第13話 暗澹
「────どうだ。ヘンリー」
「────駄目ですね。あれはズレてます」
王城敷地内、使われていない小屋の中。
入って扉を閉めるや否や、二人は深刻な面持ちで口を開いた。
わたしが二人を連れて霊廟を訪れたのがついさっき。
エリックさんが扉の前で待機する中、わたしとヘンリーさんとで始祖の王の墓を確認したが──遠目から見てもはっきりとわかるほど、墓蓋はガタガタと音を立て、不気味に揺れていたのだ。
その目の前まで赴き、『こんな重い石が浮いて暴れるってどういうこと』と呟くわたしに、ヘンリーさんは『御影石でも抑えきれなくなってるんですよ』と説明してくれた。
どうやら、墓に使用されている石は御影石というらしい。
『冥界と現世を別つ石』『現世を護る石』と謂われた墓石は、どこか星屑のナイフに似ているような気もしたが……色が違うので違うと結論付けた。
──こうして。乱発する出来事に、どうにかこうにか追いついているわたしも含め、密やかな話し合いが始まろうとしていた。
「ヘンリー。アレキ王と周辺兵士には?」
「『僕らが詳しいから任せてくれ』っつってありますけど……、あそこが繋がったのは間違いないでしょうね。あのグラつき方……、もう持ちませんよ」
「………次の新月はいつだ」
「半月後です」
「…………半月……か」
重々しく目を伏せ腕を組む彼に、わたしは問いかける。
「あの、新月って、なんで……?」
「ひと月の中で、冥界が一番沸き立つ時なんだ」
「陛下……学者の見立てではあと半年はあったんです、まさか……」
「────仕方ない。最善を尽くそう」
悔しさを滲ませるヘンリーさんに、エリックさんは端的に返した。
「陛下、申し訳ありません」「いや」と二人が話す中、わたしはひとり、宙ぶらりん。黙り込むしかできない。
レティのこと・これからのこと・彼への気持ちで心が散らかっている中、追い打ちをかけるような『墓蓋の沸騰』。
乱立する出来事に眉根を寄せるわたしに、『もうひとつ』はエリックさんの口から放たれた。
「…………しかし……本当に、それまでになんとか、彼女を見つけたかった」
「────え? レティは?」
煮詰まっていく思考を晴らすような言葉に顔を上げる。てっきりレティが彼の思い人だと思っていた口は、その先をはじき出す。
「レティは、おにーさんの探し人じゃなかったの?」
「……ああ、違った。人違いだ」
……人違い……
「……彼女なら持っているはずのものを持っていなかった。俺のことも記憶にないらしいし、年齢も違う。まったくの人違いだ」
「…………そう…………」
淡々と言う彼に、ぽっそりと返していた。
落ち込むはずの心が明るくなって、瞬時そんな自分に自己嫌悪。
けれどもすぐに切り替えて、わたしは彼を見上げると、
「────じゃあ、また探しに行こ、一緒に行こ?」
「…………いや。それは……できないだろうな」
希望を込めた提案は──彼の『深刻』に打ち砕かれた。
”できない”に、一瞬。瞳を迷わせるわたしを見つめ、彼は言うのだ。
「化生の世廻りを、引き寄せてしまったから」
……『引き寄せた』?
「……すまない。ミリア。セント・ジュエルを巻き込んでしまった」
────『暗澹は、突如その口を開けるのだ』と。
かつて読んだ本の一節が、脳に響いた。




