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七月の鬼事

作者: 聿日 こと

登場人物:


黒月(くろつき) (ゆき):

一人称は「私」。

芽吹中学校2年3組。オカルトに興味はない。背が高い。クール。

冷たくあしらっているが白のことは大切な友達だと思っている。

一匹狼気質。

友達を作るために努力するのが面倒と思っているだけで、話し掛けられれば普通に応じる。

外見特徴:黒髪ショートカット。瞳の色:黒色。身長160cmくらい。夏服セーラー、膝下スカート。


*************************************


華白(はなしろ) 呼由奈(こゆな):

一人称は「わたし」。

芽吹中学校2年3組。オカルトが好き。背がちっちゃい。お調子者。その場のノリで会話をする。

黒月 雪LOVE。

クラスメイトとの仲は良好だが、呼由奈のノリについてこれる人は少ない。

グループで遊ぶことはあるが二人っきりで遊ぶことはない、そんな感じの距離感である。

外見特徴:白髪ロング。瞳の色:青色。身長145㎝くらい。夏服セーラー、膝上スカート。

*************************************


宇宙人、妖怪、UMA…人々の間で語り継がれる都市伝説。

少しの恐怖と好奇心と共に、伝わり続ける物語。

それらは、果たして本当に作り話なのだろうか。


*************************************

~始業前~


私は黒月 雪。私立芽吹中学校に通う、(自分で言うのもなんだが)何の変哲もない少女だ。

今は教室で朝のHRが始まるのを待っている。

自分の席に座って眠い目をこすっていると、一人の少女が近づいてきた。

「おはよう諸君!人生に必要なのは、刺激だと思うんですよ!」

唐突にそんなことを言い出すのは、私こと黒月 雪の友人である華白 呼由奈、通称・(しろ)だ。

ちなみにこいつがこんな事を唐突に言い出すのはいつものことである。

「話聞いてんの私一人だし、学校来て早々いきなりなんの話だよ」

私がうざったそうにしながら返事をするのもいつものことだ。

白は私の態度などお構いなしに話を続ける。

(くろ)ちゃんは『フミツキさん』って覚えてる?」

覚えてない。ちなみに黒ちゃんというのは白が私を呼ぶときの呼び方だ。

「フミツキさん…?なんだそれ」

「先週話したんだけどやっぱり覚えてないかぁ…」

白はしょんぼりしてるが全く覚えてない。私はそういうのに興味ないから聞き流したんだろうな。

「白はホント幽霊とか怪談とか好きだよなぁ、私は興味ないけど」

「だって楽しいじゃない?未知なるものを知る喜びってやつだよ!ああそうそれでね?

話を戻すけど、この学校でフミツキさんを見たって子が居るらしいんだ」

興奮気味に白は続ける。

「『フミツキさんの鬼ごっこ』は我が中学校が誇る芽吹中学校七不思議の一つだよ。放課後の学校に出てくる遊びたがりの女の子なの。

放課後の校舎に一人で入った子に鬼ごっこをけしかけて、勝てば帰してくれるんだけど、負けた子はフミツキさんにされちゃうの」

「フミツキさんにされちゃう…?改造でもされるってか?」

「えっとねぇ、ちょっと待ってね、昨日調べてメモしたものが…」

白は自分の席に戻り、カバンの中からメモ帳を取って戻ってきた。

「んとね、ネットの情報によると、鬼ごっこに負けると影を取られて、次の鬼役、つまりはフミツキさんになる。

フミツキさんには影がない。だから代わりの影を探す。正常なヒトになるために。次の贄とするために。…らしいです」

「つまり、フミツキさんってのは鬼役の名前ってことか?フミツキさんに鬼ごっこで負けたら次の鬼、フミツキさんにされると。」

「そういうことだよ!いいね、黒ちゃんもオカルトの何たるかがわかってきたね!」

「そうかなぁ…。まあいっつも白のオカルト話ばっか聞かされてるから慣れてはいるかもしんねーけど…」


キーンコーンカーンコーン…


そこでHRの始まりのチャイムが鳴る。

「あれもうこんな時間?じゃあ黒ちゃん続きは後で話すね!」

そう言うと白は自分の席に戻っていった。


*************************************

~放課後~


学校からの帰り道、唐突に白が話し出す。

「そう言えば、今朝フミツキさんの話途中だったよね?どこまで話したっけ?」

「んー?フミツキさんが鬼ごっこ大好きっ子みたいな、そんな感じじゃなかったか?」

「フミツキさんについて説明しただけだっけ。私達の学校でフミツキさんを見た子が居るっていうのは?」

「聞いた気もするけど、あんまし詳しいことは言ってなかったと思うぞ」

「そかそか。えっとそれはねー」

そう言いながら、白はバッグからメモ帳を取り出す。

「えっとね、塾の帰りに学校の前を通った子が、誰も居ないはずの校舎から歌声を聞いたんだって。

それで、校舎の方を見てみたら、校舎の中に女の子が居たんだって」

「?それ普通に、忘れ物かなんかで校舎に残ってた生徒が居たってだけの話だろ?」

「いやいや黒ちゃん忘れたの?うちの学校は放課後、施錠されてるじゃない。

先生の許可なしじゃ入れないし、塾帰りくらいの時間だったら先生も帰っちゃってるはずだよ」

ふむ…確かに白の言うことは一理ある。が、

「じゃあそいつの見間違いだろ」

私は興味なさげに軽くあしらう。私はオカルトに興味が無い。

「なんだねその反応は!我らがこの学び舎で!怪奇現象が起きてるんだよ?ミステリーだよ、ミステイクだよ!?」

「いや、ミステイクなら間違いだろーが」

白は私のツッコミを華麗にスルー。

「ここはやっぱり、私達で調査する必要がある…よね?」

白は眉根を寄せ、上目遣いの神妙な面持ちでそう続ける。

「ないな」

私は断言する。しかし白は諦めない。

「あるのっ!」

「そんなことより、明日のテストの勉強でもしたらどう「え?」」

「ん?」

「え?」

「…テスト?」

「もしかして、忘れてたのか?」

「そ、そそそんなわけないじゃない。あーでも私、学校に教科書置いてきちゃったかも。ねー黒ちゃん、一緒に学校まで取りに…」

「私こっちだから、また明日な」

「薄情者ー!…ぐすっ、いいもん、忘れ物くらい一人で取りに行けるもん…じゃーね…」

「じゃーな、気ぃ付けろよ」

大げさにしょぼくれた白をおいて、私は家に向かって歩いていく。

テストのことは先生が言っていたのを白も聞いていたはずだから、可哀想だが自業自得だ。

私も今からテスト勉強をしなければならないので、余計なことをしてる時間はない。

帰宅後、私はテスト範囲の最終確認をしてから、明日に備えて早々に眠りについた。


*************************************

~テスト後~


今日は朝からテストがあった。

うちの学校では、一日掛けて国語・数学・社会・英語・理科の5教科のテストが行われる。

「はーつっかれた」

私は小さな声でそう言って伸びをする。

そこに、燃え尽きたような顔をした白が近づいてくる。

「あ"~~黒ちゃん~5教科一夜漬けはきついよ~黒ちゃんの膝枕で休ませて~」

「戯れ言はおいといて、お疲れさま。次からはちゃんと先生の話聞いとけよ?」

「戯れ言だなんてひどいよ!白のメンタルに100のダメージだよ!

先生の話についてはぐうの音も出ないよ、追加ダメージ200!」

「はいはい」

流石の白も疲れたのか、表情に若干元気がない気がする。まあ言動はいつも通りだし、明日には元通りになっているだろう。

「さ、帰ろうぜ」

「あ"~い」

ゾンビのような足取りで、白は自分の席に戻り、帰り支度を始める。

私も帰り支度をし、白を待って下校する。


*************************************

~帰路にて~


学校からの帰り道を歩いていると、白が口を開いた。

「ねぇねぇ黒ちゃん、明日の放課後、空いてる?」

「要件による」

「え~?それは当日のお・た・の・し・み☆…だよ❤」

「じゃあ空いてないです」

「そんな!」

こういう時の白の誘いは、まともな内容だった試しがない。私は思ったことをそのまま口にする。

「だってこういう時、大抵ロクでもねー要件じゃん。廃病院に忍び込もうとか、

こっくりさん呼び出そうとか、近所の洞窟に潜入しようとか、いっつもそんなんばっかだろ」

「ロクでもねーとは何事か!世界の神秘を解明する崇高な行いだよ!ねーいいじゃん行こうよ行こうよ行こうよ~!」

「どこに行くかも聞いてねーんだけど…ちょっ!ええい纏わりつくな暑苦s冷た!お前何でそんな冷えっ冷えなの!?」

汗でベタベタの私の腕に、ひんやりとした白の腕が絡みつく。

予想に反して暑苦しくは無かったが、この真夏の炎天下でくっつき合うのは視覚的に暑苦しさを感じる。

「ええいうっとおしい!わかったよ行くよ、行くから離せ!」

根負けした私は、どこに行くのかも分からないまま了承の返事をしてしまう。

「ホントに!ありがと黒ちゃん、愛してるよーえへへー」

「はいはい、…ったく、しょーがねーな…」

まぁ、正直こうなるだろうとは思っていた。今まで一度だって、私が白の誘いを断れた試しはないのだ。

それに、白一人だと何やらかすかわかったもんじゃないからな。

瓦礫だらけの廃病院にサンダルで突撃かまそうとしたり、UFOを呼ぶためだとか言って大量の爆竹を用意したり、

空き教室の床に魔方陣を敷いて悪魔を召喚しようとしたり、今までの危険な所業を挙げればキリがない。

だから、本当に危ない目に合わないように、私が守ってやらなきゃならない。

こんなんでも、私の大切な友達だから。


*************************************

~放課後~


HRの終わりとともに、私の席に小柄な少女が近づいてくる。

「くーろーちゃん!来たね!作戦決行日だよ!」

「あー、なんだっけ、帰って寝ればいいんだっけ?」

「違うよ!全然違うよ!それは黒ちゃんの願望でしょ!」

「よく分かってるじゃん、もうめんどくさいからそれで良いだろ」

「良くないよ!今日はフミツキさんに会いに行くんでしょ!」

「初耳だけどな」

「え?」

「いや、え?じゃなくて、今初めて詳細聞いたから…」

「そっかそだったね。当日のお楽しみ☆にしてたんだったね」

それから白は、今日の作戦とやらの詳細を語る。


①一度それぞれの家に帰って、わたしは黒ちゃんの、黒ちゃんはわたしの家に泊まってくると親に伝える。

②学校に戻ってきて、まず二人で、先生に忘れ物をしたと伝えて校舎に入れてもらう。

③わたしが忘れ物を探す、その間に黒ちゃんがトイレに行くフリをして北校舎左端のドアの鍵を開けておく。

④先生と別れた後、急いで④のドアから校舎に入る。

⑤先生たちが皆帰るまで息を潜める。

⑥フミツキさんを探す。

持ち物:懐中電灯、食料(おやつは300円まで!)、身を守る武器(適当な物が家にあれば)、

制服、靴を入れておくためのビニール袋、以上!


「以上!」と言ってワクワク顔を見せる白の前で、私は額を抑えていた。

「……。」

「ふっふっふ…わたしの完璧な計画に声も出ないようだね!褒め称えてもいいのよ?」

「いや…うん…ツッコミどころが多いなぁ…って」

「なんでよ!わたしの知的な作戦のどこに穴があるっていうのさ!」

「穴だらけだろ。まずこんなんバレたらすっげー怒られるし、フミツキさんなんて実在するわけないだろ」

「フミツキさんが居るかどうかはこれからわたし達が確かめるんだよ?それにね黒ちゃん、この言葉を知らないの?」

「?なんだよ?」

「バレなきゃ犯罪じゃn…」

「教育によろしくない発言はやめろ」

「む…まぁ、とにかくそういうことだよ。ほら、安心安全の作戦でしょ?」

「ハイリスクノーリターンなガバガバ作戦だと思うんだけどな…ちなみに私が行かないっつったらどうすんだ?」

「んー?そんなことはありえないけど、私一人で決行することになるね。仕方ないから、このままトイレにでも隠れて放課後を待つよ」

「白も行かないって選択肢は」

「無いよ」

「でも、鬼ごっこに負けたらフミツキさんにされる?んだろ?よくわかんねーけど危険なんじゃねーのか?」

「あはは。そうなったらそうなったで、いいじゃない。黒ちゃんがなりそうだったら、私が代わってあげるから」

そう白が答えた一瞬、私の全身に寒気が走る。

気のせいだろうか。今、ほんの一瞬だけ、白の笑顔が、とても怖いものに思えた気がした。

「白…?」

「ん?どしたの?私は行くよ。黒ちゃんも一緒に行くでしょ?」

白の顔にはいつもの笑顔と、期待に満ちた眼差しがあった。さっきのは気のせいかな。

白はいつもおちゃらけてるくせに、決めたことは絶対に曲げない。

特にオカルト方面に関しては。一度、どうしてそんなにオカルトに拘るのか聞いたことがある。

白の回答は

「オカルトを愛する心に理由なんて無いよ!未知の探求はロマンなんだよ黒ちゃん!」

とのことだった。

と、私が過去を思い返していると

「黒ちゃん、一緒に行ってくれないの…?」

白が上目遣いで私を見る。

私は考える。私がここで「行かない」と答えたところで、白は間違いなく一人でフミツキさんを探しに行くだろう。

その場合、当然だが白は夜の学校でひとりぼっちだ。

こいつ行動力があるくせに抜けてるところあるからなぁ…。

警備の人とかに見つかって怒られるくらいならまだいいだろう。

最悪、馬鹿やって大怪我したり、停学転校なんてことになったりするかもしれない。

とはいえ私が説得しても、白は止まらないだろうな。

……………………………………………はぁ…。

「…仕方ないな。」

しぶしぶ快諾した私を見て、白は目を輝かせる。

「行ってくれるんだね!?えへへ~ありがと黒ちゃん大好きだよ!」

「ただし今回だけだからな?フミツキさんに会えなくても今日で諦めること!いいな!」

白は嬉しそうな顔をしながらうんうんと首を縦に振る。

ホントこいつは、どうしてこう…可愛いし性格も良いんだから、コレ(オカルト好き)さえなけりゃ友達もたくさんできるだろうに。

「じゃあ黒ちゃん!持ち物準備して7時頃に校門前に集合ね!ご両親に、私んちに泊まってくるって伝えるの忘れないでね?」

「わーったよ、白も気を付けて来いよ」

私達は一度分かれて、準備のためにそれぞれの家に帰った。


*************************************

~帰宅後・再集合~

18:50


私達二人はそれぞれの家で準備をし、校門前に集合していた。

「え~、視聴者の皆さん、私達は今、放課後の学校に来ています(小声)」

「……」

「ではこれより、フミツキさんを探しに行きたいと思います(小声)」

「……」

「おや、黒月さん、どうかされましたか?(小声)」

「いや、どうかされたってか、誰に向けて話してんだ?」

私は白に疑問をぶつける。

「誰ってそれは、テレビの向こうの皆さんに向けて(小声)」

「あー…ツッコミは必要か?」

「飽きたらやめるので大丈夫です(小声)」

「…そうか」

私は白の謎行為をスルーすることにした。

「で、まずは着替えないとだよな」

私達は今、私服だった。

うちの中学には「学校の敷地内に入るときは放課後でも制服着用」というルールがある。

だけど、親に友達の家に泊まりに行ってくると伝えているため、制服で出てくる訳にはいかなかった。

なので、私服で来て制服に着替えてから校舎に入る予定だった。

「それなら問題ないよ!この時間なら運動部の女子更衣室が開いてるのを確認済みだから、そこ行こ!」

白の指示に従って、私達は更衣室まで人に会わないように移動した。

道中で白に確認したところ、運動部に使用許可は取ってないとのことだったので、私達はこっそり入って急いで着替えた。


*****


着替え終わった私達は、校門前に戻ってきた。

「それで白、入る前に聞いとくが、そのでっけー荷物はなんだよ」

私は白と落ち合った時から気になっていたことを訊ねた。

白は、元の形が歪むほどパンパンのリュックを背負っていた。

絶対に何か余計なものを持ってきている。

「これ?そりゃーだって、探検なんだから色々必要でしょ?詳細については来たるべき時が来たら教えるさ!」

白はそう言って自慢げな顔をしている。

私は静かに背後に回り白のリュックを開ける。

「ちょ!?!?黒ちゃんなんばしよっと!?そんな乱暴に乙女の秘密を!!」

白が何か言ってるが無視だ。

「んー、と?爆竹は要らないな、はにわも要らない、減塩塩(1kg)も要らない、破魔矢も要らない、これもこれもこれも…」

「黒ちゃん!?なんかドサドサ聞こえるし背中が軽くなっていくんだけど何を!?」

「捨ててる」

「待って、そんな淡々と道路に捨てるのはやめてよぉ!」

無視してどんどん要らないものをリュックから出していく。

「よし、こんだけ減らせばいいだろ。」

私は白のリュックから元々の量の9割ほどの荷物を引っ張り出した。

まだなにやら色々入っているようだったが、このくらいの量なら良いだろう。

「そんな殺生なぁ…」

白はよよよと泣くふりをしているが、私は気にせず反論する。

「いやだって、あーほら、そんなでっかい荷物背負ってたらフミツキさんから逃げられないだろ?」

私は適当に白が納得しそうな理由を述べる。

「んえー。んー、一理ある。しょうがないなぁ、置いていくよ…」

白は渋々といった感じで、私がリュックから出した荷物をまとめて校門横の草むらに隠す。

「えー、じゃーそれでは、作戦決行行きましょかー」

「おー」

私とテンションダダ下がりの白は、ゆっくりと作戦を開始した。


*************************************

~校舎侵入~

19:10


ストーリテラー、変わりまして白だよ!

今は、先生を引き連れて忘れ物を取りに来ているよ!

黒ちゃんは手筈通り、トイレに行くフリをして校舎のドアの鍵を開けに行ってくれているよ!

私は先生の目を引きつつ時間を稼ぐために、忘れ物をゆっくり探してるよ!

