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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第21章:「挙兵」

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第479話:「開城交渉:1」

第479話:「開城交渉:1」


 フォルカー・フォン・モーント準伯爵。

 その名前を聞いた時、エドゥアルドはもやもやとした感覚を覚えた。


 なんとなく、聞いたことがあるような、ないような。

 記憶が曖昧であったからだ。


「昨年、ヴェーゼンシュタットへの強行補給作戦を実行した際に、一時的に共闘したことのあるお方でございます」


「ああ、あの時の! 」


 眉をひそめていたエドゥアルドの様子に気づいたヴィルヘルムの指摘で、ようやく思い出すことができた。

 少年公爵は昨年、ヴェーゼンシュタットを救うべく補給物資を送り届ける作戦を実施したのだが、その際にモーントとは面識ができていたのだ。


「モーント準伯爵殿がお越しです! 」


 天幕の外で警護を行っていたミヒャエル大尉が声を張り上げ、使者が到着したことを告げる。


「どうぞ、中へいらしてください」


 エドゥアルドは一度深呼吸をし、気合を入れ直してから立ち上がり、居住まいを正しながらそう言った。

 すると、「失礼いたします。フォルカー・フォン・モーント準伯爵、ヴェーゼンシュタットの代表として参りました」と一言断ってから、モーントが天幕の中に入って来る。


 長身で落ち着いた物腰の、三十代半ばの男性だ。

 以前に会った時は戦場だったので当然軍服姿であったが、今回は謹慎処分中ということもあり、貴族が身につける正装である黒のフロックコート姿。


 彼は入って来るなりエドゥアルドに向かって直立不動の敬礼をしようとして、唐突になにかに気づいた様子ではっとして手を止め、それからあらためて深々とお辞儀をした。

 どうやらいつものクセで敬礼をしようとし、途中で、自分が指揮権を剥奪されて謹慎処分中であることを思い出したらしい。


「モーント殿、ようこそおいでに。

 どうぞ、お顔をお上げください」


 エドゥアルドが軽く手の平を見せながらうながすと、モーントはゆっくりと顔をあげ、こちらをまっすぐに見つめて来る。


 その表情からは、ぱっと見ではなにを考えているのかはうかがい知れない。

 緊張しているようでもあるし、落ち着き払って泰然としているようにも見える。


「さぁ、どうぞ、イスに腰かけてください。

 ヴェーゼンシュタットの人々がどのような結論を導かれたのか、しっかりとうかがわせていただきます」


 そして少年公爵がそう勧めると、静かにモーントに近づいたルーシェがイスを引き、「どうぞ」とすました態度で着席を促す。

 彼は少し迷った様子だったが、エドゥアルドが席についたことを確認すると、自身も腰を落とし、イスに座った。


「いやぁ、昨年の、サーベト帝国との戦争以来でしょうか?

 お元気そうな様子で、嬉しく思います」


 エドゥアルドは努めて和やかに、親しげに、積極的に声をかけて行く。

 ━━━すでに、駆け引きは始まっているのだ。


 もしモーントが、こちらに対して抵抗すると伝えるためにやって来たのであれば、いくら勧められたからと言ってイスに腰かけるはずがなかった。

 戦うとすでに決めているのだから話し合いのテーブルになどつかず、ただそのことを伝え、断行する意思を明確に示して踵を返すだろう。


 堂々と啖呵をきっても良いかもしれない。

 それによって戦いに臨む心意気と決意を示せば、エドゥアルドの鼻を明かしてやれるだけではなく、後世にまで長く武勇伝として語り継がれるだろうからだ。


 だが、モーントは席についた。

 ということは、話し合う余地がある。━━━すなわち、条件次第でヴェーゼンシュタットは開城する、ということだった。


 それがどんな条件になるのか。

 これからの話し合いによって決まる。

 ということは、できるだけ有利な条件を飲ませるために、駆け引きをしなければならないということだった。


「公爵殿下。単刀直入に申し上げましょう」


 しかしモーントは、エドゥアルドの会話に乗ってこなかった。

 和やかな雰囲気を作り、激しいぶつかり合いを避け、できるだけ穏便な対話によって好意的な条件を引き出そうという魂胆を見抜いているのか。

 あるいは、もし交渉が決裂すれば徹底抗戦することも選択肢としてあるのだという、相当な覚悟を持ってこの場に臨んでいるのかもしれない。


「……うかがいましょう」


 相手の凄味に気づかされたエドゥアルドは、姿勢を正し、真剣な表情で向き合う。


 話術を持って相手をこちらの思う通りに誘導しようという試みは、早々にあきらめた。

 もしそんなことを、それも自身の命さえ惜しまないという強い覚悟でいる者にそんな態度を見せれば、人の決心を軽んじ自分の思う通りに動かそうとする策謀家だと、返って不信感を抱かれるか軽蔑され、成立する交渉も流れてしまいかねないからだ。


 相手が真剣である以上、こちらも誠実にその話に耳を傾ける。

 これからどんな問答をすることになるにしろ、そういう姿勢を見せなければならないタイミングだった。


「殿下は、我々に開城せよとおっしゃる。

 しかしながら、開城した我々を、いったいどのように扱うおつもりなのか。


 ……もし、殿下が無辜の民衆に対し無用の災禍を加え、害を与えるとおっしゃるのであれば。

 不肖、この、フォルカー・フォン・モーント準伯爵。

 そして、ズィンゲンガルテン公爵家嫡男、ハインリヒ・フォン・ズィンゲンガルテン様を始めとして、ヴェーゼンシュタットに残っている貴族の子弟。

 さらには、数十万の民衆。


 これらの総力をあげて殿下に反抗いたしますが、いかようにお考えか? 」


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