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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第18章:「風雲」

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第395話:「公爵集結:1」

第395話:「公爵集結:1」


 皇帝、カール11世は、御座舟の転覆[事件]が起こってから2週間近くが経っても、目を覚まさなかった。

 エドゥアルドたちがこの[事件]の発生を知ってからでも、すでに10日以上が経過している。


 タウゼント帝国は、その混乱の度合いを深めつつあった。


 一般的な王国であれば、たとえ王が意識不明になったとしても定められた王位継承権の順に後継者が決まり、政治的な空白は小さく済んだかもしれない。

 王が意識不明に陥ったとしても、もっとも優先順位が高い王位継承者が王に代わって権限を掌握し、国政を担うことになるはずだからだ。


 しかし、皇帝を選帝侯たちによる投票で選ぶという制度を採用しているタウゼント帝国では、序列が明瞭に定められた皇位継承順位というものはない。

 5つの公爵家の当主それぞれに皇帝選挙に立候補する権利が認められており、同じ家から続けて皇帝を出してはならないという取り決めにより、常に4人がまったく対等な皇位継承者として存在している。


 つまり、皇帝選挙を行わない限り、意識不明のカール11世に代わって誰が国政を担うのかということを決定することができないのだ。


 1000年以上にも及ぶタウゼント帝国の歴史の中で、この、皇帝を被選帝侯から選ぶという制度は、破綻はたんすることなく続いて来た。

 突然皇帝が命を失う、という事態は何度も生じたのだが、誰もが疑いなく皇帝選挙を実施して後継者を定めねばならないと信じることができる状況である限りは、常に迅速に皇帝選挙が実施され、政治的な空白がなるべく小さくなるように皇位の継承が行われて来た。


 しかし、今回は複雑だ。

 皇帝は意識不明だがまだ崩御したわけではなく、目覚める可能性がある。

 そのために、誰も選挙を実施するべきだと言い出せない状態だった。


 もしそんなことを言い出して後で皇帝が目を覚ましたら、どんな罪を受けるかわかったものではない。

 事情が事情だから、と穏便にことが済む可能性もあったが、不当に帝位の簒奪さんだつを目論んだとして、罰せられる可能性だってあるのだ。


 そんな状態で、タウゼント帝国の5人の被選帝侯たちで1か所に集まって今後の対応を協議しようと申し出てきたのが、アルトクローネ公爵のデニス・フォン・アルトクローネであったことは、必然であったと言える。


 なぜなら彼は現在の皇帝、カール11世の嫡子であり、帝国の制度によって、次期皇帝として即位する権利を保有していないからだ。

 もし皇帝選挙を実施するのにしろ、今回に限っては皇位とは無縁であるデニスが発起人であれば、被選帝侯を集めて協議の場を設けたとしても、後になって不忠者、野心家とそしられる心配がない。


 デニスは、他の4人の公爵に対し、カール11世が未だに目を覚ます気配はないこと、そしてアルトクローネ公国の首都、ゴルトシュタットに留まり、治療を受けていることを伝え、そしてその場に集まるように要請した。

 この、帝国が初めて直面する事態に対し、どう対応するべきかを話し合うためだ。


 公爵たちに集まって欲しい。

 その手紙がノルトハーフェン公国にまで届いた時、エドゥアルドは周辺の諸侯との手紙のやりとりをあらかた終えて、自身と関係の深い諸侯の動向をおおむね把握し終えたところだった。


 誰もが混乱し、戸惑っている。

 しかし、エドゥアルドとこれまで関係のあった諸侯は基本的にこちらと歩調を合わせて動いてくれるということだった。


 皇帝選挙を実施することとなったとして、ベネディクト公爵とフランツ公爵、そのどちらを支持するのか。

 その点についてはまだ結論を出せてはいなかったが、少なくない数の諸侯がエドゥアルドの方針に同調することを約束してくれたおかげで、なにかとやりやすくなった。


 エドゥアルドが投票すると決めた相手に、皇帝選挙での得票がごっそり動く。

 そのことを考えれば、ベネディクトもフランツも、こちらを味方に引き入れるためにより有利な条件を提示しようとして来るのに違いない。


 もちろん、得られた利益は、エドゥアルドに同調してくれた諸侯と分け合うことにはなる。

 だが、エドゥアルドは金銭や領土とか、そういう即物的な利益には興味がなかった。


 少年公爵の脳裏にあるのは、たとえば、誰が皇帝になったとしてもノルトハーフェン公国で進む政治改革を阻害しないことを約束させるといった、そういう確約を得ることだ。


 カール11世が意識不明となってしまったことで、このタウゼント帝国全体を改革していくというエドゥアルドの希望は潰えてしまった。

 だからせめてノルトハーフェン公国だけでも、というのが、最低限確保するべき事柄になっている。


 エーアリヒ準伯爵の尽力により、第2回公国議会に参加していた議員たちから(彼らには守秘義務を課しつつ、皇帝の病状について伝えられた)は、エドゥアルドに一時的に全権を委ねるという決定も得られている。

 守秘義務を課す、という制約を設けつつも、皇帝が意識不明であるという事実を議員たちに内々に伝えたおかげで、皆が事態の切迫していることを理解できたからだ。


だからエドゥアルドはすぐに、アルトクローネ公国に向かって出発することにした。

 5人の公爵で集まってなにを決めるにしろ、早い方がいいというのは間違いないのだ。


 すでに様々な噂が帝国中に広まっているから、この状況は諸外国にも伝わっていると考えて良い。

 オルリック王国のように、こちらから状況を伝えた相手もいるし、そうでなくとも様々な風聞や自身の諜報網からなにが起こったのかに気づくだろう。


 そして、場合によってはタウゼント帝国に対して武力を持って侵略してくる、という事態は十分にあり得る。


 とにかく、最高意思決定者が不在、という状況からは抜け出す必要がある。

 タウゼント帝国の諸侯はそれぞれの領地の国力に見合った軍隊を組織しているが、帝国軍という大きな力としてまとめあげなければ、外国からの攻撃に対抗することなど不可能だ。


 それができるのは、皇帝、ただ1人だけ。


 新たな皇帝を立てるのか。

 それとも、代理を任命するだけなのか。


 まったく前例のないことではあったが、早急に決めなければならなかった。


 こうしてエドゥアルドは、再び祖国を離れることとなった。


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