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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第22章:「グラオベーアヒューゲル」

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第504話:「勝機:2」

第504話:「勝機:2」


 激戦の末、多くの犠牲を支払ってようやく奪取した戦場東側の農場。

 そこに予備兵力を投入し、一気に敵を突き崩すのではなく、反対の西側から攻撃を仕掛ける。


「なぜ、西側なのだ? 」


 釈然としないエドゥアルドは、アントンに対してさらなる説明を求めていた。


 東側の農場、戦場全体を見渡すことのできる要地。

 そこを奪取する、ということは、事前に決められていた作戦の中で必ず達成されるべき事柄であったし、絶対に占領するという約束をユリウスから受けている。


 自身の盟友、義兄弟であるオストヴィーゼ公爵は、その約束を見事に果たした。


 そうであるのならば、次は自分の番だ。

 危険を冒し、重大な役割を果たしたユリウスと共に戦場に立ち、自分自身も彼と同じように我が身を敵弾にさらし、共に勝利の瞬間を迎える。


 エドゥアルドはそうしたいと願い、そうするべきだと信じていた。


「理由は、先にも申し上げましたが、東側から我が方が攻勢をかけるだろうということは敵軍も予期しており、対策を取って来るだろうということが1つ。


 そしてもう1つは、西側の敵軍は特に戦意の低いズィンゲンガルテン公国軍が主力であり、ベネディクト公爵が東側の戦線のカバーに動くのであれば、この方面に投入できる予備兵力は一切なくなる、ということでございます」


 アントンは主君の心情は十分に理解していた。

 だが、分かった上で、あえてそれを否定する。


 そうすることがより確実な勝利をもたらすと信じているからだ。


「西側の戦線は現在膠着状態に陥っておりますが、これは、フランツ公爵自身が前線に出ることでかろうじて支えているのに過ぎません。

 東側の農場を我が方が奪取したということは、すべての将兵が目にし、確認できる事実でございます。

 この、要地を我が方に奪われたという事実と、予備兵力を投入しての攻勢。

 2つの要素が合わされれば、必ず、西側の敵軍は崩すことができます。


 そうしてフランツ公爵を討ち取るか、捕らえるか、遁走させるかした後に、我が軍が西側から敵軍を片翼包囲し、敵軍の退路を脅かせば、中央部、そして東側の敵軍も大きく崩れるでしょう。


 この戦いで我が軍は両公爵を打ち破らねばなりませんが、中でも、決して逃がしてはならないのはベネディクト公爵であります。

 フランツ公爵はすでにその本国をすでに我が方に抑えられており、たとえ逃げ延びたとしても再起は叶いません。

 しかし、ベネディクト公爵が逃げ延びれば、本国であるヴェストヘルゼン公国で立て直しを図ることができます。


 西側から攻撃するというのは、そうなる事態を避けるための策でございます。

 西側の敵軍を破り、我が軍はそのまま片翼包囲を実行し、東側の戦線の支えに動いたベネディクト公爵の退路を遮断。

 確実に討ち取るか、捕らえるかいたします。


 東側からでは、敵軍を撃破できたとしても、退路を遮断できません。

 ベネディクト公爵を取り逃がす恐れがあるのです」


 連合軍を構成している2つの軍。

 皇帝軍と、正当軍。

 その2つの軍それぞれの盟主の内、フランツは取り逃がしても重大な脅威とはならないが、ベネディクトは決して逃がしてはならない。


 だから、あえて東側ではなく、西側から攻勢をかけるのだ。


 その理屈を聞けば、なるほど、と思えてくる。

 エドゥアルドの最終目的はタウゼント帝国の内乱をできる限り早期に終結させ、自身が新たな皇帝となり、この国に次の一千年を迎えさせるための基礎を作り出すことだ。


 この、グラオベーアヒューゲルの会戦に勝利するということは、その手段に過ぎない。

 同じ[勝利]であっても、ただ勝つだけではなく、より良い勝利を得なければならないのだ。


 だが、ノルトハーフェン公爵は「そうせよ」と命じることを躊躇した。

 それが有効な策であり、採用するべき意見であることを理性で理解しつつも、感情が激しく反発している。


(それではまるで、ユリウス殿を囮にするようではないか……! )


 たとえ勝利を得たとしても、その後でどんな顔をして盟友に再会すればよいのか。

 エドゥアルドにはわからなかった。


「伝令! 伝令でございます! 」


 その時、公正軍の本営に1人の将校が駆け込んで来る。

 茶色の記事の軍服に、金糸で刺繍された馬を模した飾りが輝いている。

 馬はオストヴィーゼ公爵家の紋章。すなわちこの伝令は、ユリウスの下から出されたのに違いない。

 その証拠に、彼の姿は戦塵にまみれ、戦場の中を突破してきたためか、ズボンに血の飛沫が点々と染みついていた。


 敵と誤認され攻撃されないように叫びながらやって来た伝令はエドゥアルドたちの姿を見つけると手前で馬を止め、流れるような澱みない動作で下馬する。

 相当な馬術の腕前であることがそのことだけでも知れる。


「我が主、オストヴィーゼ公爵からの伝令でございます! 」


 そして伝令は装具をチャキチャキ鳴らしながら少年公爵の下に駆けよると、跪いた。


「我が隊は東側の農場の占領に成功、敵軍は戦線の再構築のために後退中!

 エドゥアルド公爵殿下には、この機に乗じて攻勢に転じ、勝利を決定づけられたし!


 なお、我、敵弾を受けるも、冥界の門をくぐることあたわず! 」


 その報告の前半部分は、わざわざ知らされるまでもなくすでにわかっていたことだった。

 しかし、最後につけ加えられた言葉に、エドゥアルドは驚きを隠せなかった。


「ユリウス殿は、敵弾を受けたのか!?

 ご無事なのか!? 」


 盟友が負傷した。

 その事実に、少年公爵は動転した。


 今まさに、まるでユリウスのことを囮とするような作戦を進言され、思い悩んでいたところなのだ。

 負傷してまで戦ってくれた義兄弟に対し、後ろ暗いと思う気持ちが膨れ上がる。


「ご配慮、感謝申し上げます!

 されど、我が主は未だ健在!


 エドゥアルド公爵殿下と馬首を並べて共に戦うのを楽しみにしている、と仰せでございました! 」


 顔色を変えたエドゥアルドに、伝令はそう答えた。


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