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15 駅前ホテルは大繁盛?

 加山市長が指定した面会場所は駅前のホテルだった。


 なぜ市長がミステリー・ボーイズを召喚しょうかんしたのか?

 それを聞き出すためにカズが女性秘書経由で面会を申し入れたのだ。


 ホテルは平家町唯一のホテルで、レストランや宴会場、結婚式場を備えている。

 地方に多く見られる地元密着の多目的なホテルだ。


 そのせいか、玄関ロビーが二箇所に分かれていた。


 東口玄関は、駅階段の真正面で旅行者向け。

 大通りに面した南口玄関は、地元民向けのようだ。


 土曜日の昼食どきとあって、そこそこ人の出入りがある。

 一階の軽食喫茶や和食の店は入店客でほぼ満席だ。


 カズがランチセットの看板を見て言う。

「どんぶりと麺のセットか。ガッツリ食べたい人のニーズがあるんだろうね」


 勝春が頷く。

「ウン。さっき入っていったヘルメットの人達、たぶん泊りで仕事にきてる客なんだろうネ」


 大志は感心する。

「ウム。まさに地元密着だな。活気があるのは良いことだ」


 三人は五階に上がるためのエレベーターを待った。

 そこに降りてきたエレベーターの扉が開いた。


 カズと勝春が「あ!」「アレ?」と、声をあげる。


「い!? いやはや!」と、校長が目を白黒させる。


 カズが尋ねる。

「校長先生。上の階に用があったんですか?」


「い、いやはや。食事を、だね。いやはや、一人でこんなところで食事? というのも恥ずかしいので、お忍び? ということでだな。いやはや」


 校長は、なぜか汗を拭きながら言い訳をする。

 かなり動揺しているようだ。


 そして、三人とすれ違うと、そそくさとその場を去った。


 勝春が首を傾げる。

「変だネ。上の階で食事してただけなのに、何を慌ててるンだろ?」 


 大志は、たいして気にしていない。

「知るか。確かに、一人ぼっちでレストランというのを見られたくなかったんだろう」


 カズも納得する。

「一応、校長という地位のある人が『ぼっち』というのは世間体せけんていが悪いのかもね」


 そんなことがありながら五階に上がる。

 

