尋問
斎藤が馬車から飛び降りた時、すぐに命を刈り取ったらしい。
マミアナは斎藤を殺す気はなかったのだが、対峙した斎藤の方がヤル気満々で、相手を屠らないと自分がやられるので仕方なくだったらしい。
生きた物はマジックバックに入れられないけれど、亡くなってしまった人間は入れられるのだ。
このマジックバックには重量軽減の他にも時間停止の機能が付いているらしい。
勇者の体を乗っ取るには、乗っ取る側も乗っ取られる側も生きている必要があるのだが、死んだ直後の勇者の体で何かできないかと思い、経年劣化が無い状態で本国へ運ぼうとしていたらしい。
仲間の遺体を物扱いされているのが本当に良く分かる事例だった。
強いて言えば、俺たちの体も物扱いって事だ。
念のため、震える手で斎藤だったモノの首筋に手を当ててみたが、やはり脈は無かった。
鼻先にも手を持って行ったが、息をしている形跡は無い。
その間、辰徳と井ノ川は洞窟を出てすぐの所で嘔吐している。
俺も嘔吐しそうになっているけど、赤髪を見張る者がいないと、相手は曲がりなりにも勇者だからな。
簀巻きにされていても、魔法を詠唱出来ない様に指を切り落としても、何かの手段を用いて拘束を解くかもしれないのだ。
一通り嘔吐が終り、目に浮かんだ涙を拭ったら、俺たちの仲間をアイツらの自由にさせてなるものかと息巻いた井ノ川が提案してきたので、斎藤の体は高橋の火魔法で焼いた。
人を焼くと、独特の匂いがする。
火葬場の様に高温で密閉状態に近い形での火葬ではなく、何も遮るモノの無い所での火葬なので、まず髪が焼ける嫌な臭いがし、それに続いて着ている服や肉の焼ける臭いが混ざり、俺たちは皆憂鬱な気分になった。
赤髪は国に提供できる勇者の遺体を取り上げられたことで、非常に残念な顔をしている。
こいつにとって斎藤は、ただの物体なんだな。
しかも中身はあの国の貴族だもんな。
そう思うと無性に腹が立って来た。
「で、山口はどこだ?」
「・・・・別行動なので、私は知らない」
「連絡は取り合っていないのか?」
「ヤマグチは彼以外にお前たちを探している者の存在は知らないはずだ」
「ザイディール国の王族は勇者の体乗っ取りの儀を執り行えるそうだが、それは他の国も同じなのか?」
「・・・・」
マミアナは固く口を閉ざしたけど、このまま放置する気はない。
「次は目を潰すぞ。ちゃんと応えろ!」
「くっ。折角勇者の体を得たのに・・・・他国では勇者召喚は出来ても乗っ取りの儀を行える者はいない」
「じゃあ、他国から頼まれてザイディール国の王族が勇者乗っ取りを行う事は無いのか?」
「他国の戦力を上げる事など、王族はなさらない」
俺とのやり取りを聞いていた井ノ川が少し前に出て来て「お前は前の勇者の体を使っているそうだが、乗っ取りの後、勇者の体は年を取らないのか?」とマミアナに詰め寄った。
これは召喚当時既に40歳前後であった前勇者が更に50年たっても40歳に見える事に関する質問だ。
「勇者は乗っ取りされた時点から見た目は変わらない。体も年を取るがとてもゆっくりだ。ただ、別に寿命が延びる訳ではないので乗っ取りから20~60年で勇者の体は死ぬ」
50歳あたりで乗っ取り、更に60歳生きれれば十分に寿命は長いと思うがな。
こっちの世界での平均寿命を知らないから何とも言えない。
辰徳がどうしても聞きたい事があると前に一歩出て、マミアナを睨み付ける。
「ザイディール国が勇者召喚をし、勇者乗っ取りをしている事を他国は知っているのか?」
その問に対する答えは『是』であった。
 




