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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第19章:「皇帝選挙」

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第426話:「異議あり」

第426話:「異議あり」


 いったいこれは、どういうことなのか。

 皇帝が許可をしたから開かれたはずの皇帝選挙に、実際には、カール11世の同意がなかったというのは、本当なのか。


 皇帝の意志を、どこで、いつ、誰が、偽ったのか。


 大聖堂に集まった諸侯たちはみな、近くにいる者たちと噂しあい、その抑えられているはずの声は徐々に、着実に膨れ上がって、多重奏となっていく。


 エドゥアルドは無言のままだった。

 その隣にいるユリウスも、なにも言わないでいる。


 なぜなら、2人は[真相]を知っているからだ。


 それに、皇帝選挙が無効とされたことには驚きはしたものの、投票の結果はベネディクトの勝利であり、フランツのことを支持すると決めた2人にとっては、これはむしろ願ってもないことだった。


 だから、示された疑惑についての真偽を判断する情報をほとんど持ち合わせていない諸侯たちよりは、冷静でいられた。

 そして2人は、これから起こるはずの混乱にどう対処するのかについて、考えていた。


 ベネディクトが皇帝の言葉を捏造してまで皇帝選挙を実施させることに踏み切ったのは、彼の野心のためでもあったが、国家元首が意識不明のままでは現在の情勢に対処できないという、現実的な理由もあった。

 だからこそ、エドゥアルドもユリウスも、ベネディクトのやり方に不快感を覚えつつも、当初は軍事指揮能力に秀でるという理由で支持しようとしていたし、皇帝選挙の実施をどんな手段を用いてでも中止させる、ということは考えなかったのだ。


 だが、皇帝選挙を実施せよ、という皇帝の言葉に対して、疑惑が生じてしまった。

 ということはつまり、もう1度皇帝選挙を開くことは、非常に困難になる、ということだった。


 なぜなら、タウゼント帝国の皇位継承に関連する国法では、皇帝が死去した場合については事細かく決められていたが、存命のまま意識不明に陥った場合についてのことは、まったく対象外であり、なんの規定もないからだ。


 無効とされたこの選挙も、存命のカール11世が「そうせよ」と命じたとされたていたからこそ、実施できたのだ。


 だが、その皇帝の意志が、怪しいものだと疑われている。

 皇帝が存命のまま、皇帝選挙を開くことができる、その根拠が失われたのだ。

 ということは、これからカール11世が本当に逝去でもしない限り、もう1度皇帝選挙を開くことは困難になる。


 国法で対応できないようなことを許可することができるのは、この帝国ではただ1人、皇帝だけであるからだ。


 だとすれば、タウゼント帝国は、恐ろしい状況に陥る。

 国家元首不在のまま、50万もの総兵力を動員したアルエット共和国と対決することとなるのだ。


 それは、勝算の乏しい、絶望的な戦いになるはずだった。


「異議あり! 」


 不吉な未来を予感し、焦燥感から両手を強く握りしめていたエドゥアルドの耳に、すでにざわめきを通り越してついにはどよめきとなっていた諸侯たちの混乱を一掃するような声が響く。

 その声にみな突然に頭をぶたれたかのように静まり返り、そして、一斉に声の主へと視線を向けていた。


 声の主は、ヴェストヘルゼン公爵・ベネディクトだった。


「ワシは陛下から、確かにこの耳で聞いたのだ!

 もはや皇帝としての務めを果たすことのできない我が身に代わって、新たな皇帝を立てよ、と。


 ゆえに、ワシはアルトクローネ公爵・デニス殿との連名で、諸侯に対して、陛下に代わって布告したのだ!


 この皇帝選挙は、無効ではない!

 有効である! 」


「しかし、ベネディクト殿。

 その、貴殿が聞いたという陛下のお言葉。

 それが偽りだったのではないかと、そう疑惑がもたれているのですぞ」


 一撃で諸侯の動揺をなぎ払う、ビリビリと鼓膜に響くようなベネディクトの言葉の後、静まり返った大聖堂の中に、フランツの落ち着いた、揶揄するようなニュアンスの言葉が続く。


「貴殿は確かに陛下からお言葉を頂戴したと言うが、それを証明することはおできになるのですかな? 」


 フランツも、エドゥアルドたちと同じようにベネディクトが皇帝の言葉を捏造したことを知っている。

 だが、具体的な証拠は持ち合わせていないから、こうしてベネディクト自身に証明してみせよと迫ることで、自分自身以外には皇帝の声を聞いたことを証言できない彼に「それはできない」と認めさせ、「それ見たことか! 」と攻め込むつもりでいるのだろう。


 せこいやり方ではあるが、効果を見込める手法だった。


「ああ、もちろん、できるとも! 」


 しかしベネディクトはフランツやエドゥアルドの予想に反し、あっさりと、即座に、はっきりとうなずきながら肯定した。

 そしてその険しい表情を、家格がもっとも高いという理由で諸侯の最前列にいて、目の前で起こっている事態にどうしたものかとオロオロしていたアルトクローネ公爵・デニスへと向けた。


「それは、デニス殿が知っている!

 皇帝選挙の実施を知らせる布告に御自ら署名されている通り、ワシが陛下からお言葉を頂戴したということは、アルトクローネ公爵が保証しておられるのだ! 」


「え、ェエ!? わ、わたくしが、ですか……!? 」


 突然自分に発言の順番が回ってきたことに、デニスは驚き、戸惑い、そして怯える。

 たじろいだ彼の表情には、どっ、と冷や汗が浮かび出ていた。


「無論だ! 」


 ベネディクトはまるで畳みかけるように、威圧する声で首肯し、デニスに迫る。


「ワシと、デニス殿は、確かに陛下のおわす寝所を訪れ、そこでお言葉を頂戴したのだ!

 そうであっただろう!? デニス殿! 」


「えっ、いや、その、あの時は……」


「そうであっただろう!? 」


 曖昧な態度を取るデニスに、ベネディクトは鬼気迫る形相で迫る。


 するとどうやらそれで、デニスの精神はキャパシティオーバーに達したらしい。

 元々、気弱な性格なのだ。

 戸惑いと怯えが浮かんでいた彼の顔から一瞬表情が抜け、そして、口を半開きにしたまま、彼はベネディクトからの圧力に屈して、うなずいてしまっていた。


「アッ……、はい」


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