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23 勝春の作戦

<1回戦>

 持ち札20枚で5回戦を戦うということは、4枚ずつ使うのが基本だ。


 だから初回は様子見もあって、おそらく相手は4枚前後しか出してこない。

 それもエースは温存したくなるもの。


 勝春は考える。


 仮に敵が3連勝を狙って短期決戦を仕掛けてきた場合、1回でも落としてしまうとカードが不足してしまう。

 となると後は全敗、必至。


「そこまでのバクチは打ってこないよネ。おそらくは」


 相手には出来が良いエース級が2人いる。

 それは代表選出の時の反応で分かっている。

 おそらく、黒の浜田と白の松本。


 勝春は迷うことなくカードを選んで箱に投入した。


 相手方の、おかっぱ頭は、イケメン生徒会長の意見を聞いて、迷いながらカードを選択。

 そしてカードを箱に投入。


 お互いにカードを何枚投入したのかは分からない。


 職員がそれぞれの箱を回収して本部に運ぶ。


 そしてパソコンに入力。


 登録完了の合図を受けて市長がマイクを持つ。

「それでは、カードをオープン! まずは平家から」


 モニターに皆の視線がくぎ付けになる。


 市長が、勝春が選択したカードを読み上げる。

「白、黒、赤の英語。赤と青の数学。青の国語」


 なんと勝春は、いきなり6枚を使って必勝を狙ってきた。


 どよめく場内!

 敵も味方も大騒ぎになった。


 5回戦あるのに20枚のうち6枚も使ってしまった。


 カミちゃんが焦る。

「だ、大丈夫なの? いきなり6枚も使っちゃって?」


 結果は、英語が黒90、白75、赤70、数学の赤70、青35、青の国語55。


 合計点数は395点と高めだ。


 それに対して源氏は、赤の英語と国語、青の数学、黄色の一般常識を選択。

 敵の生徒会長とプレイヤーは狼狽ろうばいしている。


 無難に4枚を選んだが、395点は厳しそうだ。


 結局、赤の英語80と国語60、青の数学55、黄色の国語45で源氏の合計は240点。


 市長が「1回戦、勝者は平家!」と、コールする。


 使用済みカードの箇所はモニターに点数が表示されたままだ。

 伏せられた箇所が残り札となる。


 取りあえず初戦を取ったことで平家陣営に安堵の空気。

 校長は「いやはや」を連発しながら何度も汗をぬぐった。



<2回戦>

 観客席のカズが興奮気味に言う。

「流石は勝春だね。相手は次も負けると王手を取られる」


 大志が頷く。

「ウム。王手を取られると圧倒的に不利だからな。相当な重圧だろう」


 カズは、しっかり状況を見切っている。

「このゲーム、王手を取られたら終わりだよ。相手は次のターンで残りカードを全部投入してくる可能性があるからね。それを上回るには手札の数が多くないと対抗できない。かといってカードを出しすぎると最後までもたない」


