顎鬚の男
「私は勇者召喚庁の長、ダムエルと申します。まず、勇者の皆さまに御詫び申し上げます。多くの自国民の命を救うために振り子を壊す事が出来ず、結果皆さまを無理矢理召喚するという現象を止める事が出来ませんでした。国王共々心より申し訳なく思っております。ご説明をさせて頂いた後、ちゃんと国王との謁見は実施させて頂きます。何はともあれ、歴代の勇者様からあった質問を元に説明させて下さい。そうすれば今皆さまが抱えていらっしゃるたくさんの疑問の大半は解消されると思います。その後でちゃんと質疑応答の時間を設けさせていただきますので、ご安心下さい」
ダムエルが説明してくれたところ、以下の事が分かった。
勇者は元の世界に戻る事は出来ない。
勇者召喚の周期はおおよそ50年。
今まで2~3年の誤差はあったが、概ね50年というのは変わらない。
召喚される勇者の数や元いた世界はその時々で変わるが、性別は決まって男。
過去には地球の欧米諸国から召喚されたり、地球とは別の星からも召喚されている。
今回は7名のみだった。
ここは、剣と魔法の世界で、王族や貴族が支配する世界でもある。
魔法は基本勇者しか使えないが、それ以外だと極少数の現地人のみ回復魔法が使える。
ザイディール国はこの世界で中堅どころの大きさと強さ。大陸の中央より少し北東に位置する。
現在戦争はしていないが、この世界の国はもれなく潜在的に魔王軍の攻撃を受ける可能性がある。
異世界渡りの時に、勇者の体は再構築されているので特殊なスキルを持っている。
勇者のスキルは勇者毎に違う。
この後、そのスキルを鑑定する。
勇者の使命は魔王を倒す事だが、強制ではない。
しかし召喚されている事は魔王軍側にもいずれ判明するので、常に命を狙われる危険がある。
勇者が戦う事を選んでも選ばなくてもこの国の貴族が勇者を守る。
法律で受入先の貴族家の息子と勇者でパーティを組ませ、息子を守るためには自然と勇者パーティを守らざるを得ない制度を敷いているので安心して欲しい。
勇者自身の身を魔王軍の刺客から護るための訓練には最初の1か月。是非参加して欲しいとのこと。
それらの訓練を受けたからといって魔王軍との戦争に参加を強制される事はない。
「以上がこちらからの説明です。何か疑問があれば、何でも聞いてください」
顎鬚の問いかけに高橋が早速声をあげた。
「貴族家への配置は義務なんですか?例えば、ある程度生活が出来る金銭を貰って、好きな所に住む事は可能なんでしょうか?」
「魔王軍の刺客は、勇者であっても戦闘能力を鍛えていなければ赤子の手を捻る様にやすやすと仕留められてしまいますので、戦闘訓練をする様進言致します。市中の物件をご用意してお一人で生活されるのであれば、有力な貴族の協力を得られなくなります。まずは魔王軍の刺客を自力で押しのけられる様になるまでは、それなりの武力を有する貴族家にお世話になる方が安全です。一旦実力を付けられてから独立されてはいかがでしょうか?その時には国から召喚に対する慰謝料という形で可成りの金額をお渡しできると思います」
「分かりました。安全のためならば、貴族家にお世話になる事も吝かではありませんが、その貴族家はこちらが選べるんでしょうか?それと、強くなったからと言って本当にすんなり独立させてもらえるのでしょうか?貴族家としては金と時間を掛けて我々を守るのでしょうから、その後、我々に独立されてしまえば、貴族家に何のメリットも無い事になりますよね」
「皆さまのお世話をする貴族家を皆さまで選んで頂いても結構なのですが、勇者様のスキルはそれぞれ違います。スキルによってはより魔王軍に狙われやすくなり、堅固な警護を用意できる力のある貴族でなければ勇者様をお守りする事が出来ません。これから勇者様のスキルを鑑定させて頂きますが、そのスキルを元に皆さまへ貴族家を紹介させて頂きます。その際に、その貴族家で良いかどうかをご判断下さい。但し!」
顎鬚はそこで声を少し強め、しばらく口を噤んだ。
そして、みんなの視線が自分に集まったのを確認して、徐に口を開いた。
「貴族家で独自の騎士団を抱えている家は少なく、皆さま全員を王家で受け入れるのも守備力という意味で限界があります。結局、ご紹介できる貴族の数は潤沢ではございませんので、よっぽど嫌というのでなければ、ご紹介する貴族家を受け入れて頂けたら嬉しいです」




