買い出し
それは突然起こった。
いつも塩やら陶器やら村では手に入りづらい物を購入しに、井ノ川と一緒にハルバーメンの町に買い出しに来ていた。
「今回は塩と布用の染粉、皿が・・・・スープ皿が12枚だっけ?それと大きな水がめ・・・4つ?。また住民が増えるのか?」
水道の無い世界だから井戸から汲んだ水は、各戸にある大きな水瓶に溜めて使うので、大きなみずがめが必要すなわち新しい住民が移住してくるんだろうと簡単に予想が付く。
「ああ、高橋が言ってたけどウィスキーの製造をやらせるみたいだぞ。だから買い物リストに大樽20ってあるだろう?」
「おおおお!ウィスキーかっ!俺飲んだ事ないけど、山田は飲んだ事あるのか?」
「いや、俺もないよ」
一通り買い物を終えて、その日の宿に泊まり、夕食の後は近くの飲み屋で一杯ってところだ。
学生時代はビールくらいは飲んだ事あるけど、ウィスキーはないんだよな。
お屠蘇があるから日本酒は飲んだ事あるけどね。
このウィスキー造りって成功するのかな?
俺たちの誰も本物のウィスキー飲んだ事ないと思うんだけどなぁ。
それとも高橋あたりは飲んだ事があるのだろうか?
この店は宿から4件目の飲み屋で、綺麗なおねいちゃんとかはいない。
美味しいツマミとエールの店なのだ。
実は買い出しは日帰りでも十分なのだが、たまにこうやってちょっぴりと都会の雰囲気を味わいたい時は宿を取りこの店で飲む事もあるのだ。
井ノ川は森で狩りをしていた時に事故った事があり、右手の先が無い。
回復魔法を持たない俺たちには感染症を引き起こさない様に気を付けてやる事ぐらいしかできなかったが、何とか手を失うだけで命までは失わないで済ませる事が出来た。
みんなホッとしたのだが、こうやって酒を飲んていると、利き手と反対側の手でグラスを持っているのがどうしても目に入ってくる。
「ん?まだ見慣れないのか?」
井ノ川がニヤっと笑ってこっちを見た。
「すまん。どうしてもついつい見てしまうんだ」
「確かに不便なんだけど、勇者補正が掛かっているのか、痛みはとうの昔になくなってるし、体力があるので日常生活には支障はないぞ」
「うん。分かっているんだけどな」
「まぁ、あの事故〇△十×・・・・気にZd●▼・・・・」
そんな話をしていたのに、井ノ川の話し方が変でいつの間にかろれつが回らなくなってらぁなんて思っていたら、俺の記憶もそこで途絶えた。
「ガタガタガタ」
「ん?」
何か激しく揺れている。
頭が痛い・・・・。
これって馬車か何かじゃないか?
自分が横になっているのは分かるのだが、どうして馬車の中で横になっているのかが分からない。
それにしても酷い頭痛だ。
「んんん・・・」
横からもうめき声が聞こえて来た。
痛む頭でゆっくりと声がした方を見ると、井ノ川が寝かされていた。
「ガタガタゴトン」




