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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第18章:「風雲」

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第403話:「夕食会:2」

第403話:「夕食会:2」


 今晩、どうしても参加しなければならない夕食会。

 それはきっと、針山の上に座らされている雰囲気になるのに違いない。


 そう想像してエドゥアルドがうんざりとした気持ちになっていると、とんっ、と誰かが自分自身の胸を叩く軽快な音がした。


「お任せくださいませ、エドゥアルドさま! 」


 顔を向けると、そこにはなぜか、自信満々、ドヤ顔をしている、ツインテールのメイドの姿がある。


「実は、こちらのコックの方にお願いをして、厨房の設備をお借りして、材料も分けていただけることになっているんです!


 ですから、私がエドゥアルドさまのために、お夜食をご用意しておきます!

 お夕食を楽しめなくても、お夜食でお腹いっぱいになっていただきます! 」


 メイドはまるで、ここが自分の腕の見せ所、とでも考えている様子だった。

 どうですか、すごくいいアイデアでしょう! とでも言いたそうな顔で、彼女はふんす、ふんすと、鼻息を荒くして胸を張っている。


 その姿に、エドゥアルドも、ヴィルヘルムも、公爵家のメイドらしいすました態度で突っ立っていたシャルロッテも、クスリと笑みをこぼす。


 それからエドゥアルドは、明るい笑顔でルーシェに言った。


「ああ、それじゃあ、頼むよ。

 楽しみにしておくから」


 楽しみにしてというその一言で、メイドの表情はぱーっと、華やいだ。


「はいっ、ルー、マーリアさまに教えていただいた限りをつくして、張り切って作りますよ! 」


 どうやら彼女が作る夜食は、そう呼べないほど手の込んだものになりそうだった。


────────────────────────────────────────


 メイドがいると、いつでも気分が楽になったり、明るい、前向きな気持ちになったりする。

 その不思議な現象と、その存在の価値を再確認したエドゥアルドは、その日の晩、予定通りにアルトクローネ公爵・デニスが主催する夕食会に出席した。


 場所は、20人ほども集まって食事をすることができる広さがある大きな食堂だ。


(いつぞやを思い出すな……)


 アウトクローネ公爵家のメイドに案内されてその場所に入ったエドゥアルドは、そこに、自分よりも先にやって来ていた者たちの姿を目にして、さほど遠くはない過去の情景を思い出していた。


 ヴェストヘルゼン公爵・ベネディクト。

 ズィンゲンガルテン公爵・フランツ。


 かつてエドゥアルドに[謀反を企んでいる]などというあらぬ嫌疑をかけて陥れようと目論んだ2人。

 そして、その後には皇帝・カール11世を排除しようと、陰謀を張り巡らした者たち。


 どちらも難しそうな顔で不機嫌そうに黙り込みながら、長テーブルを挟んで用意されたそれぞれのイスに腰かけている。


 正直なところを言うと、顔も見たくない相手だった。

 彼らはタウゼント帝国の皇帝という[光]に目がくらみ、政争に明け暮れ、自らの野心を叶えるために躍起になっている。


 その2人がいることだけではなく、食堂の様子も、エドゥアルドに査問会のことを思い出させていた。

 査問会が開かれていた部屋もちょうど、この食堂と同じくらいの大きさだったのだ。


 ただ、異なっている点も見出すことができる。

 この食堂には訪れた者の目を楽しませ退屈させないための絵画がいくつも飾られていたし、大きな壺に入れられた美しい花もある。


 加えて、そこにはベネディクトとフランツ以外の人物もいて、エドゥアルドのことを待っていた。

 この夕食会の主催者、アルトクローネ公爵・デニスだ。


「やぁ、エドゥアルド殿。

 ようこそ、我が夕食会においでくださりました」


 デニスはそう言うと、ほっとした笑顔を浮かべながら自身のイスから立ち上がり、エドゥアルドに向かって軽く頭を下げた。

 どうやらベネディクトとフランツの間の険悪な雰囲気に、デニスはすっかり困り果てていたらしい。


 久しぶりに故郷でゆっくりとしないか。

 デニスはそう自分の父親に申し出ただけなのに。


 デニスの父、カール11世は御座舟から転落して意識不明になり、回復の兆しもない。

 国家指導者が不在となり混迷する帝国の政局を打開するために他の公爵たちを呼んでみたが、ベネディクトとフランツは互いに一触即発の状態にある。


 元々、気弱なところのあるデニスにとっては、この食堂にいるのは胃がキリキリと痛むことだったのに違いなかった。


「デニス殿、お招きいただき、感謝を申し上げます」


 エドゥアルドは内心でデニスの気苦労に同情しつつ、ベネディクトとフランツへの不快感をうまく隠しながら返礼し、姿勢を正して頭を下げ返した。


 挨拶あいさつを終えたデニスとエドゥアルドが席についても、そこに集まった4人の公爵たちの間には会話が生じなかった。

 どうやらベネディクトとフランツにとってはもう、エドゥアルドは大きな関心の対象にはならないらしい。


 ノルトハーフェン公爵に皇帝になろうという野心はない。

 そのことを査問会で確信するのに至った両公爵にとっては、もっとも警戒するべきなのは、皇帝選挙でライバルになる相手のことだった。


 カール11世がこれ以上、タウゼント帝国を存続させてきた(そう両公爵が信じている)制度を[改悪]しないように。

 そのために、皇帝を排除する。


 同じ目的のために盟約を結び、互いに陰謀を結んだ間柄の2人だったが、自分の承知していないところで起こった[事件]のために疑心暗鬼になり、皇帝選挙におけるライバルに対する警戒心をむき出しにしている。


 夕食会はエドゥアルドが予想したとおり、まったく楽しめないものとなりそうだった。


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