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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第16章:「次なる戦い」

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第322話:「それは、戦い:1」

第322話:「それは、戦い:1」


 アリツィアがノルトハーフェン公国を来訪したのは、第一に、自分にとって縁の深い馬が、ノルトハーフェン公国に譲渡されるからだった。

 だが、その後に長期滞在するのは、いくつか別の目的がある。


 1つには、ノルトハーフェン公国で進んでいる産業化の様子を視察し、母国に報告すること。

 オルリック王国でも産業化は進んでおり、工場なども建ってはいるが、それは動力に水力を用いるような少し古い形式のものであり、最新の蒸気機関で稼働する大型の工場を導入する効果などについて調べ、母国にも導入する際の指標とするのだ。


 さらに、鉄道についての知見も得るという目的があった。

 オルリック王国では他の諸国と同様に、陸上では馬匹が、水上では帆船などが輸送手段として用いられているが、蒸気機関を使用した鉄道という新しい交通手段がどれほど使い物になるのかを、ヘルデン大陸でもっとも早く鉄道の導入に着手したノルトハーフェン公国の現状から推し量らなければならない。


 そして、もう1つ、目的がある。

 それは、ノルトハーフェン公国を「将来の、強固な同盟相手」とすることだった。


 オルリック王国は、タウゼント帝国の東方に位置する国家だ。

 そして、西でタウゼント帝国と、東で、ザミュエルザーチ帝国と接している。


 ザミュエルザーチ帝国は、その国土の面積で言えばタウゼント帝国を遥かに上回る大国だった。

 国土の大半が緯度の高い寒冷地であり、その広さのわりに生産性が低く、タウゼント帝国を圧倒するほどの国力を持っているわけではなかったが、オルリック王国との勢力では優勢だ。


 そして、ザミュエルザーチ帝国は、温暖な領土を欲している。

 国土は広いものの冷涼なその大地は実の少ないものであり、暮らしていくのは決して楽ではない。

 その状況を改善するために、ザミュエルザーチ帝国はより温暖な地域に新しい国土を欲しているのだ。


 だが、その、喉から手が出るほど欲しい[新しい領土]には、先住者がいる。

 先にその土地に住みつき、開拓し、生活を営んでいる他国が存在しているのだ。


 そんな他国から領土を得るにはどうするのか。

 十分な対価を支払い、穏便に手に入れることができればいいのだが、そう簡単にはいかない。


 なぜなら、土地には値段以上の価値が存在するからだ。


 たとえばそれは、農民で例えるとわかりやすい。

 農民にとって土地とは、自身の手で耕し、農作をして、作物を生産するための貴重な資源だ。

 土地が豊かで、広ければ広いほど農民の生活は安定するし、そういった土地にするために、農民たちは何世代もかけて土地を開拓し、改良して来た。


 農民にとって、土地とは、己の人生、命と等しいものなのだ。

 よほど多額の金銭を積み上げない限り、簡単に人の手に渡そうとは思わない。


 そして、農民ほど切実ではないが、多くの人々にとって土地は大切な財産でもある。

 家を建てて住むのにしても土地は必要だし、商売をするのにしても、店を作ったり商品を生産したりするための場所が必要だ。


 なにより、国土を明け渡すということは、国家にとって、その土地から得られていた収入を失うということになる。

 領土を売却することによって一時の収入が得られるのだとしても、長い目で見れば損だと思えることの方が多いのだ。


 だから、通常、国家が所有する領土というものは穏便に変動したりはしない。

 婚姻関係などを利用して巧みにその領土の所有権を奪う、といった方法もあるし、金銭による取引がまったく成立しないというわけでもない。

 だが、領土を支配する権利を、婚姻などを駆使して奪い取ることは多くの手間がかかり、運にも左右されることだったし、金銭による取引は、よほどの大金か、領土を売る側がそうせざるを得ない状況になっていなければ成立しない。


 ザミュエルザーチ帝国は巨大な国家だったが、温暖な地方を得たいという動機にもなっているように、決して国土の広さに比例した豊かさは持っていない。

 だが、どうしても温暖な領土が欲しい。


 そのために、ザミュエルザーチ帝国は、比較的手っ取り早い手法を取ることが多かった。

 すなわち、武力による侵略だ。


 戦争に打ち勝ち、敵国の防衛力を粉砕すれば、大抵の要求を飲ませることができる。

 多くの国家にとって軍事力とは自国の防衛のために存在するものだったが、その一方で、他国を武力によって屈服させ、無理やりこちらの要求を飲ませるために用いられることがしばしばあったのもまた、事実だ。


 こういったわけで、オルリック王国は、恒常的にその領土を狙われて来た。

 何度か繰り返された侵略はかろうじて跳ね返して来たが、全会一致の合議制を採用しているために国家は新しい時代に応じた変革をなかなか推進できずにいる。


 いつか、今までのやり方が通用しなくなるかもしれない。

 それは、オルリック王国の王族が共通していだいている危機感だった。


 自国の安全保障を達成するためには、自国の富国強兵を成し遂げ、外敵に侵略によって目的を達成することは不可能だと、そう考えさせることが一番だ。

 この場合、こちらからしかけでもしない限りずっと、平和な関係を維持していられる。


 だが、国内の制度の事情で、自由に富国強兵政策を進められないというのが、今のオルリック王国だった。


 そうであるのなら、別の手段を取る他はない。

 そしてその別の手段とは、外交関係、すなわち、同盟国を作ることだった。


 自国の防衛力が十分ではなくとも、心強い同盟者がいれば、安全保障は達成される。

 1国1国の力では及ばないのだとしても、2つを束ねれば侵略者を躊躇ちゅうちょさせることができるし、もっと多くの国家同士で同盟を結んで互いの安全を保障しあえば、侵略される危機を大きく遠ざけることができる。


 ザミュエルザーチ帝国とオルリック王国は、結べない。

 なぜなら、相手はそもそもオルリック王国の領土を欲しがっているのであり、同盟してしまってはその目的を果たせなくなってしまうからだ。


 そこで、オルリック王国が目をつけたのは、西の隣国であり、ザミュエルザーチ帝国の野心を抑止するのに十分な国力を持った大国。

 タウゼント帝国だった。


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