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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第20章:「帝国内乱」

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第461話:「僕に皇帝が務まるのか:1」

第461話:「僕に皇帝が務まるのか:1」


 自分は、果たして皇帝になることができるのかどうか。

 そう質問したエドゥアルドは、ルーシェがあわあわと慌てふためいてくれることを期待していた。


 そうして彼女に、自身が皇帝になることは「難しい」と言わせたかった。

 そうすればエドゥアルドは自身の躊躇に対し、小さいが根拠を持つことができる。

 あの、ほぼ満場一致で少年公爵を皇帝に推そうとしていた人々に、自分の今の気持ちが弱音ではないと主張することができる。


 彼は逃げ道が欲しかった。

 皇帝という地位の責任の大きさは自分には背負いきれないものだという思いに対して、他人からの肯定が欲しかった。


「エドゥアルドさまが皇帝になる、というだけでしたら、おできになると思います」


 だが、返って来た言葉は、期待とは真逆のものだった。


 それも、自信と、確信を持った言葉だ。

 ルーシェは落ち着き払っていて、そのことにまったく、一点の疑いも持っていないという様子だった。


「本当に、そう思うのか? 」


「はい」


 エドゥアルドが震える声で、しかし、できるだけ自身の動揺を表に出さないようにしながらたずねると、メイドははっきりとうなずく。


「今、ベネディクトさまの皇帝軍と、フランツさまの正当軍は睨み合いを続けておりますが、どちらも決定打を欠いている状態でございます

 そして、どちらの陣営も、内乱が長期化し始めたことに焦って、困窮し始めているように思われます。


 異なる大義をかかげ、互いに争っているはずなのに手を結び、略奪を行ったというのが、その証拠。

 どちらの軍隊も、十分に補給を続けることが難しいのです。


 そこでエドゥアルドさまがお立ちになれば、状況は一変いたします。

 ユリウスさまもお味方してくださいますし、そのことを聞けば、シュテルケ伯爵さまに起きたことを知った諸侯の方々も、エドゥアルドさまにお味方して下さるでしょう。

 オルリック王国のアリツィア王女さまにお願いすれば、同国からのご支援もいただけるはずでございます。


 そしてエドゥアルドさまには、ベネディクトさまとフランツさまが失ってしまわれた、大義がございます。

 カール11世陛下から託された、皇帝になれ、というお手紙が。


 陛下は10年後を、というお考えでいらっしゃいましたが、ヴィルヘルムさまがご指摘された通り、現状のまま内乱が長期化していけば、タウゼント帝国には10年後はないかもしれないと、私もそう思います。


 陛下からいただいたお手紙、そして自身の野望によって内乱を起こした両公爵を制し、帝国を立て直すことを大義として掲げて進めば、きっと多くの方々がエドゥアルドさまこそが正しいとお認め下さるはずです。

 皇帝軍、正当軍を離反する諸侯の方もいらっしゃるでしょうし、今まで中立を保っておられた諸侯も、エドゥアルドさまにお味方して両公爵の軍隊の行動を牽制して下さるでしょう。


 ただでさえ、補給に苦しんでいるのです。

 自然と、皇帝軍も正当軍も、弱体化していくことでしょう。

 その上さらに、大義も失っているのですから、兵隊さんたちの戦意も振るわないはずです。


 そこを突けば、容易に両軍を打ち破ることができるはずです。

 そしてその後であらためて皇帝選挙を開けば、もっとも支持を受けるのはエドゥアルドさまになりましょう。


 エドゥアルドさまが皇帝を目指すのは、カール11世陛下のご意思であり、内乱という危機を鎮めたという大功があるのですから、他に支持するべきお方は見当たらないはずです」


 そのルーシェの言葉を、エドゥアルドは唖然としながら聞いていた。

 戯れのつもりで聞いただけなのに、これほどはっきりと、しかも理路整然と、普段のメイドの口調や態度からは想像もつかないような落ち着き払った様子で意見を述べられるとは、少しも思っていなかったし、期待してもいなかったのだ。


「ま、まるで、ヴィルヘルムみたいな口ぶりだったな」


 エドゥアルドは声を引きつらせながら、どうにかそれだけを言う。


「も、申し訳ございません、エドゥアルドさまっ!

 その、いつも授業をしていただいているので、ついヴィルヘルムさまの口調を真似してしまったのですっ」


 その様子を、自分の意見に引いているのだろうととらえたルーシェは、頬を赤くしながら、恥ずかしそうに、そして申し訳なさそうに、黒髪のツインテールを激しく揺らしながらエドゥアルドに向かって深々と頭を下げた。


「い、いや、そんな、謝らなくていい……。


 ただ、ちょっと、あんまりまともな意見が返って来たから、驚いただけっていうか」


 別にメイドのことを非難するつもりなどまったくなかった少年公爵は声を引きつらせたまま、頭を下げ続けている彼女をなだめつつ、頭の中でつい先ほど耳にした事柄を思い返す。


 ルーシェの言っていることは、なに一つ、間違ってはいない。

 なろうと思えば、エドゥアルドはなれてしまうのだ。

 皇帝に。


 これが平常時であれば、カール11世から皇帝になれ、という手紙を受け取っていたところで、そのことだけで皇帝になれるはずもなかった。

 タウゼント帝国の皇帝とは、被選帝侯の中から、投票権を持った諸侯の投票によってはじめて選出されるのであって、前皇帝が指名したからと言ってなれるものではないからだ。


 しかし、今は状況が異なっていた。

 直近に行われた皇帝選挙で候補者となったベネディクトとフランツは内乱を引き起こしただけではなく、自らの手でその大義の正当性に泥を投げつけてしまったからだ。


 両公爵のどちらかが内乱に勝利して皇帝位を名乗ったのだとしても、その存在を心から認める者はいない。

 だが、少年公爵が軍を興し、両公爵を討伐に成功したのなら、諸侯はこぞってこの行いに正義があると認め、彼を皇帝に、と推し戴こうとするだろう。


 そして消去法にはなるが、次の皇帝になることができるのはエドゥアルドしかいなかった。

 ユリウスは自ら身を引いたし、残る被選帝侯であるアルトクローネ公爵・デニスは、皇帝位の世襲を禁じる帝国の国法によって皇帝選挙に立候補することができない。


 ルーシェの言う通り、なろうと思えば、エドゥアルドは皇帝になることができる。

 そういう状況であった。


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