追跡者
俺たちを見張っている人物はずっと動かない。
美味しそうに具沢山スープを食べている俺たちをじっと見ているのだろう。
食べ終わると再び洞窟の奥に入って、後片づけた。
使い終わった鍋や皿、残った食材等を手早くマジックバックに仕舞う。
「おい」
「何だ?山田」
「ここを出る時同時に出て、4人で別々の方向へ行ってみないか?」
「ん?どういことだ?」
「井ノ川によると、あそこで見張ってる奴は一人らしいと言う事だった。万が一、二人いたとしても俺たち四人と同じ人数はいないと思うので、俺たちが同時に飛び出して別々の方向へ行けば、誰を追跡するか迷うだろうし、それでも俺たちの誰かを追跡すれば、追跡されていない者が追跡者が誰なのかを確認する事ができるんじゃないかな。俺たちはここを出てから1時間後にここに戻って集合しようぜ」
「彰人が言いたいのは、追跡されていない者が追跡者を追跡するって事か?」
「うん、辰徳の言う通りだ。或いはこの洞窟の近くで待機して、どういう奴が追跡しているのか先回りして見てやるって事さ。どうする?高橋、井ノ川」
「分かった。1時間くらいでここに戻るでいいんだな」
「ああ。それで、今思ったんだけど、2人は勇者の速さで走り、残り2人は普通の速度で移動って言うのはどうだろう?」
「それは何を見極めたいんだ?」
「高橋、お前にも分かると思うが、普通の人間は俺たちの本気モードのスピードにはついて来れない。でも、この洞窟まで俺たちをつけて来たのなら、ある程度のスピードが出せる奴なんだと思うんだ。追跡者がどんな人間なのか知る事は大事だと思う。本当に俺たちのスピードについて来れるのかどうか。俺たちについて来れない場合にも追跡者を確認したいので、遅い2人もいれば万全かなと思ったんだ」
「「なるほど!」」
そこで4人が一斉に別方向へ向かった。
俺と辰徳が普通のスピードで移動だ。
でも、俺たちを見張っていた奴は勇者モードの高橋について行った。
その後ろ姿は赤い髪だった。
半分迷子になりながらも、体感時間で30分後に洞窟へ戻って来た。
洞窟より少し離れた所にある木に登って様子を見ていた。
辰徳にも井ノ川にも追跡者はいなかった。
高橋の後方から高橋のスピードに合わせて移動しているのは紫髪で茶色の上着を着た人物だ。
さっきは赤髪で、上着は緑色だった。
今、戻って来た高橋に遥か後方に居るのは紫髪で違う色の上着。
でも、背丈や肉付きは同じ。
当然、同じ人物だろう。
人間は上着の色や髪型や色が違うと、別の人間と誤認しやすい。
そういうトリックを使っている人物・・・・意図があって俺たちを追跡していると思って間違いないだろう。
顔は見えないが、温泉で話し掛けて来た赤髪で間違いない。
問題は、赤髪が俺たちのスピードについて来れているということだ。