「んーあれ、ないなー机の中じゃなかったかな、ロッカーの中だったかも…?」

わたしは教室の後ろの自分のロッカーをしばらくゴソゴソして、適当なノートを選んだ。

「あ、先生、ありました。すみません、お手数お掛けして」

「良いってことよ。しかし、しっかり者の華白が、先週も今日も忘れ物するなんて珍しいな?何か悩み事でもあるなら、先生力になるぞ?」

「あーいえ、そういうことじゃないんですけど、(オカルトの)勉強のし過ぎで寝不足気味なのが原因かもしれません…気を付けます」

「そうか、ならいいが、あんまり頑張りすぎるなよ。分からない所があればいつでも聞きに来ていいからな」

わたしが言った「勉強」を学校の勉強のことだと思ったのだろう。

先生はわたしの頭をポンポン叩きながら、頼もしい言葉を掛けてくれる。

「はい、ありがとうございます」

わたしは素直にお礼を言う。

そうこうしている内に、黒ちゃんが帰ってきた。

そうして、黒ちゃんもしばらくノートを探すフリをして、適当なノートを選んだようなので、

「「先生見つかりましたー」」

わたし達は揃って先生に声を掛けた。

「よし、じゃあ帰るか、もう学校に忘れ物するなよ」

「「はーい」」

わたし達と先生は教室を後にした。

「じゃあ、二人共、気をつけて帰れよ、さようなら」

「はい!先生、ありがとうございました、さようなら!」

「ありがとうございました、さようならー」

わたし達は、先生と分かれて一度学校の外まで出る。

先生の姿が見えなくなってから、こっそりと校舎の方に戻る。

職員室の前を通らないように、校舎を回り込んで目的のドアを目指す。

靴から上履きに履き替えつつ、黒ちゃんが開けておいてくれたドアから校舎内に入る。

念のため、鍵もしっかり閉め直しておく。

「うまくいったね、黒ちゃん!」

「あーうん。今更ながら、これバレたら相当怒られるよなぁ…」

頭を抱える黒ちゃんを見て、先生にも怒られるだろうかと考えてちょっとばかり心がチクッとしたが、未知の探求に為に必要なことだ、致し方なしと割り切った。

「そうだね、でも、バレなきゃいいのさ!」

「はいはい、そうだな…はぁ」

ため息をつく黒ちゃんと共に、わたしは校舎の中に入る。

こうしてわたし達は、校舎への侵入に成功した。


*************************************

~校舎内探索~

21:00


はい、ストーリーテラー戻りまして雪、もとい黒だよ。

私と白は、先生たちが全員帰る時間を待って、行動を開始した。

私は腕時計を確認する。現在時刻は9時。

学校に来たのが7時頃だったから、かれこれ2時間くらい空き教室に隠れていたことになる。

白と駄弁ってたので大して苦痛ではなかったけど、それはそれとしてそろそろ帰りたくなってきたな…。

白がやる気に満ち溢れた表情をしているので、帰れないのは分かってるけど。

駄弁ってた時に白と話し合った結果、とりあえず校舎の中を適当に歩いてみようという話になった。

それと、今夜は月が出ていて校舎の中もそれなりに明るかったので、近所の人に見つかるリスクを考えて懐中電灯は付けないでおこうと決めた。

「んーとはいえ、目的地も無くプラプラするのもあれだし、せっかくだから七不思議巡りでもしよっか?」

前を歩いていた白が振り向いて、そう提案してきた。

「そうだな。っても七不思議なんて知らないから、白先導よろしく」

「おっけー!じゃあまずは有名どころ、『ひとりぼっちの発表会』から行ってみようか!」

行っくぞー!と張り切る白に、私は尋ねる。

「その、ひとりぼっちの発表会?っていうのはどういう怪談なんだ?」

「『ひとりぼっちの発表会』はね、音楽室の怪談だよ。音楽室からピアノの音が聞こえて、行ってみても音楽室には誰も居ないんだ」

「ふーん、不思議ではあるけど、あんまし怖くはない感じだな?」

七不思議って全部が全部怖いわけじゃないんだよー、と答えてくれる白。

そうなのかーと返す私。

そんな会話をしているうちに、私達は音楽室の前に到着した。


*************************************

~ひとりぼっちの発表会~

21:10


「ふ~む。今の所は何にも聞こえないね?」

白は音楽室のドアに左耳をくっつけながら、私に確認してきた。

「そうだな」

そもそも今の時間、校舎は立ち入り禁止だから誰かが居る筈ないんだよな。

だから当たり前だけどピアノの音なんて聞こえてくる筈ない。

そんな風に考えていると、白が何やら扉の前でガチャガチャしている。

「なにやってんだ?白?」

「妙だな…音楽室の扉が開かない…」

私も頭になかったけど、音楽室に限らず家庭科室とか図工室みたいな特別教室は普段は鍵が締まっている。

そのことを白に伝えたら酷く落胆した顔を見せた。

どうやら白も忘れていたらしい。

「まぁ、入れなくてもいいだろ。音楽室の目の前でなんにも聞こえないんだからなんもないんだよ」

私は落ち込む白にそう言った。

「それはそうかもだけど、じゃあ『家庭科室の日本人形』とか『第二図書室の眠り姫』とかも見に行けないのかなー…」

白は諦めきれないようだが、こればっかりはどうしようもない。

音楽室は廊下側に窓が無いし、扉についてる小窓からじゃピアノは位置が悪くて見えないからな。

そこでふと私は、白が言ったことが気になって聞いてみた。

「なぁ、その『家庭科室の日本人形』って、もしかして家庭科室のでっかい西洋人形のことか?」

「そだよー。あの人形、普段はふわっふわのドレス着てるでしょ?でも、時々いつの間にか和服に着替えてるって噂があるんだー」

日本の服に着替えてるから『家庭科室の日本人形』って呼ばれてるんだよ、と説明してくれた。

「あれだったら確か廊下側の窓から見えなかったか?」

と私は思いついたことを白に告げてみた。

「それだ!じゃあ次は家庭科室に行こう!」

白は私の提案がお気に召したようだ。

そうして、私と白が家庭科室に向けて歩き出そうとしたとき、


~~~~~~♪~~~~~~♪


音楽室の中から、ピアノの音が聞こえてきた。

「…え」

いやいや、そんなはずないだろ。

こんな時間の音楽室に、誰が居るってんだよ。

私達が驚愕している合間に、ピアノの音は止んでしまった。

「お、おい、白…」

「あ、あはは…え、もしかしてホントに…?」

白は、驚愕と興奮が混じったような、引き攣った笑みを浮かべていた。

ガタ、ガッ、ガタガタ。

私は、念のため音楽室の扉に手を掛けてみたが、やっぱり鍵が掛かっていて開かない。

「やっぱ開かないよな…白、どうする」

「ん…す~~っごく気になるけど、ドアが開かないんじゃどうしようもない、よねぇ。流石のわたしも学校のドアぶち破るのは…」

「だよなぁ…あと、ぶち破るのは学校じゃなくてもやめろよ?」

気になるけれど、扉が開かないんだからどうしようもない。

私達は音楽室に後ろ髪を引かれつつ、家庭科室へと向かうことにした。


*************************************

~家庭科室の日本人形~

21:30


私達は音楽室を後にして、家庭科室に向かっていた。

「さっきのはなんだったんだろうな」

「なん、とは?」

「いや、ピアノが一人でに鳴るとかある訳ねーだろ、どういう仕組みで鳴ったのかなって。それか音楽プレーヤーとか?」

「え、何を言ってるの黒ちゃん。きっと幽霊とかピアノの付喪神とかが演奏してるんだよ」

「はーん、そりゃすごいな」

「信じてないね!?あんな近くでオカルトを体験したのに!黒ちゃんだってすっごく怯えた顔してたのに!」

「お、怯えてねーよ!確かにちょっとびっくりはしたけど!」

「むぅ…黒ちゃんは素直じゃないなー」

怯えてない。ちょっと驚いただけで、私は断じて怯えてない。

そんな問答をしているうちに、私達は家庭科室の前に辿り着いた。

「ほら、こっから見えるだろ?西洋人形」

「んー、でも暗くてはっきり見えないねぇ…」

白の言う通りだった。

私達が居る廊下は月明かりで明るかったが、家庭科室の中までは光が届いていなかった。

カーテンも閉められていて、家庭科室の中は真っ暗だ。

西洋人形の輪郭は分かるが、顔や服装は暗くて見えない。

「こんな時は懐中電灯の出番だね!」

白はリュックから懐中電灯を取り出して、電源を入れた。

「ではいよいよ、『家庭科室の日本人形』ご対面だね!」

そう言って白は、西洋人形に懐中電灯の光を向けた。

「「……………………!?」」

そこには、和服を着た人形が立っていた。

「和服着てる、ね?」

「和服…着てるな」

私は全身から血の気が引く思いがした。

私の隣で、白は目をキラキラとさせている。

「家庭科室入れないかなぁ!?やっぱり閉まっちゃってるかなぁ!?」

白は扉を開けようとするも、案の定施錠されていた。

と、そこで私はあることに気付く。

家庭科室の窓の内の一つ、その鍵が開いていることに。

これ、白に教えるべきだろうか。

白に教えれば間違いなく家庭科室に侵入するだろう。

校舎に侵入している時点で今更ではあるんだが。

うーん、と私が迷っていると、白がトテトテと近づいてきた。

「そんなに眉間にしわ寄せてどーしたの?」

「んー、白、もし家庭科室に入れたとしても、壊したり荒らしたりしないって約束できるか?」

「黒ちゃんわたしを破壊神だと思ってるの?そんなことしないよ」

「本当の本当に?」

「ホントのホントに!」

「じゃあ教えるけど、そこの窓、鍵開いてる。」

「ホントだ!いざ突撃!んしょっと」

窓を開けて家庭科室に侵入する白。

続けて私も侵入する。

私達は、西洋人形が飾られているガラスケースの前まで来た。

金髪碧眼で目鼻立ちのくっきりとした西洋風の顔立ちの人形が、アサガオの描かれた青い着物を着ていた。

「確認したいんだが、この人形っていつもはドレス着てたよな?」

「着てたね。わたし昼間に確認しに来たけど、確実に黄色いドレスを着てた」

私の問いにうんうんと頷く白。

「これってどういうことなんだろうなぁ、柳先生が着替えさせたとか?」

柳先生というのは私達の家庭科の先生だ。

「いやいや、だから『家庭科室の日本人形』なんだって。一人でに着替えたんだよ」

違う違うと首を振る白。

そんな訳ないだろと思う私。

「うーん謎だな…」

「謎だねぇ…じゃあちょっと黒ちゃんここ立って?」

同意しつつ私に移動を促す白。

「なんで?」

「いいから」

白は私を人形の横に立たせる。

「ピースして」

「ん」

言われるがまま私はピースする。

「はいチーズ」

「てちょっと待て」

白はいつの間にかリュックから取り出したインスタントカメラで、私と人形を写真に収めようとする。

「百歩譲って人形を撮るのは良いとして、私が映る意味は」

「写真にもうちょっと華が欲しいなって思って」

「じゃあお前でいいだろ私が撮るから」

「えー、絶対黒ちゃんのが良いのになぁ、でも黒ちゃんに褒められて気分が良いから採用します!」

「んじゃ撮るぞはいちーず」

パシャっと、私は白のカメラで白と人形を撮影する。

「撮れたぞ」

白にカメラを返す。

「ありがとー!」

七不思議のひとつ、『家庭科室の日本人形』と一緒に写真が撮れて白はご満悦な様子だ。

「じゃあ、そろそろ家庭科室出るか」

「ん、そうだね、そろそろ行こっか」

私達はさっき入ってきた窓から廊下に出た。

廊下に出ると、白が思いついたように口を開いた。

「思ったんだけど、職員室に行って鍵を取ってくればいいんじゃないかな?」

「いや、校舎に侵入しといて今更だけど、流石にそれはやめといた方がいいんじゃないか…?」

鍵を盗む(借りる)のは流石に…と私は白の提案に待ったをかける。

今でさえ夜の校舎侵入という、見付かれば警察沙汰になってもおかしくないくらいのことをしているのに、これ以上罪を重ねるのは…。

「ほ、ほら、目的はあくまでフミツキさんだろ?他の七不思議はあくまでついでなんだし、そこまでしなくていいんじゃないか…?」

私の意見を聞いて、白は口に手を添えて考え込む素振りをしている。

「そう…だね、それもそっか」

「それにほら、今みたいに窓が開いてて入れるかも入れないだろ?だからさ、な?」

私による白への説得は続く。

「そうだね、時間はいっぱいあることだし、まずは各所回ってみてからでもいっか」

白の説得に成功し、私達は家庭科室の前を後にすることにした。

だけどその時、不意に私は気配を感じ、後ろを振り返った。

振り返って、しまった。

「え…………」

私は、歩き出しかけていた足を止め、『それ』に目を釘付けにされながら、白に呼び掛けた。

「……白!…白!!」

「なあにー黒ちゃん、そんなに呼ばなくても聞こえ………え…?」

白ののんびりとした声は、途中で消える。

白も異変に気付いたらしい。

今、私達の目の前には、家庭科室のガラスケースに入っているはずの西洋人形、『家庭科室の日本人形』が立っていた。


*************************************

~家庭科室の日本人形②~

21:40


「そんな、なんで……」

私達の目の前には、和服を着た西洋人形が、こちらを向いて立っていた。

両の眼が私達を見つめている。

その姿はひどく不気味で、私の全身が警告を発していた。

「『家庭科室の日本人形』……」

白がボソリと呟いた。

私は、その声でハッとした。

「白、逃げるぞ!」

「え?」

「いいから!!」

私は、戸惑う白の手を引っ張って、全速力で逃げる。

走る、走る、とにかく走る。

少しでもアレから離れなければ。

そうして必死に走った後、後ろから声が掛かる。

「ちょ、ちょま、黒ちゃ、も、無理……」

「あ、悪ぃ。大丈夫か、白」

言いつつ、私は後ろを振り返る。

はぁはぁと息を切らした白がいた。

日本人形は付いてきていないようだ。

「はぁ…は…、なんだよ、あれ」

西洋人形が和服を着ているのはまだ分かる。誰かが悪戯で着替えさせた、それで説明が付く。

だけど、いったいいつの間に廊下に移動したのだろうか。

百歩譲って、あの場に私達以外の誰かが居たんだとしても、あんな大きい物を音も無く動かせるはずがない。

扉を開ける音だってしなかった。

確実に何かがおかしい。

「なぁ、白、もう帰」

「え?」

白は、目を輝かせていた。私は嫌な予感がした。

「白、あいつはヤバいって、もう帰ろう」

「ん〜?うへへへへへ〜何言ってるの黒ちゃん?」

「白……?」

「待ちに待った超常現象だよ?ついに、わたしたちの前に怪異が現れたんだ!

うふ、うふふふ、あはははははははははは!!!」

「し、白……?」

「さぁ黒ちゃん、家庭科室に戻ろう?」

いつもの穏やかな雰囲気を忘れた、怪しい笑みを浮かべる白。

白は私に手を差し伸べている。

私はその手を取るのを躊躇う。

「え……いや、私は……」

怖い。あんな得体の知れない者が居る場所に戻りたくない。

白は、そんな私の内心を見透かしたのか、寂しそうな笑顔を見せた。

「そっか。うん、分かった。じゃあ、黒ちゃんはここで待っててくれる?」

白は一人でも家庭科室に戻るようだ。

「な、ま、待って、私も行く…!」

駄目だ。今の白は一人にしたら駄目だ。

「無理しなくてもいいんだよ?わたしなら一人でも大丈夫だから」

白は優しい声色でそう言う。

だけど駄目だ。ここで白を1人で行かせたら、二度と会えなくなるような予感がする。

「いい、白が行くなら私も行く!」

「そっか、じゃあ一緒に行こ」

私は白の手を握って、家庭科室に戻ることにした。


*************************************

~家庭科室の日本人形③~

21:50


私達は、手を繋ぎながら家庭科室の前まで戻ってきた。

怖くて手を繋いでもらうなんて普段だったらしないけれど、今は恥ずかしさより恐怖が勝っていた。

辺りを見回してみるも、そこに『家庭科室の日本人形』の姿はなかった。

家庭科室の中、元のガラスケースにも『日本人形』の姿はなかった。

「一体どこに行ったんだ…?」

「うーん、どこ行っちゃったんだろ?せっかく会えたと思ったのにぃ…」

白は残念そうにしていたけれど、私は内心ホッとしていた。

あんなもの、出来れば二度と会いたくない。

白もなんだか様子がおかしかったし。

「まぁ、どっか行っちまったもんはしょうがねーだろ。ほら、早く次の七不思議を探すためにも、とりあえず移動しようぜ」

一刻も早くここから離れたかった。本音を言えば今すぐ帰りたいけど、白を残していくわけにもいかない。

なので私は、次の七不思議を探すことを提案しながら、白の背中をぐいぐいと押す。

白は、私に押されて歩きながら、考え込むような素振りをしている。

私はそんな白の背中を、来た道と反対側に押していく。

「む…そうだね仕方ないか…じゃあ次は、うーんどうしようかなぁ」

歩きながらも、白の手は口元から離れない。次に探すべき七不思議はどれかを考えているようだ。

そこで私は、いい機会なので聞いてみることにした。

「なぁ、七不思議って他にどんなのがあるんだ?」

「ん?んーとね、『フミツキさんの鬼ごっこ』、『ひとりぼっちの発表会』、『家庭科室の日本人形』で3つでしょ?

あとは、足音が馬な猫『カッポカッポする黒猫』、放課後の第二図書室で眠り続ける女の子『第二図書室の眠り姫』、

屋上にあるらしいこと以外正体不明の『空に歌う天使の絵画』、の3つかな」

白は、自分の指を折り数えながら残りの七不思議を教えてくれた。

「なるほどなぁ…ん?今、全部で6つしか無かったような…?」

「それはね、七不思議は七つ目を知ってしまうと呪われるとか死ぬとかって噂があるんだよ。

だから七不思議と言いつつ、六つしかないんじゃないかって言われてるの」

「へーそんな感じなのか、全然知らなかったな」

「ちなみにこれ、全部黒ちゃんに説明したことあるよ…?」

「マジ?わり、興味なくて聞き流してたと思うわ」

白がしょんぼりしてしまった。私が悪かったってば。

「ちなみにそん中で危険なのは?」

「……『フミツキさん』かな。それ以外はさっきの『日本人形』もだけど、ストーリー自体は怖いよりも不思議って感じが強いんだよ」

「ふーん、そうなのか」

自分で聞いといて生返事をしつつ、私は頭の中で現状を整理していた。

まず、私は七不思議なんて信じてなかった。

『ひとりぼっちの発表会』とやらは何か仕掛けがあるんだと思っていた(今も思っている)。

誰かが忘れたスマホの着信音とか、なんかの音楽機器とか、いくらでも説明できるしな。

だけど、『家庭科室の日本人形』。あれに関しては、仕掛けがあるとかそんな考えが吹き飛ぶ異様さと迫力があった。

あの存在の異質さは、あの場に漂っていた全身の毛が逆立つような空気は、私に七不思議の実在を信じさせるには十分だった。

