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第17話 ありったけ





 ──『月光の浄化』をご存知だろうか。

 セント・ジュエルでは古来より、『月の光には浄化の力がある』と信じられてきた。



 静寂の闇夜・天から降り注ぐ銀の光に、我々は身を委ね、その力が満ちていくのを感じ眠りにつく。『月光浴』『浄化浴』とも言われ、わたしたちの楽しみ。




「……ヘンリーさん。これは予想ですけど、化生(けしょう)が湧くのが新月なのは、月の加護が届かなくなるからだと思うんです」




 王家の霊廟。英傑が眠る墓の前。

 ぐらぐらと音を立てる墓蓋を横に、ヘンリーさんに語るわたし。高く吹き抜けた夜空を見上げて、続きを述べる。




「『冥界と現世を(わか)つ石』・『現世を護る石』と言われてる御影石も、月光の加護のもとにあると思います。けど、墓の奥の世界に月光(それ)が届くとは思えない」




 言いながら、見つめるのは音を立てる墓の蓋。縁に手をかけ、押し出しながら息を吸い込むと、




「……仮に(・・)、今までの封印が『月光補助のない状態の御影石の力』を『魂で補っていた』……つまり『ほぼ魂だけで頑張っていた』として」




 ぐっと押し込みながら、靴を脱ぎ捨てる。ヒールなんて履いちゃいられない。




「その『魂が切れた時と新月が重なり溢れ出す』──としたならば」




 墓蓋を押し出すわたしの隣から、手が伸び手元が軽くなる。ヘンリーさんと共に蓋を押しながら言い続ける。




「『満月の夜・月の加護が最大に効いた状態で』・『冥界の奥まで力を注いだら』どうなると思います?」




 ガッ、ごろんっ。

 けたたましい音ともに、ズレた墓蓋が地に転がる。ぽっかりと開いた闇を横目にそう問うと、ヘンリーさんは顔をしかめて




「……どう……って。そんな前例ありませんよ」

「ですよね。だから、試してみたくて」




 予想通りの答えに手を打ち、払う。

 不気味な呼び声がうっすらと響く中、脳をちらりと横切ったのはエリックさんの怒り顔だ。



 ……怒るんだろうな……



 かすめた想いに胸が痛むが──わたしは落ち着きを装いヘンリーさんに向き直る。




「『御影の楔』は『退魔の石で出来ている』。『御影石は、封じる力を持っている。だから墓蓋にも選ばれている』。そこに、月の光を注ぐことで『封印の期間の延長──もしくは冥界の破壊』を期待できたとして。でも、それだけじゃちょっと弱い」




 紡ぐのは『仮定』の話。

 だけどわたしは、真剣に説く。

 黙って聞いてくれているヘンリーさんに、布袋を抱えて申し立てた。




「もう少し勝率をあげるために『退魔の石を追加』します」

「……追加(・・)?」

「はい。例えば水晶。”自浄作用もある最強の浄化石”」



 

 云いながら、”くんっ”と腕を上げるわたし。

 意思に呼応して、袋の中から浮かび出てくれたのは、透き通った水晶。とっても綺麗な子。




「例えばアメジスト。”水晶の仲間で、霊に対して効果抜群”」




 もう一度、”呼ぶ”。

 くるくるしゅるしゅると指先で踊るのは、色鮮やかな紫の子。

 そんなアメジストに心が緩んで、指の先で回る宝石を手のひらに収めたわたしは、続きを語った。




「もっとあります。わたしみたいな地味な石は効力なんかも語り継がれなかったけど、華やかな石の力は周知されていました。そしてここは『セント・ジュエル』。地味な石から華やかな宝石まで勢ぞろい。『退魔・浄化石の調達』には事欠かない」




 袋の中で、カチンと石がぶつかる。いつもより一層煌びやかな宝石たちを抱えて、言った。




「浄化・退魔の石の総力をもって、御影石を助けます。石には”気を吸う”力もあるから、わたしが可愛がってきたこの子たちは気力をため込んでいるはず」

「……なるほど……」

「──で。ここからさらに勝率をあげます」

「……どうするんです?」




 静かに聞いてくれていたヘンリーさんが眉を寄せる。わたしは、自分の胸をぐっと押さえ彼を正面から見据えると、




「それは、鍾乳石(わたし)。『全ての宝珠の力を引き出す、土台の力』をもっているので、一緒に飛び込んで石の力、引き出します。御影石にも水晶にも、助けてもらうんです。大丈夫、きっと応えてくれるから」




 はっきりと言いながら見つめるのは、袋の中の宝珠たち。



 元はくすんでたこの子たちも、今はほら。こんなに綺麗。

 拾ってからずっと、愛でてきた。




 煌めく手元とは対照的に、足元に暗澹が広がる。

 怨嗟の声も徐々に大きくなる中、わたしは──ひとつ。瞼を閉じて思いを紡ぐ。




「……それを、はっきり教えてくれたのは、おにーさ……いいえ、エリック陛下でした。驚いたけど嬉しかった。わたし、彼には生きてほしいんです」



「……いや、それは、」

「『命は平等。でも。王族と民草では重みが違う』。『陛下と第26王女』じゃ……どっちが重いですか?」




 渋るヘンリーさんに軽めの口調で問いかける。



 場違いかもしれないが……こういう時、深刻を出さない口調で話をしてしまう。

 ”あまり責務をかけたくない”そんな気持ちで述べたが──返ってきたのは怒り交じりの難色だった。



「…………アナタ、陛下のために命を捨てる気ですか」

「あ、いえいえ」




 返る怒りに首を振った。

 違うの、そうじゃないの。




「わたし、別に『陛下の代わりになろう』ってわけじゃないんです。死ぬ気無いし。生きていきたいし。そんなんで彼の記憶に残ろうとも思わない。そんな恩の売り方したくない。彼の悲しい顔なんて見たくない。でもただ、『可能性があるなら試したい』。『生きていてほしい』の」

 



 願うように言いながら──、わたしは静かに瞼を落とす。




 『生きていてほしい』。誰よりも長く。

 ずっと『この先はない』と思っていたのなら、なおさら。

 彼には、生きていてほしい。



 それを思い浮かべながら、ヘンリーさんに顔を向け──苦笑気味に問いかけた。




「──でも、こんなこと言ったら、エリックさん、絶対怒るし死にものぐるいで止めるでしょ? エリックさんってそういう人。『自分の命は差し出しちゃうけど、仲間の命は絶対差し出させない』人」




 ヘンリーさんが頷く。痛烈を湛えて。

 そうですよね、わかります。彼ってそういう人。



「でも『生きていてほしいのはこっちも同じ』。だから、『少し試す』だけです。ダメだったらなんとかして帰ってきます。絶対」




 ”ヘンリーさん、わたしと貴方、気持ちは一緒でしょ?”



 それを込めながらはっきりと告げた。



 ──我ながら、残酷な手を使う。

 エリックさんじゃ止めると解っていたから、彼に説明した。彼なら、止めないと思ったから。



 答えを待つわたしに、ヘンリーさんは、徐々に、纏う”痛烈”を”平静”へと整えて──




「…………お願いします。陛下が知ったら殺されそうですけど」

「じゃ、彼がくる前に行きますかっ」



「まってくださいミリアさん。楔はどうします? 用意できてないんですよ。核に傷をつけなければ、力を叩き込むことも──」

「あ、その『楔』なんですけど、わたしのぺーパー……」



 「────ミリア!!!」




 言いかけて、響いた声に心が揺れる。

 意識せずに顔が向く。


 堰き止めるような焦りを孕んだその声は、大好きな彼の声。






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