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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第20章:「帝国内乱」

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第435話:「内乱:2」

第435話:「内乱:2」


 内乱が、起こりつつある。

 いや、始まってしまっている。


 眩暈を覚えるほど強い衝撃を受けた後、そう理解したエドゥアルドとユリウスは、直ちに帰国する準備に入った。


 ベネディクトもフランツも、すでに帝都を立ってしまった。

 2人とも、武力闘争に向けた準備に入っているということだ。

 正式に宣戦布告されるのも、間もなくのことだろう。


 遠からず両公爵は挙兵し、それぞれの勢力を糾合し、帝国国内のいずこかで、文字通り雌雄を決する戦いに臨むことだろう。

 数万を数える軍勢がぶつかり合い、帝国は同国人同士で殺し合い、それによって荒廃することとなる。


 その内乱に、エドゥアルドもユリウスも無関係ではいられない。

 ベネディクトもフランツも、「貴公は、いったいどちらに味方するのか? 」と出兵を迫り、あの手この手で懐柔しようとしてくるのに違いなく、誰に味方をするのか、あるいは敵対するのか、それとも中立を保つのか、選択を迫られる。


 ベネディクト陣営、フランツ陣営、どちらかに味方する場合は当然のことだったが、中立である場合にも、エドゥアルドとユリウスは自国の軍事力を動員しなければならない。

 どちらにも味方をしないという選択をする場合にも、自国を戦場としないために、あるいはいずれの陣営からも意志を強制されないために、武力という実効力で備えなければならないからだ。


 それだけではない。

 帝国が内乱に陥っている最中に、隣国、アルエット共和国が侵攻してくるという、悪夢のような事態にも備えなければならなかった。


 こうなってしまった以上は、自分たちがどんな立場を取るにしろ、自国に一刻でも早く戻って臨戦態勢を整えなければならない。


 エドゥアルドとユリウスにとって、なによりも優先するべきは自国のことだった。

 公爵として自らが治めている、領土。

 そこに暮らす人々の生活や、命。

 それをどうやって保全するか以上に重要なことなどないと、少なくとも2人はそのように考えている。


 これから起こる内乱を、どう鎮めるか。

 その方法を考えるのにしろ、まずは自国の安全を確保してからのことだった。


 急いで荷物を整え、不要なものはそのまま放棄し、必要最小限の連絡や手続きを行う。

 それに、数時間。

 そうして準備が整い次第に、もう、2人の若き公爵はそれぞれの祖国へ向かって旅立っていた。


 これは、帝都・トローンシュタットに集まっていた他の諸侯たちも同様だった。


 ヴェストヘルゼン公爵・ベネディクト。

 ズィンゲンガルテン公爵・フランツ。


 この両名が帝都を去ったという事実を知った者、あるいは、周辺の諸侯が突然慌ただしく帰国の準備を開始したことでようやく異常事態を知った者。

 いずれにしろ、帝都にいた諸侯のすべてが帝都を去ることとなった。


 まるで、津波が押し寄せる前に、潮が一斉に引いていくように。

 皇帝選挙のために帝都に集合していた諸侯たちが、逃げるように帰国していく。


 後には、なにが起こっているのか事情を知らされないまま、ただこの騒動に不吉な予感を覚え、不安そうにたたずむ民衆だけが取り残された。


────────────────────────────────────────


 ベネディクトとフランツがそれぞれの陣営を立ち上げ、挙兵し、各々のかかげる大義を明らかにしたのは、それからほどなくしてのことだった。


 ベネディクトは自らが発した檄文の中で、先に行われた皇帝選挙には一切の不正はなく、1票差で自身の勝利に終わったという結果は有効であると主張した。

 そしてその結果を覆すために皇帝の言葉を捏造したなどというあらぬ噂を流して妨害し、かつまた、皇帝選挙のライバルを暗殺しようとしたと不名誉極まりない汚名をなすりつけたのだと、フランツのことを名指しし、文字にするのもはばかられるような激しい表現で非難した。


 それからベネディクトは、現在の情勢を考えれば一刻も早く新たな皇帝を立てるべきであると続け、フランツのような奸臣を廃し、自らが国政を掌握して「この苦難の時代」を乗り越えるため、軍を興し、帝都へ向かうのだと宣言し、自らの軍を[皇帝軍]と称した。


 そして彼は檄文の最後に、こうつけ加えた。

 いわく、「我こそが皇帝選挙で選ばれた皇位継承者であり、その行く道を阻む者はすべからく逆臣と見なし、誅殺する! 」と。


 この檄文が発せられるのとほとんど時を同じくして、フランツも兵をあげ、そして自身が兵をあげる理由を明らかにした。


 ベネディクトは、皇帝陛下が[不慮の事故(フランツは自身も皇帝を排除する陰謀に関わっていたために、このような形で言及するしかできなかった)]によって意識不明に陥ったのを良いことに、勝手にその発言を捏造し、皇帝選挙を実施したということ。

 そのような形で行われた選挙は不純なものでその結果は認めることができないばかりか、こんな手法を取ったベネディクトにはそもそも、皇帝になる資格などないのだと、フランツは主張した。


 では、真の皇位継承者とは、いったい誰であるのか。

 それはフランツであり、彼は、皇帝を僭称するベネディクトを誅殺し、帝国に確固たる安寧と繁栄をもたらすために兵をあげたのだと宣言し、自らの軍を[正当軍]と称した。


 そしてその檄文の最後には、こう、フランツの言葉が記されていた。

 いわく、「ベネディクトを支持する者は、すべからく反逆の臣である。諸君、ゆめゆめ、誤った選択をなされるな」と。


 それぞれの陣営の兵力がどれほどになるのかは、明確には示されてはいなかった。

 だが、ある程度予測することはできる。

 タウゼント帝国では諸侯に対し、皇帝の命令に応じて参陣しなければならない人数を軍役として定めており、その数は諸侯それぞれの国力に比例するように決められているからだ。


 そして各諸侯は、定められた軍役の人数とほぼ同数を国内の防衛のために残せるだけの軍備を整えるのが一般的だった。

 領国の防衛に相応の兵力が必要であるというだけではなく、軍役が年単位に渡るほど長期化した場合に、参陣する兵士を本国の兵士と交代させ、休養させるためだ。


 こうした点を考えれば、おそらく、どちらも最大で4~5万の手勢をかき集めることができるだろう。

 だから、その分も根こそぎ動員すれば、これほどの数は集めることができるはずだった。


 ただし、ベネディクトとフランツが率いる軍がその規模に留まる、というわけではなかった。

 諸侯の中からは、それぞれの思惑から、あるいは強制されて、どちらかの陣営につく者があらわれるに違いないからだ。


 どちらの陣営も、最終的に10万を数えるほどに膨れ上がるのに違いなかった。


 両公爵の檄文に触れた者はみな、誰もが、突然始まってしまったこの内戦がもたらす惨禍におびえ、戦々恐々とする他はなかった。


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