幸い、あれらは危害を加えるタイプじゃなかったようで、白も私も無事に済んでいる。

だけど、白によればフミツキさんに捕まると次のフミツキさんにされてしまうらしい。

フミツキさんにされるというのがどういうことなのかはよく分からないけど、少なくとも普通の人ではなくなってしまうのだろう。

だから、フミツキさんだけは絶対に白と会わせてはならない。

具体的な方法は分からないけれど、私が頑張るしかない。

「…ちゃん?黒ちゃん?ボーっとしてどうしたの?」

気付くと目の前に白の顔があった。

「え?いや、なんでもねーよ。それで、次はどの七不思議にするんだ?えと、猫と図書室?あと屋上だっけ?」

「ん…そうだね…ここから一番近いのは、『第二図書室の眠り姫』かな」

「んじゃそこで」

私達は、第二図書室を目指すことにした。


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~第二図書室の眠り姫~

22:00


私達は今、図書室の前に来ている。

第二図書室は校舎の角に存在する部屋で、直接入ることができない。

図書室と中で繋がっているため、第二図書室に入るには図書室に入らなければならない…のだけど。

「やっぱ、ちゃんと鍵が掛かってるな。それに窓も開いてない…っと」

「んむ…残念無念。じゃあ、場所がわかってる最後の怪談を探しに行こっか」

そーだな、と私が同意して、図書室の前を後にしようとした時、


ガラガラガラ…


図書室の中から、扉が開く音がした。

多分、図書室と第二図書室を繋ぐ扉が開いた。

「え…」

私は、図書室の扉を見つめて動けないでいた。

心臓がバクバクする。

どうする、どうすればいい。

分からないけれど、とにかく何かがいる。

逃げなければ。

だけど、怖くて足が動かない。

そんなことを私が考えているうちに


ガチャン


目の前の図書室の扉の鍵が開く音がした。

何かが、この扉の向こう側にいる。

その何かは、ゆっくりと図書室の扉を開いた。


*************************************

~第二図書室の眠り姫②~

22:05


「ふあーーーーよく寝たぁ、ん、君達だぁれ?」

私達の目の前には、灰色の髪、薄い金色の瞳をした女子が立っていた。

年齢は私達と同じくらいに見える。

身長は私と白の中間くらいだ。

夏だというのに、カーディガンを肩を出して羽織っていた。

私が驚きのあまり声が出せないでいると、女子の疑問に白が答えた。

「わたしは2年3組の 華白 呼由奈 、こっちは同じく2年3組の 黒月 雪 です。あなたは?」

白の疑問に女子が答える。

「ん~こゆなちゃんとゆきちゃんね~僕は3年5組の 聿日(いつのひ) あやね だよ~よろしくね~」

のんびりとした声のその女子は、2年生らしい。

ここらで落ち着きを取り戻した私は、どうしても気になることがあった。

「えっと、聿日先輩?」

「あやねちゃんって呼んでいいよ~敬語も要らないよ~」

「んじゃ、あやね先輩、こんな時間にこんな所で何してるんですか?」

至極当然の疑問。先生も帰ったこんな時間に、図書室で一体何をしていたのか。

あやね先輩は、考え込む素振りをした後、口を開いた。

「廊下は寒いから、とりあえず図書室に入ろっか~」

私達は図書室の中に移動することにした。

正直言うと室温はあまり変わらなかったけれど、椅子があったので落ち着いて話し合うにはちょうどよかった。

私と白が隣り合って座り、あやね先輩が机を隔てて私達と向かい合って座った。

「それで、さっきの質問ですけど、こんな時間に何してたんですか?」

私は座って早々、先ほどの質問をもう一度、先輩にぶつけてみた。

先輩はのんびりとした声で答えてくれた。

「寝て、起きたらこんな時間だったんだ~」

シンプルな回答だった。

その後も先輩の話を聞くと、なんでも第二図書室は日当たりが良くて眠るのに最適なんだとか。

いつものように放課後に第二図書室で眠ってしまい、今まで寝続けていたらしい。

居残ってる生徒が居ないかくらい、教室を施錠する前に先生が確認しないのかと思い聞いてみると、

「いつもは先生が起こしてくれるんだけど~おかしいよね~?」

とのことだった。

「ところであやねちゃん」

「なあにぃこゆなちゃん」

白は先輩相手なのにちゃん付けで呼んでいる。

いや確かにあやねちゃんって呼んでいいとは言ってたけど。

「わたし達、『第二図書室の眠り姫』を探してるんですけど、あやねちゃんは何かご存じですか?」

「え~?なにそれ知らないなぁ~僕よく第二図書室でお昼寝してるけど、会ったことないよ~?」

……?

私は、ふと思いついたことをそのまま言葉にした。

「あの、それ先輩のことなんじゃ」

「「え?」」

白とあやね先輩の声が被った。

二人共目を点にしてこっちを見ている。

「あーいや、先輩よく図書室で寝てるんでしょう?誰かがそれを噂して、いつの間にか七不思議として伝わるようになった…とか…」

二人の視線が気になって、私は言いながら音量が小さくなっていった。

「「………。」」

白は口を開けてポカンとしていた。

あやね先輩は口を開けて「ほぇ~」と言っていた。

「ま、まぁ、七不思議の謎が解けてよかっただろ、白!」

「え、えぇ…そう、かなぁ」

「そ・う・だ・よ!」

私はこの空気を強引に切り替えることにした。

「ん~そっか~僕七不思議なんだ~知らなかったなぁ~すごいね~」

あやね先輩の言い方は口調のせいか他人事みたいだった。

自分が七不思議扱いされていたことに関してショックを受けたりはしていないようだ。

「それで~?こゆなちゃんとゆきちゃんは何してるの~?」

私は白の方を見た。

私は白に付いて来てるだけみたいなものだし、この質問は白が答えた方がいいだろうと思った。

白は私の意を汲み取ってくれたようで、あやね先輩の質問に答えた。

「わたし達、『フミツキさん』っていう七不思議に会いに来たんです」

「へ~そうなんだ~?」

そう言いつつ、先輩は首を傾げていたから、よく分かってはいないようだ。

「それより先輩、帰んなくていいんですか?」

私と白はお互いの家に泊まっていることになっているから問題ないけど、

あやね先輩は普通に失踪してる感じになってるんじゃないだろうか。

「ん~?分かんないけど多分大丈夫じゃないかな~」

「…?それはどういう…」

言い掛けて私は気付く。

もしかしたら何か複雑な家庭とかなのかもしれない。

そうだとしたら会ったばかりの人間にあれこれ聞かれるのは嫌だろう。

私はそれ以上詮索しないことにした。

「や、なんでもないです、大丈夫ならいいんですけど」

「うん~心配してくれてありがと~」

先輩は気にしていないようで、ほんわかした笑顔を浮かべていた。

ここで白が口を開いた。

「わたし達は他の七不思議探しに行きますけど、あやねちゃんはどうしますか?」

白はさっきから、ちゃん付けで敬語というちぐはぐな言葉使いを続けていた。

スルーしてたがやっぱり聞いてて違和感がある。

「どうしようかな~ちょっと目も覚めちゃったし~こゆなちゃん達に付いていってもい~い?」

白が私の方を見た。

少し考える。

もしフミツキさんが出てきた時のことを考えると、逃げるのに人数は少ない方がいいだろう。

先輩の安全を考えたら、図書室の中に居てもらうか、帰ってもらった方がいいと思う。

それに、行方の知れない『家庭科室の日本人形』のこともある。

私は、今まであったこととフミツキさんのことを先輩に説明することにした。

「へ~そんなことがあったんだ~じゃあ僕は帰った方がいいかな~足遅いし~」

先輩は私の話を聞いて、帰ることにしたらしい。

ここで白が私に提案をしてきた。

「黒ちゃん、ちょっと心配だし、あやねちゃんのこと校門まで送ってってあげない?」

「そうだな、それがいいと思う」

拒否する理由もなかったので、私は白の提案を快諾した。

「送ってってくれるの~?ありがと~」

先輩はニコニコしていた。

「じゃあ、行きましょっか!」

白がパンと手を叩いてその場を締めくくる。

私達は席を立って、移動を開始した。


*************************************

~第二図書室の眠り姫③~

22:30


私達は図書室を出て、1Fまで降りてきていた。

私と白は靴を持っていたが、あやね先輩は靴を下駄箱に置いていたので、下駄箱を通って正門に向かうことになった。

…?

「あの、あやね先輩、荷物は?」

「ん~?大丈夫~」

大丈夫って、教科書とかお弁当とか持ってきてないのだろうか。

それ以上聞いても答えは得られそうになかったので、そうなんですね~とだけ返事をしておいた。

そうこうしている内に1Fの正門玄関前に到着した。

中庭側のドアの前に立ち、鍵を開けようとして…

「…ん、あれ…?」

ぐっ…ぐっぐっ…

鍵が硬くて回らない。

錆びてるって感じじゃない。まるで時間が止まってるみたいに、びくともしない。

「どしたの?黒ちゃん」

私の後ろで待っていた白が、横から顔をのぞかせてきた。

「なんか、鍵が開かなくて」

私がそう言うと、白が開けようとする。

ぐっ…ぐぐっ…

「ホントだ、かったいね…建付けが悪いのかな…それとも錆びてる?」

私で開かなかったんだから、ひ弱な白じゃもっと無理だろうな。

「鍵開かないの~?じゃあ他のとこから出よっか~」

先輩がそう言うので、私達は別のドアへ向かうことにした。


*****


結論から言うと、他のドアも開かなかった。

私達はドアを一つ一つ調べて北校舎の東側の端まで来ていた。

けれど、道中のドアも、窓も、開けられなかった。

私達の握力が足りないから開かないとか、そういう感じじゃない。

鍵も、ドアや窓自体も、張りぼての偽物みたいにビクともしなかった。

「ん~?おかしいね~どーして開かないんだろ~?」

「困りましたね…どうしましょうか…」

先輩と私は頭を悩ませていた。

すると、白がおもむろに口を開いた。

「『フミツキさんの鬼ごっこ』…」

「え?」

私は白の方を振り返る。

「フミツキさんとの鬼ごっこは夜が明けるまで続く。その間、校舎からは出られなくなる。

フミツキさんの噂の一つ」

白は、これがフミツキさんの仕業だと言いたいらしい。

私達はもう、巻き込まれているのだと。

そんな訳が無い…と思いたかったけど、何かおかしなことが起きて、校舎から出られなくなっているのは事実だ。

私は何も言い返すことが出来ないでいると、続けて白が言った。

「ともかく校舎からは出られない訳だし、とりあえず図書室にでも戻って作戦会議しよっか」

白の提案により、私達が図書室に戻ろうとして、後ろを振り返った時、

「~♪」

鼻歌が聞こえた。私たちの誰でもない。廊下の向こうからだ。

その声の方に視線を向けると、知らない女子が、こちらに向かって歩いてきていた。


*************************************

~フミツキさんの鬼ごっこ~

22:35


私達の前には、鼻歌を歌いながら近づいてくる女子が居る。

胸くらいまであるストレートな黒髪を歌声と共に左右に揺らしながら、赤い瞳でこちらを見つめている。

身長はあやね先輩くらい(150cmくらい?)だろうか。

今は夏だというのに、冬服のセーラー服を着ていた。

あやね先輩の様に居残っていた生徒、な訳ないよな…。

こんな時間にこんな所で鼻歌歌ってるような奴が、まともな奴なはずがない…!

「逃げるぞ!」

私が白と先輩に声を掛けて、逃げようとしたその時、

「待って待って、ちょっと待って!」

鼻歌を歌っていた女子がこちらに声を掛けてきた。

先ほどまでの怪しげな空気のなくなった、普通の女子がそこにいた。

「耳を傾けてくれてくれてありがとう。初めまして、私がフミツキさんだよ」

そう言って、フミツキさんを自称する女子が近づいてきた。

「ちょっと待て。話があるんなら聞くから、そこで止まれ」

相手との距離は15メートルくらい離れている。

会話をするにはやや遠かったが、相手は七不思議を自称するような相手だ。

ただのやばいヤツにしても、本当の七不思議にしても、警戒するに越したことはない。

私は白の前に出て、近づいてくるフミツキさん(仮)を牽制する。

敵意のないフリをして近づいてきて、はいアウトーなんてされたらたまったもんじゃないからな。

そんな風に私が警戒心をあらわにしていると、白が話しかけてきた。

「ねぇ黒ちゃん、あの子の足元、見て。」

…?言われて、私は目の前の女子の足元を見る。

別に何もない。何も……いや、そこで私は気が付いた。

月明かりに照らされた彼女の足元に、あるはずのものが、そう、影が、ないことに。

信じられないし信じたくないけれど、本物のフミツキさん、なのかもしれない。

少なくとも普通の少女ではないようだ。

「フミツキさんだよ!フミツキさん!待ちに待った本物の怪異が、今、わたし達の前に!えへ、えへへへへへへ…」

白の言動も気になるが、今はそれどころじゃない。

白の話では、フミツキさんってのは確か…!

私は、自分の足元を確認する。

影は、運のいいことにフミツキさんが居る方とは反対方向、私の後ろに出来ていた。

フミツキさんは影鬼を仕掛けてくる怪談らしいから、影の位置に気を付けておいた方がいいだろう。

そんな風に私がフミツキさんを警戒していると、

「や、そんな怖い顔しないでよー。危害加えるつもりなら、ばれないようにこっそり近づいてるって」

フミツキさんはこちらの警戒を解くようにパタパタと手を振っている。

「ねぇねぇ黒ちゃん、ああ言ってることだし、そんなに警戒しなくてもいいんじゃない?」

白が目をキラキラさせながら私の袖を引っ張ってそう言ってきた。

前方に顔を向けると、眉を八の字にして人差し指を擦り合わせながら、こちらの様子を窺がっているフミツキさんがいる。

一見、危険な雰囲気は感じられない。

……………はぁ…。

「わかったよ、もうちょっと近づいて良いよ。ただしこっちに触るのはなしな」

フミツキさんの表情が明るくなる。

「ふふ…ありがとう、わかってくれたようで嬉しいよ」

フミツキさんが距離を詰めてくる。

「まぁ、廊下で立ち話もなんだし、そうだな、理科室ででも話そうよ」

そういうとフミツキさんは、理科室の中に入っていった。

私達も後に続く。

自分の影の位置に気を付けながら。


*************************************

~フミツキさんの鬼ごっこ②~

22:40


理科室に入ると、フミツキさんが教卓の上に足を組んで座っていた。

席に着くように促されたので、私達は出入り口から一番近い椅子に座ることにした。

私と白が廊下側、机を挟んで私の対面の位置にあやね先輩が座った。

私は机の影でこっそりとリュックからバットを取り出し手に持つ。

いざとなったらこれでフミツキさんを「やる」しかない。

隣に座った白が、バットを見つめてなんとも言えない表情をした後、目線を外していた。

もしもの時はぶん殴る気なんだろうなーって思ってそうだな。そうだよ。

ともかく、私達三人は席について、フミツキさんの方を見る。

フミツキさんが話し始める。

「ん…と、まずは、話を聞いてくれてありがとう、かな。

ルール説明しようとすると逃げ出す子ばっかりでさ。こっちは親切に教えてあげようとしているのに。」

あたし程優しい怪談はいないんだよ?とフミツキさんは語る。

その後、フミツキさん自身によるルールの説明が続いた。まとめるとこうだ。


・私達はこれからフミツキさんと影鬼をする。強制であり、拒否はできない。

・影鬼中は校舎から出られない。

・影鬼は日の出まで続く。

・フミツキさんに影を踏まれると、影を奪われる。奪われた人は、その場で30秒間立ち止まらなければならない。

・フミツキさんの影を踏み返すことで影は取り返せる。取り返されたらフミツキさんは30秒間立ち止まる。

・日の出の瞬間に影を持たない者は次のフミツキさんに、持つ者は校舎から解放される。

・鬼ごっこ中、校舎の出入り口以外のドアは開錠されている。

・ドアの鍵を閉めて閉じこもるのは禁止。

・最初に、逃げる時間を1分間与える。


ルールはこんなところかな、と言いながら、フミツキさんは続けて言う。

「それで、何か質問はある?今だけなんでも答えてあげるよ」

私は、フミツキさんに少し時間をくれと伝えて、白とあやね先輩と話し合うことにした。

「どうしますか?」

「ん~?そうだね~僕は特にあの子に聞きたいことはないかな~二人に任せるよ~」

先輩はこんなときでものんびりとしている。私は白の方を見る。

「そう、だね。ちなみに、さっきの説明はわたしが事前に調べた内容とほぼ一致してたから、嘘はないと思うよ」

ただいくつか聞きたいことはあるかな、と白はフミツキさんに向けて手を挙げる。

「はい質問。どうしてこんなに丁寧に説明してくれるんですか?」

「良い質問だね、それはね、君達が久しぶりのお客さんだからだよ!」

フミツキさんが言うには、最近は夜の校舎に入り込む子は珍しいらしい。

昔はルール説明なんてせずいきなり襲っていたけど、時代のニーズに合わせたとかなんとか。

よくわからないけれど、そういうものなのだろうか。

「なるほどなるほど。じゃあ次の質問、影を持ったまま日の出を迎える、以外の勝利条件はあるの?

例えば、今この場であなたをぼっこぼこにしちゃうとか」

これに対して、フミツキさんは一瞬キョトンとした後、

「ふ…あははははは!!怪異に対して暴力かい?君面白いこと言うね、嫌いじゃないよ?」

大笑いしていた。ツボに入ったらしい。

「ふふ…あーおっかし!で、えと、暴力がOKかどうかだったね?

んーそうだね…怪談たるあたしに物理攻撃は意味がないんだけど…

まぁ一応、殴ったり蹴ったりは禁止にしとこっか。血みどろの殺し合いとかやだし。

あくまで平和的に鬼ごっこで遊びましょってことよ。

あ、ちなみに、あたしを捕まえて縛り上げるとかは、お互い怪我のない範囲でならいいよ」

捕まえられるものならね、とフミツキさんは言う。

その発言を受けて、私はこっそりバットをしまう。

多分白の質問は、私がバットを準備してるのを見たからだろうな。

「ふむ…わかりました、ありがとう!」

白はそれ以上質問がないようだったので、私はそれなら、と白と先輩に提案をした。

「私は質問ない、けど、今後の方針、みたいなのを今の内に決めときませんか?まとまって逃げるかバラけて逃げるか、とか」

「そうだねぇ…う~んと、まずはバラバラに逃げた方がいい、かな?それで、時間と場所決めて1時間後とかに再集合しようよ」

白の提案を受け、私は考える。多分この3人の中で一番足が速いのは私だ。

