第二話「不意打ち」
「ちょっと待って。近くにいるの?」
「これから行っていいですか?」
「ダメに決まってるじゃない」
「30分だけ」
「無理。明日の試験勉強してるんだから」
「15分」
「無理だってば」
「じゃあ、一晩中先輩のマンションの前にいようかなぁ〜」
「自分が何言ってるかわかってる?」
「わかってますよ」
「来週にして。そしたら話を聞くから」
「そんなこと言って。この前もすっぽかされたんですよ。僕は」
「あの時は、行けるかどうかわからないって言ったでしょ。バイトだったし」
「6時には帰るって言ってて、9時に電話しても繋がらなかったじゃないですか」
「あれは‥友達と飲みに行ってたから」
「僕との約束を破って?」
「君と約束した覚えはないよ。それに、他の人たちもいたんでしょ?」
「ああ、あれは嘘です」
「!?」
「二人きりって言ったら、麻衣さん警戒するから」
「何それ。じゃあ、君だって私のこと責められないんじゃないの?」
「僕はいいんです。麻衣先輩のこと、真剣に好きだから」
「タケオ君、私のこと何も知らないでしょ。それで好きって言われてもピンとこないよ」
「だから、もっと話がしたいんですよ」
その時、康博が帰って来て、目配せで”タケオ?”と尋ねた。
麻衣は頷きながら肩をすくめてみせた。
「わかったわよ。だから今度にして」
「でも、僕とお付き合いはしてくれないんでしょ?」
「ええ」
「どうしてですか?付き合ってる人いないって、言ってたのに」
「付き合ってる人はいないけど‥私、わがままだし。年下じゃ絶対無理」
康博は、隣でアイスクリームを舐めながら ”強気だねー” と、ノートに書いて麻衣に見せた。
麻衣が康博に向かって口を尖らせて見せた時、不意打ちのようにタケオの声が耳元で響いた。
「誰かいるんですね?麻衣さんの部屋に」
「え!?」