第11話 初めまして。
「ちょっと待った」
二人のいく手を塞ぐように回り込んだ。
瞬時、不思議そうに眼を丸めるお二方に、わたしは”にぃ”っと口の端に笑みを浮かべると、
「さらっと流そうとしたけど、流石に流せないですね? エリック・スタイン国王陛下?」
『……………………』
瞬間、黙る2人。
気まずそうに視線を反らす彼。そんな彼にヘンリーさんは呆れ切った視線を向け、
「…………むしろまだ言ってなかったんすか」
「……うるさい黙ってろ」
「むしろまだ気づいてなかったんすか」
「騙されててあげてたのです」
ぼそぼそっとした突っ込みにきちっと返した。
視界の隅で『納得できない』と眉を寄せるヘンリーさんを横目に、わたしは彼に向かって一歩・踏み出し胸に手を当てる。
「お互いの素性が知れたところで、ひとつ、ご提案がございます。奇跡的に相見えました王女と国王として、ご挨拶を交わしたいのです」
「…………!」
歩き方・言い方・表情の使い方すべてに『王女の振る舞い』をつぎ込んで、にこりとほほ笑んだ。
わたしの『全力の王女モード』に、一変。陛下は驚き目を丸めると、柔らかに微笑み手を差し出す。
「こちらの名前では初めまして。スタイン王国・国王エリック・スタインです。ミリア・リリ・カルサイト王女。お会いできて光栄だな」
「──まあ、ありがとうございます。セント・ジュエル第26王女・ミリア・リリ・カルサイトです。本日は陛下にお会いできるのを楽しみにしておりました」
「…………」
「…………」
『………………』
────プ!
「あははは! らしくなーい、笑えるーっ!」
「ははは! なんだこれ、むず痒いなっ……」
妙にかしこまった自分たちとこそばゆい空気に、二人同時に吹き出していた。
お腹がぴくぴくする。目から涙も出てくる。恥ずかしそうに笑う彼から目が離せなくて、ぴたりと目が合いまた──ぶり返す。
そんな空気にひと段落入れてくれたのは、目じりを押さえつつ息を整えたエリックさんの一言だった。
「はあ、こんなに笑ったのは、いつぶりかな」
「おにーさん、やればできるじゃん」
「君のほうこそ、ちゃーんと『王女』だったんだな?」
「王女ですよ? 王女ですしー」
「へえ、それはそれは。失礼いたしました」
「────あの・すみません」
軽口には軽口で。からかいにはからかいで返すわたしたちに、ヘンリーさんの平坦な声が横入り。
揃って目を向けるわたしたちに、彼はのっぺりとした面持ちで手を上げると、
「イチャつくのやめてもらっていいですか」
『いちゃついてない』
「ヘンリー。何言ってるんだ。断じて違う」
「そうです、どこをどうみたらそう感じるのか。羊皮紙三枚分にまとめて提出していただきたいですね?」
述べる彼にちょっぴり胸の痛みを感じつつ、わたしは真顔で言い切った。
ううん、ほんとは好きです。
大好きです。
実は今の嬉しかったです。
けれど隠さねばなりません。
想い人がいる彼が困るようなことはしたくないし。精神的負担をかけるの嫌いなの。
だから、密やかに気持ちを潰すわたしの隣で、”ふぅっ”と短く息を吸い込んだエリックさんは、流れるように口元を覆い隠すと、
「……しかし、君の父上はどう出るだろうな。君に追放宣言をしたのは王本人なんだろ?」
「うん。まあ……そだね……」
「確かに『見もの』ですよね。『追放した相手が救世主と共に現れる』とか有名な英雄譚でも心が震える展開ですよ。手のひら返してきたりして?」
「さすがにそれはないだろ」
「…………流石にそこまでじゃないと思う……思いたい……」
ヘンリーさんの推測に、故郷の父を思い出しげんなりと呟く。
囲む焚き火の傍で、ぷすんとひとつ、うさぎの肉が音を立てた。
☆☆
「──ミリア! ミリアじゃないかよく戻ってきた我が娘マイえんじぇる♡ うむ、そちがエリック殿で有らせられるか、この度は本当に手厚い援軍、誠に感謝いたす! ミリアもよくこの御人に出会ってくれた! んん、おまえのおかげじゃよミリア、ミリア、ああ、ミリア!」
『…………………………………………』
……手のひら返した……この父…………
☆☆
呆れてモノが言えない。
城の謁見の間。
『どのお顔でおっしゃるのですかおとーさま?』と真顔で問いかけたくなるような文言を喰らい続けて数十分。
エリックさんを客間に案内しながら、わたしは『先ほど』を思い出していた。
父のそれに対し高速で謝り倒すわたしに、エリックさんは『いや、構わない。君が罵倒されたのなら話は別だが、そうではなかっただろう?』とひとこと。
すでに別室に案内したヘンリーさんは『陛下が止めなければ、切りかかってました』と、目が笑っていなかった。
おっしゃる通り過ぎて言葉もない。
むしろ外交がなくてよかったと思えるぐらいだ。
しかし、あんな父でも、最低限の礼節はわきまえているようで……この後本当に宴を開いてくれるらしい。
「──はい、ここがおにーさんの部屋。衣装は後から使いの者が持ってくるから、そこから合わせてね。わたしは自室で着替えがあるから──」
「……ミリアさま?」
「──!」
彼に用意された客間の前。
いいかけて、飛び込んできた懐かしい声に動きが止まる。自然と目を上げた先、喜びを纏った声は、彼女から放たれた。
「まあ! お帰りになられていたのですね! ご無事でなによりです……!」
「あ、ただいまレティ──……シァ……」
最後は尻つぼみ。
名を呼び掛けて、わたしは固まった。
視界の隅で彼が振り向く。
目に飛び込んできたレティの容姿に目を見開くのが見て取れて、思わず──目を反らしていた。
『王族だ』と言われて、外していた。
考え付きもしなかった。
金の髪に金の瞳。美しい容姿を持つ彼女──レティシア・ブレイズウッド。
王族専属の女騎士だ。
────瞬時に悟った。
……きっと、彼女が彼の『探し人』。
ずっと探してた運命の人。




