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第12話 期待なんてしない





 ──どうして思いつかなかったんだろう。





 彼・エリックさんは言った。

 『小さなころに会ったことがある』『金の髪・金の瞳の女の子』だと。



 彼の情報と『出会ったのがイーサだ』ということから、わたしも『きっと王族か貴族だ』と思い込んでいた。



 イーサは貴族の隠れ街。それなりのマネーコードが存在する。王族貴族・またはそれらの金額を納められる者しか入れない。



 ただし、使用人は例外だ。お金を払う貴族の付き添いとして入ることができる。



 我々貴族はできないこと(・・・・・・)が多いから。わたしのように生活を捨てたりしなければ、『やってもらわなければ生きていけない』のだ。




 …………合致する…………




 レティ──レティシア・ブレイズウッドは昔から、王族の侍女として、あちこちを着いて回っていた。わたしよりも少し年上。お姉さんのような存在で、遊び相手にもなってくれていた。



 カノジョならイーサの街にいてもおかしくないし、年齢も『同じぐらい』と──……条件に、合ってしまう。



 ……いや、『合ってしまう』じゃないでしょ、わたし。合う人を(・・・・)探してきた(・・・・・)んでしょ(・・・・)




 レティの容姿を目の当たりにして、無意識に拳を胸に押し付けるわたしの隣で──おにーさんの表情が、色鮮やかに変わっていく……




「ミリアさま……! 一連の騒動を耳にし、レティシアは身を案じておりました……!」

「あ、うん、ありがとう、レティ。なんとか、生きてまス」



「ミリアさま、お召し物が……! そんな、民草のようなもの……!」

「────ミリア。……この女性は?」




 ……うっ……!

 期待をはらんだ彼の声に、一瞬喉が詰まる。だけどわたしは笑顔をかたどり、紹介するようにレティに視線を促すと、 




「──こほんっ。エリック陛下、ご紹介いたしますね。彼女の名はレティシア・ブレイズウッド。王宮直属の近衛兵で、斧の腕前は騎士長と引けを取りません。

 レティ? こちらはエリック・スタイン国王陛下です。わたしが倒れているところ、助けてくださった、命の恩人です」




 滑らかな口調でご案内。そして舞台の中心は彼らのほうへ。




「……まあ……! ミリア様の……! ご機嫌麗しゅう・国王陛下様……! レティシア・ブレイズウッドと申します。国王陛下さまにお会いできるなど、身に余る光栄にございます……!」

「ああ、いえ。こちらこそ」




 ──流れるような挨拶。

 緊張のレティと、はにかみのエリックさん。



 エリックさんは少し緊張してる? そりゃあ無理もないよね、期待しちゃうよね。



 王城の廊下で、華やかな空気が咲き誇りそうになる寸前。わたしは一歩・エリックさんに間合いを詰め、




「……レティ、イーサいったことあると思う」

「……!」


「条件ぴったり。……がんばれっ」




 耳打ちをして、背中をポン。

 素早く引っ込み、会釈だけをしてその場から離れた。




 後ろから聞こえる「ミリアさま?」「……ああ、えーと、少し話をしたいのだが、お時間を頂けますか? レティシア殿」から、足早に遠ざかる。



 見慣れた廊下の壁が、どんどん後ろに流れていく。声が、聞こえなくなる。




 ────わたしは、あれ以上そこ(・・)に居られなかった。





 彼女(レティ)の容姿を見た瞬間・変わっていったおにーさんの表情・雰囲気がきつくて。幸せになってほしいと願っていた人の幸せを直視した瞬間、ちょっと耐えられなくて。




 ────このままじゃあ、良くない気持ちが出てきてしまう。レティを恨んでしまいそう。黒い感情に支配されそう。…………だから、離れた。



 しかし、離れたのにも係わらず、脳が考えるのは、あのふたりのことばかり。




 今、何話してるのかな。どんな会話をしてるんだろう? 



 レティ緊張してたな、もう少し一緒にいた方がよかったかな? でも、おにーさんは二人で話がしたいでしょ? あれほど探してた人に近しい人が、やっと現れたんだから。



 おにーさん、レティが『その子』だったらどうするんだろう? 結婚申し込むのかな。レティって恋人いたかな。全然わからないや、案外、お互い覚えてて初恋の人だったりして?



 ふふ。そしたらわたし、《恋愛成就のご利益ある》ってことじゃない? わたしの鍾乳石(やどりいし)に恋愛成就のご利益着いて、それで、人の役に立てるようになるかも。



 金髪金目のレティ・黒髪黒い瞳のおにーさん、二人、絵になってたなあ。お似合いだね。わたしの髪なんて茶色だしね。地味石ミリーは伊達じゃないってね。



 それでも割と、自分の髪も瞳も好きだったりするんだけど、なんでわたしは金髪金目のかわいい子じゃなかったんだろう?



 ううん。でも、そうだったとしても《彼の想い人》じゃないのよ、ミリー。




「わたしは、違うの。『最初からわかってて良かった』。ねっ?」




 そう。『期待しない』。だから良かった。

 選ばれるかもと思うから期待する。選ばれないなんていつものこと。だったらそこから外れればいい。


 

 期待しなければがっかりもしない。失望もしない。悲しみに呑まれることもない。




 仮に、レティが彼の探し人なら、それは幸せなこと。良かった良かった、めでたしめでたし。そうしたらわたしは、




「…………」



 ────”わたしは”。



「…………用済み、だね…………」




 こみ上げる痛みを押し込みながら、小さく零したその笑いは、誰に聞かれることもなく、溶け、消えていった。





■■





 ──この後わたしはどうしよう?

 

 




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