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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第16章:「次なる戦い」

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第294話:「富国と強兵:1」

第294話:「富国と強兵:1」


 タウゼント帝国内で渦巻く政争。

 できればエドゥアルドはそんなものには関わりたくなかった。

 だが、まったくの無縁でいることは、どうあってもできない。


 なぜならエドゥアルドもまた、タウゼント帝国の貴族であるからだ。


 多くの諸侯は、この状況の中で自己の利益を最大化しようと、躍起やっきになっている。

 それぞれの繁栄と生き残りをかけて、政争に明け暮れている。


 だが、エドゥアルドはそういった政争に積極的に参加することはせず、ノルトハーフェン国内の統治に専念することとした。


 まったくの無関係ではいられないが、できるかぎりこの不毛な政争に加わりたくないと考えたエドゥアルドは傍観ぼうかんを決め込むことにした。

しかし、フェヒターが指摘した通り、どんな状況の変化が起こっても十分に対応するためには、ノルトハーフェン公国の体制を万全なものとしておかなければならない。


 様子見を決め込むからと言って情勢の変化に鈍感で、対応が遅れれば不利益を受けるだけだ。

 タウゼント帝国でくり広げられる政争に中立の立場でいようと思っても、結局は、なにもしないというわけにはいかないのだ。


 それに、南方戦役が長期化したために、停滞していた政務が多い。

 エドゥアルドの承認を必要としていた各種の案件については、帰国してからの数日でどうにか始末をつけることができたが、これからは、エドゥアルド自身が先のことを考えた政策を実行していかなければならないのだ。


 まず取り組まなければならないのは、経済関係だった。


 エドゥアルドの富国政策の目玉の1つである鉄道事業はエドゥアルドが出征している間にも継続されていたが、現在定まっている計画を進めていくためには国内各署への根回しや、国家の統治者であるエドゥアルドにしか下せない許可などが必要だ。

今エドゥアルドが手を加えなければ将来的に計画に遅延が生じるのは明らかで、エドゥアルドは優先してこの事業に取り組んだ。


 だが、エドゥアルド自身は決して、鉄道の専門家ではない。

 ノルトハーフェン公国に鉄道を建設すると決めてから相応に勉強もしてはいるが、先に営業を開始している他国の鉄道などを生で見て知っているわけではない。


 だからエドゥアルドは多くの部分を、鉄道事業で協力関係を築いているクルト男爵との話し合いで決める必要があった。

 しかし、クルト男爵もエドゥアルドと同じように自国領の統治で忙しかったから直接会うことは難しく、その多くを手紙のやりとりでなんとかしなければならなかった。


 厄介なことに、すでに鉄道の運行が開始されている区間は、まだ利益が出ていなかった。


 ノルトハーフェン公国の大商人、オズヴァルトの主導で開始された鉄道計画だったが、その鉄道は最終的に豊かな鉱山を持つクルト男爵の領地まで延伸される予定となっている。

 そしてその路線が開通すれば、鉱石の輸送や様々な物資の輸送、人の移動などで大きな収益が見込めるのだが、開通していないうちはまだ利益が出ない。


 線路があり、機関車があり、客車や貨車があっても、需要のある地域同士を結べていないから、実際に運ぶべき人や物が集まらないのだ。


 そんな状況だから、オズヴァルトからは、エドゥアルドに対してさらなる出資を求める強い要望が出されていた。

 オズヴァルトが言うには、新規に鉄道事業の株式を発行するにも[信用]が必要で、その信用を投資家たちから得るためには、エドゥアルドも追加で出資したという事実が必要なのだということらしい。


 抜け目のない強欲な商人であるオズヴァルトのことだから他にもなにか思惑があるのに違いないし、そうやって得た[信用]をよからぬことに転用しはしないかと、エドゥアルドには心配する気持ちもあった。

 しかしエドゥアルドは、オズヴァルトの要望に応じるつもりだ。


 鉄道が完成すれば、将来、必ず役に立つ。

 そういう確信を持っているからだ。


 だが、だからといって、エドゥアルドは鉄道ばかりを優遇しているわけにはいかなかった。

 ノルトハーフェン公国の経済を活性化し、発展を続けさせるためには鉄道以外にも予算を割り振るべき案件がいくつもあったし、サーベト帝国軍との戦争を経験して、ノルトハーフェン公国軍の再編も実施しなければならないからだ。


 エドゥアルドは、アルエット共和国への侵攻作戦で、敵将・ムナール将軍の巧みな砲兵戦術を目の当たりにした。

 そして自国の軍隊にも強力な砲兵が必要だと考え、砲兵を強化して来た。


 その方針は、正しかった。

 エドゥアルドが主導して強化された砲兵はノルトハーフェン公国軍に絶大な火力を与え、その火力は戦闘のどんな局面でも優れた働きを見せた。


 だが、ノルトハーフェン公国軍が精強な歩兵と砲兵を有しているだけでは、戦争には勝てない。

 エドゥアルドはそう学んだ。


 改善しなければならないのは、騎兵部隊だった。

 砲兵を優先するあまりエドゥアルドは騎兵を必要と思われる最低限の整備だけにしていたのだが、そのせいでノルトハーフェン公国軍は痛い目を見た。


 十分な騎兵がいなかったために、虎の子として運用した騎馬砲兵部隊にその機動力に追従できる護衛戦力を配備することができず、結果、孤立した騎馬砲兵部隊がサーベト帝国軍の攻撃によって大打撃を受けるという事態になってしまったのだ。


 騎馬砲兵部隊に追従させるには、徒歩ではどうしても間に合わない。

 だから騎兵部隊を強化して、騎馬砲兵がその威力を十分に発揮できる体制を作らなければならなかった。


 これには、アリツィア王女に率いられたオルリック王国軍の有翼重騎兵フサリアの精強さを目にしたことも大きく関わってきている。


 輝く甲冑を身にまとい、駿馬しゅんばにまたがった、天使の翼を背負った伝統ある重騎兵たち。

 彼らと同等の騎兵戦力を用意することなどまず不可能だろうが、少なくともそれに準じた働きのできる戦力を整える必要はあった。

 騎兵の機動力と打撃力は、どう考えても有用だからだ。


 しかし、それには多額の予算がかかる。

 軍馬に適した馬を飼育し、繁殖し、数千頭も、必要な数をそろえるというのは、それこそ湯水のように資金を投じなければできないことだからだ。


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