私一人で逃げるのが一番速いといえば速い。

現状最悪の展開は、3人全員が影を奪われてしまうこと。

もしそうなったら、フミツキさんは奪った影を奪い返されないように逃げ回るだろうから、捕まえるのが難しくなる。

ここでふと疑問が沸いたので、私はフミツキさんに質問した。

「影を奪われた人と取り返す人って一緒じゃないと駄目なのか?例えば白が影を踏まれて、私がフミツキさんの影を踏んで取り返すとかは…」

「白っていうのは、そこの白髪の子のことかな?影は本人しか取り返せないよ。白ちゃんの影を君が取り返すことはできない」

出来ないのか…じゃあやっぱり、白の言う通り3人バラバラで逃げた方がよさそうだ。

「そうだな…白の提案で行こう、あやね先輩もそれで良いですか?」

私は先輩に確認する。

「わかった~おっけーだよ~」

先輩の了解も得られたので、フミツキさんに聞かれないように小声で話し合い、再集合する時間と場所を決めた。

「話し合いと質問はそろそろ良いかな?」

私達が話し終わるのを見計らって、フミツキさんから声が掛かる。

「ああ」

「大丈夫だよ!」

「もういいよ~」

私達はそれぞれ返事をする。

「じゃあ三人がこの部屋を出たところから、スタートね」

どうするべきか…教室が開いてるなら、隠れてやり過ごすのも難しくないんじゃないか…?

考え込んでいると、白にグイグイと背中を押される。ちょっと待てって、ああもう。

そうこうしながら、私達は理科室を出る。

考えてても仕方ない、とにかく動くしかない、か。

私達は、3人バラバラに走り出した。私と白が東側に、あやね先輩が階段の方に走り出す。

後ろから、フミツキさんの声が聞こえる。私は、走りながら後ろを振り返る。

フミツキさんは、逃げる私達に聞こえるように語る。

「いくつかルールを説明したけど、大切なことは一つだけ」

フミツキさんは、笑みを浮かべた口元に、人差し指を添えて告げる。


「あたしから逃げろ」


「さぁ、明日を懸けた鬼ごっこ、スタートだよ」

フミツキさんとの影鬼が、始まった。


*************************************

~フミツキさんの鬼ごっこ③ -side 雪- ~

23:00 -日の出まであと6時間-


私は、白とあやね先輩と別れた後、まずは距離を取ろうと考えて2Fに上がってきた。

3Fまで上らなかった理由は、3Fには家庭科室があるからだ。

あそこにはなるべく近づきたくない…。

道中移動しながら考えた結果、闇雲に動き回るよりどこかに隠れるべきだろうという結論に至った。

なので、ちょうど目の前にあった音楽準備室に隠れることにした。

隣に音楽室があるのは気になったけど、白の話によれば『ひとりぼっちのなんとか(忘れた)』は無害な七不思議らしいから気にしないことにした。

フミツキさんが影鬼開始直前に言っていた通り、音楽準備室のドアの鍵は開いていた。

ドアを開けて音楽準備室の中を見てみると、暗かった。

今日は月の光が明るい夜だけれど、準備室は窓の位置や教室の場所が悪く光が届いていないようだ。

私は懐中電灯を取り出して電気をつけてから、中に入りドアを閉める。

明るすぎるとフミツキさんに見つかる可能性が高まるので、明るさを絞って最小限の光にする。

「よしっ…と」

準備室の中に光を向けると、当たり前だけど色々な楽器が置かれていた。

壁際の棚には太鼓のような楽器、その手前には鉄筋と木琴が布を掛けて置いてあって、床にはトロンボーンとかが入ってるだろう黒いケースが沢山置いてある。

私は楽器ケースを踏まないように足元に気を付けて奥に進む。

楽器とケースの間に人ひとり入れそうなスペースを見付けたので、そこに隠れることにする。

入口からも見えにくい位置なので、外から見てバレることはないだろう。

ちょっと狭いが仕方ない。

私は懐中電灯の光を消して、体育座りのような格好で身を隠す。

「ふぅ…」

ここまで緊張しっぱなしでちょっと疲れた。

日本人形とかフミツキさんとか、七不思議なんてただの嘘の噂話だと思ってたのに、ほんとに実在するなんて。

はぁ、やだな。本当は私は怖いのはあまり好きじゃないんだ。

白の手前強がっていたけれど、こうして一人になったら怖い気持ちが強くなってきた。帰りたい。

帰るどころか、校舎から出られねーんだけど。

ま、とにかく集合時間までは息を潜めて隠れとくしかないな…

そう思ってしばらくおとなしくしていたけれど、

なんだか、眠くなって、

きて、しまって…


*****


「ん…?………………っ!」

私はふと目が覚めた。隠れていたらいつの間にか寝てしまっていたらしい。

しまった、時間は何時だろう。

私達はさっきの話し合いの時に、0時に図書室に集まろうと決めていた。

私は腕時計で時刻を確認する。


-23:40-


よかった。集合まではまだ時間がある、と私がホッとしていると、

「~♪」

…!廊下から何か聞こえてきた。

これは…誰かの歌声だ。

白やあやね先輩…じゃないだろうな。

そんな風に思っている内にも、歌声は少しずつ近づいてきた。

フミツキさんの声だ。

私は息を押し殺す。

「~♪~~♪」

歌声が近づいてくる。


ガラガラガラ…


フミツキさんが音楽準備室に入ってきた。

「誰か居ないかな~」

私は必死に息を殺し続ける。

フミツキさんの足音が、気配が近づく。

どうか、どうか気付いていませんように。

「ふふ…そこに居るのは分かってるよ?」

!!!私の心臓がバクバクと鳴る。

気付かれた気付かれた気付かれた!!!

どうすれば、っどうすればいい、今から逃げ、いや、フミツキさんが入り口側に居る以上逃げられない

こわいこわいこわいこわいこわい…

パニックになった私は、ただ息を殺し続けることしか出来なかった。

私が必至で気配を消していると、

「な~んてね、ここには居ないかー残念」

そう言うフミツキさんの声が聞こえた。

どうやらさっきのはブラフだったらしい。

フミツキさんはドアを開け、音楽準備室から出て行った。

足音が遠のいていく。

…………………行ったみたいだ。

私は大きく息を吐く。

っあー…心臓に悪い…なんで私がこんな目に…。

心臓と呼吸を落ち着かせつつ時間を確認する。


-23:50-


良い時間だし、フミツキさんと鉢合わせないようもう少し待ったら移動しよう。


*************************************

~フミツキさんの鬼ごっこ④ -side 白- ~

23:00 -日の出まであと6時間-


一方その頃、白は学校を散策しているのであった。

というわけで、ここからのストーリーテラーは、お久ししましての白だよ!

はい!やっていきます!

…ツッコんでくれる人がいないと寂しいなぁ。まぁしょうがないや。

んで、こういう場合はとりあえず隠れるべきなんだろうけど、それじゃあ面白くないよねぇ。

せっかくなので学校を散策します!

と意気込んでわたしは、とりあえず適当に歩くことにした。

「どっしよっかなー」

しばらく適当に歩いていたら、「そこ」に、辿り着いてしまった。

そう、職員室に!!

え、もしかしてここも入れるのかな?お邪魔しまーす。

いやー、普段職員室に無断で入る機会なんてないからちょっとワクワクするな~。

待って、今ならテストとか盗み放題なのでは…?

でも流石にそんなことは…いや、いやいや…しない…よ?

ちょっとだけ葛藤があったけど、机とかを眺めるに留めたおいた。えらい。

あけみ先生の机はピンクが多いなぁ。かなえ先生の机には書類がたくさん積まれている。

さなだ先生の机はペンとか缶とかごちゃっとしてて汚ないなぁ。ちゃんと掃除しないと駄目ですよ?

うーん、面白いは面白いけどちょっと飽きたな。

んむ…移動しよう。

わたしは職員室から出た。

視界に校長室を見つけた。

呼由奈、行っきまーす!!

ガチャ。

私は校長室の扉を開けて中に入る。

おお…!校長室って初めて入るなぁ。

壁際にはトロフィーとか表彰状とかが置いてある。

部屋の中央にガラス製の机と、それを挟んで向かい合ったソファがある。

その奥の窓際に、校長の机と椅子があった。

わたしはその椅子に座ってみる。おお…フカフカだ…!悪くないですねぇ。

ふぅ…ちょっと小腹が空いたなぁ。

そう思ってわたしは、事前にコンビニで買っておいた夜食を取り出す。

焼きそばパンとサンドイッチだ。

校長先生の椅子で食事をできる日が来るなんて思ってなかったなぁ。

わたしは椅子をくるくる左右に揺らしながら、夜食を楽しむ。

んー優雅。

もぐもぐ。

……もぐ……………もぐもぐ…………もぐもぐもぐ……………。

ふぅ。

満足したわたしは、ごみを片付けて校長室を出ることにした。と、

「~♪」

廊下から歌声が聞こえてきた。フミツキさんかな?

どうしよー。

影を奪われてみたいって気持ちもあるけど、鬼ごっこは真剣にしなきゃという気持ちもある。

う~ん。う~ん。わたしは体をくねらせる。

だけど困るなぁ。隠れるところがない。

どうしよう、机の下なんて隠れても確実にバレちゃうよなぁ。うーん…ハッ!こういう時は!

わたしは隠れた。


ガチャ


うっわ、ホントに来た。どうか見付かりませんように。見付かっても構いません。矛盾。

「誰か居ませんかー」

フミツキさんが校長室に入ってきた。

ドキドキ…

「っかしーなぁ。さっきから全然見付かんない…白ちゃんも黒髪の子も一体どこに行ったんだろう」

私の所からはフミツキさんが見えないけど、校長室の中を探しているらしい。

「流石に校長室に隠れるような子は居ないか~」

フミツキさんが出ていく。

わたしはどこに隠れていたかというと、開いたドアと壁の間に隠れていた。

ドアを開くことで死角になる位置だ。

気付かれなくてよかった~。

ドキドキして面白かったー、しばらく待ったら移動しよーっと。


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~フミツキさんの鬼ごっこ➄ -side あやね- ~

23:00 -日の出まであと6時間-


はいは~い、ストーリーテラー、代わりましてあやねちゃんですよろしくね~。

今日は月が奇麗だな~告白じゃないよ?

こゆなちゃんもゆきちゃんもどっか行っちゃったし、どこに行こうかな~。

ふみちゃんと鬼ごっこなんて初めてだけど、がんばろ~っと。

てってってっ…

普段あんまり走ることってないけど、たまには体を動かすのもいいかも~。

ちょっと走ったら疲れてしまった。

「はぁ…はぁ…は…ちょっと休憩~」

僕はふうと息をついて、廊下にペタンと座り込む。

ふみちゃんは、追ってきてないな~。一人で走っててもつまんないよ~。

僕がしばらく休んでいると、どこからか、カッポカッポという馬みたいな足音が聞こえてきた。

「お馬さんが居るの~??」

音に耳を澄ませてみると、廊下の曲がり角の先から聞こえてきている…気がする。

じっと曲がり角を見ていたら、黒い影が現れた。

「にゃーん」

ねこさんだった。奇麗な黒猫。

「ねこさんだ~!ほらほら、こっちおいで~」

僕がしゃがんで手を振ると、ねこさんがこっちに近づいてくる。カッポカッポと足音が鳴る。

「?う~ん?ねこさんってそんな足音だったっけ~?まいっかぁ~」

カッポカッポ。にゃーん。

ねこさんが僕の足元まで来てくれたのでなでなでする。

「んな?」

なでなでなでなで。

ねこさんは気持ちよさそうにしている。

「かわいい~」

なでなで。

ねこさんかわいい。

なでなでなで。


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~フミツキさんの鬼ごっこ⑥ -side 黒- ~

0:00 -日の出まであと5時間-


ストーリーテラー戻って黒だよ。

0時に一回集まることになっていたので、私は今、図書室に来ている。

隣にはあやね先輩も居て、後は白の到着を待つのみだ。なでなで。

図書室の中は月明かりが届いていて明るかったので、懐中電灯は点けていない。

なでなで。

……。

なでなでなで。

「あの、あやね先輩」

「ん~?なぁに~?」

「えと、その猫はなんですか?」

あやね先輩は、椅子に座って自分の膝の上にまるまった黒猫を抱えていた。

黒猫は先輩に頭を撫でられて気持ちよさそうにしている。

「んとね~、走ってて、疲れて休んでたら、寄ってきてくれたんだ~」

先輩は黒猫の頭を撫で続けている。かわいい。

「あの、私も撫でていいですか」

我慢できずに聞いてみる。

「ん~ねこさんに聞いてみよ~良いかな~?」

文音先輩に声を掛けられて、んにゃ?と首を傾げる黒猫。

じっと私の方を見つめた後、んにゃ。っと納得したような声を発しながら首を小さく縦に振る。

言葉が分かっているのだろうか。

「これは…触っていいってことですかね」

「ん~良いんじゃないかな~」

私は恐る恐る黒猫の頭に手を伸ばし、優しく撫でる。

黒猫は満足げな表情をしている…気がする。かわいい。

そんな風に私と先輩が猫を愛でていると、白が到着した。

「よっすよっす~無事かね諸君~」

「ん、白も影は取られて…ないみたいだな」

誰も影を取られていないようで一安心だ。

話をまとめると、私と白はフミツキさんと遭遇しかけたけど見付からずに済んだ、

あやね先輩は会うこともなかったらしい。

「始まったばっかりだからか、フミツキさんものんびり探してる感じがしたよ」

と白が言う。

「そうだな、私んとこに来た時なんて鼻歌歌ってたし、まだ本気出してないと思う」

「それはそうとわたし、その黒猫が気になるんだけど。あやねちゃん、ちょっと見せ「フシャー!!」ぎゃーす!」

白が黒猫に手を伸ばすと、ものすごい剣幕で黒猫が威嚇した。

先輩が黒猫をよしよしとなだめると、大人しくなる。

白が手を伸ばす。フシャー!!

何故か白は黒猫に嫌われているらしい。

とにかく、と私は空気を切り替える。

「三人とも影は無事だったわけだし、早いとこ次の集合場所決めて解散しよーぜ」

こくっ。白と先輩が同意する。

「じゃあ――――――――――」

―――――――。

私達は次の集合場所を決めて、バラバラに図書室を出て行った。

ちなみにあやね先輩はすやすや眠っている黒猫を抱えたままだった。

ずっと連れてくつもりなのだろうか?


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~フミツキさんの鬼ごっこ⑦ -side 黒- ~

0:10 -日の出まであと5時間50分-


はい、引き続き黒です。

私は今、次は職員室にでも隠れようと考えて1Fに降りてきていた。

職員室は机が多いから、もしフミツキさんが来ても上手いこと撒けるんじゃないかと思ったのだ。

足音に気を付けながら移動して、何事もなく職員室に辿り着けた。

職員室のドアを少し開けて中を見る。

フミツキさんは…居ないな、よし。

私は職員室の中に入って、ドアを閉める。

「…ふぅ」

自分の足音に気を付けてフミツキさんの足音に耳を澄まして…廊下を移動するときが一番緊張するな。

とりあえず、西側と東側、どっちのドアからフミツキさんが入ってきてもいいように職員室の真ん中あたりまで移動する。

この辺でいいか。私は適当な机の影に座る。

ちょうど月が見えた。月が見えるってことは、今私の影は後ろにあるってことだ。

こっそり踏まれたりしないように気を付けよう。

そう思って私は、後ろを振り向いた。

私の影は机の影に混ざってしまっていてどこにどうあるかよくわからなくなっていたけれど、まぁ大丈夫かな。

そう思っていると、ふっと辺りが暗くなった気がした。

いったい何がと思って前に向き直ると、和服を着た西洋人形が立っていた。

「…………っっきゃああああああああああああああああああああああ!?!?!?!??!?」

なん、え、は、は!?は!?!?は!?!?

なんで!?なんでこいつここに居んの!?!?

私は動揺しまくりながら全力最速で立って走って逃げた。

こわいこわいこわいこわいこわい!なんだよあいつふざっけんな!!

職員室のドアをバアンと勢いよく開けて、私は全力で走る。

廊下の曲がり角に差し掛かろうとしたその時、

「やっと見つけた!」

曲がり角からフミツキさんが現れた。

「ふざけんじゃねぇ!!」

私は恐怖がピークに達して半泣きでブチ切れた。

「ええ!?ご、ごめんなさい!?」

フミツキさんが謝ってきた。

ここで私はほんの少しだけ冷静さを取り戻せた。

職員室には戻れない、前方にはフミツキさん。

幸い影は今、私の左側にある。

職員室の方に戻るのは嫌だったが、全力で通り過ぎれば大丈夫と判断して、方向転換して走る。

「あっ!ちょ待っ」

私に怒られて驚いていたフミツキさんが、私が逃げたのに気付いて私の後を追ってきた。

私は走りながら後ろを見る。

私の方がフミツキさんよりもほんの少しだけ足が速いようだった。

このまま逃げれば逃げ切れる。

ある程度離したらどこかの教室に逃げ込もう。

そう思って視線を前に戻すと、眼前の廊下に『家庭科室の日本人形』が立っていた。

「いやあああああああああ!?!!?」

勢いの付いた私はもう止まれなかったので、叫びながら『日本人形』の横を通り過ぎた。

『日本人形』は特に何もしてこなかった。

私はそのまま全力で階段を駆け上がったり廊下を走ったりして、ひたすら逃げた。


*****


「はぁ…はぁ…はぁ…は、ふー…ふー…ふー…」

つっっっっかれたぁ…。

なんで私がこんな目に…。

私は結局、走りまくって3Fの3-5隣の空き教室まで逃げてきていた。

ここは使われてない机がいっぱい置いてあって、ごちゃごちゃしているけど隠れやすい場所だ。

私は机の影に隠れて、心臓と呼吸を落ち着ける。

冷静になってきて、思う。

え、なんで2体同時に来んの?

いや、そうか、私が叫んだから気付かれたのか、そりゃそうだ。

でもなんか、挟み撃ちはズルいというか、『家庭科室の日本人形』はホントに怖いんだって。

直立の姿勢で無機質な瞳で何も言わずじっと見つめてくるのは心臓に悪いんだって。

はあーホント、勘弁してほし「ねぇ」

「きゃああんむぐ…んーんー!」

いつの間にか隣に立っていた何者かに口を塞がれる。

「静かに~ふみちゃんに見付かっちゃうよ~?」

!この声と話し方は…私は声の主を見る。

「んんんんっんー!(あやね先輩!)」

先輩が私の口から手を放す。

「す、すみません、まさか誰かいるとは思ってなくて…」

「僕こそ驚かしちゃってごめんね~?雪ちゃんがここに入るのが見えたから、追ってきたんだ~」

先輩は怒った様子はなく、ほんわかとした笑顔を浮かべていた。

「それで~どーしてあんなに必死に走ってたの~?」

