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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第7章:「アルエット共和国侵攻」

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第73話:「困窮:1」

第73話:「困窮:1」


 エドゥアルドは結局、多くの物資を融通することを、受け入れざるを得なかった。


 アントン大将が、帝国軍の将校としての立場でエドゥアルドに要請するということは、つまり、皇帝がエドゥアルドに要請するのと同じことだった。

 諸侯に多くの権限が認められているタウゼント帝国でのことだから、断ろうと思えば突っぱねることもできたが、そんなことをして皇帝の心象が悪くなったら、後でどんなことになるかわかりはしない。


 エドゥアルドは表面的には「皇帝陛下のお役に立てるのは、光栄なことだ」と言って、内心では、断腸の思いで物資を提供した。

 それも、ノルトハーフェン公国軍の手持ちの食料などの、およそ半分だ。


 そして、エドゥアルドはさらに物資を失うことになった。

 もう他の諸侯とほとんど状況が変わらないほど物資が乏しくなってしまったのだから、今さら惜しむこともないだろうと、半ばやけくそな気持ちで、オストヴィーゼ公国軍にも物資を融通することを決めたからだ。


 最後に残った物資を、きっちり半分こ。

 それは偶然、クラウスが当初要求していた、ノルトハーフェン公国軍の手持ちの物資の四分の一という量になった。


 皇帝に物資を提供したうえでさらに物資を融通するというエドゥアルドの申し出に、さすがのクラウスもかなり驚いた様子ではあったが、断りはしなかった。

 それだけ、ふところ事情が寂しかったからだ。


 クラウスは、借りた物資は返すし、なんなら本当に領土も返却すると申し出てきたが、エドゥアルドは物資の返済は受け入れるとしても、領土の返却は謝絶した。


 それよりも、今後も両国の友好関係を維持したいとエドゥアルドは要望した。

 両国が盟友であることによってノルトハーフェン公国は内政に専念することができ、エドゥアルドは当面の間、その状態を維持し続けたかったからだ。

 オストヴィーゼ公国にも利益の大きいことだったから、クラウスもユリウスもその場で、代が変わっても約束を守ると、証文つきで誓約してくれた。


────────────────────────────────────────


 エドゥアルドへの訪問者たちが、物資の融通をとりつけ、満足して引き返していった後。


 エドゥアルドは、どっと疲れたようにソファーに座り込み、クッションの中に深く身体を沈めるようにしていた。


 しかたなかった。

 相手は皇帝であり、エドゥアルドと同格の公爵であったのだ。

 たとえエドゥアルドが若輩者ではなく、強い力を持った公爵であったとしても、断ることなどできなかっただろう。


「殿下。どうか、先の光明のことを、お考え下さいませ」


 ヴィルヘルムにもそれがわかっているのか、彼はエドゥアルドが気前よく物資を融通してしまったことにはなにも言わずに、その代わり、今回の出来事で得たものを考えるようにと、エドゥアルドに進言する。


 エドゥアルドは、物資を失った。

 これからまともな補給が到着するまでの間、エドゥアルドは自分につき従ってくれている兵士たちに配給を制限し、空腹に耐えさせなければならなくなった。

 兵士たちは、きっとわかってくれるはずだったが、それでも、自分に仕えてくれる人々を困窮こんきゅうさせることなどしたくはなかったエドゥアルドとしては、つらい。


 だが、ヴィルヘルムが言うように、得たものもある。


 皇帝を始め、エドゥアルドが物資を融通した諸侯は、それを恩に思ってくれるだろう。

 ノルトハーフェン公国軍がいくら十分な物資を持っていたからといって、それはあくまでノルトハーフェン公国軍にとって十分な量であって、それを、大勢で分け合ってしまえば、誰もが満足な取り分は得られないと、誰もがわかっているはずだからだ。


 それでも、エドゥアルドは物資を融通した。

 それは、エドゥアルドが自分のことだけを考えずに、他の諸侯と苦しみを共にし、同じ立場に立って協力しあう存在であると、諸侯に示したことになる。


 そのエドゥアルドの姿勢を知った諸侯は、これからエドゥアルドのことを信用し、そして、協力するべき、頼もしい相手として考えるようになるだろう。


 長期的に見れば、それはエドゥアルドとノルトハーフェン公国にとって、明らかにプラスに作用することだった。

 皇帝は論功行賞でこのエドゥアルドの行いを良い方向に評価してくれるだろうし、今後も諸侯とは良好な関係を維持し、ノルトハーフェン公国の発展にとって必要な、安定的な通商関係を構築することができるだろう。

 それが、ヴィルヘルムの言う、「先の光明」だ。


 しかし、エドゥアルドは気が重かった。

 たとえ未来が明るく輝いていたのだとしても、そこにたどり着く前に飢え死にしてしまえば、なんにもならないからだ。


 だが、今はなんとか、残り少ない物資で耐えるしかなかった。


 エドゥアルドはしばらく気落ちした後、すぐに、ノルトハーフェン公国軍に物資の節約を命じた。

 補給がいつになるかわからない以上、他の諸侯からの物資の返済もあてにはできないし、あるもので食いつないでいくしかないからだ。


 エドゥアルドはこの節約に、自らも参加した。


 タウゼント帝国の多くの諸侯は、補給の不足から兵士たちへの配給を絞っても、自らはそれまで通りの食生活を続ける者がほとんどだった。

 それが、貴族としての当然の権利だと、そう思っているのだ。

 率いてきている軍勢が少なく、兵士たちと距離感の近い男爵などは自らも兵士たちと同じ食生活をする者も見られたが、皇帝を始め、ほとんどの貴族たちはそうではなかった。


 だが、エドゥアルドは、公爵という高位の貴族でありながらも、自ら兵士たちと同じ食生活をするようにした。

 エドゥアルドは自身の食事を作ってくれていたマーリアに依頼して自分専用の食事を作らせることをやめ、兵士たちと同じように配給の列に並び、兵士たちと同じ場所で、兵士たちと同じものを食べるようにした。


 それは、エドゥアルドなりの兵士たちへの謝罪の気持ちの表明であるのと同時に、パフォーマンスでもあった。


 やむを得ない事情があったからといってノルトハーフェン公国の物資を、兵士たちの食べ物を融通してしまったのはエドゥアルドだ。

 そんなエドゥアルドが、自分だけ貴族としての食生活を続けたのでは、兵士たちの士気は大きく下がることになってしまうだろう。


 だからエドゥアルドは、自分も兵士たちと一緒になって節約する姿勢を見せ、困難を兵士たちと共にするという姿勢を示した。

 そうすれば、空腹を覚えながらも、兵士たちは節約に理解を示してくれるからだ。


 そんなエドゥアルドの姿を、中には嘲笑あざわらうような貴族たちもいた。

 貴族が貴族らしくあることは、その貴族の品格を明らかにすることであると、そう考えている者たちが多くいたからだ。


 だが、エドゥアルドは気にしなかった。

 なぜなら、もし実際に戦場で戦った時に、エドゥアルドを守り、エドゥアルドに勝利の栄光をもたらしてくれるのは、着飾って贅沢に慣れた高慢な貴族たちではなく、土埃つちぼこりと硝煙と、血と汗とにまみれて戦う、兵士たちであったからだ。


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