チョーカー
その後も毎日訓練があった。
週休二日とは言わないが、週一くらいで休ませて欲しいとクラスメイトからの要望で高橋がダムエルに交渉をしようとしたが、「もちろん週休1日でも2日でも対応は可能ですが、そうしますと一か月だけの共同訓練が2か月に伸びたりしますが、どちらがよろしいでしょうか?」との回答に、それなら1か月だけだし、俺たち二人以外は午前中のみの訓練なので毎日で良いとなった。
高橋と俺は毎日午後も訓練があるのだが、今まで持ってなかった魔法スキルの訓練ということもあり、休むより早くいろんな魔法を使ってみたいと言う方が先だった。
そんなこんなで合同訓練3週目の朝、いつもの様にクラスメイトが集まって日本語でやり取りをしているところへダムエルが入って来た。
「勇者の皆さま、おはようございます。今日はみなさまの防具や武器をご用意しましたので、まずは試着してみて下さい。受入先の貴族家の御子息も勇者様に合わせて装備等をご用意致しましたのでご試着をお願いします」と言うと、下働きの男性3人が各々木製の台車に乗せた武器や防具を運んで来た。
剣も短剣、長剣があり、長剣は更に片手剣、両手剣等いろんな武器が用意されていた。
防具も色んなサイズで各自のジョブに合っていそうなものを2~3種類づつ用意されていた。
装備品も指輪や腕輪、頭に付けるサークルやチョーカータイプの物など豊富だ。
「井ノ川様は斥候なので、ナイフですね。予備も合わせて数本お持ちになられる方が良いと思いますので、こういうホルスターも装備の中に入れた方が良いかと思います」と各武器毎に講師となっている騎士たちがそれぞれに合いそうな装備を薦めてくる。
その様子をずっと眺めていたダムエルは、みんなの装備が決まったタイミングを見計らって、「こちらのチョーカーですが、これは勇者様も貴族の御子息にも全員身に付けて頂きます。勇者様方はこの青色の魔石がはめ込まれた物を、御子息様方はこちらの赤色の魔石の方を身につけて下さい。これは、勇者様が何らかの事故等でお亡くなりになった場合には、自動的に貴族の御子息様もお亡くなりになるという強制力を持った装備品になります」と両手でそれぞれ青と赤の魔石がついたチョーカーを持ち高く掲げた。
「「「なっ」」」
クラスメイトの内、何人かがあまりの事に驚きの声を挙げていた。
自分が生きているかどうかで他人も道連れにすると言われてたら、何とも言えない罪悪感を突き付けられた気がしたのだ。
「勇者の皆さま、これはザイディール国が代々勇者様受入を行う貴族家に課して来た処置でございます。このチョーカーは勝手に外す事ができない仕組みになっており、王家にしか外す方法が伝わっていない装備でございます。このチョーカーがあるからこそ、各受け入れ先の貴族家が本気で勇者様をお守りするのです。だから皆さまも必ず装備して下さいませ」
周りを見ると、第二王子も含め貴族家の子息たちは既に知っていたのか大人しく近習の者たちにチョーカーを装備されていた。
身を守ってもらうための最低必需品と言われれば、我々としても断る事はできないのだが、何とも寝覚めが悪い。
それでも皆しぶしぶチョーカーを装備してもらった。だって自分の命が一番大切だものな。
乃木坂はまだ新しい貴族家を紹介してもらっていないので、ハーミットと対となるチョーカーとなり、嫌がるのかと思ったら、暗い笑みを浮かべてむしろ喜んでチョーカーを付けている。
どうやら相手の命が自分の手の中にあると思ったら、愉快な気分になったんだろう。
気持ちは分からなくもないが、かと言って見ていて気持ちの良いものでもない。
「皆様、ご自分でチョーカーが外れるかどうか確認して頂けますか?」
ダムエルに言われ一斉にチョーカーを外そうとしたけれども、チョーカーはビクともしなかった。
直情型の山口なんかは剣まで使って外そうとしたダメだったらしい。
「よろしい!外れない事を確認しましたね」
そう言ったダムエルの顔は残忍な表情だった。




