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「肋骨が折れていたんだ。それも二本もね」

 他人の親に抱かれ、その胸で号泣すると言う何とも恥ずかしいイベントの後、宮田の父親がそんなことを言った。

「そ、それって宮田の骨……?」

 ギクリとしながらも、どうにかそう尋ねてみる。すると、宮田の父親は、「うん」と即答した。

 基本的に、心臓マッサージで肋骨が折れることはない。と講習で言っていた事を思い出す。もし折れているのなら、それは心臓マッサージが下手だったことになる。

「いや、別に責めている訳じゃないんだ」宮田の父親は言った。「朝菜が亡くなった後、病院側から肋骨の件を聞かされたんだ。『肋骨を二本も折ってしまう程、必死に胸部圧迫をしてくれた人がいる』ってね。それを聞いた時、ほんの少しだけではあったけど、僕の心が軽くなった。って伝えたくてね」

「そう言うことですか」ほう、と胸をなでおろす。「それじゃあ、どういたしまして。ですね」

 ぺこりと頭を下げ、宮田の父親の顔を見る。

 宮田の父親は、優し気な笑みで会釈を返すと、献花を供えていた場所に視線を移した。

 その横顔は、微笑みの中に一抹の憂いを潜ませているような、複雑なものだった。

「……お互い、元気一杯に生きて行かないとだね」

「……うす!」掌一杯に頬を引き延ばし、馬鹿みたいな笑顔を作って見せる。「あばよ。宮田」

 隣から吹き出すような笑い声が聞こえ、慌てて手を引っ込める。

「それじゃあ、そろそろお別れとしようか」

 宮田の父親は手を振り、俺の家とは真逆の方角へ足を伸ばした。

 その瞬間、俺は何故だか一年前を思い出した。

 雑誌を立ち読みする、名前の思い出せない彼女。何か一言、どんな些細な話題でも良いから、彼女がいなくなる前に声を掛けないと。

「あの!」更に思い出す。一年ともう少し前の日の事。「俺、自動車免許を取ります!」

 振り向いた宮田の父親が僅かに困惑とした表情を見せるが、俺は止まらずに喋る。

「ぶっちゃけ、宮田の自動車事故の件が若干のトラウマになってる気もするけど、それでも、俺、もう一回教習所に通って自動車免許取ります! そんで、今度こそエロ本を買います!」

 馬鹿の極みたいな宣言をしたせいだろうか、目元にうっすらと涙が浮かんできた。

 それでも、俺はもう投げ出さない。

 今度こそ、自動車免許を引っ提げて、あのおっぱいの大きい姉ちゃんのとこに戻るんだ。そんで、「一年も待たせてごめん」って言って、エロ本を買う。

 目標が決まったおかげか、俺の胸はあの日と同じように高鳴っていた。

「なんだかよくわからないけど……」宮田の父親はそう言うと、「頑張って」と、晴れ晴れとした笑顔を見せてくれた。

「あざす!」

 俺は振り返り、自宅を目指して走った。

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