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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第19章:「皇帝選挙」

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第428話:「決裂:2」

第428話:「決裂:2」


 この皇帝選挙の結果をどう扱うかは、頭を冷やしてから後日に、あらためて話し合うべきだ。

 そのユリウスの提案に、諸侯の多くが賛同していった。


 皇帝選挙には、重大な疑惑が生じてしまった。

 それについて、ベネディクトは違うと否定し、デニスは自らはっきりとそうしようと思っていたわけではないがそれを認め、その一方で、フランツは激しく反発し、選挙は無効だと主張して譲らない。


 公爵たちによる対立。多くの諸侯━━━数十人の伯爵や数百人の男爵たちにとっては、うかつに介入することのできない、高位の貴族による激しい争い。

 自分たちにとってはどうすることもできない、一瞬後にはサーベルが抜かれ、流血沙汰になりかねないような状況から逃れるためには、ユリウスの言葉に従う以外の方法を誰も考えつくことができなかった。


 後日あらためて話し合おうという提案に多くの諸侯が賛同したことで、ベネディクトもフランツも一度矛を納めることに決めた。

 ベネディクトはデニスの曖昧な首肯以外に[皇帝から認可を得た]ということを証明することができなかったし、フランツもまた、皇帝の言葉が捏造されたということを確実に保証する証拠を持ち合わせてはいない。


 このままでは不毛な対立が続くばかりで、なんの結論も得られない。

 そう気づいたために、両公爵ともユリウスの助け舟に乗った。


 多くの諸侯がそうであったように、エドゥアルドもまた、ユリウスに感謝した。

 彼が[逃げ道]を用意してくれなかったら、あの場はとても治まるはずがなかったからだ。


 もっとも、治まった、と言っても、それは一時的なことに過ぎない。

 これは問題を棚上げにしただけであって、なにも解決してはいないのだ。


 誰も、皇帝選挙に対して生じた疑惑を完全に晴らすことも、完全に証明することもできない。

 そんな状態では再び諸侯を集めて意見を出し合ったところで円満な結末を迎えられるはずもなく、八方塞がりだ。


 諸侯は大聖堂を去り、それぞれの宿泊場所に帰って行ったが、しかし、そこで落ち着いて現在の状況に向き合うことはできなかった。

 ベネディクトとフランツによる、盛んな政治工作が始まったからだ。


 ベネディクトは、1票の差で自身が勝利した皇帝選挙が、有効であると認めてくれるように求めた。

 フランツは、この皇帝選挙が不当なものであり、あらためて選挙を実施することに賛同して欲しいと訴えかけた。


 その工作合戦は、ほどなくしてエスカレートした。


 皇帝が意識不明となってしまった原因は、そもそも、不貞にも暗殺の陰謀が張り巡らされていたからだ。

 そのために皇帝は御座舟から転落し、命を落としかけたのだ。


 そしてその犯人は、ベネディクトだ。

 いや、フランツこそが犯人なのだ。


 そんな噂が流され始めたのだ。


 根も葉もないことではなかった。

 カール11世の命を奪うつもりだったかどうかまでは定かではないが、少なくとも彼を皇帝の座から排除しようという陰謀は実在していたし、そのことを、ベネディクトもフランツも良く知っている。

 なぜなら、それは2人が盟約を結んで成し遂げようとしていたことだからだ。


 噂を流したのが、誰なのか。

 ベネディクトなのか、フランツなのか。

 それとも、その噂を流した者しか知らないなんらかの効果を狙って、事情を知っている第三者が意図的に流したものなのか。


 いずれにしろ、この噂が、帝都の混乱に拍車をかけたことは間違いなかった。


 皇帝選挙に疑惑が投げかけられた。

 それだけでも、前代未聞の、誰も想像もしたことの無いことなのだ。


 それに加えて、皇帝を暗殺しようという陰謀まで存在していたかもしれない。

 噂はなるべく短期間で多くに広がりその効果を発揮するよう、諸侯だけでなく平民たちの間にも振りまかれており、風聞の例に漏れず様々な尾ひれがつきながら浸透していき、人々を不安におののかせた。


 タウゼント帝国で多く信仰されている宗教の神話によれば、この世界にはいつか、神による審判が下されるのだという。

 そうして世界は神の手で裁かれ、人々は天国か、あるいは地獄へと振り分けられることとなる。


 帝都はまるで、その、世界の終わりが訪れようとしているかのような、おどろおどろしい雰囲気に包み込まれていた。

 人々は様々な流言飛語に踊らされながら、帝国はこれからいったいどうなってしまうのかと不安そうにささやき合い、心配し、そして未来を悲観した。


 エドゥアルドは、この状況を少しでも良くするため、ユリウスと協力して懸命に努力した。

 確固たる証拠こそないものの、ベネディクトが皇帝の言葉を捏造した可能性は十分にあり得ることだと説明し、その一方で、皇帝選挙はあらためて、なるべく早期に再実施されることが望ましいということを、国家元首不在による不利益や国際情勢の緊迫を理由として主張していった。


 しかし、残念なことにエドゥアルドたちの活動はなかなか浸透しなかった。

 というのは、2人が皇帝選挙でフランツに投票していたことは諸侯の皆が知っており、ベネディクトが勝利したという結果をよしとせずくつがえすためにこんな主張をしているのだという噂が流されたからだ。


 おそらくこれはベネディクトがそうしたものなのだろう。

 加えて、帝国の国法による定めのない、皇帝の裁可なき再度の皇帝選挙の実施は、多くの諸侯にとっては容易には受け入れがたいことでもあった。

 このために、エドゥアルドとユリウスの努力も大きな効果は得られず、帝都の混迷は深まって行った。


 だが、そんな状況は突然、終わりを迎えた。


 皇帝選挙の結果を無効とするのか、有効とするのか。

 再選挙を実施するのか、しないのか。


 なにも決められずに時だけが過ぎ去っていったある日、帝都で騒動が起こったのだ。


 その現場は、タウゼント帝国でただ1人、皇帝のみがくぐることを許されている黒豹門パンタートーアであった。


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