「それが…」

私はさっき会ったことを順番に話した。

「んえ~そんなことが~大変だったんだね~よしよし~」

先輩が私の頭を撫でる。なでなで。

恥ずかしかったけれど、あんまり悪い気はしなかったのでされるがままにされておいた。

普段の私なら避けてただろうな。心が弱ってるのかもしれない。

「でも~お人形ちゃんはいつの間にか近くに居るだけで~何にもしてこないから怖がらなくて大丈夫だよ~?」

「そうなんですか…?いや、なんでそんなこと知って…」

そこで私はふと気付く。

「あれ?あやね先輩、黒猫はどうしたんですか?」

先輩の手には、さっき抱えていた黒猫の姿がなかった。

「ん~走ってる途中で起きてどっか行っちゃったんだ~」

しょぼんとするあやね先輩。

「そうなんですね。きっとまたそのうち会えますよ」

「そうかな~そうだといいな~」

ほんわか笑うあやね先輩。

というか、校舎は今、脱出不可能になってるから黒猫も出られずに彷徨っているんじゃないかと思う。

閉じ込めている張本人であるフミツキさんが見付けて外に逃がしたりしない限りは。

「さてさて、じゃあ僕はそろそろ行くね~ゆきちゃんはもうちょっと休んでるといいよ~」

あやね先輩は、さっきから私の頭を撫で続けていた手を離して立ち上がる。

「はい、その、気を付けてくださいね」

「ありがと~ゆきちゃんも、一緒に頑張ろうね~」

てってってっと、あやね先輩が駆けていく。

私は、空き教室に一人になった。

隠れ場所としてはここも悪くはないけれど、広さが少し心許ない。

西側のドアと東側のドアの距離が近いため、フミツキさんが入ってきたら追い詰められてしまうだろう。

もう少し休んだら移動しよう。


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~フミツキさんの鬼ごっこ⑧ -side 白- ~

0:30 -日の出まであと5時間30分-


それではお送りしていきます、白です。

現在私は何をしているかというと、フミツキさんから逃げています。

違う違う、鬼ごっこしてるってことじゃなくて、いやそうなんだけど、違って。

今まさに、後ろから追ってきてるんですよね。

やべーですよ。

白黒コンビにおいて私は頭脳担当だというのに、前線に駆り出されるだなんて、

肉体担当は何をしてるんだ!(多分黒ちゃんに言ったら怒られる)

冗談はともかく、普通にまずい。

こうしてる今もどんどん距離を詰められてる。

フミツキさんはわたしより足が速いので、このまま逃げていてもいずれ捕まるだけだ。

とりあえず、どこか広くて障害物がいっぱいあるような部屋に逃げ込まねばなるまい。

ふっふっふっふ、頭脳担当を甘く見るでないよ。

その頭脳を活かせる環境さえあれば、フミツキさんの一人や二人、容易く撒くことができガッ

あ。

ずっしゃああああああ…

わたしは、普段の運動不足が祟ったのか、何もない所で盛大に足をもつれさせて転んだ。

うわ……はっず…。


タタタタタタタ。


「えと…大丈夫?」

わたしが転んでいるうちに追いついたフミツキさんが、わたしに手を差し伸べる。

凄く気まずそうな表情をしている。そんな目で見るのはやめてほしい。

あと、フミツキさんはガッツリわたしの影を踏んでいた。抜け目ない。

「可哀想だけれど、勝負は勝負だから、影をもらうね?」

わたしの哀れさに免じて見逃してくれないかなーなんて思ったけれど、慈悲は無かった。

「それはそうと、怪我はしてない?保健室に行けば簡単な応急処置くらいはしてあげられるけど」

フミツキさんが優しい。

七不思議ってこんな感じだったかな?

もちょっと無慈悲なイメージだったんだけど。

「いや、大丈夫です…」

派手に転んだ割には擦り傷もなく、わたしは無傷だった。

フミツキさんの手を借りて立ち上がる。

「そう?ならよかった。じゃあ、ルール通り30秒数えてから動き出してね、あと、足元には気を付けるんだよ?」

そう言ってフミツキさんは手を振りながら去っていく。

わたしは自分の足元を見る。

私の足元からは、影が無くなっていた。

こうしてわたしは、影を奪われた。


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~フミツキさんの鬼ごっこ⑨ -side 黒- ~

1:00 -日の出まであと4時間-


私は今、3Fにあるパソコン室に向かっている。

1時にパソコン室で集合することになっていたからである。

空き教室であやね先輩と分かれた後、私は教材室に移動した。

フミツキさんが一度だけ教材室の前を通ったが、中まで入ってこなかったため息を潜めてやりすごした。

色々あったけれど、ここまではなんとか順調だ。

どうかこのまま、何事もなく日の出を迎えられますように…!

そんな風に考えながら、私はパソコン室へとたどり着いた。

音を立てないように慎重にドアを開け、中を確認する。

物音は…しない。人影も…ない。

よかった、フミツキさんは居ないようだ。

白やあやね先輩は隠れているのか、まだ来ていないのか。

ともかく、安全を確認してパソコン室の中に入る。

それから5分程待っていると、白とあやね先輩が到着した。

白が開口一番、

「影取られちゃったー」

とのんきな声で言う。

白の足元を見ると、確かに、月明かりと反対側にある筈の影が無かった。

…フミツキさんに影を踏まれると、本当に影を取られるようだ。

私は、チラと先輩の方に視線を向ける。

先輩の影は…あった。良かった。

私は白に声を掛ける。

「そっか…ま、取られちまったもんはしょうがないよな、取り返す作戦を立てないとな」

白に話を聞くと、フミツキさんは白よりも足が速いようだ。

白が真正面から追いかけてもフミツキさんに逃げられてしまうだろう。

私が代わりに取り返せればいいんだけど、取られた影は本人しか取り返せないルールだ。

というわけで、私達は策を練る。

ああでもないこうでもないと話し合い、ちょうど結論が出たタイミングで、


ガラガラガラ


パソコン室のドアが開く。

フミツキさんが入ってきた。

ナイスタイミング…ではなかった。

白の影を取り戻すためにはまだ準備が整っていない。

私達は指で示し合って、静かにフミツキさんが入ってきたのとは反対側のドアへと移動する。

まだバレていないようだ。

このまま…このまま静かに…

私達はそろそろと移動する。

そうして、バレずにドアまで辿り着けたけれど、ここからが問題だ。

流石にドアを開けたら音がするし、バレる。

私達はドアを開けたら全速力で逃げることにした。

「よし、行くぞ、せーの!(小声)」

ガラガラバターン!

私達は勢いよくドアを開けて、全速力で駆け出した。


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~フミツキさんの鬼ごっこ⑩ -side 黒- ~

1:20 -日の出まであと3時間40分-


私達は、走っていた。

私の後ろから白が、その更に後ろからフミツキさんが追ってきている。

あやね先輩は逆方向に逃げたようだ。

私達は階段まで逃げてきた。

階段は上と下に伸びているけれど、上は屋上で逃げ場がなくなるはずだ。そもそも屋上への扉は開いているのか分からない。

そう考えて私は下に降りようとし、視線を屋上へ続く階段から2階へ続く階段に向けると、

階段の真ん中に、『家庭科室の日本人形』が立っていた。

「またこのパターンかよぉぉぉぉぉぉぉ!?!?」

私は思わず勢いよく方向転換して、上へ駆け上がる。

「え!黒ちゃん、この先屋上だよ!?」

白が驚きの声を挙げながらも付いてくる。

だってそんなこと言ったってしょうがないだろ私あれだけは無理なんだよ怖すぎるんだってあいつ!!

私は心の中で反論しながら必死で階段を駆け上がる。

目の前に屋上への扉が迫る。

私は駆け上がる勢いのまま、扉のドアノブに手を掛ける。

ガチャ。開いた。

そのまま勢いよく屋上に出る。一拍遅れて白が続く。

屋上には初めて入ったので、物の配置が分からない。

私は辺りを見回して、隠れられそうな場所を探す。

早く、早くしないと、フミツキさんが追ってくる…!

だけど屋上は広いだけで何もなくて、隠れる場所なんてなかった。

完全に判断を間違えた。どうすればいい…!

私が焦っていると、白が気付く。

「ねぇ、フミツキさん追ってきてないよ?」

「え…?」

白が校舎の中を見ている。

私も白の後ろからのぞき込むと、フミツキさんは屋上に続く階段の手前で立ち止まってこちらを見ていた。

気のせいだろうか。何か言いたそうな表情をしているように見える。

ほんの少しの間そうしてにらみ合いを続けていると、やがてフミツキさんは根負けしたようにため息をついて何処かに行ってしまった。

諦めた…?

どうしてだろう。屋上までは追ってこれないのだろうか。

気になるとすれば、ルールの一つ、

・影鬼中は校舎から出られない。

だろうか。

屋上が校舎の内か外かと言われると微妙なところだ。

でも屋上に出てはいけないなんてルールはなかったし、そうだったら1Fのドアみたいに扉が開かないようになっている筈では…?

考えても答えは出なかった。

と、白が私の服の袖を引っ張る。

「ん?」

「ねーねー黒ちゃん、あっちになんかあるよ」

白が指差す方にあったのは、小さなプレハブ小屋だった。

距離が遠かったのでさっきは気にして見ていなかった。

「ほんとだ。隣のでっかいのは貯水槽っぽいし、その関係の建物じゃね?」

「ふーむ?よし、行ってみよう!」

「ちょ、白!」

白が駆け出す。私も後を追いかける。


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~空に歌う天使の絵画~

1:30 -日の出まであと3時間30分-


私と白は屋上の隅のプレハブ小屋の前に来ていた。

小屋の壁は真っ白で、小屋自体はあまり大きくなかった。

正面にスライドタイプのドアがついていた。

「よし、入ってみよう!」

ガラガラガラ…

白が開けようとしたら、簡単に開いてしまった。

中が真っ暗だったので、白は首に掛けたライトを点けて、明かりを小屋の中に向ける。

そこにあった物はたった一つだけ。

壁に設置されている木製の額縁と、その中に収められた絵画。

絵画は全体的に真っ黒に塗りつぶされていて、その中央の上側に、今夜のような満月が描かれていた。

私達二人は小屋の中に入って、しばらくその絵画を観察したけれどこれといっておかしなところはなかった。

「絵画…はあったけど、天使は描かれてないね?」

白が疑問を口にする。

「そう、だよなぁ。月が描かれてるだけで、他には何も」

私も同じ意見だ。

これが『空に歌う天使の絵画』…なんだろうか。それともこれは何か違う物…?

「う~ん、なんもないしもう戻…いや、待てよ。なぁ白、もうこのまま日の出までここに居たらいいんじゃないか…?」

ここに居ればなんでかフミツキさんは追ってこない。

ならこのまま屋上に居れば…いや、白が影を取られてるんだった。

「いや、そうかごめん、白の影を取り戻さないとな」

私は自分の考えを訂正する。

「ん~?そうだねぇ…わたしは戻るけど、黒ちゃんはここに居てもいいかもね?」

「え…」

私は白の提案に目を見開く。

「や、それは、でも、白一人じゃ影取り返すのは厳しいだろ?私も行くよ」

「…そう?でも、わたしの自業自得だし、無理しなくていいんだよ?

巻き込んだ身で言えることじゃないけど、黒ちゃんホントは怖いの好きじゃないでしょう?」

白は私に背を向けて満月を見上げている。

なんだか、いつもの白に比べて声に元気がない気がした。

「いい、行く。白がこのままフミツキさんになっちまうことの方が、私は嫌だから」

そう答えると、白が笑う。

「ふふ…黒ちゃんは優しいね、主人公みたい」

「はっ…なんだそれ。いいからほら、行こうぜ」

私は恥ずかしくなって、白に早く行こうと提案する。

私の言葉を受けてプレハブ小屋の外に出た白の後に続いて、私も外に出る。

と、私の目の前に、白い羽が落ちてきた。

…?

羽の落ちてきた方、空を見上げると、そこには、天使が居た。

「え…」

白く奇麗な長髪、髪色と同じ白くて長いまつ毛、そして、背から広がる純白の翼。

手を胸の前で組み、祈るように歌いながら空に浮かぶ天使が、居た。

「天…使…?」

私と同じく空を見上げながら、白が呟く。

天使がこっちに視線を向ける。

歌うのをやめて私達の目の前に降りてきた。

「あらあら、久しぶりのお客さんは随分と可愛らしいお嬢さん方ですわね?

初めまして。わたくしは、この中学校の七不思議の一つ、『空に歌う天使の絵画』。以後お見知りおきを」

天使が優雅な所作で礼をする。

友好的な七不思議…なのか?いや、油断は禁物だ。

警戒する私と対照的に、白は目をキラキラとさせていた。

「初めまして、わたしは華白 呼由奈です。天使様なんてわたし初めて会いました。とっても奇麗な翼ですね」

「あら、奇麗だなんて。フフ…ありがとう、あなたも可愛らしくて素敵よ」

親しげに話す天使と白。

「ねぇ呼由奈ちゃん、空を飛んでみたくはなぁい?もしよければ、抱えて飛んであげよっか」

「え!良いんですか!?」

「お、おい白…」

私は白に小声で話しかける。

「流石にやめといた方が良いんじゃないか?まだ安全な七不思議かも分かってないんだし…」

白が小声で返事をする。

「んー?大丈夫だよ~優しそうなお姉さんだよ?心配ないって!」

グッと親指を立てて見せる白。根拠がない…

「ほらほら、こちらにいらっしゃい」

天使が白を後ろから抱え上げる。

「行きますわよ」

翼を大きく羽ばたかせて、白を抱えた天使が空に浮き上がる。

「すごいすごい!天使様に抱えられて空を飛ぶなんて夢みたい…!」

白は、はしゃいだり、うっとりした表情を浮かべたりしている。

「フフフ…喜んでもらえて何よりですわ」

大喜びの白を見て、天使が優し気な笑みを浮かべる。

…本当に、無害な七不思議なのだろうか。

そうして私が、警戒心を解いてもいいかななんて考えていると、

「フフフ…このまま、天国に連れて行って差し上げますからね」

…?今、何か、不穏な言葉が聞こえた気がした。

「え…?あ、えと、天使様?そろそろ満足したので降ろしてほしいなー…なんて…」

白も同じく嫌な予感がしたのか、天使に降ろしてもらえるように頼んでいた。

「あらあら、そんな連れないことを言わないでくださいまし。大丈夫ですわ。死ぬ時は一瞬ですから」

「え…あ…」

「さぁ、わたくしに恐怖に歪む顔を見せて?死の間際の一番美しい悲鳴を聞かせてちょうだい?ウフフ…フフ…あはハハハはハハはははハハハははハハハ…!」

前言撤回。こいつは、やばいヤツだ。

「白!」

私は思わず白を見る。

白は…笑っていた。

「え…白…?」

普段の朗らかな笑顔とは違う、何か、少し怖い笑顔を浮かべていた。

狂気を孕んでいるような、希望と絶望が入り混じっているような、そんな顔を。

どうしてこんな状況で笑っていられるのか。

「あは…あはは…わたし、このまま□□に□されちゃうのかなぁ?あふ…ふへへへ…そっかそれも□□ないかもぉ…」

白が何かを言っているけれど、距離が遠くてよく聞こえない。

私に何かを伝えようとしているというより、独り言を言っているように感じた。

って違う、今はそれどころじゃない、白を助けなきゃ!

天使は白を抱えてかなり上空まで上がってしまっている。

もしあの高さから屋上や校舎の外に落とされたら…!

まずは天使の高度を下げさせなければ…そうだ…!

「や、やめろ!白を落とすんだったら、わ、私も一緒に落とせ!」

苦し紛れの提案だった。

とにかく天使を屋上に戻さなければと焦っていた。頼む…!

「あら、あらあらあらあら!そう、二人一緒が良いのね、仲が良いのね…ウフフフフフフフフフフ」

掛かった…!

天使は私の提案がお気に召したらしく、白を抱えて私の前に降りてくる。

「白を離せぇぇぇぇぇ!!!」

私は、無防備な天使に向けて、リュックから出していたバットを思いっきり振った。

バットが天使の右肩に直撃する。

「っっっあああああああああああああああああ!!?!!」

天使が絶叫して、白を抱えていた腕を離す。

「白、逃げるぞ!」

私は白に手を差し伸べる。

白は戸惑ったような表情を浮かべながらも、私の手を握る。

私と白は、校舎への入り口に向けて走り出す。

私は、逃げながらちらと後ろを振り返る。

「騙しやがったなこのクソガキがぁ!!ぶっ殺してやる!!」

天使がブチ切れていた。

さっきまでの優しい表情が嘘のように、鬼のような形相でこちらを睨みつけていた。

天使は翼を大きく羽ばたかせて、すごい速さでこちらに飛んでくる。

「ヤバい!白、白!もっと速く!」

私は前に向き直って、白の手を力いっぱい引っ張って全速力で逃げる。

「ふざけやがって!!ハラワタ引き釣り出して」

翼の羽ばたく音がどんどん近づいてくる。

急げ、急げ、急げ…!

すんでの所で私達は屋上の扉を通って校舎内に逃げ込んだ。


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~空に歌う天使の絵画②~

1:40 -日の出まであと3時間20分-


私達は、屋上で天使に追われて、校舎内に逃げ込んだ。

私は、その勢いのまま振り返って屋上の扉を閉める。

バァン!!!!!

天使が追い掛けてきた勢いそのままに扉に体当たりをしたのだろう。

強い衝撃が伝わってきた。

「開けろ!出て来いガキ共!クソが!クソが!どいつもこいつも邪魔ばかりしやがって!

あの忌まわしいガキさえいなければこんな扉なんぞ…!」

天使の怒りの声が聞こえてくる。私は必死に扉を押さえる。

だけど、天使は扉を蹴ったり罵声を浴びせるばかりで、一向に扉を開けようとしなかった。

どうやら、さっきのフミツキさんとは逆に、天使は校舎内には入ってこられないようだった。

しばらくドアを蹴りながら悪態を吐いていた天使だったが、しばらくすると諦めたようで、扉の前は静かになった。

私は念のため、扉に耳を当てて向こう側の様子を確認する。

音や声は…聞こえない。

ひとまず、危機は去ったとみてよさそうだ。

「あー…つっかれたー。白、もう大丈夫っぽいぞ」

私は、さっきから黙り込んでいた白に声を掛ける。

私が無理に引っ張って全力疾走したからバテているのかと思ったら何やら違ったみたいだ。

「…え?あー…うん!そうだね、良かったね!」

白は笑顔を浮かべているが、なんだかいつもよりも覇気がない。

残念な気持ちを必死に隠しているような、そんな笑顔だ。

………………………………………………………。

私は、踏み込むべきだろうかと考える。

