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季節

「私はモーリス伯爵家の当主パリスです。勇者様のお名前を教えて頂けますか?」

 ダムエルが僕の所に連れて来た背が高く細身の中年男が自己紹介をした。

 濃茶の髪で、同じ色の口髭を蓄えている。

 遠目には穏やかそうに見えたのだが、この様に近くで対面してみると意外とその眼力は強い。

 そして笑っている様で目が笑っていないのだ。


「山田 彰人です」

 パリスは満足そうに頷いた。

「山田様は土魔法と剣術、魔力操作のスキルがあると伺っておりますが間違いないですか?」

「はい」

「それはそれは、立派なスキルを複数お持ちで、さぞ、強い勇者様になられることでしょう。家には18歳になる息子が一人おりますが、勇者様とパーティを組ませる予定です。どうぞよろしくお願い致します」

 パリスがそう言うと、まだ俺たちの横に立っていたダムエルが、「たった一人の後継ぎなので、山田様のことを必死で守ってくれる事でしょう」と言い残し、次のクラスメイトの所へ別の貴族家の当主を連れて行った。


 何がどうとは言えないのだけれど、ダムエルの言い方には引っかかる所があった。

 パリスと二人、目配せをしていたところも気になったが、それ以上考える間も与えられず、「家の者が山田様の到着を心待ちしております。歓待の料理なども作っておりますので、さっそくですが拙宅へまいりまよう」と、軽く背中を押され、横並びで謁見の間を出た。


 俺より先に謁見の間を出たクラスメイトもいるし、まだこれから貴族家を紹介されるクラスメイトもおり、もうこの段階で全員が別々の行動を取っていた。

 ただ俺としては友達の辰徳がどんな貴族家に連れて行かれるのか見ておきたかった。

 しかし、辰徳たちは謁見室の中でも俺たちの対角線上の反対側におり、俺たちの間には2つのグループが出来上がっているので、良く観察できなかった。


「そろそろ行きましょう」と促され、渋々謁見の間を後にした。




 昼間なのに薄暗い城の中はところどころに蝋燭が点いており、外の寒さも相まって雨期の初めらしい曇天で冬じめじめと陰鬱な雰囲気だ。

 元々黒っぽい石で出来た城だから、蝋燭の数が多くても灯りの届く範囲が狭いからか、ちょっとおどろおどろしい。

 外気に吹かれて偶に大きく蝋燭の灯が揺蕩い、歩く人の影を瞬間的に大きくしたりするのもおどろおどろらしさを増している原因かも・・・・。


 何故雨期の初めだと分かったかというと、パリスが教えてくれたのだ。

 この世界には四季というよりは長い雨期と乾期があり、その2つの季節の間に1週間くらいの申し訳程度の春と秋があるそうだ。

 年によってはその申し訳程度の春や秋すらない事もあるらしい。


「山田様、外は寒いのでこちらのマントをどうぞ」とパリス付きの使用人が綺麗に折りたたまれた臙脂色のマントを差し出して来た。

 この城の廊下にはガラス窓がなく吹きっさらしであった為、若干寒かった。

「ありがとうございます」と受け取り、早速身に付けてみた。


 毛織物でどっしりと重たいマント。

 フードは付いておらず、首の所の大きなボタンで留めるだけのシンプルなデザインだ。

 言うなれば昔の羊毛で出来た毛布をそのまま肩に掛けた感じだ。

 勇者の体になっているからか、そこまで重さを鬱陶しくは感じないが、外套としては重たい部類には間違いない。


 貴族家当主であるパリスの来ているマントも同じ様な素材なので、これがこちらの世界の服装の基準なのだろう。


 部屋や廊下は思ったより狭く、短く、何度も曲がり角を曲がって1階の玄関口まで到着した。

 恐らくだけれど、敵が侵入して来た時、容易に王族や重要書類、宝物がある場所へ到達できなくする工夫なのだと思う。

 日本でも放送局とかは、テロ対策でそうしているからね。珍しい話ではない。


 辰徳の事は気になるけど、玄関先に回されたモーリス伯爵家の馬車に乗る様促され、反抗する謂れもないので素直に車上の人となった。

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