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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第22章:「グラオベーアヒューゲル」

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第511話:「猛攻」

第511話:「猛攻」


 グラオベーアヒューゲル西側の戦線における公正軍の攻撃は、エドゥアルドの予備兵力と元々この方面に配置されていた兵力を合わせて、5万5千で開始された。


 これに対するのは、ズィンゲンガルテン公爵・フランツに率いられる5万。

 元々は皇帝位を巡って対立候補であるベネディクトと戦うために集められた正当軍が主体となった部隊だった。


 数の上では、ほぼ互角ではある。

 しかしその実質的な戦力においては、公正軍の側が上回っていた。


 予備兵力としてエドゥアルドたちが温存していたのは、ノルトハーフェン公国軍の第1師団。

 公爵の親衛部隊である近衛歩兵連隊を中核とする、最精鋭部隊。

 古参兵が多く十分に訓練が積まれているだけではなく、主君に直接率いられているという自負心が、彼らの士気を大きく鼓舞している。


 このとっておきの切り札に加えて、5千というまとまった規模での騎兵が打撃兵力として運用されている。

 そして彼らは騎兵単独ではなく、騎兵の機動力に追従できる火砲である騎馬砲兵が随伴している。


 最大の優位点は、これらの精兵は今までの戦闘には参加しておらず、気力・体力共に十分にある、ということだった。

 その戦闘力を最大限に発揮することのできる最良の状態にあるのだ。


 これに対し、フランツの下にある兵力は疲労していた。

 元々この方面に配置されていた部隊は士気が低いだけでなく早朝から断続的に交戦を続けており、公爵が率いている親衛隊を始めとする兵力は、崩壊しそうになった戦線を支えるために会戦が始まって早々に投入されたためにやはり疲れてしまっている。


 この、本来の力を発揮することのできない状態となっている敵を粉砕し、一気に連合軍の後背にまで進出。

 敵軍を崩壊に至らしめるのと同時にベネディクト公爵の退路を遮断し、この決戦において確実に捕らえるか、討ち取るかする。


 それがエドゥアルドたちの狙いであった。


 公正軍の猛攻は、13時過ぎから開始された。


 丘の上に引き上げられた火砲からの支援射撃を受けつつ、歩兵たちが戦列を形成し、密集した横隊で一斉に前進。

 同時に、騎馬砲兵を伴った騎兵部隊がその機動力を発揮し、戦線のさらに西側から迂回して、敵の側面に回り込む。


 連合軍の側も、公正軍が戦線の西側で攻勢を開始したことにはすぐに気がついた。

 今までになく激しい砲撃が浴びせられただけではなく、前面で高らかにラッパとドラムが打ち鳴らされ、おどろおどろしい威圧的な音楽を奏でながら歩兵の大軍が押しよせて来る様は、はっきりと見て取ることができたからだ。


 だが、その初動は遅れ気味にならざるを得なかった。

 戦場全体を見渡す東側の高地を公正軍に抑えられてしまったために事前にエドゥアルドが予備兵力を西側に動かしたことにまったく気づくことができていなかったし、この攻勢が勝敗を決するための、余力を振り絞った強力なものであるとはすぐに理解することができなかったのだ。


 加えて、すでに連合軍には投入するべき予備兵力がなく、司令官自身も前に出てしまっているという状況も災いした。


 戦況に応じて迅速に動かすことのできる兵力が手元に残っていない、ということは、公正軍の攻勢に対処するためにはすでに前線に投入され交戦状態にある部隊をなんとか再配置していかねばならないということだった。

 しかし、どの部隊もすでに戦っているから、新しい命令を受けたとしても容易には動くことができない。

 眼前の敵を無視して移動を開始したら当然、そこを突かれて大損害を受ける恐れがある。

 それだけでなく、前線の各所に散らばった指揮官たちに伝令を派遣し、新たな命令を伝えるのには時間がかかった。


 しかも、ベネディクト公爵もフランツ公爵もそれぞれの兵力を率いて前線に出てしまっていた。

 このために指揮系統が混乱している。

 両公爵ともに目の前で起きていることは前線に出ているだけあってよく見えているのだが、後方で情報を集約して全体の戦況を把握するということができなくなっており、効率的な兵力の再配置は実施不能という状況だった。


 その隙を突き、エドゥアルドたちは迅速に前進した。


 歩兵の戦列が接近して猛烈な射撃を浴びせる一方、側面に回り込んだ騎兵部隊は敵の隊列に斬り込んでは離脱するのをくり返し、その戦力を削り取り、隊列をぐちゃぐちゃにかき乱していく。

 そしてその間に敵を狙いやすい有利な射撃位置を占めた騎馬砲兵部隊が展開を終え、射撃を開始した。


 古今東西、軍隊というのは側面や後輩からの攻撃に対してぜい弱だ。

 というのは普通、その戦闘力が正面の敵に向かって最大限に発揮できるように最適化されて兵力を配置し、運用するからだ。


 側面や後方にまで万全の防備を整えようと考えれば当然、そちらにも十分な兵力と兵器を配置しておかなければならない。

 しかしそれでは、正面に最大限の戦力を叩きつけられるように最適化された配置を取る敵軍に対し、不利になってしまう。

 正面で戦いが行われている時、側面、あるいは後方の守りのために配置した兵力はすべて意味を成さない遊兵となってしまうからだ。


 そして特に、密集隊形を取る軍隊というのは、側面や後方からの攻撃に対して脆い。

 正面に対して戦力を発揮することに特化したこの隊形では、急に右や左、あるいは後方に振り向こうとしても、密集し合っている兵士同士が干渉し合って容易には動けないからだ。


 このために、公正軍の騎兵部隊による側面、後方からの襲撃は、決定的な威力を発揮した。

 無防備な部分に対する攻撃に対処する有効な手立てはなく、また、敵の戦列が迫って来る正面に意識を集中していたために騎兵の攻撃が局所的な奇襲効果を生む場合も多かったからだ。


 中には慌てて方陣を組み、全周囲への対応をしようと試みる歩兵中隊もあったが、そういった部隊は正面からの戦列歩兵の密集横隊に打ち破られるか、騎馬砲兵の射撃によって粉砕されていく。

 死傷者が続出し、訓練されているはずの兵士たちは混乱し、恐慌状態に陥った。


 やがて、連合軍の西側の戦線の崩壊が始まった。


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