思い返せば、今日の白はどこかおかしかった。

『フミツキさん』の話をした時も、『家庭科室の日本人形』に遭遇した時も、『空に歌う天使の絵画』に殺されそうになった今も。

なんて表現すればいいのか、危険を喜ぶような、破滅を歓迎するような、狂気的な一面が見えることがあった。

何か悩んでることがあるなら、苦しんでいることがあるなら、話を…

私なんかが、安易に踏み込んで、いいことなんだろうか。

……私が話を聞いたところで、何も出来ないかもしれないけど。

それでも、何か出来るなら、白の力になりたかった。


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~華白 呼由奈のねがいごと~

1:45 -日の出まであと3時間15分-


私は、意を決して白に質問をした。

「なぁ白、どうして、七不思議にそんなに執着するんだ?」

「え?あ、あはは、そりゃー未知なるものに興味を抱くのは人類として当然のことで…」

流石に誤魔化しているんだとわかる。

「白、本当は他に理由があるんじゃないのか?白が言いたくないっていうなら無理に聞くようなことはしたくない、けど。

私じゃ、力にはなれないか?」

「………………………………」

白は、少しの間考えるそぶりを見せた後、口を開いた。

「わかったよ。聞いてくれる?」

「ああ」

「まぁ…さ、そんなに重い話でもないんだけどさ。わたしね、双子のお姉ちゃんが居るんだ。

わたしのお姉ちゃん凄いんだよ?何でもできるの。

県で一番の私立の中学校に行ってるんだけど、部活の女バスでインターハイまで行ったし、

テストもいつも満点で、最近、生徒会長になったんだって」

白は、ゆっくりと自分のことを話してくれた。

「勉強も、運動も、全部全部、わたしよりできて、わたしはそれが羨ましくて。

どんなにわたしが頑張っても、追いつけなくて。それでも頑張ってきたんだけど、ある日思っちゃったんだ。

ああわたし、お姉ちゃんの劣化品なんだって。一生、特別な存在にはなれないんだって。

わたしは、いい子の振りをするしか能がない、無能。」

白は、少し辛そうな表情をしながらも、言葉を続ける。

「このまま一生、特別なわたしにはなれないんだったら、怪談に殺されるだなんて、特別な死に方も悪くないかなって、思ったの」

私は、白の話を黙って聞いていた。

これが白が今まで抱えてた、いや、今も抱えてる悩みなのか。

オカルトに執着してたのは、自分だけの『特別なもの』を求めてのことだったと。

「わたし、黒ちゃんのことも、羨ましいなって思ってたんだよ?」

「え?」

白が私を羨ましいって、なんで。

「わたしみたいに周りの顔色窺がってへらへらしたりしないで、一人で居ても堂々としてて、

ああこの子は自分をちゃんと持ってるんだな羨ましいなって、ずっとずっと思ってた」

ああ、そういうことか。だけど、違う。私は白の間違いを指摘する。

「違うよ白。私は一人で堂々としてたんじゃなくて、ただぼっちだっただけだよ」

「…え?」

「あーいや、私さ、小学校の頃、父さんの転勤と一緒に転校することが多くって。

友達が出来る度にお別れしてばっかで、もう友達なんてできなくていいやって思ってた、いや、強がってただけかな」

私は頬を掻きながら、照れ臭そうに話す。

「でもさ、白が話しかけてきてくれて、正直…なんだ、嬉しかったよ」

今まで、恥ずかしくて伝えたことのない気持ちを、伝える。

「なぁ白。なんにもできないなんてことないよ。少なくとも、私は白が居てくれたから、楽しかったよ」

…………恥ずかしいけど、白は、自分のことを話してくれたんだもんな。

「白は、私にとって、特別な存在、た、大切な友達だよ。それじゃ、ダメなのか?」

顔が熱い。我ながら恥ずかしいことを言ってると思う。だけど、本心だ。

私の言葉に白が目を見開く。

「特別?黒ちゃんは、わたしのこと、特別だって言ってくれるの?わたしは、黒ちゃんにとって特別な存在?」

白が信じれらないと言いたげな顔をしている。

だから私は、もう一度言う。

「ああ、そうだよ、白は私の特別で大切な友達だ」

白の表情が、少しずつ、変わる。

「そ…っか。そう、なんだ。えへ…えへへへ…そっかぁ、わたし、黒ちゃんの特別なんだ~えへへへへへへへへ~♪」

白が私に抱き着いてくる。

「え、ちょ、白」

私は驚いて反射で跳ね除けそうになるけど、やめる。

「仕方ないな…」

私も白の背中に手を回す。

白の顔を見ると、いつもの、いつもよりも、明るい笑顔を浮かべていた。

「わたしも、黒ちゃんのこと、大好きだよ、大好きで特別な友達」

白が私に抱き着く力を強める。

私はまた顔が熱くなるのを感じた。あー、顔あっつ。

「ありがとうね、黒ちゃん。黒ちゃんの言葉で、今まであんなに悩んでたのが嘘みたいに、幸せな気持ちになっちゃった」

白が私に礼を言ってくるけど、今まで助けられてきたのは私の方だ。

今の告白は、それを言葉で返したに過ぎない。

私の言葉で、私が居ることで、白が喜んでくれるなら。


私は、白にとっての特別でありたい。


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~フミツキさんの鬼ごっこ⑪~

2:00 -日の出まであと3時間00分-


「まずは、フミツキさんを探そう」

私は白に、そう提案する。

白が元気になってくれたのは良かったけれど、問題は解決していない。

白の影はフミツキさんに奪われたままで、このままじゃ白はフミツキさんにされてしまう。

「ごめん、ううん、ありがとう黒ちゃん、わたしのために」

「気にすんな、と、友達だろ。それより、さっき話し合った作戦は覚えてるか?」

『友達』という単語を口に出すのがなんとなく恥ずかしくてどもってしまう。

白がニコニコしてこっちを見てくる。こっち見んな。

「ん。大丈夫だよ!黒ちゃんが『これ』を使うんだよね」

白がある物を指差して言う。私は頷く。

「よし、じゃあ行くぞ!」

「うん!」

私達はフミツキさんを探すために動き出した。


*****


10分か20分くらいだろうか。

私達はフミツキさんを探して校舎の中を歩き回り、見つけた。

フミツキさんは、北校舎1F、図工室前の廊下を歩いていた。

フミツキさんの姿を捉えた私達は、機会が訪れるまでフミツキさんを尾行することにした。

今回の作戦では影の位置が重要になる。

万が一にも私が影を踏まれることがないように、私の前方に影が来るように逃げる必要がある。

フミツキさんが移動する。

フミツキさんが南校舎に移動し、職員室前を通りかかった時、私達は作戦を開始した。

「よし、じゃあ白はそこの教室で待機な、準備は良いか?」

「うん」

白の同意を得て、私は動き出す。

私はフミツキさんの前に姿を現す、と同時にわざとバットを落とす。

カンッ…カラカラカラ…

フミツキさんが私に気付く。

「しまっ…」

私は見つかってしまったという演技をしつつ、フミツキさんが居る方とは反対方向、白が待っている場所へと逃げ出す。

「あっはははははは!屋上行っちゃったから心配してたけど、無事だったんだねぇぇぇ!イカレ天使は元気だったー?」

フミツキさんが走りながら声を掛けてくる。

そんなフミツキさんを私は無視する。

私の方がフミツキさんより足が速いとはいえ、油断はできない。全力で逃げる。

「あははははははは!ねー!待ってよー!!」

フミツキさんが追い掛けてくる。

逃げる、逃げる、逃げる。

もうすぐ白が待っている教室の前だ。

私は手の中のものをすぐ使えるように準備する。

白の待つ教室が近づく。私は心の中でカウントダウンをする。

5…

4…

3…

2…

1…

ここだ!

私は足を前に斜めに出して自分の体に急ブレーキをする。

と同時に後ろに振り向く。正面にはフミツキさん。

急に止まった私を見てフミツキさんは驚いた表情を浮かべている。

カッ!

私は驚くフミツキさんに向けて、懐中電灯のライトを点ける。

「うわっぷ!」

光を直視したフミツキさんの足が止まる。

「今だ!」

私は白に声を掛ける。

教室に隠れていた白が飛び出し、私が当てたライトによってフミツキさんの真後ろに移動した影めがけて飛び込む。

白がフミツキさんの影を踏む。

「やった!黒ちゃん!影踏めたよ!」

「え、な!しまった!」

フミツキさんはまだ視界が回復しないのか、眩しそうな表情をしている。

私は白の足元を見る。

フミツキさんの影から一かたまりの影が飛び出し、白の足元に蟠り、形を変え、白の姿を形作る。

影を取り返せた…!

「あーあー…しょうがないなー、影を取り返されちゃったから、私は30秒待つよはいいーーち、にーーい、…」

「!白!早く逃げるぞ!」

私は白の手を取って逃げ出した。


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~フミツキさんの鬼ごっこ⑫~

2:20 -日の出まであと2時間40分-


「…このくらい離れれば大丈夫だろ」

しばらく走ったり階段を上がったりして、私達は北校舎3Fの外国語教室に来ていた。

個人的には、ここは家庭科室に近いのであまり長居したくないんだけど、

一緒に走っていた白が虫の息だったので移動を止めざるを得なかった。

今も隣で「ひっひっふーひっひっふー」と辛そうな呼吸を繰り返している。

いや、その呼吸法は妊婦さんがするやつじゃね…?

なんか違う気もしたが、とりあえず私は白の呼吸が落ち着くのを待つ。


*****


「落ち着いてきたよ」

白が回復したらしい。

「よかったよ。影も戻ったしな」

「うん、手伝ってくれてありがとね」

「いいよ、お互い様だろ。それで、この後どうする?まだ日の出まで3時間くらいあるけど…」

「そう、だね、とりあえず、また集合場所決めて解散でいいんじゃないかな。そういえば、あやねちゃんは大丈夫かな…」

「あー…」

色々あったせいですっかり忘れていた。先輩ごめんなさい。

あの人、白より足遅かったしな…それに私達が屋上にいた間はフミツキさんと一対一になってた訳で。

影を取られている可能性は十分あった。

「そうだな…もし先輩が影を取られてたら、そっちも取り返さないとな。同じ手は通用しないだろうし、また作戦考えとかねーと」

私の意見にうんうんと頷く白。

その後、私達は適当に集合場所を決めて、解散した。


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~フミツキさんの鬼ごっこ⑬ -side 白- ~

2:30 -日の出まであと2時間30分-


はぁい!皆のアイドル、黒ちゃんの親友、原点回避のストーリーテラー、白だよ!!元気してた!?

今まで醜態晒した分、テンションマシマシでお送りするぜ!!よろこべ!!

黒ちゃんの愛を受けた今の私に敵は無し!フミツキさんでもなんでも来やがれってんでぇ!

…ふぅ。

ち、違うよ?このテンションを維持するのが、疲れたとかじゃないんだからねっ!

まぁ、冗談はこのくらいにしとかないとそろそろ読者に怒られ「あれ~?こゆなちゃんだ~」

「ひゃうー?!」

後ろから声を掛けられた。

振り向くとそこには、あやねちゃんが立っていた。

「あやねちゃん!」

「は~い、あやねだよ~」

状況説明が遅れたけれど、わたしは今、家庭科室に隠れている。

ちなみにガラスケースの中に『家庭科室の日本人形』の姿は無かった。残念。

今も校舎のどこかを彷徨っているのだろうか?

ともかく。

「あやねちゃん、っと、良かった、影は取られてないんですね」

わたしは足元を見て、あやねちゃんの影がちゃんとあることを確認した。

「ん~?うん~へーきだよ~」

あやねちゃんはニコニコしながらカーディガンの袖をフリフリしている。かわいい。

「そうだ、あやねちゃん、伝えたいことが…」

わたしは次の集合場所と時間を伝える。

「わかった~次はそこに行けば良いんだね~おっけーだよ~」

ばっちぐー!と親指を立てるあやねちゃん。

わたしもばっちぐーで応じる。

「じゃあ、僕はそろそろ行くね~ふみちゃんに負けないようにがんばろ~ね~」

「はい、あやねちゃんもお気をつけて!」

あやねちゃんは、手を振りながら家庭科室から出て行った。


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~?????~

2:30 -日の出まであと2時間30分-


ストーリーテラー戻って黒だよ。

今はどこに隠れようか、隠れ場所を探してるとこだ。

あんまり白に近い場所だともしフミツキさんに遭遇した時、白を巻き添えにしてしまう可能性がある。

逆に、さっきフミツキさんと争った北校舎1Fに隠れるのもありかもしれない。

そう考えながら歩いていたら、ちょうど階段の前まで来ていた。

私は階段を下りる。

降りて、降りて、私は階段の踊り場まで降りてきた。

ふと私は、視界の端に動くものを捉えた。

チラとそっちを見ると、鏡に映る自分だった。

…?何か違和感があるような気がする。

…………?ああ。

違和感の正体が分かった。合わせ鏡になってるんだ。

他の階段の踊り場は…どうだったかな。

普段気にして見てないからわかんねーけど、違和感があったってことは、他のとこは合わせ鏡じゃないのかもしれない。

まぁ、だからなんだって話なんだけど。

合わせ鏡って良くないとか聞いたことがあったから気になったけど、白の話じゃ鏡にまつわる七不思議は無かったはずだしな。

いや、そういえば七つ目だけは謎なんだったか。

私が鏡に映る自分を見ながらそんな風に考えていると、

鏡に映る私が、笑いながらこちらに手を伸ばしてきた。

「え……」

私は突然のことに動けなかった。

私は腕を掴まれて、鏡の中に引きずり込まれた。


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~?????~

3:00 -日の出まであと2時間00分-


□□□□…ん………ワタ……私、かな。

…………うん。今度こそは、大丈夫。


*****


はーい!白だよ!皆元気してた!?はろはろ~☆

あやねちゃんと分かれた後、フミツキさんとは遭遇しなかったからなんとか影を取られずに済んでるよ!

途中何度かフミツキさんらしき足音は聞こえたんだけど、わたしはスキル:隠密を取得してたから気付かれずに済んだんだ!

そんな訳で今は3時の集合場所である視聴覚室に来ているよ!

わたしの隣にはあやねちゃんが居て、膝上に黒猫を抱えて撫でている。

……校舎の中、黒猫…この子やっぱり、『カッポカッポする黒猫』じゃ…?

とてもとても気になったけれど、さっきから触ろうとする度フシャー!!と威嚇されるので近づけないでいる。

仕方ないので遠巻きに猫の様子を観察していると、視聴覚室の扉が開く。

机の影から頭だけ出して姿を確認する。

「黒ちゃん!(小声)」

「白、あやね先輩、遅れてごめん」

黒ちゃんが手を振りながらこっちに向かってくる。

「大丈夫だよ」

「大丈夫だよ~」

わたしとあやねちゃんの声が重なる。

黒ちゃんが私の隣に来て身をかがめる。

「んで、二人共、影は…大丈夫そうだなってヒッ…!」

黒ちゃんが短い悲鳴を上げて後ろに小さく飛ぶ。

「ど、どうしたの?」

「いや、ごめん、猫苦手でさ」

黒ちゃんはどうやらあやねちゃんが抱えている『カッポカッポする黒猫(暫定)』に驚いたらしかった。

でも変だな…黒ちゃんは猫好きな筈だけど…

不思議に思ったわたしは、一つ質問をしてみることにした。

「ねぇ黒ちゃん、私が前に話したムー大陸の滅亡原因についての一説のこと覚えてる?」

「は?なんで今そんな話を…えっと、地殻変動による大陸移動と宇宙人の侵略が重なったんだったよな?」

「そうそう!それでね、六次元平行宇宙からやってきた波型友好種族の名前って、私なんて言ってたっけ?」

「確か、ザナラクリュー星人って言ってたと思うぞ」

わたしの疑念が確信に変わる。

目の前のこれは、黒ちゃんじゃない。

わたしは、目の前の相手にゆっくり近づいて後ろに回って抱きしめる。

そして、取り出しておいたナイフを、相手の首に突きつける。

「誰だお前」

「え…?ひっ…白…?ちょ、おい、冗談よせよ、どうしたんだよ、いきなり」

「黙れ。黒ちゃんは私のオカルト話に興味ないからそんな詳しく覚えてるはずがない。

黒ちゃんの記憶を覗いたのか知らないけど、今すぐ本物の黒ちゃんを返せ偽物」

黒ちゃんの姿をした何かが、驚愕したように目を大きく開く。

「ふふ…あっははははははははははははは!!!!そんなことで気付かれるなんて、詰めが甘かったなぁー!」

笑っているけれど、眼が全く笑っていなかった。

顔は黒ちゃんのままなのに、眼光が本人じゃ見たことないくらい鈍っていた。

いや、濁っているって表現が正しいだろうか。そんな雰囲気の眼をしていた。

「あーあ。失敗した」

「おい、わたしの質問に答えろ」

「ああ、はいはい。大丈夫だよ。あんたの愛する黒ちゃんは、まもなくこっちに帰ってくる。

会いたきゃ、北校舎西側の1Fと2F間の階段に来るといいよ」

……?偽物の姿が、なんだかブレた様に見えた。

例えるなら、ホログラムが消えかかってるみたいな。

「今度こそいけると思ったのになぁ。はぁ、本当に、この世界はままならない」

そう呟いて、わたしの腕の中に居た偽物は、そのまま空気に溶けて消えた。

「こゆなちゃん…」

あやねちゃんが驚いた様子でこちらを見つめている。

「ごめんあやねちゃん!わたしちょっと行ってくる!」

わたしは敬語も忘れてあやねちゃんに一言掛けて駆け出した。


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~鏡の怪異~

2:40 -日の出まであと2時間20分-


呼由奈&あやねと雪(偽物)との邂逅から時間は少し遡って、 -side 黒- 。


痛っ…

…えっと、何が起こった?

鏡を見てたら、鏡の中の自分が手を伸ばしてきて、そのまま腕を掴まれて…鏡の中に、引きずり込まれ…た…!?

ハッとして私は周りを見回す。

さっきと変わらない…ように見えるけど、何かがおかしい。

私は慎重に階段を下りて、違和感の正体に気付いた。

私の記憶では、ここの階段を降りたら教室のドアは廊下の右側に並んでいるはずだ。

だけど今、教室は向かって左側に並んでいた。

いや、教室の位置だけじゃない。

教室のプレートや廊下のポスターの文字が、鏡写しのようにひっくり返っていた。

もしかして、ここは鏡の中の世界、なのか…!?

驚いたし怖かったけれど、私の頭は妙に冷静だった。

今日一日色んな変なものに遭遇したから慣れてきてしまったのだろうか?

私はひとまず、出口を探すことにした。


