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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第21章:「挙兵」

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第480話:「開城交渉:2」

第480話:「開城交渉:2」


 もしもエドゥアルドの兵士たちが民衆に対して暴虐な行いをするつもりであるのならば、徹底的に交戦する。

 そう宣言するモーントの言葉は鋭く、その本気度がうかがい知れるものだった。


「その点に関しては、お約束いたします。

 我が将兵はヴェーゼンシュタットで暴行、略奪など、一切、暴虐なことは行いません。


 この、ノルトハーフェン公爵。

 エドゥアルド・フォン・ノルトハーフェンの名においてそう約束し、我が旗下のすべての者に、このことを徹底させましょう」


 少年公爵は一切の躊躇なくそう応じていた。


 もしここで即座に明言せず、時間をかけたり、含みを持たせた言い方をしたりすれば。

 それだけで相手はこちらに約束を守る意思なしと見なして、交渉の席を蹴ってしまうかもしれない。


 モーントの態度には、そう思わされるだけの迫力が、鬼気迫るものがあったのだ。


「加えて、もしも我が命に反し、ヴェーゼンシュタットのいかなる方に対してでも危害を加えた者が出た場合、その身柄を抑え、━━━そちら側にお引渡しする。


 あなた方自身の方によって、ふさわしい裁きを加えていただいてかまわない」


 旗下の将兵に略奪や暴行などはさせない。

 エドゥアルドはそう断言しただけではなく、もし、自身の命令に背く者があれば、その裁きをヴェーゼンシュタットの側に委ねるとさえ明言した。


 仮にそんな不埒者が出て拘束され、実際に引き渡しが行われた場合。

 その者に、正式な裁判を経ての断罪が行われるとは限らなかった。


 暴虐を働いた者に対する怒りそのままに。

 裁判にかけられることもなく民衆による私刑リンチが加えられるかもしれなかったし、本来であれば死罪には至らないような軽度な罰であっても、人々の憎悪を一身に受け、激しい攻撃の末に落命することとなるかもしれない。


 そうなったとしてもかまわない。

 それを認めるということは、自身の命令に背いたとはいえその旗下の兵士の身を守る努力を、犯罪者であっても本来ならば守られるべきはずの最低限の権利を保護する努力をしないということだった。


「誠に、我々に犯罪者の身柄を引き渡していただける、と? 」


 そのエドゥアルドの言葉を聞いた時、モーントは少し意外そうな顔をしていた。

 略奪や暴行は、厳しく制限する。

 そういった約束は当然されるだろうと予想してはいたのだが、まさか、犯罪者の身柄を引き渡し、そちらの思う存分、煮るなり焼くなり、首を刎ねるなり四肢を引き裂くなりしてくれてかまわないと、そこまで思い切ったことを言われるとは思っていなかったのだ。


「ただし」


 だが、少し間を置いた後にそう言葉を続けた少年公爵に、モーントは表情を険しくする。

 犯罪者の引き渡しという約束を骨抜きにするような、そんな条件を提示されるとでも思ったのだろう。


 しかし、エドゥアルドの要求は、まったく違う内容だった。


「我が軍の兵の一部の城内への進駐については、ご了承いただかなくてはならない。


 各城門。

 城内の主要な防御施設、武器、弾薬庫。

 治安維持のために必要と思われる交通の要衝。


 それらには、我が兵力を置かせていただかなければならないでしょう。


 もし、これらの将兵が不埒な行いをした場合には、先にお約束したとおり、こちらから身柄をお引渡し致しますが、城内の要所を抑えることはお認めいただかねばなりません」


「それで、その、規模はいかほどに? 」


「そちらが一切の抵抗をしないというのならば、そうでしょうね……、5000名程度に留まることになろうかと思います。


 これまで行われていた正当軍に対する補給の手配などは禁じさせていただきますが、それ以外の目的であれば市民の城門の出入りは制止いたしません。

 また、ヴェーゼンシュタットの行政や司法に関しては、こちらから干渉はしません。

 このために、行政府などの内部への兵力の配置は行わないつもりです。

 もちろん、建物の外は抑えさせていただきますが。


 我が方としては、この5000名の城内への進駐をお認めいただければと」


「とすると、進駐する5000名以外の殿下の公正軍は、城外に留まると? 」


「いいえ。このまま北に取って返します。

 ……敵が迫ってきているはずですから」


 エドゥアルドはニヤリとした不敵な笑みを浮かべながら、この、あまりにも規模の小さな占領軍の陣容に驚いているモーントに言う。

 普通に考えれば、ヴェーゼンシュタットほどの都市を占領下に置くためには2万程度は必要であるのだ。

 5000という数では、本当に限られた要所を抑えることができるだけで、占領軍としてはあまりにも少数だった。


「占領といっても、このように、ヴェーゼンシュタットの人々の生活を過度に制限することはいたしません。

 それに、さほど長くはその状態は続かないでしょう。


 僕は短期に、一撃で、敵を……、貴殿の主君を打ち破るつもりでおります」


 フランツの正当軍に対する補給物資の輸送は止めるが、市民生活への干渉は最小限度。

 しかも進駐させる兵力は、ズィンゲンガルテン公国の首都という要衝を武力で制圧するにはあまりにも規模が小さい。

 平時の、市街地の警備であればなんとか足りるだろうが、とても、戦時に敵地を占領するような規模ではなかった。


「もしや、殿下は……、我が国を、ズィンゲンガルテン公爵家を、おとり潰しになるおつもりがないのですか? 」


 あまりに穏便で、継続的にこの地を支配しようという意思を感じられない占領。

 そのエドゥアルドの方針を聞いたモーントは、少しの間きょとんとしていたが、少年公爵の意図に気づくと若干表情を和らげ、安心した様子でそう確認した。


「ええ。僕は、ズィンゲンガルテン公爵家も、ヴェストヘルゼン公爵家も、取り潰すつもりなどありません。

 多少、ペナルティを受けていただくつもりですが、領土の割譲などもほとんど要求せず、被選帝侯の地位もそのまま継承していただくつもりです。


 ただ、フランツ殿には隠居していただきます。

公爵位は息子のハインリヒ殿にと考えていますので、もし開城をご了承いただけるのであれば、帰ってそうお伝えしていただき、ご安心していただければと思います。

 こちらからハインリヒ殿の親近をお騒がせしたり、ましてや監視したりするなどということもしないと、そう約束いたします」


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