 源氏のプレイヤーは悩みに悩んでいた。

 おかっぱ頭は、生徒会長とヒソヒソ話をしては首を捻る。


 伊刈校長は口を出すことはしない。

 腕組みして、じっと平家側の校長を睨みつけているように見えた。


 源氏のおかっぱ頭と生徒会長は、何度も首を振る。

 無理もない。

 彼らは、ある程度、消費カード数を抑えながら勝たなくてはならないのだ。

 枚数を抑えながら勝つには、そこそこ点数の期待できるカードを使わざるを得ない。


 一方、先勝した勝春は余裕の表情で独り言をいう。

「ここで勝てれば楽になるんだけどネ。これとこれに……これは待った方がいいかナ」


 勝春の言葉と動きに源氏のプレイヤーが、いちいち反応する。


 勝春は心理戦で相手を揺さぶる。

「フフ。相手さんは少ない枚数で勝つためにエース級を使わざるを得ないよネ。こっちは温存しようかナァ」


 源氏は最後の一枚で悩んでいる。


 勝春は数枚を選ぶような素振りをわざと見せる。

「ウン。相手さんは確実に勝ちに来るからナァ、そこを叩くには最低でも、これとこれと……こっちも入れるカナ?」


 そして勝春は、いたずらっ子のような笑みを見せながら「ヨシ、これでいけるはず」と、カードを箱に投入した。


 源氏のおかっぱ頭は唇を噛んで天を仰ぐ。

 生徒会長が、おかっぱ頭の肩に手を置いて頷く。


 おかっぱ頭がカードを投入して双方の手が決まった。


 先ほどと同様に職員が布をかぶせた箱を回収し、本部でカードをチェック。

 パソコンに入力する。


 市長が結果を発表する。

「今度は源氏からカードオープン!」


 場内の緊張が高まる。

『源氏の選択したカードは……』


『白の国語、黒の英語と数学、赤の数学、青の国語の5枚! そして点数は……』


 トラックのモニターで表の隠れた個所がめくられる。

『白の国語100点、黒の英語90、数学80、赤の数学60、青の国語65の合計395点!』


 源氏はエース級のカードを3枚投入した5枚で必勝を期す。

 予想以上の高得点に源氏側が沸いた。


 歓声が収まるのを待って市長が続ける。


『続いて平家の選択したカードは……青の英語、1枚!』


 市長の発表に「ええええ!」と、悲鳴にも似た歓声に会場が包まれた。

『青の英語は40点、合計40点で……勝者は源氏!』


 一瞬だけ源氏の陣営が歓声をあげた。

 だが、事の重大さに気付いた者から順番に言葉を失った。


 カードを無駄遣いしてしまった……。


 プレイヤーのおかっぱ頭と生徒会長は顔面蒼白だ。

 勝春に騙されてしまったことに気付いたからだ。


 勝春は、王手をかけるような素振りを見せておいて、あっさりこのゲームを捨ててきた。

 しかも、たった1枚しかカードを使っていない。

 それも期待できない青の香取を使った。


 対して、絶対に負けられなかった源氏は、5枚で勝負してしまった。

 これで残り3戦を11枚で戦わなくてはならない。


 源氏の生徒会長の顔が歪む。

 枚数もさることながら、エース級のカードも浪費してしまったことを悔いているのだろう。


 勝春は飄々《ひょうひょう》とした表情でカードを手の上でもてあそぶ。


 一勝一敗でホシは五分。


 だが、両者の優劣は明らかだった。



<3回戦>

 勝春は冷静に次の作戦を練った。


 敵は無駄遣いさせられたという心理から、ここでもう一度肩透かしを食らったら致命的と考えるはずだ。


 なぜなら源氏はすでに9枚を使っている。

 次に4枚か5枚で勝負をかけた場合、それで負けてしまうとダメージが計り知れない。

 王手をかけられ、残り2戦を7枚か6枚で連勝しなければならない。


 勝春は独り言を聞かせることで源氏を揺さぶる。

「無理はできないネ。切り札を温存するか、残り枚数を考慮するか……悩ましいネ♪」


 平家の残り枚数は13枚。

 源氏の二人は勝春の本気度を測ろうと目を皿のようにして勝春を見る。


 その視線に気付いて勝春が苦笑い。

「そんな熱い視線を送られても困るンだよネ。照れるヨ」


 外野席でカズと大志が戦況を分析している。


 カズがメガネに触れながら険しい顔を見せる。

「ここは絶対に取らないと……勝春は分かっているはずだけど。どう揺さぶるつもりなんだろうね」


 大志が尋ねる。

「奴らが勝春の真似をしてカード1枚でこの試合を捨ててくる可能性は?」


 カズは否定する。

「無いね。それは序盤でゲームを捨てても五分になる時だけ使える戦法だよ。王手をかけられたら相当苦しくなる」


「なるほどな。源氏側の様子からしても、そんな度胸はなさそうだ」


 カズは言う。

「逆に彼らは、勝春がまたゲームを捨ててくる可能性を排除できない」


「それはどういうことだ?」


「一度やられてるからね。たった1枚しか使わないという極端な戦法。それを前のゲームで見せつけられている。しかもそのせいで彼らは数的に不利になっている」


「フン。駆け引きか。俺には真似できんな」


「これはポーカーに似てるよね。手の内の読み合い、メンタルの削り合い。まさに勝春の得意分野だよね。なにせ勝春は……一度もカードゲームで負けたことが無い」


「ああ。それは俺も知っている」

 そう言って大志は口元を緩めた。


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