*****


あれから私は、まずこの鏡の世界に入ってきた(引きずり込まれた)鏡を調べていた。

私をこの世界に引きずり込んだ「腕」のことは気になったけれど、一番重要そうなこの鏡を調べない訳にはいかない。

声を掛けたり、触ったり、軽く殴ったりしてみたけれど、反応はなかった。

入口になってるんだから出口にもなってるんじゃないかと思ったんだけど、そううまい話はないらしい。

「腕」も何もアクションを起こしてこないし(ありがたいような困るような)、どうしたものか…

そうやって、私が困ったなぁなんてしていると、突然、目の前の鏡に向かって体が引っ張られた。

「え…ちょ、ま…」

突然のことにバランスが取れないまま鏡に向かって引き寄せられる。

そして私は、そのまま鏡にぶつかった。

と思ったら、今引っ張られていたはずの鏡から押し出される。

バランスを崩した私はそのまま顔から床に倒れる。

「ちょぉっと!と!」

間一髪で手を前に出したので、床に顔から突っ込まずに済んだ。

「はぁ…は…あっぶねー、え、何?」

一体何が起こったのか。

後ろを振り返り鏡を見るも、何の反応もない。

鏡に引っ張られて、鏡から押し出された。

もしかしてと思って私は1Fに降りて辺りを見回す。

教室のドアは廊下の右側にあり、教室のプレートやポスターの文字は、正しい向きに戻っていた。

「帰ってこられた…?!」

どうしてかは分からないけれど、鏡の世界から元の世界に戻って来ることが出来たみたいだ。

私は頭を振って考えを切り替えた。

落ち着け。

原因は分からないけど元の世界に帰ってこられた。

だったら、疑問の解決は後回しでもいいだろう。

今私がするべきことはなんだ?

そうだ、3時に集合することになってたはず。

私は腕時計で時間を確認する。


3時10分。


集合時間を過ぎていた。

まだ待ってくれているかは分から…いや、あの二人なら待ってるだろうな。

幸い、視聴覚室は今いる場所のすぐ近くだ。

私が急いで向かおうとしたその時、こっちに走ってくる人影が見えた。


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~鏡の怪異②~

3:15 -日の出まであと1時間45分-


「黒ちゃん!!」

視聴覚室に行こうとしていたら、白が向こうから走ってきた。

「白!」

私が集合に遅れたから、心配して探しに来てくれたのか、と思ってると、

白は走ってきた勢いのまま私に飛びついてきた。

「え、ちょ…」

抱き着かれるとは思ってなかったのでびっくりした。

そんなに心配させてしまっていたのだろうか。

いや、これ、抱き着くというより取り押さえてるみたいな…?

「黒ちゃん!」

「ん?」

「ペニャラッタ世界の第三宇宙王子は誰!?」

「誰だよそれ!?」

いきなり訳分からないことを聞かれた。どこのなんだって?

「よかった、本物だぁ」

白は拘束を解いて安堵している。

とりあえず、私達は視聴覚室に行って話すことにした。


*****


「お~おかえりなさ~い、今度はほんとのゆきちゃんなの~?」

視聴覚室に行くと、あやね先輩が猫を抱えて待ってくれていた。

「すみません、遅くなりました。えっと、本物の雪です」

「ほんとの」とはどういう事か分からなかったけれど、とりあえずそう答えておいた。

集まって早々ではあったけど、私は、まず白たちの方で何が起こったのかを聞いた。

話を聞いていくと、どうやら白とあやね先輩の前に私の偽物が現れたらしい。

私を鏡の世界に引きずり込んだ奴だろうか?

「私が鏡ん中に居た時にそんなことが…」

私は、白とあやね先輩に自分に起こったことを話した。

「鏡の中の世界かぁ。黒ちゃんのフリをしたのは許せないけど、その世界は探検してみたいなぁ~」

白が眼をキラキラさせていた。

あやね先輩はほわ~っというような顔をしながら話を聞いてくれていた。

「いやいや、出口もないし誰も居ないしでどうすりゃいいか分かんなくて大変だったんだぞ…?」

「んむ…出られなくなるのは困るなぁ」

「ん~二人の話を合わせると~こゆなちゃんがあの子の正体を見破ったから~ゆきちゃんが帰ってこられたのかな~?」

あやね先輩が名推理をしていた。

「私が出られたタイミング的にそうみたいですね。白、ありがとう、助かった」

私はあやね先輩に同意しつつ白に礼を言う。

「ん?えへへ~良いってことよ~」

白が一瞬驚いた顔をした後ふにゃふにゃの笑顔をしていた。

「んんっ…それにしても、鏡の怪異かぁ…聞いたことないけど、もしかして七つ目の七不思議なのかな。

 気になるけど、フミツキさんとの鬼ごっこもまだ終わってないし、今は近づかないようにするしかないかな」

鏡の怪異が気になるのを体で表現しているのか、体を左右に揺らしながらそう言う白。

「そうだな、今はそっちばっかも気にしてらんないか」

3人で顔を見合わせてうんうんと頷き合う私達。

「じゃあ、とりあえず鏡の方は置いといて、フミツキさんの話をしよっか」

白が話題を切り替える。

「そうだな、つっても次の集合場所決めるくらいか」

その後、私達は次の集合時間と場所を決めて解散した。


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~家庭科室の日本人形④~

3:30 -日の出まであと1時間30分-


ストーリーテラー引き続き黒だよ。

私は今、隠れ場所を探して廊下を彷徨っている。

集合場所のすぐ近くに隠れないのは、フミツキさんに見付かった時に白やあやね先輩を巻き込まないためだ。

どこに隠れようか考えながら歩いていると、ふと後ろに気配を感じた。

フミツキさんに見付かったかと後ろを振り向くも、誰も居なかった。

気のせいだったかと、前に向き直ると、

和服を着た西洋人形が、立っていた。

「ひっ…ん」

こいつに会うのはもう何度目か分からない。

私も慣れてきたのか、悲鳴を上げそうになるもギリギリで手で口を押さえて声を押さえる。

ナイス私。

口を押えながら、『日本人形』を見る。

『日本人形』は動かない。

薄々思ってたんだけど、こいつって多分眼を逸らさない限り動かないんだよな。

こいつを凝視し続けるの、眼が合うからめちゃくちゃ怖いんだけどしょうがない。

私は自分の口を押えながら、『日本人形』を見ながら、ゆっくりと後ずさる。

眼を逸らさないように、転ばないように、ゆっくりと後ろに下がっていく。

そのまま校舎の角まで歩いて、ゆっくりと角を曲がる。

…………逃れられただろうか?

いや、そう思って進行方向に振り返ったら居るパターンだろ?分かってんだよ。

私は意を決して振り返る。

…そこに『日本人形』は居なかった。

…………………。

とりあえずの危機(?)は去ったとみて良さそう…かな。

そう思いつつも、念のため自分の口を手で押さえたまま、ゆっくりその場から移動した。


*************************************

~フミツキさんの鬼ごっこ⑭~

4:00 -日の出まであと1時間00分-


『日本人形』との攻防(?)の後、30分くらいは何事もなく過ごせたのだが、

集合場所に行こうとしたらフミツキさんに遭遇してしまった。

遭遇した場所が良かったから普通に走って逃げて、なんとか撒いて、適当な教室に隠れている。

逃げられたのは良かったんだけど、集合場所から離れてしまった。

それに、私が今いる場所と集合場所の間にフミツキさんが居るから、遠回りをして集合場所に向かわなくてはならない。

集合時間には少し遅れてしまうけど、仕方ない。

鬼ごっこの終了(日の出の時間)まであと1時間くらいだし、慎重に行かなければ。

そう思って私が教室を出ようとして扉を開けると、

「あれ?黒ちゃん」

声のした方を見ると、少し離れた場所に白が立っていた。

「白」

私は軽く手を挙げて返事を返す。

白が手を振り返しながらてててと走ってきたので、とりあえず私は白を教室の中に招き入れる。

「こぎゃんとこでなんばしよっと?」

白が使い慣れないエセ方言で「ここで何してるの?」と聞いてきた。

私はフミツキさんに遭遇したことと集合場所に向かおうとしていたことを話した。

「なるほどねぇ、じゃあ一緒に行こ~」

断る理由もないし、私は頷いて同意を示す。

「よし、じゃあ行くか」

「うん」

私達は示し合わせて、扉を開け、教室を後にした。


*************************************

~フミツキさんの鬼ごっこ⑮~

4:10 -日の出まであと50分-


私達は、走っていた。

教室を出た後、私達はフミツキさんに遭遇してしまった。

遠目に姿を見つけて、バレないようにその場を離れようとしたら、バレた。

なので私達は逃げているのだが、一つ問題がある。

それは、今は一緒に白が居ることだ。

私だけならただ逃げるだけでも撒けるんだが、白はフミツキさんより足が遅いから、少しずつ距離を詰められている。

ただ逃げてるだけじゃいずれ追いつかれる。

「ん、は…ごめ、私が遅いから…は…」

白が息を荒くしながら謝罪の言葉を投げてくる。

「気にすんな、それより、このままだと、追いつかれるぞ!」

走りながら返事を返す。

「待ってよー!あはははハハハハハ…」

フミツキさんが笑いながら追いかけてくる。

早くなんとかしないと、と考えながらも私も白も良い案は思いつかず、私達はただ必死に走った。


*****


走って走って、走り続けて、私達はまだフミツキさんに追われていた。


私はまだ走れるけれど、隣を走る白がそろそろヤバい。

はぁー、はぁー、と口を大きく開けて必死に呼吸をしながら辛そうな顔をしている。

白の体力の限界が近い。

フミツキさんとの距離も5mくらいしかない。

かなり近づいてきてしまっている。

幸い、今走っている場所では影は真横にあったけど、追いつかれて踏まれるのも時間の問題だ。

「あ…」

「白!」

階段を駆け下りていた時、白が足を絡ませてしまう。

走ってきた勢いのまま、白は踊り場に身を投げ出す。

私は白を助けようと手を伸ばすけれど、届かない。

白が顔から床に突っ込む。

あと数段で階段を降りきるという所だったから大怪我はしていない、様に見える。

私は白に手を差し伸べて、白の体を抱き起しつつ、降りてきた階段を見る。

フミツキさんが、価値を確信した笑みを浮かべて立っていた。

「うふふふふ…頑張ったけど、残念だったね~」

フミツキさんが、ゆっくりと階段を降りてくる。

私は足元を見る。フミツキさんの目の前に、私と白の影が、半分くらい重なり合って出来ていた。

今から逃げても間に合わない。

そう思っていると、ふいに誰かに腕を掴まれて、ぐいと引っ張られた。


*************************************

~フミツキさんの鬼ごっこ⑯~

4:15 -日の出まであと45分-


………………………………………………?

一体、何が起こった?

あと一歩でフミツキさんに影を踏まれてしまう、そう思っていた。

だけど、誰かに引っ張られて、気が付いたら、フミツキさんが居なくなっていた。

???

白の方を見ると、白も同じ思いだったようで、私達は二人で顔を見合わせて首を傾げていた。

すると、

「何が起きたか分かってないって顔をしてるね」

私たち以外に誰かの声がした。

声のした方を見ると、

「え…」

一人の少女が体育座りで丸まってこちらを見つめていた。

足を抱く腕に顔を埋めているため、顔は半分以上隠れていたけれど、

今の声も、全体的な姿も、私達を見つめる瞳も…私そっくりの少女がそこに居た。

「あー!」

白が突然声を上げる。

「偽物ぉ!」

白が私のそっくりさんを指差しながらそう叫ぶ。

えぇ…いや、そりゃ私の偽物だけど、え、なんで叫んだ…?

私が困惑していると、

「黒ちゃんこいつ!さっき言ってた黒ちゃんの偽物!」

どうやら白は、目の前の私の偽物が、私が鏡の中の世界に囚われている時に白の前に現れた奴だと言いたいらしい。

こいつが…!?

一体、なんの目的でまた私達の前に現れたんだ…?

私達が警戒の眼差しを向けていると、偽私が口を開いた。

「そんなに警戒しないでよ…せっかく助けてあげたのに…はぁ…」

偽物がため息を吐きながら立ち上がる。

体育座りをしているときは気付かなかったけれど、その少女はなんというか、全体的に私より暗い雰囲気を纏っていた。

顔や背格好は確かに私そっくりなのだけれど、眉を八の字に曲げて、眼光が鈍っていて、すごく猫背だった。

「あー…成り代わりを警戒してるなら、もう出来ないから安心して」

偽物がそう言うも、

「信用できない」

白が今まで見たことないほど警戒を露わにしている。

私に成り代わったのがそんなに許せないのだろうか。他人事のようだけどちょっと嬉しい。

「そう言われてもね…成り代わったところでどうせまた看破されるし、そんな無駄なことしない…

っても証拠になるようなものはないし…まぁ、別に信用してもらわなくてもいいんだけど」

偽物がはぁとため息を一つする。

私は、信用できるかはひとまず置いておいて、さっきから気になっていたことを質問した。

「なぁ、あんたさっき、『助けてあげた』って言ったよな?それに、フミツキさんが居なくなってるし、もしかしてここって…」

私が聞き終える前に、偽物が口を開く。

「ご明察。ここは、さっきあなたが囚われていた、鏡の中の世界だよ」

やっぱり、と私は納得する。

フミツキさんに影を踏まれそうになっていた私達を、この少女が鏡の中に引っ張って逃がしてくれたのだろう。

でも、どうして…?

疑問に思う気持ちが表情に出ていたのか、偽物の少女が薄く笑みを浮かべながら口を開く。

「どうして助けてくれたんだって?…まぁ、別に深い意味は無いよ。強いて言うなら、影無し女への嫌がらせかな。

あいつだけ目的を達成するのは不愉快だったからね」

影無し女、というのは、多分フミツキさんのことだろう。

信用できる相手かは分からないけれど、今の言葉に嘘はない…気がする。

私はとりあえず、お礼を言っておくことにした。

「えと…礼が遅れたけど、助けてくれてありがとう」

隣で白が「そんな奴にお礼言う必要なんてない!」って怒っていた。

偽物の少女は目をパチクリさせていた。

私は何か驚くようなことを言っただろうか?

「危うく成り代わられかけたというのに、その相手にお礼を言うだなんて、変わってるね、君。人に感謝されるなんて久しぶりだよ」

お礼を言ったのに怒られたり笑われたりするなんて。

「成り代わることが出来なかったのは残念だったけれど、まぁ、こんな日があっても悪くないかな」

偽物の少女が、眼を閉じて口を笑みの形に曲げる。

と、何かを思い出したように、偽物少女が両手を合わせてパチンと叩く。

「さて、そろそろ良いだろう。いつまでも君たちをここに匿っていると、影無し女を怒らせてしまうからね」

付いて来て、と言い、どこかへと歩いていく。

私と(まだ警戒心剥き出しの)白は、偽物少女の後を追う。


*****


少し歩いて、私達は別の階段の踊り場に来た。

「周りにあの女が居ないことは確認済みだから、ここから出ていくといい。あいつの目的が叶わないことを願っているよ」

偽物少女はそう言いながら、踊り場の鏡を指し示す。

ここを出れば、フミツキさんとの鬼ごっこが再開される。

「白、準備良いか」

鏡に入る前に、念のため確認しておく。

「うん」

白は親指をグッと立てて同意を示している。

私は、鏡に入ろう…として、

「なぁ、出てく前に、あんたの名前聞いてもいいか?」

まだ偽物少女の名前を聞いていないことを思い出した。

見ると、またも少女が目をパチクリさせていた。

「人に名前を聞かれるのもいつ以来だろう。だけど残念。本当の名前はもう忘れたから、

そうだね…『あかり』なんて呼ぶ奴が居るから、呼びたいなら『あかり』でいいよ」

「そっか、さっきも言ったけど、助けてくれてありがとう、あかり。じゃあな」

「…ありがとうございました」

私の後に、白が(苦虫を噛み潰したような表情だったけど)礼を言っていた。

あかりがひらひらと手を振っている。

私と白は、鏡に向かって歩き出した。


*************************************

~フミツキさんの鬼ごっこ⑰~

4:25 -日の出まであと35分-


鏡に入ったと思ったら、鏡の前に立っていた。

階段の踊り場周辺には文字の書いてあるものがないから分からないけど、多分元の世界に戻ってきたんだろう。

「わたし達、帰ってきたのかな…?」

白も分からないらしい。

「ポスターとか見ればわかると思うから、廊下に行ってみようぜ」

元の世界なら文字が正しい向きになってるはずだから、と白を促して階段を降りる。


*****


「教室の場所も、ポスターもいつも通りだね」

白がきょろきょろしながらそう言った。

どうやらちゃんと元の世界に帰れたようだ。

「じゃあ、また校舎のどこかにフミツキさんが居るってことだよな」

「そうなるね」

私は、今何時だろうかと腕時計を確認する。


-4:25-


……あっ!!

「ヤバい白!集合すっぽかしてる!」

「あー…」

フミツキさんに追われたせいで私達は4時の集合をすっぽかしていた。

流石にもう待ってな…あやね先輩は待ってるような気もする。

「とにかく、一回理科室見てみようぜ」

「そうだね、あやねちゃんはなんとなく待ってるような気がするし」

白も同じ気持ちだったようで、私達は二人揃って集合場所である理科室に向かうことにした。


*****


あやね先輩が待ってるはずの理科室に来てみたけれど、そこに人の気配は無かった。

「あやねせんぱ~い、居ますか~(小声)」

理科室に入りつつ声を掛けてみるも、反応は無い。

「ん~、でも、待ってなくてよかった…よね?」

「そう…だな。あと30分くらいで鬼ごっこが終わるから、その前に、影を取られてないか確認しときたいけどな」

「そだねぇ、ちょっとこのまま探しに行こっか」

鬼ごっこもいよいよ終盤、影を取られたまま日の出を迎えたらフミツキさんとして学校に囚われてしまう。

日の出前に一度あやね先輩と合流したい。

私達はあやね先輩を探しに行くことにした。


*************************************

~フミツキさんの鬼ごっこ・終幕~

-日の出まであと■■■-


あの後、私と白はあやね先輩を探したけれど、見付からなかった。

無事だといいんだけど。

私は現在時刻を確認する。


-4:50-


後10分で影鬼が終わる。

窓の外を見ると、だいぶ空が

「なぁ白、もうすぐ終わるな」

「そうだね、ここまで長かったなぁ」

