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逃走

 2回目のメッセージを小さく折ったクレヨンと共に辰徳と高橋に回した。

 俺自身もクレヨンを持ってないとこちらからメッセージしたい事を伝えられなくなるからだ。

 そういう意味ではソノマが手渡してくれたのがペンではなく、クレヨンだったのが幸いした。


 斎藤と山口には申し訳ないが回さない様にした。

 そしてその旨をメッセージに書き込んだ。

 井ノ川まで回っているかどうかまではまだ確認できてない。


 俺がソノマと最後に話した夜から5日目に2人も外へ出られるとのこと。

 何度も洗ってズル黒くなった布のメッセージのやり取りで最低限のやり取りをしている。

 地球のクレヨンと違って洗えば可成りとれるクレヨンで良かった。

 後は第二王子をどうやって連れ出すかが一番の問題だ。

 高橋が王都にある娼館の名前を書いて来て集合場所をこの近くでと指示された。

 高橋任せになるのだが見切り発車だ。


 辰徳には、夫々の受入貴族の館の外で落ち合う事を布メッセージで既に伝えてある。

 まぁ、俺には高橋が言う娼館の場所も、辰徳たちを受け入れている貴族家の場所も分からないのだが、馬車を出してくれるソノマの関係者を信じるしかない。

 

 俺は夕食の度に食器を破損しない様に気を付けながら食事をした。

 勿論、普通にしてたら破損する事は無い。

 でも、万が一にも破損してしまったら一から計画を立て直さなければならなくなるので、できるだけ食器類に触らない様に食事を済ませた。


 そうこうしている内にとうとう5日目の夜になった。


 この2か月で上達した土魔法で窓の下に出した階段を降り、直ぐにその階段を消した。

 俺の魔法もこの2か月で可成り上達したので、乗っ取り貴族がもっと高齢なら俺は既にこの世にいないだろう。


 俺の部屋の真下は裏庭だが、灯りの無い真夜中。

 植木に足を取られながらも、この5日間窓から何度も眺めてイメージトレーニングした逃走経路に沿って移動を開始した。

 門から外に出る事はできないので敷地を囲っている塀の横に階段を出し、反対側へ降り、階段は消した。

 上手くいった!

 夜陰に紛れて敷地外に停めてあった馬車に近づいた。


「暁」

「月」

 ソノマから教えられた合言葉で確認し、乗り込んだ。

 乗ったのと同時に馬車は動き出した。


 辰徳を担当している貴族家の塀の傍に馬車が停まったらしい。

 らしいというのは、俺にはそこがどこなのか分からないからだ。

 以前、チョーカーを付けられる前に辰徳のところの貴族家の名前は聞いていたけど、家の場所までは聞いていなかったからだ。


 暫くすると塀の内側からシーツを割いて結び目を作った物が投げられた。

 俺はすかさず塀にへばりつき、シーツの位置まで移動し、塀の内側に土魔法の階段を作った。

 直ぐに辰徳の顔が塀の上に表れ、こちら側に飛び降りた。

 土魔法の階段を魔法で消し、二人して馬車に戻った。


「大丈夫だったか?」

「ああ、何とか。この馬車は大丈夫なのか?」

 御者は信用できるかと言いたかったんだろう。

 本当のところは俺にも分からないが、ソノマを信じるしか逃げる手立てが無いのだ。

 でも、俺は如何にも大丈夫と言った表情で頷いた。

 暗いので俺の表情までは分からなかったとしても、頷いたのは伝わっただろう。

 兎に角、今は四の五の言わずに実行あるのみ!


 そのまま馬車は歓楽街の方へ移動した。

 指定の淫売宿の裏口近くに付け、そのまま暫く待った。

 1時間は何もなかった。

 一番重要な第二王子を連れて来るという大仕事を担った高橋が来なければ、どうやって王子を拉致するのかすら知らない俺たちにはどうしようもない。


「どうする?高橋、来ないな」

「このままこの馬車で出来るだけ遠くへ逃げるか?」

「命令は耳から聞こえなけば従わなくて良いのか、それともすごく離れていても有効なのかが分からない。王族なしでの逃走は危険な橋だな」

「もし、離れていても命令に従わされるのであれば、リーブンが戻れと言えば、どんだけ離れていても歩いてでも俺はここへ戻って来てしまうことになる」

「う~ん」

「ただ、乗っ取りたい体をぐちゃぐちゃにはしないだろうから、乗っ取りの儀式までは俺たちの命は保証されているのだけが救いだな。もし高橋たちが来なければ、命令に従われされるとしても王都からは出よう!」


 二人でその様な話をして更に2時間待つ。

 もう少し待って誰も来なかったら、この馬車で王都から出ようと決めた時、暗がりに人間2人の影が見えて来た。

 一人は普通に歩いているが、もう一人はその人物に寄っかかった感じで、どちらかというと引き摺られている様に見える。


 俺は素早く馬車から降りて、暗がりの中その2人の人物を見極めようとした。

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