スキル
スクリーンの様な物、それと管で繋がった手に嵌めるサポーターの様な魔道具を黒のマントの男たちが運んで来た。
ダムエルは先ほどの高橋の質問に、「法律で決まっているので有力貴族は勇者の皆さまの受け入れを断る事はできません。また、自家の後継ぎが勇者様のパーティで鍛えて貰えるので、一般人より力を付けやすい環境に身を置けるというメリットがあります。そして、勇者様の生活にかかる費用の一部は税金から補助金という形で各貴族家に支払われますので貴族家の負担はそこまでではないのでせす。魔王軍の刺客からご自身で身を護る事が出来る所まで力を付けた勇者様をその意思に反して自家に留め置くというのは法律にも抵触しますのでご安心下さい。ささ、まずは皆さまのスキルを確認させて下さい」と答え、高橋の手を持ち上げ、横に控えていた黒マントに渡した。
「水魔法、火魔法、氷魔法、剣術でございます」
高橋の腕から機械を外しながらスクリーンを覗いていた黒マントが声を張り上げた。
「「「おおおお!!!」」」
「素晴らしい!これはとても素晴らしい。魔法スキルを3つもお持ちとは」とダムエルはニコニコ顔だ。
「槍術、体力」
「剣術、素早さ」
「斥候、素早さ」
クラスメイトのスキルが声高に黒マントの口から知らされる
友達の辰徳は「剣術、体力」だった。
俺は、「土魔法、剣術、魔力操作」で、今回の召喚で魔法スキル持ちは俺と高橋だけだった。
最後の乃木坂は、「怪力」のみだけで、大抵2つは得る事ができる勇者スキルがたった一つだった事に、周りが少しがっかりした様だった。
乃木坂は地球でもずんぐりむっくりしたニキビ面で、髪がいつも何故か湿っていてボサボサ、勉強もスポーツも得意ではなく、いつも赤点ギリギリで、学校でのカーストも底辺だった。
周りの反応に乃木坂は萎縮している様で、普段から自信なさげな猫背だったのが更に横に広い体を縮ませている感じだ。
怪力だけであっても、どのくらいの怪力を出す事が出来るかで有益なスキルになると思うのだけれど、恐らく乃木坂は今まで諦める事を続けて来たのだろう、一つしか授からなかったスキルをどの様に活かすかを考えるより、一つしかスキルが無かった事を恥じている様だ。つまり諦めているのだろう。
「では、皆さま、王の御前にお連れ致します。私に付いて来て下さい」
誰も返事をしなかったが、ダムエルの後に付いて行った。
赤マントがダムエルの横に並び、黒と紺のマントがぐるっと俺たちを囲んだ。
頑丈な金属の扉を潜ると、すぐに外気が俺たちを包んだ。
後ろを振り返ると薄暗い塔が聳え立っていた。
そうか、円形の部屋ではなく塔だったのだな。
昼間だというのに薄暗い曇り空の下、目の前の城へ向かう。
黒っぽい石で出来ているせいか、城が何かオドロオドロしく見える。
俺たちを囲んでいるマントの男たちも、相も変わらず顔が見えない様にマントを深くかぶっているのもあって、今俺たちがいる場所が現実味に欠けている様な錯覚を起こしてしまう。
そんな時、ふと振り返り何気なく塔の入口あたりをぐるっと見回すと、木製の荷馬車が見えた。
リヤカーの荷台の様になっているので何が乗せられているかは分からないが、遠目には運動靴らしきものを履いた脚が複数見えたのだ。
「ちょっと待って下さい!あれは何ですか?」
そう言って馬車を指さしたが、ダムエルが「何でもありませんよ。さぁ、お城へ行きましょう」と答えている最中、荷馬車の横に居た兵らしき者たちがその足らしきモノに覆いを被せ、さっさと出発させてしまった。
俺と一緒に歩いていたクラスメイトたちは怪訝な顔をして俺を見ているので、あの靴らしきモノを見たのは俺だけかもしれない。
元々遠目過ぎて本当に運動靴なのかどうかも怪しい。
常識的にみて、裸眼で靴だと判別できる距離ではないということもあり、自分が見たモノに自信が持てなかったし、既に馬車も視界から消えている状態なので、その話は自然に立ち消えに・・・・。
どうして良いか分からず立ちすくんでいたら、辰徳に軽く肩を押され、マントの集団に囲まれながら先に進んだ。
怪訝な思いを抱えながらも付いて行った。
あの昼間なのに薄暗く見えてしまう塔は王城の敷地内にあるらしく、俺たち一行は手入れのされていないイングリッシュガーデンの様な所を歩き、城の裏口っぽい場所に着いた。