私の横で、白がふぅーとため息を吐いた後、私の方を向き直った。

「ありがとうね、黒ちゃん。私の隣に居てくれて」

白が私に、人懐っこい笑顔で礼を言う。

「いいよ、いつものことだろ」

今までも、これからも、白が望むなら隣に居よう。

私のたった一人の大切な友達が、それで笑顔になれるなら。

そんな風に私達が笑い合っていると、

「みぃつけたぁあぁぁああぁぁぁあぁぁぁ」

廊下の向こうに、フミツキさんの姿が見えた。

「ふふ…日の出までもうちょっとしかない。絶対に逃がさないから。」

今までにないくらい、鬼気迫った雰囲気を感じる。

「白!」

「おうよ!」

白と示し合わせて逃げ出す。

走りながら後ろを見る。

フミツキさんとの距離は50mくらいあるけど油断はできない。

ただ走っているだけでは後10分も逃げ切れないだろう。

私達は、目の前の角を曲がって逃げる。

「どうする白!なんか良い案ある!?」

走りながら白に聞く。

「え、えーとえと、爆竹とかなら残ってるけど、どう!?」

「校舎の中でダメに決まってんだろ!!」

「じゃあさっきみたいにライトでこう、良い感じに!」

「あー、その手はいざとなったら使えそう、だな!」

走りながら喋っているのでちょっと息が切れてきた。

白に聞きつつ私も考えていたけれど、あまり良い案は浮かんでいなかった。

「あははははははは!!楽しいねぇ、楽しいねぇ!!」

笑いながらフミツキさんが追いかけてくる。

私達は走って、次の校舎の曲がり角に差し掛かろうとしていた。

このままじゃいつか追いつかれてしまう。

「よし、はぁ、職員室に、はぁ、逃げよう!」

白は大分バテてきているようだ。

このまま逃げてても埒が明かないしと、私は白の案に乗る。

走る勢いのまま職員室のドアを開けて中に入り、奥まで逃げ込む。

当然フミツキさんが追ってくる。

私達は、入ってきた東側のドアとは反対側、西側のドアへと駆け出す。

西側のドアから廊下に出ようという時だった。


バッサァ


後ろから紙をばら撒いたような音が聞こえてきた。

後ろを振り返ると、白が、誰かの机から持ってきただろう紙の束をドアの前にぶちまけていた。

いや何してんだよ!?

だけど白の奇行に困惑している暇はない。

私達は急いで職員室を後にする。

数秒経って、


ドシャァン!


と音がした。

この感じは、紙を踏んでフミツキさんがすっ転んだ音だと思う。

「しゃあ!神殺しならぬ紙殺し作戦成功だね!!」

白がキラキラした目でグーサインを向けてきた。

「そうかもしれないけどあれ誰が片付けんだよ!?」

時間稼ぎはできたかもしれないけど、職員室が大惨事になっていそうだ。

「先のことは未来の自分が何とかしてくれるよ!気にすんな若ぇの!」

白がキラキラした目でグーサインを向けながら、何の気休めにもならないことを言ってくる。

あと若ぇのってなんだ同い年だろ。

そんなやりとりをしながら私達が階段を駆け上がっていると、復帰してきたフミツキさんが追いかけてくる。

そこで私はふと気付く。

ちょっと待て。フミツキさんがさっきまでより速くなってないか?

「あははははははぁ、やってくれたねぇ!お姉さん、ちょっと本気出しちゃおっかなぁ!!」

追いかけてくるスピードが今までより明らかに速い。

私と白は階段を昇り切って2Fの廊下を走る。

私は白の手を掴んで強引に引っ張る。

白は死にそうな呼吸をしながら、必死で私の走りについてくる。

フミツキさんがどんどん距離を詰めてくる。

フミツキさんとの距離が縮まる。

フミツキさんと私達の距離が、3mくらいにまで近づく。

それでもまだ、ギリギリ距離があると思っていた。

私はこの時、一番重要なことを忘れていたことに気付く。

これは影鬼。

体に触れられることではなく、影を踏まれることが問題。

私達は今、方角でいえば東に向かって逃げている。

東の空が明るくなって、影は西側に。

私達とフミツキさんの間には、まだ距離があった。

だけど、影は、私と白の影は、フミツキさんの足元のすぐ前に。

フミツキさんの足が、私達の影を踏もうとしていた。

時計を見る暇はなかったけれど、多分今はもう日の出ギリギリだ。

私達の影が、フミツキさんに踏まれ「フシャー!!!」

前方からいきなり叫び声が聞こえて、私は思わず急ブレーキをしながら前を向く。

見ると、黒猫が、私達に向けて全力で威嚇をしていた。

「ぐぇぇ!!」

黒猫の迫力に驚いていると、今度は後ろから呻き声が聞こえてきた。

なんだと思って振り向くと、そこには、和服を着た西洋人形、『家庭科室の日本人形』が、こちらを向いて立っていた。

さっきの声はフミツキさんが上げたものだろう。

フミツキさんは走ってきた勢いで思いっきり『日本人形』に激突していた。

衝撃で仰け反るフミツキさんと対照的に『日本人形』はビクともしていなかった。

一度に色んなことが起き過ぎて私が放心していると、

「く、黒ちゃん!今のうちに逃げなきゃ!」

白が握ったままだった私の手をぐいと引っ張ってくる。

「え、あ、そ、そうだな」

ハッとして私が走りだそうとすると、

「その必要はないよ~」

いつどこから現れたのか、私と白の隣に、あやね先輩が立っていた。

「あやね先輩!?」

「あやねちゃん!?」

驚く私と白。

「二人ともよく頑張ったね~おつかれさま~」

先輩が私と白の頭を撫でてくる。ちょっと恥ずかしいんですけど。

「もう時間切れだもんね~?ふ~みちゃん」

私と白の頭を撫でながら、先輩はフミツキさんに話しかける。

フミツキさんが強打したらしい顔面を手で押さえながら『日本人形』の影から出てくる。

「つ………ったぁ~~~~え?なに?時間?ああうん、そうだね、あの…ちょっとまって…こいつ…」

相当勢いよく顔面から突っ込んだようで、滅茶苦茶痛そうにしていた。

しばらく顔を押さえて、痛みが引いたのか、フミツキさんが顔を上げる。

「と、待たせたね。なんだか締まらない気もするけれど、改めて。

君たちは影をもって日の出を迎えた。おめでとう、影鬼はこれで終わりだよ」

その言葉を聞いて緊張が切れたのか、私は体勢を崩してペタンと座り込んでしまう。

「黒ちゃん!?」

白が心配そうに私を見ている。

「ごめん、大丈夫。ちょっと、安心して力が抜けただけだよ」

私の言葉を聞いて、白がほっと胸を撫でおろす。

「一応言っておくけれど、もうあたしは君たちに害をなせないから安心して」

そう言いながらフミツキさんが近付いてくる。

「ほら、校舎の出入り口まで送ろう。肩を貸すよ」

フミツキさんと、ずっと手を握ったままだった白が、左右から私に肩を貸してくれる。

私達は、そのままゆっくり歩いて正面玄関へと向かった。

『日本人形』と黒猫は、いつの間にか居なくなっていた。


*****


そう距離があるわけでもないので、しばらくして私達は正面玄関に到着する。

私と白は、リュックに入れていた靴に履き替える。

と、そこで気付く。

「あ、あやね先輩は靴が下駄箱にあるんでしたよね?じゃあそっちからでも」

私達も下駄箱まで行こうとすると、

「ん~?ああ、うん、僕は大丈夫だよ~二人でおかえり~?」

断られた。

てっきり途中まで一緒に帰るものだと思ってたんだけど。

白もそう思っていたようで、ちょっと驚いた顔をしていた。

だから、

「いや、でも、下駄箱もそんなに遠回りじゃないし、なぁ白」

白はコクコク頷いていた。

「大丈夫だよ~大丈夫だから~ね?」

あやね先輩がそう言いながら顔を近づけてきた。

何故だろう、とっても笑顔なんだけど無言の圧力を感じる。

「そ、そうですか?じゃあ、えと…このまま帰ります」

あやね先輩の迫力に勝てなかった。

別に強制するようなことでもないしな。

影鬼で疲れてる私達に気を遣ってくれたのかもしれない。

私と白は素直に正面玄関から帰ることにする。

「じゃあね二人とも、気をつけて帰るんだよ~」

あやね先輩(とフミツキさん)がパタパタと手を振ってきたので、私と白は振り返す。

と、ふと、白が私の手を握ってくる。

「白…?」

「あー、や、深い意味はないんだけどね?なんとなく…二人同時に校舎から出たいなって…駄目?」

見ると、白の顔はほんのり赤くなっていた。

「…別にいいよ」

こっちまで恥ずかしくなってくる。

嬉しそうな顔をした後、白が口を開く。

「じゃあ、行こっか」

「ああ」

白の言葉に私は頷く。

私と白は、校舎の外に足を踏み出した。

校舎の外に出て、しばらく歩いた後、

「楽しかったよ二人とも。またおいで。今度は一人で。」

校舎の方から声が聞こえて振り返ったが、もうそこには誰の姿もなかった。


*************************************

~フミツキさんの鬼ごっこ・エピローグ~


フミツキさんとの鬼ごっこを終えて、私達は学校を後にした。

のはよかったのだけれど、困ったことが一つ。

それは、私達が親にお互いの家に泊まってくると伝えていたことだった。

時刻は朝5時を過ぎたところ。

こんな時間に帰ったら不審に思われるだろう。

そういう訳で、私達はどこかで時間を潰してから帰らなければならなかった。

といってもこんな朝早くから空いている所なんてないしなと考えていると、白がお腹が空いたというので、コンビニに行くことにした。

私達は朝ご飯を買って、近くの公園に行って食べた。

食べながら話したりしていると、いつの間にか7時頃になっていた。

そろそろ親も起きてるだろうということで、私達はそれぞれの帰路に就いた。

こうして、私達の長い長い夜は、終わりを迎えたのだった。


*************************************

~後日譚・あやね先輩の行方~


フミツキさんとの鬼ごっこがあったのは、金曜日の夜だった。

そして今日が月曜日。約二日ぶりの学校だ。

私が自分の席に座って1時間目の準備をしていると、

「おっはよー黒ちゃん!」

急に後ろから白が抱き着いてきた。

「ああおはよう白」

朝から元気な白と対照的にテンションの低い私。

私がテンションが低いってか、白が元気すぎるんだよな。

「黒ちゃん黒ちゃん!今日はあやねちゃんに会いに行こうよ!!」

テンション高く白が言う。

「ん?ああそうだな、昼休みに行けば会えるかな?」

私達の教室から3年生の教室までは少し距離がある。

ゆっくり話すなら昼休みか放課後がいいだろう。

「そうだね!昼休みにしよう!」

白が同意を示すようにグーサインを向けてくる。


キーンコーンカーンコーン…


HRの始まりのチャイムが鳴る。

「じゃあそうゆことで!後でね!」

「あーい」

白が自分の席に戻っていく。

私は、授業の準備を進めた。


*************************************

~後日譚・あやね先輩の行方②~


結論から言うと、私達はあやね先輩を見付けられなかった。

あやね先輩がどこのクラスかは白が覚えていた(私は覚えてなかった)ので、私達は白の記憶を頼りにあやね先輩が居るはずの3年5組に行ってみた。

だけど、適当な先輩にあやね先輩を呼んでくれるよう頼むと、そんなやつは居ないと言われた。

他の人に聞いてみても、同じような反応を返された。

5組の教室を見回してみても、あやね先輩の姿はなかった。

白がクラスを間違えて覚えていたのかと思って、私達は他の教室を探してみたけれど、あやね先輩は見つけられなかった。

もしかしたらと思って第二図書室に行ってみるも、あやね先輩の姿はなかった。

「どういうことなんだ?実は先輩じゃなかったとか?」

実は同級生とか後輩だったとかいうオチなんだろうか。

困惑する私の隣で、白がふうむと考えこんでいる。

「んー、黒ちゃん、こうなったら、最後の手段を取ろう」

「え?」

「放課後ちょっと付き合ってくれる?」


*****


放課後になって、私は白に連れられて、職員室の前に来ていた。

「こうなったら、先生に言って調べてもらう方が早いんと思うんだよね」

職員室なら名簿なりなんなりあるはずだから、と白。

「確かにそうだけど、調べてくれるかな?」

「わかんないけど、行ってみよう!」

意を決して私達は職員室に入る。


*****


あの後、私達は担任の先生に、探してほしい生徒がいると話した。

先生は引き受けてくれて、全校生徒の名前が入った名簿を持ってきてくれた。

私と白と先生とで手分けして探すも、「聿日 あやね」の名前は見付からなかった。

仕方ないから私達は、先生に名前を間違えてたかもしれませんと言ってお礼を伝えて職員室を後にした。

振出しに戻ってしまった。

…私は、白に考えていたことを伝えることにした。

「なぁ白、もしかして、あやね先輩って…」

「うん…フミツキさんや天使みたいな、普通の人間じゃない、怪談だったんじゃないかってこと、だよね?」

白も同じことを考えていたらしい。

思えば、不思議な点はいくつかあった。

『日本人形』が危害を加えてこないことを知っていたこととか、私や白より足が遅いのに一度も影を奪われていなかったこととか、影鬼が終わった後、頑なに一緒に帰ろうとしなかったこととか。

私達は、あやね先輩という実在の人物を誰かが噂したものが『第二図書室の眠り姫』という怪談の正体なんだと思っていた。

だけど、実際はあやね先輩はフミツキさんと似たような存在だったのだろう。

だから、どこを探しても見付からない。

と、ここで私は気付く。

「さっきは昼休みだったから駄目だったけど、怪談通りなら放課後に第二図書室に行けば会えるんじゃないか?」

「それだ!」

白が私を指差してくる。

私達は第二図書室へと向かった。


*****


第二図書室に行っても、結局あやね先輩には会えなかった。

「そうだよね…いつでも会えるわけじゃないよね…怪談って、こう、不確定なイメージがあるし」

白が残念そうにしている。

「そうだな、でも、なんとなくそのうち会えるような気もするよ」

私も会えないのは寂しかったけれど、あの人はふとした時に出てくる気がする。

「そうだね、とりあえず、今日のところは帰ろっか」

白が私の手を繋いでくる。

恥ずかしい気もしたけれど、もう放課後であんまり人もいないし、まぁ、良いかと思う。

私達は、手を繋いだまま校舎を後にした。


こうして私達の物語は、本当の本当に終わりを迎えたのだった。


*************************************

~後日譚の後日譚・真相と蛇足~



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「…やね……あやね~遊び来たよ~」

微睡みの中、誰かが呼ぶ声が聞こえる。

聞きなれた声に、少しずつ意識が覚醒する。

まだ眠っていたいと訴える瞼を無理やりこじ開けて、自分の外の世界を受け入れる。

「ん…ふみちゃん、おはよ~~」

目を開けると、いつも通り、見慣れた少女が立っていた。

「昨日は楽しかったねぇ~」

「いや、それに関しては言いたいことがあるんだけど」

「?なぁに~?」

フミツキさんと呼ばれる少女、通称ふみちゃんは、呆れたような顔をしていた。

「なぁにじゃなくって。なんで君が、僕の影鬼に参加してんのさ。

あの二人に正体隠してたっぽかったから僕もスルーしてあげたけどさ」

ふみちゃんはプンプンと不満そうな顔をしている。

「え~?だって、ふみちゃんと遊びたかったから~」

「いや、『第二図書室の眠り姫』たる君が『フミツキさんの鬼ごっこ』に参加すんなよ」

「え~?」

分からない、という顔をしていたらお説教された。

「いい?怪談同士は過度に干渉しないようにしてるの知ってるでしょ?

僕らは普通の生き物と違って、物語に依存した存在で、変に物語が混ざり合ったら消滅したりキメラみたいになる可能性だってあるんだから。

っていうか、あの日は君だけじゃなかった気もするけど…」

他の奴らも僕の邪魔ばっかして、とふみちゃんは文句を言っている。

「そういえば気になってたんだけど~」

「うん?何?」

「どうして~あの日は『あたし』呼びだったの~?」

そう、さっきから口に出してるように、ふみちゃんの普段の一人称は、僕と同じく『僕』の筈だった。

「そりゃ…君が居たからだよ。キャラ被り防いであげたんじゃん!」

ふみちゃんは世界観を気にするお年頃のようだ。

「そうなんだ~?ありがとう~?」

よく分からないけれど、手間を掛けたようなのでお礼を言った。

「…はぁ、まぁ、終わったことだしいいよ。あやねがふわふわしてんのはいつものことだし」

「それと~もう一個聞いてもい~い?」

僕は、もう一つ質問したいことがあったのを思い出した。

「いいよ、何?」

「ふみちゃん、本気じゃなかったでしょ~?どうして~?」

ふみちゃんが固まる。

あれ、何か言ってはいけないことを言っただろうか。

「…気付いてたんだ?」

「うん~なんとなく~」

「ふーん」

ふみちゃんが僕をじっと見ている。どうしたのかな。

「別に隠すことでもないんだけど。そもそもあの子たちは間違えてたんだよね」

「?」

首を傾げる僕の前で、ふみちゃんが説明を続ける。

「僕、フミツキさんに追い掛けられる条件は、『放課後の校舎に一人で立ち入ること』、彼女たち、二人組だったろ」

「うんそうだね~…うん?」

「だからさ、そもそもあの子ら、僕の怪談に巻き込まれる条件を満たしてないんだよ」

「え?じゃあなんで追い掛けた回したの~?」

「暇だったし、僕に会いたそうにしてたから」

「うわ~悪い子だ~」

ふみちゃんの怪談は僕も完璧に知ってたわけじゃないから、僕も騙されていた。

「だから手加減してあげてたんだよ。追い掛けるのは本気で追いかけたけどさ、探してる間は歩いて探してあげたり、鼻歌歌ったり」

「そうだったんだ~」

「それに、僕は今の生活を気に入ってるからね、当分この座を誰かに譲る気はないよ」

「そうなんだ~うれしい~」

ふみちゃんがなんだかあったかい笑顔を向けてくる。

ふみちゃんも同じ気持ちだってことだろうか。

「あ~ちなみに、もしまたあの二人に会うようなことがあっても今の話は秘密ね?僕らは怪談、怖くて不思議な存在でなければならない」

ふみちゃんが口元に人差し指を添えて、静かに、のポーズをする。

僕も同じポーズをとってコクコクと頷く。

「と、ああそうだ」

ふみちゃんが、僕ではないどこかを見ている。

フミツキさんが、こちらを見ている。

フミツキさんが、こちらに手を伸ばす。

「あなたも、他言無用でお願いね?でないと、あなたの影を奪いに行くよ」

プツッ




























七月の鬼事、終。

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