 五階の廊下を進むと窓からは駅のホームが丸見えだった。


 カズが感心する。

「こんなに駅に近いんだね」


 大志が頷く。

「うむ。旅行客には助かるだろうな。ほぼ、駅直結だ」


 三人が招待されたのは五階のレストランだった。


 案内された個室で市長を待っていると、十分遅れで加山市長と女秘書の高野佳代が入室してきた。


 サーファーのような風貌の市長が軽いノリで詫びる。

「いやあ、遅れて申し訳ない。メンゴ、メンゴ!」


 すかさず秘書がそれをとがめる。

「なんですか、その言葉遣いは! 市長としての自覚が足りません!」


 大志がジト目で呆れる。

「また始まった。俺たちは何を見せられているんだ……」


 皆が着席して注文を出し終わったところでカズが切り出す。

「市長は……ボク達に何をさせようとしているんですか?」


 カズの切り出した本題に加山市長の軽薄な笑みが消えた。

「へぇ……なんでそんなことを聞くんだい?」


 カズは試すような目つきで市長を見据えた。

「ボク達を呼ぶ理由が無いからです」


 加山市長が「ウーム」と唸る。

「学校対決の公平を担保たんぽするため、という理由では不足かい?」


 カズは首を振ってから答える。

「表向きはそうかもしれません。何者かが平家学院が対決で負けるような妨害工作をしてくるかもしれない。だからそれを予防したい。でも、不確定すぎませんかね?」


 勝春も珍しく真面目な顔つきで頷く。

「ダネ。ウチの組織は学校トラブルを収拾しゅうしゅうさせるのが本業なんだヨ」


 大志が怖い顔で市長を睨む。

「既に問題が起こっていて、それを解決して欲しいという依頼なら分かる。だが、あんたは違う。何を企んでいる?」


 加山市長は無理に、おどけてみせる。

「おいおい! そんな怖い顔をしないでくれよ。確かに、校内で問題が発生してるわけじゃない。でも、君達が想像しているより、はるかに両校の対立は深刻なんだ」


 市長はチラリと秘書を見る。


 それを受けて秘書の高野女史が助け舟を出す。

「そ、そうですわ。源氏と平家が直接ぶつかるとなると、ただでは済まないと思われます」


 市長がポンと手を打つ。

「そうだ! 食事のあと、車で源氏町を案内するよ。源氏高校に用があるんだ」


 思わぬ提案にカズと勝春が顔を見合わせる。

 大志は腕組みしながら目をつむっている。


 市長は既にその気でいる。

「佳代ちゃん、運転を頼むよ。彼等に現状を見てもらった方が早い!」


 佳代ちゃんと呼ばれて秘書が市長を睨む。

 言いたいことは分かる。本当にこの市長は威厳が無い。


 カズは市長の申し出を受けることにした。

「わかりました。そうしましょう」


 料理を待つ間に、給仕の女性が挨拶に来た。

 恰幅かっぷくの良い、明るいおばちゃんだ。

「おやまあ、ぼっちゃん。いらっしゃい! 相変わらず忙しそうですわね!」


 市長は笑顔で返すが、どことなく表情が固い。

 圧倒されているのか、この女性が苦手なのかは分からない。

「い、いやあ、そちらこそ景気はどう?」


「お母様も支配人も喜んでいらっしゃいますことよ! まとめて部屋を借り上げて頂いて、人の出入りも頻繁で。なんて言いましたっけ。あの会社……」


 市長が話を遮る。

「わかった、わかったから! 今、接客中でね。また今度!」


 給仕のおばちゃんはミステリー・ボーイズの三人を見比べながら「接客中?」と、首を傾げる。


 市長は「とにかく、また今度、ゆっくり」と、給仕のおばちゃんを部屋から追い出す。

「ふう。まったく仕事中なのにねえ」


 そこでカズが尋ねる。

「やはり、このホテルは市長のご実家が経営されているんですね」


「え? なんで分かるの?」と、市長が驚く。


 カズは当然と言った風な口調で答える。

「ホテル加山。お母様と支配人が喜んでいる、というのでピンときました」


 市長はケタケタ笑う。

「いやあ、参ったね。でも、実家が平家だからって、ボカア、贔屓ひいきはしないよ」


 秘書が「また『僕は』だなんて!」と、注意するが、市長の耳には入っていない。


 市長は続ける。

「そりゃ、この町が発展するのは嬉しいし、それを支援するのがボクの役目だと思ってるよ。でもね、平家だけじゃ駄目なんだ。平家と源氏が協力しないと意味が無いんだよ」 


 その言葉に嘘は無いように思える。


 市長の熱弁に耳を傾けながらランチタイムは終了した。


    *   *    *


 市長の乗る公用車は、みやび市の旗を掲げている。


 だが、窓はスモークガラスではないので、外からも中の様子をうかがうことが出来る。


 そのため、秘書が運転する公用車が、みやび市唯一の橋を渡り、源氏町のテリトリーに入った途端、居心地の悪さがこみあげてきた。


 前に大志が単独でこの橋を渡った時と同様に、源氏の人達の敵意が向けられているのをヒシヒシと感じる。


 後部座席の勝春と大志の間でカズが縮こまる。

「見られてるね……全然、落ち着かないよ」


 公用車の後部座席には源氏町の人々からの只ならぬ視線が注がれる。


 勝春も強張った笑顔を浮かべるしかない。

「同感だヨ。こんなに堂々と悪意を向けられることなんて滅多に無いからネ」


 対照的に大志は平気な様子だ。

「軟弱者が。普段、女子おなごしゅうに囲まれて腑抜ふぬけているからだ」


 勝春が反論する。

「ハ? 大志は趣味で悪い奴とやり合ってるから平気なんだヨ!」


 道行く人々も公用車に気付くと興味の視線を向けてくる。

 そして後部座席に知らない少年の三人組を認めると、一様に嫌そうな顔を見せる。


 カズが苦笑いする。

「わかってても傷つくなぁ……本当に平家の人間が嫌いなんだね」


 勝春は文句を言う。

「だから私服にしようって言ったのにサ! 土曜なんだから。なのに、大志が制服でなきゃイカンなんて言うからサ!」


 確かに三人は土曜で学校が休みなのに平家学院の制服をバッチリ着込んでいる。

 そのせいで源氏の人達のヘイトを集めてしまうのだ。


 源氏町を北上して源氏高校に向かう途中で、助手席の加山市長が「あ、次、右に曲がって」と、運転中の秘書に指示した。


 高野女史は「どうかしました?」と、尋ねる。

「ドラッグストアで湿布買いたい。首が凝っちゃってさ」


「ああ、そうでしたか。でも、あそこは改装中ですよ?」

「マジで? じゃあ、我慢する」


 勝春が弱音を吐く。

「寄り道無しでお願いしますヨ。オレたち、襲われちゃいますって」


 カズも同意見だ。

「大志が居るから大丈夫だけど、余計なトラブルは避けましょうよ」


 だが、大志は逆に余裕の表情で提案する。

「なんなら、ここから歩くか? お前らは運動不足だからな」


 カズと勝春が「勘弁してよ」「冗談じゃないヨ」と、同時にゲンナリする。


 それほどまでにアウェイの緊張感が只事ではなかったのだ。


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