夜の訪問者
夕食後、部屋に戻り寝る支度をしていたら、「トントン」とドアがノックされた。
風呂に入りたかったので、風呂の用意だったらありがたい。
「はい」
返事をしても誰も入って来なかったので、両手を風呂のお湯で塞がれたメイドかと思い、こちらから戸を開けると、そこには先ほど一緒に夕食を食べたマリアンヌがそこに立っていた。
いや、立っているのは立っているのだが、その・・・・服装が・・・・際どい!
体の線ははっきりとは見えないのだが、薄いシフォンの様な生地が何枚も重なり、見えてはいけない部分だけ薄っすらと色が付いており、見えそうで見えないのだ。
その他の部分はしっかりと見えてしまう。
け、けしからん!
「あのぉ。当主様からの命で・・・・ゴクっ・・・・お情けを頂きに参りました」
寝化粧をされた綺麗な顔が蒼白になり、思い詰める様な雰囲気なのだが後ろを向いて逃げる事はしない様だ。
はっきり言って悲壮感すら漂っている。
綺麗は綺麗な子なんだけど、これで事を致せと言われても・・・・。
「いやぁ、俺は聞いてませんので・・・・」と言葉を濁すが、ズズイと部屋の中に入って来る。
俺はその彼女の決意ある行動にたじろぎ、押される様に部屋の中に押し込まれた。
顔は紙の様に蒼白なのに、決意はしている様だ。
「これはどういう事なんでしょうか?」
「歴代勇者様にはお世話をする女性が何人か付いておりました。殆どが貴族の娘でございます。当家では勇者様の年頃に見合うのは私でございます。私以外にもお気に召した者がおりましたらメイドの中からも数名選抜する事は可能でございますが、まずは私が寄せて頂きました。私では不服でしょうが、どうかお情けをお願いします」
彼女の手は少し震えている様に見える。
「いやぁ、それって結婚するとか言う事ではないですよね?貴族の女性が結婚もせずそういう関係を持っても良いのですか?それともこちらの世界では結婚という制度がないのでしょうか?」
リーブンの妻が食卓にいたので、結婚という制度はあると思うのだが・・・・。
「結婚という制度はございます。普通、貴族の娘は結婚するまでは異性と関係を持つ事を固く禁じられております。ですが、お相手が勇者様となれば話しが変わってまいります」
「というと?」
「勇者様は振り子のせいで無理やりこの世界に呼ばれました。勇者様の無聊を少しでもお慰めするためと、歴代勇者様のお子は皆、素晴らしい能力をお持ちでいらっしゃいます。勇者様のお子がたくさんいればいる程国は発展致します。今までの勇者様にも複数のお相手が用意されておりました」
彼女の白い手は心なしか震えている様に見える。
その手を必死に俺の方へ伸ばし、「お願いでございます。どうか私にお情けを・・・・。断られてしまいますと、伯父の勘気に触れ、私と妹は後ろ盾を失い路頭に迷ってしまいます。それに勇者様のお子が欲しいのです。素晴らしい子の母となる栄誉を・・・・」と詰め寄って来られる。
これはどうしたものか・・・・。
美しい少女が震えながら俺の胸に飛び込んで必死で俺のシャツを掴んで離さない。
身体を押し付けてくる女の子を俺から引き離そうと掴んだその薄い肩があまりに華奢で、結局本気で押し返す事は出来なかった。




