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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第16章:「次なる戦い」

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第279話:「褒美(ほうび):1」

第279話:「褒美ほうび:1」


 エドゥアルドは、ベネディクトが祝意を述べ終えるのを確認するとすぐにカール11世の下へと向かって行った。

 これから数百人もの諸侯から祝意を受けなければならない皇帝と、長い順番待ちをしなければならない諸侯のためになるべく早く次に回そうという考えと、こういったことはさっさと終わらせたいという思いもあったからだ。


 エドゥアルドは随員たちをカール11世に引き合わせるべく大勢を引き連れて皇帝の御前へと向かって行ったが、途中、ベネディクトとすれ違った。


 エドゥアルドは、相手が年長者ということもあり、敬意を示すために立ち止まって会釈えしゃくしてみせる。

 しかし、そんなエドゥアルドに対してベネディクトは会釈えしゃくも何もせず、ただ、一瞬だけいまいましそうな視線を向けて去って行った。


(やはり、内心では僕のことを恨んでいるのか)


 エドゥアルドには、なぜベネディクトが不機嫌そうな態度を見せたのかが理解できる。

 フランツ公爵の力を徹底的に削ぎ、あわよくば叩き潰して、皇帝選挙における最大のライバルを未然に始末しておこうという目論見を、エドゥアルドの行動によって阻止されてしまったからだ。


(そんなことは、僕の知ったことではない)


 しかしエドゥアルドは、ベネディクトに恨まれていることなどどうでもよかった。

 心の中だけで吐き捨てるようにそう言うと、エドゥアルドは静かに皇帝の御前へと進み出ていく。


 ベネディクトにはベネディクトの思惑があるのだろうが、それは、エドゥアルドの信念と決定的に相反するようなものだった。


 良き公爵になる。

 それが、エドゥアルドの望みだ。


 そして良き公爵とは、自らが統治する民衆に、豊かな安寧をもたらせる存在のことだ。


 ベネディクトは、皇帝という至高の地位を手に入れるために、民衆に犠牲を強いるような手段を取った。

 それは、タウゼント帝国の貴族社会ではなんの良心の呵責かしゃくも感じることなく実行できることだ。


 なぜなら、貴族とは生まれながらに平民を支配する権利を与えられている存在で、そうであるのなら貴族の決定について、平民、すなわち民衆のことなど考慮する必要などないし、そんな発想は貴族たちの中には生まれないからだ。


 だが、エドゥアルドはそんな古い貴族の感覚は持ち合わせてはいない。

 自分の現在の地位を継承するのに当たって、エドゥアルドは相応の苦難を克服こくふくしなければならなかったから、他の貴族たちのように自身の地位を[あって当然のもの]と思うことはできない。


 そしてなにより、ノルトハーフェン公国に議会を開設する過程で、平民にも国家の統治に関与していく力量と資格があるということを、エドゥアルドは知っている。


 すべての人々が政治について熟知しているわけではないし、関心を持っているわけでもない。

 しかし、貴族であるエドゥアルドをハッとさせるような優れた意見を有している者や、能力を持っている者は、確実に存在している。


 そういった者を政治の場に参加させ、しかるべき地位に登用して実権を与え、うまく活躍させていくことができれば。

 ノルトハーフェン公国は、今よりもずっと強固な国家になることができる。


 自身の平和と繁栄を守り育て、将来に伝えていくことのできる国家が。


(それに……、もし僕が民衆をないがしろにするようなことになれば、アイツに、嫌われてしまいそうだからな)


 エドゥアルドはふと、自身の脳裏をとあるメイドの屈託のない笑顔がよぎったことに、少しだけ苦笑する。


 だが、すぐにエドゥアルドは表情を引き締め、かしこまった態度でひざまずいていた。

 タウゼント帝国の皇帝、エドゥアルドが仕える主であるカール11世の前にたどり着いていたからだ。


────────────────────────────────────────


 エドゥアルドはカール11世に戦勝の祝意を述べると、随行させてきた功臣たちを紹介していった。

 カール11世はそのエドゥアルドの言葉を、にこやかに微笑みながら聞いている。


 どうやらカール11世は、エドゥアルドとその臣下たちの働きに大いに満足している様子だった。

 一言ずつ皇帝に対して挨拶をする功臣たちに対しても、カール11世は上機嫌に受け答えをしていく。


「ノルトハーフェン公爵・エドゥアルドよ。


 そなた、こたびの褒美ほうび、なにが欲しい?

 朕は、ノルトハーフェン公国に新たに領地を増やそうと考えているのだが」


 エドゥアルドが祝意を述べ終えると、皇帝はそんなことさえ言って来る。


「いえ、皇帝陛下。

 お言葉、大変うれしく存じますが、そのようなご褒美ほうび頂戴ちょうだいするわけには参りませぬ」


 しかし少し考えた後、エドゥアルドはそう言って遠慮していた。


「ほう? それは、なにゆえであるか? 」


「こたびの戦、確かに勝ち戦ではございますが、我が国の領土がわずかでも増えたわけではございませぬ。

 そのような状況で新しく領地をいただくなど、できませぬ」


「そう遠慮するでない」


 そのエドゥアルドの言葉に、皇帝は機嫌を損ねることもなく、むしろ上機嫌に言う。


「最大の功労者であるそなたがそのように遠慮していては、他の者が褒美ほうびを受け取りにくいであろうが。

 それに、今回もそなたにまともな褒美ほうびも与えぬでは、皇帝としての朕の立つ瀬がない。


 こたびはそなたらのおかげで、サリフ8世を人質として得ておる。

 正式な交渉はこれからではあるが、サーベト帝国より相応の代償を得られることであろう。


 ゆえに、なにも案ぜず、素直に受け取るが良い」


「は……、はっ! 」


 そこまで言われては、エドゥアルドも遠慮などできなかった。

 ただかしこまって、より深々と頭を下げる。


 それは、言葉だけではなく、形としてエドゥアルドたちの働きが認められた瞬間だった。


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