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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第18章:「風雲」

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第411話:「卑怯なやり方:2」

第411話:「卑怯なやり方:2」


 タウゼント帝国に5人いる公爵の内、その過半数に満たない2人が賛成したところで、いったいなにを決められるというのか。

 一般的な感覚の持ち主であれば、誰もがそう思うことだろう。


 しかし、今は無理を通して道理を黙らせることができる、絶好の大義名分が存在していた。


 アルエット共和国の軍事行動に対処するためには、新たな皇帝を擁立しなければならない。

 その主張は、悠長なことを言っていられないという切迫感と共に、多くの諸侯にただ2人の公爵が賛同しただけの決定を受け入れさせてしまうだろう。


 エドゥアルドやユリウスが不満を述べたとしても後の祭りだ。

 [その場にいなかったのが悪い]などと一方的に居直られてしまうだけだ。


 それに抗議したところで、誰もその行いを裁いてくれる者などいない。

 タウゼント帝国で公爵という高位の貴族に対してそうすることができる唯一の人物は、今も意識不明のままだからだ。


 卑怯なやり方だった。

 そんなことあり得ないと、あってはならないと、そう思う。

 だが、そのあってはならないことが起こっても、なにも不思議ではないのだ。


 抗議のため、実施されることになった皇帝選挙で棄権したとしても、それは意味をなさない。

 棄権された投票は皇帝選挙の結果には影響せず、有効票のみが関係するからだ。


 どうしてもベネディクトに反対する、というのなら、対立候補であるフランツに投票するしかなくなってしまう。


 しかし、現状で行われる皇帝選挙でもっとも重視されるのは、アルエット共和国との対決を意識した、軍事的な才覚であるはずだった。

 そしてその点においては、諸侯の間ではフランツよりもベネディクトの方が高く評価されている。


 というのは、フランツは近年の戦いで、活躍らしいものを見せていないからだ。

 アルエット共和国軍との決戦、ラパン・トルチェの会戦では、ムナール将軍の[大放列]を受けてフランツに率いられたズィンゲンガルテン公国軍は無残に敗走し壊滅させられていたし、サーベト帝国との戦争も、守り切ったもののフランツはなすすべもなく包囲されて、自力ではほとんど反撃もできなかった。


 ベネディクトも、これといって大きな武功をあげているわけではない。

 しかしながら、フランツほどのマイナス点はなかったし、彼のヴェストヘルゼン公国軍はほぼ無傷でいる。


 共和国軍の侵略に対抗するために、ベネディクトとフランツ、どちらをより多くの諸侯が選択するか。

 その結果は目に見えているし、この点を考え合わせると、エドゥアルドもフランツに投票するのは躊躇ちゅうちょしてしまうのだ。


 どうしても反対しようとすれば、後は、武力行使しか残されていない。

 だが、その選択肢はまったく論外なことだ。


 自分が席を離している間に、まさかそんなことをされるはずがない。

 エドゥアルドはそう思いたかったが、しかし、皇帝という地位のためにベネディクトが見せて来た執念を思い出すと、自然と、夕食会の部屋へ向かう足は速くなっていった。


 そして、少年公爵が戻って来た時には、手遅れだった。

 その部屋の中にはベネディクトとデニス、そしてリヒターの姿がなく、ただ1人、フランツだけが不満そうな様子で身体の前で腕組みをし、イスに腰かけていただけだった。


「遅いお戻りですな、エドゥアルド殿」


 フランツは恨めしそうな視線を少年公爵へと向けると、皮肉をこめた口調でそう言った。


 ズィンゲンガルテン公爵のその一言だけで、エドゥアルドはここでなにがあったのかを理解することができた。

 ヴィルヘルムが危惧したとおり、デニスがやり込められてしまったのだ。


「ベネディクト殿と、デニス殿は、どちらへ!? 」


 自分がとんでもない失敗をすることになってしまったことに焦り、強く拳を握りしめながらエドゥアルドがたずねると、フランツは冷ややかな視線を向けながら答える。


「皇帝陛下のおわす寝所へ。

 これより陛下の御前にて、皇帝選挙を執り行う旨を言上申し上げ、諸侯にそれを知らせる公式文書を、ヴェストヘルゼン公爵とアウトクローネ公爵の連名によって発行するのだそうだ。


 陛下に声など届くはずもないというのに……」


 エドゥアルドはその言葉を最後まで聞いていなかった。

 途中できびすを返し、皇帝、カール11世が意識不明のまま眠りについている寝所へと向かう。


 まだ少年公爵はカール11世のところを訪問してはいなかったが、どこに行けばよいかは把握していた。

 最初に部屋に案内された後、アルトクローネ公爵家の使用人から、この城の構造とカール11世の居所については聞いてあったからだ。


 急いだエドゥアルドが皇帝の寝所へと到着すると、そこでは、ベネディクトの臣下であるグランツ・フォン・リヒター準男爵が、まるで通せんぼをするように扉の前に立っていた。


「リヒター殿。至急、ベネディクト殿とデニス殿にお会いしたいのだ。

 そこを通していただけぬか? 」


 軍人らしい厳つい表情でエドゥアルドへと視線を向けたリヒターに、少年公爵はここまで急いで来たために乱れた息を整えながら、まずは丁寧にそう依頼した。


「それは、できません」


 リヒターは、冷たい声で答える。


「今、我が主と、アルトクローネ公爵様は皇帝陛下に謁見えっけんの上、陛下ご存命のまま皇帝選挙を執り行うご許可をいただいている最中でございますれば」


(白々しいことをッ! )


 エドゥアルドはいら立った。

 皇帝、カール11世に意識が戻らないからこそ、こんな状況になっているのだ。

 皇帝選挙を実施する許可など、得られるはずがなかった。


「ベネディクト殿とデニス殿のみの賛同で、皇帝選挙を開くなど、認められぬ」


 そのいらだちのままに、エドゥアルドはリヒターに詰め寄った。


「この国には、5人の公爵がいる。

 その内の2人だけでは、過半数にはならぬ。

 これは、不当な決定だ! 」


「お静かに、ノルトハーフェン公爵・エドゥアルド様」


 だが、リヒターは動じない。


「皇帝陛下は、ご療養中でございますれば。

 そのような声を出されては、病状に障りまする」


「しかし! 」


「お静かに願います」


 エドゥアルドは食い下がろうとしたが、しかし、リヒターは同じセリフをくり返すだけだった。

 どうやら皇帝の病状を盾に、エドゥアルドの抗議を黙殺するつもりであるらしかった。


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