乃木坂
その朝、異変が起こった。
乃木坂が訓練場に来たのだが、髪が赤色になっていた。
「おい、乃木坂、その髪はどうしたんだ?」
斎藤が駆け寄って乃木坂に声を掛けたが、乃木坂は冷たい一瞥を投げただけで、貴族家子息のグループの方へ行った。
チョーカーを付けられる前も後も、普段乃木坂が俺たちの所ではなく貴族家子息グループの方へ行った事なんてなかったから違和感しかない。
外見は髪の色が変わっただけだが、立ち居振る舞いが乃木坂ではない印象を与えてくるのだ。
それにいつも乃木坂を従えていたパルモ家のハーミットがいないのだ。
「おい、乃木坂の首を見てみろ!」
井ノ川がそう言って、みんなで乃木坂の首を見るとチョーカーが無かったのだ。
「チョーカーを外してもらったのか?どんな取引をして?」と高橋が怪訝そうに首を捻った。
「でも、どうして髪が赤色に?」
「あれって、乃木坂ん所の貴族の息子の髪の色だよな?」
「ああ、ハーミットが来てないのはなんでだ?」
「それよりもチョーカーはどうやって外してもらったんだ?」
「貴族の方へ行ってるのは、何か取引をしたからなのかっ?」等と、それぞれが話しているので、俺たちの会話は成り立っていない。
その日から乃木坂とパルモ家の人は訓練場に表れなくなった。
みんな乃木坂からどうやってチョーカーを外してもらったのか聞きたくてウズウズしていたので、あれ以来姿を見せない乃木坂を呪ってすらいた。
「すみません。乃木坂はもう訓練場に来ないのでしょうか?」
しびれを切らした高橋が第二王子にそう尋ねたが、この一見おちゃらけた雰囲気の王子は、「お前たちは余計な事は気にしなくて良い。とっとと訓練をしろっ!」と言われ、何の情報も得る事が出来なかった。
その後も毎日朝から晩まで訓練と栄養豊富な食事を三食出され、夜は嫌がってもチョーカーを使って命令されるので、宛がわれた女性と夜の営みを繰り返していた。
これは他のクラスメイトも同じ様だ。
どうしてそんな事が分かったかと言うと、日本語を話す事は禁じられたが、文字を書く事は禁じられなかったので、みんな訓練場の土の上に短い単語だけをパパっと書いて最低限の意思の疎通を図っていたからだ。
文字なら日本語が書けると分かったのは井ノ川のお陰だった。
こいつの洞察力とか仮定を立てて一つずつ潰していく事で出来る事と出来ない事を判別して行くやり方は、流石勉強が出来る奴は違うって感じだ。
俺も義務と化した食事の接取や、夜の営みからどうにか逃れたいと思っていたので、クラスメイトの状態を把握し、何か逃れる方法を考え付いた者がいないか知りたいと思っていた。だから、筆談があるとないとでは大違いだ。
そんな中、マリアンヌが妊娠したとパリスから報告あった。
「女を孕ませる能力がある分かったからには、女の数を増やすぞ」と言われ、目の前が真っ暗になった。




