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最19話 地味石ミリーは選ばれない 




「──よし! さよなら、母国!」





 あれからしばらく。わたしは堂々と母国の門を出た。


 少し離れたところには、エリック・マーティンさん。

 北のスレインの陛下さまで、わたしの……仲間(・・)だ。




 あの後──気力という気力を使い切ったわたしは、昏々と眠り続けたらしい。真っ暗な闇の中、一筋の光にナイフを振り下ろしたところまでは覚えているのだが、その次はベッドの上だった。

 



 はっきりと起きた瞬間、エリックさんに震えながら抱きしめられた。

 あれも夢だったのかと首をかしげるが、思い出しても血流がよくなるぐらいには現実だった。



 ……頼むから、『まるで愛する人が復活したような勢いで』仲間(・・)を抱擁しないでほしい。息の根が止まる。

 

 


 それらをぎゅうーっと圧縮して、ぽわぽわする頬に両手で喝。

 少し離れた場所でお供のヘンリーさんを見送る彼に近寄ると、わたしは──腕を組み”生意気風”に覗き込んで、




「──っていうか、おにーさんもひどくない? あれほど『セント・ジュエルの人だ』って言っておいて、翻すかな、普通?」




 ジト目で聞くわたし。

 視線に若干の不満を込めるが、それも肩透かし。

 彼は目を見開き小さく笑うと、ため息交じりに肩をすくめて言うのだ。




「……『記憶違いだったかも』って思ったんだよ。あと、視野が狭かった。思い込んでしまえば、他が見えなくなるだろ? 考えを改めたんだ」


「おかげさまで振り出しじゃん~、いいの? スレインの政治はいいのかなあ~?」

「……それ、君にもそのまま返してやろうか」

「わたしは追放されたのでいいのですぅ~」



 悪役の笑顔で小首をかしげられ、そっぽを向いた。



 あれから、お父様には『ここにいてもいいぞ』と言われたが、まっぴらごめんだ。散々地味石扱いして笑いものにしてきた挙句、追放した相手にどの口が言うのかという話である。



 瞬間的に蘇ったもやもやを、ため息に乗せて吐き出して。

 わたしは肩越しに振り向き城門を見上げると、




「まあ、魔防壁に頼りっぱなしだったセント・ジュエルも、これを機に兵力考え直すっていうし。平和ボケした国にはいい薬だったんじゃない?」

「君がそれを言うのか?」

「わたしだから言うんです。他国の人が言ったら悪口だからムカつくけど」




 くすくす笑う彼に固く答えるわたし。


 母国に対する評価というのは複雑だ。自分で言うのはいいけど、他人に言われるとたちまちムカつくのは何故だろう。



 そんな複雑を抱えつつ、城に背を向け一歩踏み出そうとして──、わたしは、ぴたりと止まり、彼を見上げる。




 ……この先『一緒に行く』ことにはなったけど。

 でも……本当にいいの?

 それを確認すべく、一呼吸。彼を見上げてわたしは聞いた。




「……あの、……おにーさんこそ、いいの? わたし、一緒に行くよ?」

「? なんで?」

「もうわたしに使える要素(・・・・・)、ないよ? 食い扶持が増えるだけだよ?」




 ──そう。

 彼と一緒に行くことになったが、冷静に考えたら、今のわたしは『ちょっと料理が出来るようになったただの女』だ。


 剣が使えるわけでもない・武術ができるわけでもない。探し人への手がかりでもない。



 条件を並べ立てても、マイナスしかない。……のに、彼は……




「…………ああ、いいんだ」




 わたしの不安を拭い去るように、穏やかな微笑みを変えずに応える。

 そんな表情に心が緩む。

 迷いのない言葉に胸がときめく。




 ほんわりとした安心と輝きを感じるわたしの前で、彼は青々とした草原を背負い、朗らかにほほ笑むと



「『──どこを旅するかより、誰と旅をするか。人生をどのように彩り、豊かなものにするかは、隣にいる人で決まる』。君と居ると、そう思えるから」

「…………ウ。うん…………」




 優しい口調に、つっかえながら頷いた。




 ……もう。ほんと、期待するような言い方する。

 特別みたいに言わないで。もう、ほんと、もうっ。

 ……最初の『君が欲しい』もそうだったけど、この人『ずるい人』。

 


 ──”とくとく”とウルサイ心を必死に納めるわたしの前で、彼はというと──未来を見据えたような顔で語るのだ。




「……どのみち、俺はそのうち、城に勤めなければならない。それまでに少しでも見聞を広めておきたいし──、それに……」




 穏やかに目を伏せ、一拍。

 その整った容姿に意地悪を乗せ、わたしの顔を覗き込むと、




「──どこの世界に『命の恩人の頼みを反故する』人間がいるんだ? 俺、そんな薄情な人間に見える?」

「────……」




 ためすように問われ、一拍。

 目を丸めるわたしに、信頼と冗談の混ざった眼差しが入り込み──



 ……ふふっ。

「……見えないことないかな?」

「────フ! 言うじゃないか」




 裏に大好きを乗せて笑った。

 吹き出す彼に、わたしも笑う。




「ね、いこ? おにーさん!」

「はいはい、じゃあ、どこに行こうか」


「とりあえず北? 化生(けしょう)の悪影響の確認したい!」

「スレインに行くか? 本場(・・)が見れるぞ?」

「うわあ~!」




 軽口をたたきながら、二人並んで歩きだす。





 ──わたし、彼と一緒に《思い出の人》を探すんだ。

 『エリックさんが生きる力』をくれた人。

 その人にお礼を言いたい。

 ──”あなたのおかげで わたしは世界を知れました”って。



 それと……



 一緒に居れば、そのうちチャンスが回ってくるかなーとか……

 ちょっぴり思ってるのは、わたしだけのひみつ。











☆☆













 ──それは、旅立ちの日。

 彼、エリック・マーティン──いや、エリック・スタイン陛下は、城門の内側でひそかに胸を躍らせていた。



 


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