第8話「わたしは……」
「────見たくない」
永遠のような凝縮した一瞬の後。
わたしの口から零れ落ちてしまったのは、正直で情けなくて、どうしようもなくわがままな気持ちだった。
エリックさんとヘンリーさんという『きっと軍を率いて戦う人』の前で、両手を握りしめながら、口が、走る。
「…………行きたくない。みるの、こわい。げんじつ、受け止められる気、しない。見なかったら、見てなかったら、綺麗なままでいられるでしょ? でも、見ちゃったら、認めなきゃならないじゃん。……怖いよ、そんなの。……こわい」
情けないよね、頼りないよね。わかってる、わかってるんだけど、
「ふつう、命捨てて、護りに行くのがカッコいいと思う。意気地なしだなって思う。ごめん、わたし弱いんだ、見れる気がしない、よわい、でも、こわい……!」
出た声は震えてた。
余裕なんて欠片もなかった。
ああ、情けない、かっこわるい。
エリックさんもヘンリーさんも何も言わない。
沈黙が怖い。
素直に言ったはいいけど、どうやって顔をあげたらいいかわからない……!
────うまく、呼吸すらできない感覚が、わたしの胸で悪さして。変わり果てた故郷に、もう一度手を握りしめた、その時。
「────……悪い。それを聞いて安心した」
大きく大きく響いたのは、彼の落ち着いた声だった。
闇に光が差すような感覚に襲われる中、安堵を宿したため息が耳に届く。
「命を失う危険性があると知りながら、みすみす君を送り届けるようなこと……したくなかったから」
「……」
──これ、本音だ。直感的にそう思った。
声の奥の優しさに心が震える。
《わたし個人へ》の気遣い。
なんだろう、なんだろう、心配されるの苦手だけど、でも、これは……あったかい。
わたしのなか、胸の奥の恐怖が、少しだけ軽くなって。縮んでいた肺が、急に大きく膨らんだ時。
彼は、力強く言ってくれた。
「────ヘンリー」
一声。
「…………頼みがある」
声には威厳を。
伸ばす手には優しさを。
彼はわたしを支えるように肩に手を添え、述べる。
「兵を動かしてくれ。エリック・マーティンの名のもとに、セント・ジュエルに援軍を出す」




