それ以上の説明は無かったが、パリスの言いたい事は何となくわかった。
貴族って殺伐としてるんだな。
食うか食われるか?
王城から馬車で15分くらいかけてモーリス家の門前に着いた様だ。
外門から玄関前まで更に3分は走っただろうか庭の中を走る私道を抜けると、目の前に灰色の石の建物がドーンと聳え立っている。
3階建ての建物で、横にも広い。
黒っぽい石ではなく灰色の石というのはこっちの方が上等な建材なのだろうか?
そんな事を思っていると、「山田さま、息子を紹介させて頂きますので、どうぞ馬車を降りて頂いて、拙宅の中へお入り下さい」と、伯爵が先に馬車から降りた。
玄関の前には左右に2列づつ使用人たちが並んでいる。
メイドは全員同じ灰色の制服を着用しており、こちらの顔を直視しない様に少し腰をかがめ視線は斜め前に固定されている。
執事やその他の使用人も同じ姿勢だ。
執事は黒い上下、調理人たちは白のエプロン、その他の下男は灰色の制服と、一部の者を覗いて殆どの者が灰色のお仕着せを着ており、このモーリス伯爵家のテーマカラーは灰色なのかと思わせる程に、いろんな物が灰色だ。
建物しかり、制服しかり、玄関前に立つ高そうな服装の伯爵家の息子らしい男の髪しかり、そしてどんよりと曇った空すら灰色だ。
篠突く雨は重い雨粒のくせに、ざぁざぁ降りでもなく、かと言って小雨でもない。
何とも憂鬱だ。
日本に帰りたい・・・・。




